投稿者 上葉 日時 2010 年 3 月 07 日 08:38:49: CclMy.VRtIjPk
国際政治の表舞台に戻ってきた「詐欺師」:日経ビジネスオンライン http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20100304/213161/
国際政治の表舞台に戻ってきた「詐欺師」 イラク選挙の背後で暗躍するイランのスパイ Author 菅原 出 あの男が国際政治の表舞台に衝撃的なカムバックを果たした。
アフマド・チャラビ。イラク国民会議(INC)を率いるシーア派のイラク人政治家だ。イラク戦争前には、在外イラク人亡命者を組織して反サダム・フセイン運動を展開し、はじめは米中央情報局(CIA)に雇われ、次に国務省から金を貰い、最後には国防総省をスポンサーにつけて米国をイラク戦争に駆り立てた男。
ブッシュ前政権のネオコンに寵愛され、「イラク大量破壊兵器」情報や「サダム・フセインとアルカイダの関係」を示唆するイカサマ情報を米国に提供し、米国のイラク侵攻に一役買ったあの人物である。
チャラビは、戦後のイラクにおいて、サダム・フセイン体制を支えたバース党員を徹底的に公職から追放することを狙った「非バース党化政策」を強引に推進し、事実上イスラム教スンニ派を政治プロセスから排除することで、シーア派・スンニ派の宗派抗争に火をつけ、戦後イラクを泥沼の内戦に陥れた張本人の1人である。
あの悪名高い「戦争詐欺師」が、再びイラクをテロと殺人の恐怖に満ちた宗派闘争の混乱へと陥れようとしているのか・・・。
イラク安定化の鍵を握るスンニ派の政治参加
イラクは現在、3月7日に予定されている国民議会選挙を前にして、激しい選挙戦の真っ只中にある。イラクの憲法によれば国民議会の定数は325議席で任期は4年。全議席の3分の2以上の賛成で「大統領」を選出し、新大統領は最大会派が推薦する人物を「首相」に任命し組閣を要請することになっている。つまり、この国民議会選挙により、次の大統領や首相、そして新政権の顔ぶれが決まり、今後のイラクの方向性が決定づけられることになる。
それだけに、各勢力はこの選挙に向けて激しい選挙戦を繰り広げており、文字通り血生臭い権力闘争に発展している。
イラクでは、2003年にフセイン政権が倒されるまで、少数派であるスンニ派が支配的地位にあり、アラブ社会主義を掲げるバース党による一党支配体制が敷かれていた。この間クルド人や多数派を占めるイスラム教シーア派は徹底的に弾圧され、圧政下に置かれた。ところが米軍によるフセイン政権の打倒後、シーア派とクルド人が中心となる新政権が誕生し、バース党に同調するものが公職に就くことは法律で禁じられるようになった。
しかし、「一体誰がバース党員なのか」についての明確な定義は存在せず、実際にはかつて支配的な地位にあった少数派のスンニ派を排斥する際の根拠として、「バース党とのつながり」が政治的に乱用されてきたという経緯がある。
フセイン政権崩壊直後には、「非バース党化政策」が導入され、旧バース党による権力構造が解体され、同党の指導者たちが権力の座から取り除かれたのだが、実際にはチャラビのようなシーア派の一部が、スンニ派に対する報復の意味を込めてこの政策を悪用・乱用したため、各省庁の中堅職員から小学校の教師まで含め、数百万人のスンニ派が一夜にして職を奪われることになった。
当時のイラクは社会主義の国家である。スンニ派が公職から追放されたことにより、政府の行政サービスはストップし、人々の生活は悪化した。また突然職を失い、家族を養う糧を失くしたスンニ派は反政府武装反乱を支持するようになり、スンニ派の過激派が周辺国から集まり、イラク国内でテロを行う環境が形成されていった。前回の国民議会選挙では多くのスンニ派が選挙をボイコットしたために、彼らの利益は現在の政権では十分に反映されていない。 フセイン政権崩壊後のイラクで治安が悪化した最大の理由は、このようにスンニ派を政治プロセスから排除してしまったことだった。スンニ派から職と将来に対する希望を奪うことで、彼らを武装反乱勢力の支持者にしてしまったのである。
米国は後にこの失敗に気づき、非バース党化政策を撤回し、2007年の増派戦略では、スンニ派の武装勢力の一部を懐柔し、スンニ派の部族を中心とする民兵集団に治安任務を任せ、治安回復を実現していった。
しかし、国民議会にスンニ派が十分な議席を獲得し、彼らの利益が国政に反映されるようになるまで、政治的な安定が成立する条件は整わない。今回の国民議会選挙は、まさに今後のイラクが安定するのか、それとも不安定で破滅的な宗派抗争の道に逆戻りしてしまうのかを問う、非常に重要な政治イベントなのである。
「イランのスパイ」が発表した「とんでもない措置」
チャラビが久々に国際メディアに登場したのは、今年の1月中旬のことだ。イラク政府の「正義と責任委員会」なる組織が、国民議会選挙に出馬する500名以上の立候補者について「バース党との繋がり」を理由に、その立候補を禁止すると発表したのである。
この資格剥奪措置によってスンニ派の大物政治家サレハ・ムトラク(Saleh al-Mutlaq)をはじめとする有力なスンニ派候補者の立候補が禁止されることになり、同氏の支持者をはじめスンニ派は激怒。
ムトラクは2006年以来国民議会の議員として活動しており、もちろん「バース党」との繋がりを否定している。それよりもむしろ、彼がマリキ首相率いる政治会派「法治国家連合」の最大のライバルである世俗派の政治会派の有力候補者であったことが、今回の資格剥奪措置の真の理由だったと見られている。
このとんでもない措置を発表した「正義と責任委員会」を率いているのが、他でもないチャラビである。チャラビはフセイン崩壊直後に、「非バース党化委員」の委員長に就任し、バース党員の公職追放を名目にして多くのスンニ派の首切りを断行し、シーア派・スンニ派の宗派抗争を煽った張本人である。この非バース党委員会の後継組織が「正義と責任委員会」であり、チャラビは相変わらず「バース党員退治」と称してスンニ派を公職から追放する活動を続けていたのである。
チャラビは、イラク戦争直後までブッシュ前政権の「お気に入り」として、まさに米国という虎の威を借りて権力を奮っていたが、2004年5月に、CIAに「イランのスパイ」だと決めつけられて権力の座から蹴落とされてからは、米国との間で「関係悪化」→「関係修復」を何度か繰り返し、結局2008年5月以降、米政府はチャラビとの関係を正式に断絶していた。米軍および米情報機関は、チャラビがイラン革命防衛隊のエリート部隊「クッズ部隊」と緊密に連携していると結論づけたからである。 「正義と責任委員会」のもう1人の主力メンバーは、チャラビの側近アリ・ファイサル・アルラミだが、この人物も非常に「胡散臭い」。イラン革命防衛隊やシーア派の過激派であるサドル派の民兵組織との関係が深く、以前米軍に対して行われた爆弾テロにかかわったとして米軍当局に逮捕され、一年以上も米軍に拘束されていた人物である。
しかもこの二人、イスラム教シーア派の政治会派「イラク国民同盟」から今度の国民議会選挙に出馬することになっている。つまり、自ら候補者であるチャラビとアルラミが、突然500名以上の「ライバル」たちの立候補資格を剥奪してしまったわけである。
「バース党問題」再燃で激化する宗派対立
イラク国内の政治的安定の道が遠のいて治安が悪化すれば、米軍の撤退もおぼつかなくなる。危機感を抱いたオバマ政権は、すぐにジョセフ・バイデン副大統領をイラクに派遣し、立候補資格の取消措置を撤回し、とりあえず候補者全員を選挙に参加させるように猛烈に圧力をかけた。
立候補資格を剥奪されたスンニ派のムトラク議員も、「もし米国が民主主義を保障できないのならば、彼らは今すぐにイラクから出ていくべきだ。なぜなら彼らのこの国でのプレゼンスにまったく意味がないことになるからだ」と述べて米国の介入を強く要請した。
米国の圧力が功を奏したのか、2月に入ると、イラクの控訴裁判所が、「立候補取消に異議を申し立てていた約500名の候補者全員に対し、立候補を認める」との裁定を出して、この取消措置を覆した。しかしこれに対してマリキ首相やシーア派の有力政治家たちは、「控訴裁判決は違法であり、候補者資格剥奪措置を継続すべきだ」と主張。最高裁に上告するとともに、米国の働きかけを「内政干渉だ」として激しく非難した。
するとその決定から一週間足らずでまた方針が覆され、結局26名の候補者の資格取消は撤回されたものの、ムトラク議員を含む残り全員については、当初の決定通り立候補資格を取り消すとの最終決定が下されたのであった。
当然スンニ派を中心とする支持者たちはこの決定に猛反発。ムトラク議員が所属する世俗派の政治会派「イラキヤ」の党首アヤド・アラウィ元首相は、「立候補取消措置は宗派間対立の火に油を注ぐものだ。もし1つの宗派を社会から疎外し、彼らの選挙権を剥奪すれば、我々はもはや止めることのできない坂を転げ落ちることになる」と述べて、エスカレートする宗派対立に警告を発した。
一方、これに対してシーア派住民の間では、チャラビたちが仕掛けた「バース党と関係のある」候補者の立候補取消措置を支持するデモが広がった。シーア派の聖地ナジャフをはじめシーア派が多数派を占めるイラク南部では、旧フセイン政権のバース党体制下で激しい弾圧を受けたことから、この立候補取消措置は非常に受けがいい。 この一連の騒動で、シーア派有権者内では反バース党感情が再び高まっており、「すべてのバース党員の追放」を呼びかけるデモが各地で展開された。
そしてこの反バース党感情をさらに燃え上がらせているのが、選挙を前にして悪化する治安である。昨年来、首都バグダッドで大規模な爆弾テロが頻発しており、その度にマリキ政権は「バース党の仕業である」と声高に叫び、シーア派住民の間に「バース党がもっとも大きな脅威である」という認識が広まるのを後押ししている。
仕掛けたのはシーア派宗教勢力とイランか?
このようにバース党の問題を持ち出してスンニ派とシーア派の宗派対立を煽ることで得をしているのは一体誰なのだろうか。
現在、バース党の問題では歩調を合わせているものの、マリキ首相とチャラビはもともと異なる政治会派に所属するライバル同士である。マリキ首相が率いる政治会派「法治国家連合」はシーア派政党のダアワ党が主導するが、最近では宗教政党からナショナリストとしての色合いを強めていた。同首相は強力な中央政府による統制を主張し、国民和解と「イラク・ナショナリズム」を前面に打ち出す新たな路線で選挙戦に臨む方針を打ち出していた。特に米軍増派戦略の成功で劇的に治安が回復したことを受けて、マリキ政権は強力なナショナリストの指導者として人気を集めてきた。
これに対してチャラビが所属するのは、イランと近いシーア派の宗教政党の政治会派「イラク国民同盟」である。このシーア派の宗教政党連合にしてみれば、ライバルのマリキ首相がスンニ派との「国民和解」を通じたイラク・ナショナリズムを訴えているのだから、この動きを潰すには、スンニ派とシーア派の対立を煽るのが最適な手段である。
スンニ派候補者の選挙活動を妨害しつつ、返す刀で同じシーア派のライバルであるマリキ首相を揺さぶる。「バース党」の問題に火をつけてスンニ派とシーア派の宗派対立を煽ることで得をしているのは、明らかにシーア派の宗教政党連合であり、それゆえ「彼らの背後に控えるイランがチャラビやアルラミといったエージェント」を使って対立の火に油を注いでいる」という見方は、十分に説得力がある。
水面下で激化する米・イランの諜報戦
実際、米国メディアでは、シーア派宗教勢力やイランが、マリキ首相に対する妨害工作を行っており、チャラビたちの背後にイランがいることを伝える報道がしきりに流されている。米軍や米情報機関筋が一斉にリークをしているのだろう。
「イランが少なくとも間接的に最近のバグダッドのテロ攻撃に関与している」と米軍当局は2月中旬に発表。「イランは現在のイラク政府の治安機関に対してさまざまな影響力を有しており、そうした影響力を行使してテロを支援し、またそのスポンサーとなっている」というのだ。
またレイ・オディエルノ・イラク駐留米軍司令官は2月17日、「正義と責任委員会」のチャラビとアルラミの2人が、イランと緊密に協力して今回の選挙を混乱させようとしている、ことをあらためて公の場で述べた。 「この二人の政治家は明らかにイランの影響を受けている。そのことを示す直接的なインテリジェンスも存在する。この2人は何度もイランで会合を重ねており、米国のテロリスト監視名簿に記載されているような人物たちと繋がっている」
チャラビたちの攻勢は続く
さらにこの直後にクリストファー・ヒル駐バグダッド米大使も、「同司令官の意見に100%同意する」と述べ、「イランはイラク国内において軍事・安全保障面で有害な影響を及ぼしている」と付け加え、「チャラビとアルラミがイラン革命防衛隊と協力して動いている」というのは米政府としての統一見解であることを強調している。
こうした米側の牽制に対してチャラビは、2月15日に開催した記者会見で「イランが背後で糸を引いている」との指摘を全面的に否定し、「米国やサウジアラビアが今回の立候補資格剥奪措置を覆そうと内政干渉をしている」と逆に米国等を痛烈に批判。「彼らはイラク議会の中にバース党の存在を維持することで、彼らが言うところの『イランの影響力拡大』を防ぐための重要なカードとして使おうとしているのだ」とやり返している。
国民議会選挙を直前に控えて、チャラビたちの攻勢は続く。
2月25日、アルラミは580名のイラク情報機関、軍、警察の高官を、「バース党との繋がりがある」として「解雇の対象とする」と突然発表。解雇宣告を受けた高官の中には、米軍増派作戦が展開された2007年から2008年にイラク陸軍の副司令官をつとめ、イラクの治安改善に貢献したとして尊敬を集めるAboud Qanbar大将のような大物軍人も含まれていた。アルラミは、「これだけでなくまだ他にも数千人の職員を解雇する必要がある。バース党のイデオロギーを持つ悪人を解雇すれば、イラクの治安は相当改善されるはずである」と述べている。
米軍はこれまで彼らが過去数年間訓練を施してきた軍の将校たちが突然大量に解雇されることに危機感を強めている。
「連中は親米派の将軍たちを排除して、親イラン派のそれと置き換えることで自分たちに有利な状況を築こうとしているのだ」、イラク駐留米軍の幹部が『ワシントン・ポスト』のインタビューに答えてこう述べている。
イラクの将来の方向性を決定づける重要な選挙の背後で、米国とイランの水面下での諜報戦が激化している。
全世界が注目するイラク国民議会選挙は、3月7日に実施される。(3月3日記)
【主要参考文献】
“Candidates to Stay Off Ballot in Iraq”, New York Times, February 14, 2010 “Iraq secular Bloc suspends campaign”, Los Angels Times, February 14, 2010 “Anti-Baath Campaign a Spur to Iraq Shiite Voters”, Los Angels Times, February 12, 2010 “Ban on Hundreds of Iraqi Candidates Overturned”, New York Times, February 4, 2010 “With fewer allies this time, Iraq’s Maliki faces tough reelection campaign”, Washington Post, February 4, 2010 “General Says 2 Iraq Politicians Have Ties to Iran”, New York Times, February 17, 2010 “U.S. Ambassador Accuses Iran of Role in Iraq Election Ban”, Inter Press Agency, February 17, 2010 “Ahmed Chalabi’s Renewed Influence in Iraq Concerns U.S.”, Washington Post, February 27, 2010 “Sectarian Tensions Rise Before Iraq Election”, Washington Post, February 26, 2010 “Iraq Anti-Baath Panel Moves to Purge Security Forces”, Los Angels Times, February 26, 2010
著者プロフィール 菅原 出(すがわら・いずる)1969年東京生まれ。中央大学法学部政治学科卒。平成6年よりオランダ留学。同9年アムステルダム大学政治社会学部国際関係学科卒。国際関係学修士。在蘭日系企業勤務、フリーのジャーナリスト、東京財団リサーチフェローを経て、現在は国際政治アナリスト。米国を中心とする外交、安全保障、インテリジェンス研究が専門で、著書に『外注される戦争―民間軍事会社の正体』(草思社)などがある。最新刊は『戦争詐欺師』(講談社)。
このコラムについてオバマと戦争
2009年12月1日、オバマ大統領は3万人の増派を中心とする新しいアフガン戦略を発表した。アフガンは米国にとって「第二のベトナム」になってしまうのか? それともオバマ政権の新しい思考とアプローチは、アフガンの地に安定を取り戻すことが出来るのか? 一方、いまだ治安の安定しないイラクから、米国は無事に撤退をすることが出来るのか? また、大統領選挙の混乱以降、政治不安の続くお隣イランの核開発問題は、これからどのような方向に進んでいくのか? そして、こうした中東の混乱に乗じて北朝鮮はどのような動きを見せるのだろうか? バラク・オバマが政治生命を賭けて取り組むアフガン戦争と、米国の安全保障を左右するイラク、イラン、北朝鮮をテーマに、「オバマの戦争」を追いかけていく。
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