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米「ＱＤＲ（４年ごとの国防計画見直し報告）２０１０」全訳 ＜１＞
米「ＱＤＲ２０１０」の全体構成
要約
序論
国防戦略
軍のバランスの再調整
兵員や家族に対する支援
協力関係の強化
業務要領の改革
防衛リスク管理の枠組み
結論：目指す方向
序論
国防総省は２０１０年の４年ごとの国防計画見直し（ＱＤＲ）を２００９年２月から２０１０年１月にかけて実施した。
最初から、このＱＤＲは二つの目標を目指した。第一は、能力のバランスを再調整し、戦時の有効な改革を制度化して、われわれの軍を複雑な将来に備えさせながら、今日の戦争に打ち勝つことであった。アフガニスタンとイラクにおける紛争の結果は今後数十年間の安全保障環境を形成するだけでなく、これらの戦争の特性――住民に隠れた敵、情報環境の巧みな操作、及び戦法と技術の挑戦的な組み合わせの採用――は今後の紛争の様相の重要な要素になる。第二の目標は、危険を犯しているわれわれの男女兵員の切実な要望に応える制度と手順の採用を、われわれがあまりにも長年月にわたって遅らせてきたことの改革である。戦略と政策の確立から、人事面と装備取得面の業務処理過程までを含めて、われわれの業務要領のさらなる改革は避けることができない。
このＱＤＲは、現実の安全保障環境と国益を守り促進するために米軍に要求されている多様な活動の評価から始めた。国防総省はこの評価の基準として２００８年の国防戦略と大統領の２０１０会計年度国防予算における戦略指針を用いた。次いでより良い作業をするために、ホワイトハウス、その他の省庁、及び重要な同盟国と緊密に調整し、大統領の国防優先政策と行政府の主要な安全保障の見直しに整合させた。
これらの努力は、合衆国とその同盟国及び協力国が変化の速度を増し続ける複雑で不確実な環境に直面していることを明らかにした。新しい強国の台頭、増大する非国家主体の影響力、大量破壊技術と他の破壊技術の拡散、及び一連の永続的な新しい社会経済の傾向は世界の秩序に深い課題を突きつけている。
この世界における米国のリーダーシップは国力の全ての要素を一体化する政府全体の取り組みを必要とする。その幅広い手段のなかで、起こりうる広範な作戦の全てにおいて、優越した能力を備えた機敏で柔軟な米軍は決定的に重要な要素である。合衆国は遠距離において大規模な作戦を発動し維持できる唯一の国家であり続ける。
この特異な地位は、歴史、決意、及び環境から与えられる影響力の責任ある行使者である義務を生じさせる。われわれの国益を守り伸張させるために、国防総省は四つの優先目標、すなわち、今日の戦争に打ち勝つ、紛争を回避し阻止する、相手を打破し多様な不測事態に成功するために準備する、完全志願制部隊を維持し強化する――の間で財源とリスクのバランスを取らなければならない。
財源とリスクのバランスを取るために、ＱＤＲは合衆国が直面している現在の予算上の課題を認識し、これらの四つの目標が保証される難しいトレードオフを行った。これらの四つの分野におけるＱＤＲの目標は２０１１会計年度の予算に適切に盛り込まれ、われわれの戦略に基づいて要求される全ての任務を完遂できる十分な財源が提供される。国家防衛戦略を支えるうえで最適の軍事力の構成を決定するために、ＱＤＲは分析的に取りまとめられた。国防長官は、省内の上級文民と軍指導者の助言を得て、現在と将来の考えられる部隊を評価するためにＱＤＲが用いる一連のシナリオを見直し、修正し、認証した。同時にこの分析は、国防総省の指導者が現在進行中の作戦の要請を明確に理解するために、アフガニスタンとイラクを主として今日の戦場にある指揮官と部隊の要望の検証に徹底して焦点を当てた。
ＱＤＲに際しての分析は、以下の６項目の重要任務をよりよく支援するために、国防総省が方針、ドクトリン、及び能力のバランスをさらに改善しなければならないことを強く示唆した。
・合衆国を防衛し国内の民間当局を支援
・対内乱、安定化、及び対テロリズムの作戦に成功
・協力国の安全保障能力の育成
・接近阻止の環境における攻撃を阻止及び打破
・大量破壊兵器の拡散防止と対処
・サイバースペースにおける効果的な作戦
これらの任務はわれわれの軍が担う全ての活動ではないが、これらは今日と将来に向けて注目しなければならない特に必要とされる分野である。 ＱＤＲ実施の間を通じて、国防総省は軍の能力におけるギャップと不足を解消する腹案を作成し評価した。これらの腹案が検討され、その経費が算定されたのちに、国防長官は国防総省各部局に計画作成指針を示した。
このＱＤＲ指針は、２０１１会計年度の予算の提案と国防総省の将来年度国防計画（ＦＶＤＰ）２０１１―２０１５会計年度の作成と見直しの基準となった。いくつかの案件において、数年以上にわたって達成されないような能力に対しては、検討した末に投資は削減されることとなった。
上記の任務を遂行するうえで必要とされる能力に重点を指向すること以外に、ＱＤＲは多様な特性と強度を有する各種の作戦において打ち勝つために必要とされる全体的な軍事力をも考慮した。ＱＤＲが定めた部隊規模と部隊構成は、現在の介入と起こりうる将来の要請の間で区別し、国防戦略の要請に応じるための米軍の編制の主要要素の適切な種類と規模の範囲を決定する基準を示すものである。
戦争の年月が完全志願制部隊に大きな負担を課したことは明らかである。並行する長期の派遣がわれわれの兵員に重い犠牲を強いている。アフガニスタン、イラク、その他の作戦の要請を受けて、国防総省は部隊の健全性を継続的に真剣に評価し続ける。われわれは、米国の防衛にとって最も重要な柱である人々と家族に負わされている負担を軽減する努力を続けながら、人々が戦時の勤務に可能な限り備えることができるように、われわれができることは全て実行する。
米国の国益を守り伸張するために、国防総省が人々を支援しながら果たしている責任は、国防総省の業務実施要領の改革を避けられないものにしている。国防総省は政府全体の安全保障への取り組みに寄与し、危険を犯している人々をさらに良く支援するために、防衛調達と兵站支援要領を改善し、進化を促進するために技術と産業基盤を強化し、気候とエネルギーの課題に対して緻密に戦略的に取り組んでいる。
複雑な安全保障環境と米国の国益を守り伸張するために必要とされる多様な任務、能力、及び制度改革を考慮して、ＱＤＲは重要な地域の同盟国及び協力国との防衛関係を再活性化することの重要性を強調する。緊要な関係を再活性化するためには、同盟国及び協力国との協力を重視し、地域の軍事力、施設、及び防衛協定を再編成して、米国の防衛態勢に対する取り組みを精巧に組み立てることが重要な要素になる。
このＱＤＲは緊要なステークホルダーとの緊密な共同作業を利用した。ＱＤＲが判断と腹案を作成した際に、それらは国防総省の内外の広い分野の専門組織によって共有され見直された。見直しの過程を通じてＱＤＲの担当者は、議会の担当者、及び同盟国及び他の国の政府の代表者に相談し説明した。同時に国防総省の幹部は、大統領、国防長官、及び国務長官によってかねてから強調されている一体的な安全保障への取り組みをさらに確かなものにするために、米国政府内のすべての関係部局と協議した。例えば、国防総省の指導者と担当者は、国務省、国土安全保障省、及び情報部局と、彼らがそれぞれ４年ごとの外交と開発の見直し、４年ごとの国土安全保障見直し、及び４年ごとの情報活動見直しをする際に緊密に協調して作業し、重複する分野における分析、重要な任務、能力、及び計画に関して判断を共有した。
このＱＤＲ報告と事前の数カ月の熟考にあたって、二つの目的を目指した。第一は、国防総省の最も重要な優先目標を設定し、能力向上と投資項目に関する背景と勧告を記述する、第二に、今後数年間の国防総省の活動に関する国防長官の意図を伝えることである。したがってＱＤＲは、国防総省が米国の今日の制服の男女をどのように支援するか、これからの安全保障の方針と基盤形成計画をいかに構築するかについて、最終到達目標を示す文書になっている。（翻訳・藤本晶士ディフェンス・リサーチ・センター専任研究委員）
＜以下次週＞
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