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米国版「生活保護」でも不正受給が悩みの種
福祉の拡大は国家権力の拡大?
2012年7月3日 火曜日 土方 奈美
日本では社会保障と税の一体改革の議論が続き、生活保護の不正受給に注目が集まっている。米国でも秋の大統領選をにらみ、社会のセーフティネットのあり方が民主・共和両党の主要な対立軸となっている。
ここ数カ月、米国のメディアに”Obamacare(オバマケア)”という言葉が頻繁に登場した。2010年3月にオバマ大統領が署名した医療保険制度改革法のことで、正式名称はthe Patient Protection and Affordable Care Act(PPCAC、患者保護並びに医療費負担適正化法)という。オバマ政権は4700万人にのぼる医療保険無加入者をなくすための大きな一歩として、1期目の主要な実績に掲げてきた。
とはいえ、Obamacareを医療保険制度改革法の同義語として安易に使うのは禁物だ。同義語として使われる例も増えてはきたが、ワシントンポスト紙が“a derisive term coined by its detractors”(反対派が考案した冷笑的な表現)と説明する通り、もともと野党・共和党が新法を批判したり、けなしたりするために使った言葉だ。日英翻訳者の知人は「反対派がテレビなどで繰り返し否定的な文脈で使ったため、この言葉自体に新法に批判的なニュアンスが染みついた」と指摘する。不用意にObamacareという言葉を使うと、反制度改革・反オバマ的な印象を与えてしまうかもしれないわけだ。ホワイトハウスのホームページではHealth Reform, New Health Lawといった表現を使っている。
医療保険の導入は自由の侵害?
成立から2年以上も経った今、なぜオバマケアに注目が集まったかといえば、新制度のカギを握るthe individual (insurance) mandate(個人に医療保険加入を義務付け、違反すればペナルティを科すという条項)が米国憲法に違反していないか、3月以降連邦最高裁で激論が繰り広げられていたからだ。結局6月28日、最高裁の9人の判事は、5対4の僅差でオバマケアを支持する判決を出した。共和党を中心とする反対派の主張は、連邦政府が国民に医療保険の購入を強制するのは合衆国憲法の州際通商条項の拡大解釈であり、自由の侵害だ、というものだった。興味深いのは反対派がオバマ大統領とオバマケアを批判する際に“socialism/ socialist(社会主義/社会主義者)”という表現を使っている点だ。
“The Obamacare is quite clearly the crown jewel of Socialism.”
(「オバマケアはまさしく社会主義の象徴だ」、2011年2月11日の共和党・ミシェル・バカマン連邦下院議員の発言)
“Obama’s socialist policies are bankrupting America.”(「オバマ氏の社会主義政策は米国を破産させようとしている」、2011年9月14日、共和党の大統領予備選挙に出馬していたテキサス州知事リック・ペリー氏の発言)
「マッカーシズムや冷戦時代の名残で、米国にはSocialismと聞いただけで強い不快感を持つ層が根強くいる。Socialismというレッテルは保守派の反オバマ感情を煽るお手軽なレトリックだ」と知人の日英翻訳者は語る。ただ社会主義的と批判するには、全国民が公的医療保険に加入する日本をはじめ、欧州諸国の制度と比べてオバマケアははるかに資本主義的である。
当初オバマ大統領が目指した、民間保険と競合する公的保険(public option)の導入は見送られ、国民は民間保険の購入を義務づけられた。少しでも福祉の拡大、国家権力の拡大の兆しと見ると「社会主義的」と騒ぎ立てるのは、“自由の国”というお国柄だろうか。
ただ、オバマケアの旗色は悪い。6月初旬のニューヨーク・タイムズとCBSニューズの世論調査では、支持は34%にとどまり、不支持が48%に達した。国民の7人に1人が無保険、年4万5000人が無保険のため医療を受けられず死亡するという推計もある悲惨な状況は、なかなか改善に向かいそうにない。
さらに社会保障のなかでも低所得者向けの公的扶助に目を向けると、代表的な支援策の1つであるフードスタンプ(正式名称はSupplemental Nutrition Assistance Program、補助的栄養支援プログラム)の受給者が急増している。2011年度は4470万人と、オバマ政権が発足した2009年度と比べて33%増加した。
国民が「必要悪」と見なすフードスタンプ
このため今年1月には、共和党の大統領予備選挙の候補者の1人だったニュート・ギングリッチ元下院議長が“President Obama is the most effective food stamp president in American History.”(オバマ大統領は米国史上最強の“フードスタンプ大統領”だ)と痛烈に批判した。
とはいえfood stamp presidentというオバマ批判は、Obamacareのような広がりは見せなかった。フードスタンプの受給者がブッシュ前大統領時代から大幅に増加していたことに加え、米国民の大多数がフードスタンプを社会に必要なセーフティネットと見ていることが原因のようである。
ビジネスウィーク誌の記事によると、1月下旬に民間団体が実施した調査では、民主党支持者の92%、共和党支持者の63%、無党派層の74%がフードスタンプ制度の予算を削減すべきでないと考えているという結果が出ていた。
周囲の米国人に尋ねると「フードスタンプ受給者に対して“getting a free ride on everyone else's dollar”(他人の稼ぎにタダ乗りしている)と厳しい見方をする人は多く、受給者はその事実をなるべく隠そうとする」と言う。日本の生活保護と同じようにsocial stigma(社会的不名誉)と見られていることはまちがいない。ただ米国人の7人に1人という受給者の多さを見ると、日本の生活保護よりはるかに身近な制度のように思える。ニューヨーク・タイムズ紙によると、フードスタンプは不況が深刻化した2009年には、貧困率を約8%押し下げる効果があったという。
受給基準は家族構成によって異なる。農務省ホームページには預貯金などの資産2000ドル(約16万円以下)とあるが、居住用の住宅はそこに含めなくてよい。月収(控除前の総所得)は4人家族で2422ドル(約19万4000円)以下とある。2011年度の全米の平均受給額は1人あたり月133.84ドル。単純計算で4人家族なら月535.36ドル(約4万3000円)になる。
フードスタンプ不正受給問題は悩みの種
不正受給の問題に悩まされているのは、米国も日本と同じだ。5月末のニューヨーク・タイムズ紙は、イーベイやクレイグスリストなどのサイトでEBTカード(フードスタンプ受給者が受け取る磁気カード)を転売する犯罪が増えているのを受けて、農務省がカード再発行の管理を強化する新たな規制を提案した、と報じている。
フードスタンプの不正売買は、麻薬取引などと同じtraffickingという言葉で呼ばれる。ただ農務省によると、磁気カードの使用履歴を追跡するなどの取締強化によって、trafficking は1990年の1ドルあたり4セントから、2006〜08年には1ドルあたり1セントへと大幅に減少したという。
日本も米国も長引く不況で福祉を必要とする人が増える一方、弱者を救済することへの社会の寛容さや財政的余裕は失われている点では共通するようだ。どちらの国も、指導者は、必要な改革を推し進めていく力を果たして持てるだろうか。
ニュースで読みとく英語のツボ
ニュースを伝える英語は、英語圏の文化や発想、時代の空気を映す鏡だ。英語ニュースで使われている表現の中から、日本にいるとなかなかニュアンスが理解しにくい表現や単語などを素材に、生きた英語の「ツボ」を紹介する。筆者は、米モントレー国際大学院の翻訳コースに留学中のプロ翻訳者。筆者が師事するプロ翻訳家の英語ネイティブ教員やクラスメート達にも取材しながら、丁寧に読み解いていく。
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土方 奈美(ひじかた・なみ)
翻訳家。慶應義塾大学文学部卒業。1995年日本経済新聞社入社。記者として活躍、日経BP社に出向して『日経ビジネス』の記者も務める。
2008年日本経済新聞社を退社。米国公認会計士、ファイナンシャルプランナーの資格を保有し、経済・金融分野を中心に翻訳家として活躍。2012年5月、米モントレー国際大学院から翻訳修士号取得。
翻訳書は、『グリーン・ニューディール』(東洋経済新報社、2009年)、『愚者の黄金――大暴走を生んだ金融技術』(日本経済出版社、2009年、共訳)、『グーグル秘録』(文藝春秋、2010年)、『ウォールストリートジャーナル陥落の内幕』(プレジデント社、2011年)など多数。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20120702/233993/?ST=print
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