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組織の不調は社員を枯らす!職場の不快感に効く「メンタル・マネジメント」
【第2回】 2012年6月27日
渡部 幹 [早稲田大学 政治経済学術院 客員主任研究員]
あなたは“人材使い捨て”上司になっていないか?
「新型うつ」「社会不安障害」の若手を蘇らせる法
――処方箋A「認知と感謝の連鎖」で心理的サポートを
1人や2人はいる連続欠勤者
職場で増える“社会不安障害”社員
皆さんの職場で、連続欠勤の多い人はどれだけいるだろうか。15人以上の部署なら1人や2人は、「やけに休みが多い」人がいたり、「うつ」と診断された人がいるのではないだろうか。最近では、若手を中心に、プライベートでは元気なのに職場ではうつ症状が出る「新型うつ」という症例も数多く報告されている。
そこまでいかなくても、「他人と会うのが嫌だ」「皆の前で話ができない」「会社でほとんど話をしない」「昼食はみんなととりたくない」という人もいるだろう。
これらは広義には「社会不安障害」の可能性の高い人であり、またうつの傾向の強い人である。「新型うつ」もこの中に含まれることが多い。
社会不安障害とは、人に見られる状況や人と何らかの社交的な接触をする際に、強い不安や焦りを感じたり、パニック状態になる、あるいはこれらの状況になると想像するだけで、不安を感じ、日常生活に支障をきたす障害である。
かつて社会不安障害の一部には、「シャイ」とか「恥ずかしがり屋」というレッテルが貼られ、「性格」の1つと考えれられていたが、その後の研究で、これは性格や気質の問題ではなく、「病気」の1つであると認識されるようになった。日本人が一生のうちでこの病気を発症する確率は、3%〜13%と言われる。決して稀な病気ではない。
社会不安障害の主な症状は、次のようなものだ。
・ある状況では必ず不安になる(状況に慣れない)
・恥ずかしい、不安を感じる、赤面するなどの症状が、他の人よりも強いとわかっている(自覚がある)
・強い不安を感じると、ふるえや吐き気などを催す(何らかの身体症状がでる)
次のページ>> 学生に広まる「ぼっち飯」「便所飯」は、対人恐怖の表れ
・不安に感じる場面を避けてしまう(食堂に行くのが嫌だ、飲み会が嫌だ、職場が嫌だ)
・日常生活に支障をきたしている(通院、頻繁な欠勤など)
「ぼっち飯」「便所飯」が蔓延
学生たちも仲間の輪に入るのが怖い
専門家によると、この15年ほど日本の社会では、こうした社会不安障害が激増しているという。皆さん自身や周りの人はどうだろうか。私の個人的な印象では、相当多いように思われる。
会社だけではない。社会人の準備段階である大学生にも増えている。最近増えている「ぼっち飯」(ひとりぼっちでご飯を食べる)、「便所飯」(便所の個室にこもってご飯を食べる)などという現象は、その表れだろう。
彼らは、皆が集まって楽しそうに食事している場面(学生食堂など)に入り込めない。そしてそれを自覚して、「俺はリア充(リアル=現実の生活が充実している人)ではない」と自虐的に感じる。
そのような学生が、就職活動で何十社もの面接を受けなくてはならない。最近、大学生の自殺が1000人を超えたというニュースがあったが、このことと無関係ではないだろう。
そして、あがり症や恥ずかしがり屋といったレベルを越えて、前述のような障害に悩まされると、やがてうつや薬物依存といった、より深刻なレベルの障害へとつながっていく。
企業にとってもこれは非常に重要な問題だ。先日ある大手メーカーの人事の方とお話ししたときも、真っ先に出た仕事上の問題点が社員の「心の健康」だった。
このような問題に対して、どんな対処が可能か。それを述べる前に、そもそもなぜ社会不安障害が近年になって増えているのかを考えなくてならない。それがわからないと、効果的な対処のしようがないからだ。
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うつ病患者数と自殺者数はシンクロ
人材使い捨て企業で“社畜”と化する若者
先日、ある学会にてこの分野の専門家である山田和夫氏の講演を聴く機会があった。氏の分析では、日本人の自殺者は2005年から激増し、うつ患者数もシンクロして増えているという。
そして、それらの「予備軍」である社会不安障害も激増している。2005年前後に日本で大きく変わったのが、雇用形態である。1990年代のバブル崩壊以降、終身雇用、年功序列といった日本の雇用安定を支えてきた制度が崩れ、成果主義の導入が行なわれた。2004年には派遣社員法が完成された。
非常に単純化して言うならば、このことによって日本企業は「家族主義に基づいて人を育てる組織」から「成果主義に基づいて人を使い捨てにする組織」へと変わっていった。最近またネット上でよく見かけるようになった「社畜」という言葉は、この変化を端的に象徴している。
実際、「社畜」と呼ばれている人の仕事の大変さは、実は高度成長期の社員とあまり変わらない。しかし、その大変さの対価として、将来「安定と高待遇」が期待できるのと期待できないのとでは、精神的な負担が大きく違ってくる。今の日本で、将来に希望を見出している20代以上の人はどれだけいるだろうか。
確かな将来像を描けず、そのために何をするべきかの指針も見い出せないまま、日々を生きることだけで精一杯となり、不安が募る。「自分には価値がない」「自分は落ちこぼれだ」などと自己否定的な考えが頭をめぐり、だんだんと他者との関わりを避けるようになる。ひきこもりやニートなども同様だ。
他者のいる場に出なくてはならないときには、焦りや不安が先行し、身体にも異常が出るようになる。こうなれば社会不安障害の可能性が高い。
つまり、日本の雇用制度の変化と、それに伴う関係性の変化が、多くの人を精神的に追い込む結果となってしまったのだ。その影響を大きく受けるのが、20代〜30代であることは自明だろう。年長者に比べて、彼らの方が「不安な将来」を過ごす時間が長いからだ。
次のページ>> 昭和の価値観を押し付ける上司が、若者の社会不安障害を助長
昭和の価値観を押し付ける上司が
若者の社会不安障害を助長させる
残念なことに、これまで私がお話をうかがってきた企業の方々の中には、ここで述べたようなことを理解していていない、あるいは軽く考えすぎている人が多いと感じている。
その理由は、企業の部長以上の役職にある人のほとんどは40代後半より上の年齢で、昭和時代の日本型雇用制度の中で育ち、そこで培った価値観を今でも持っており、そして自分が現役のうちは、まだ日本型雇用制度のまま「逃げ切れる」世代だからだ。そのような人々の中には、若年労働者の深刻な事態を頭ではわかっていても、真剣に考えることができない人も多い。
最近の週刊誌やネット上の話題に、「世代間ギャップ」が取り上げられることが多くなっているのも、このような背景があるからだ。
そういった「理解の薄い年長者」の多い職場や、そうした人たちが上司になっている職場では、昭和時代の価値観を押し付けられる場合が多い。すなわち、会社にコミットして、仕事は言われなくても自ら学び、上司の背中を見て育ち、会社のイベントには積極的に参加するという態度である。
2005年以降の雇用制度の中で育ってきた若い社員にとっては、そのような価値観を持ち続けることは難しい。とはいえ、会社に行けば周りや上司にはそのような価値観を押し付けられる。社会不安障害が助長されるのも、当然の話だろう。
これまでの分析で重要なのは、社会不安障害は個人特有の性格によって引き起こされるのではなく、環境によって引き起こされているという点だ。
ならば、処方箋としては、その環境を変えなくてはならない。それには大きくわけて2つある。現在の大変さの緩和と将来への希望を持たせることである。そしてそれが最も効果を発揮できるのは、新たな法律と制度を作り、充実させることにある。
具体的には、よりきめ細かなメンタルヘルス・ケアプランと、キャリアアップのための法整備、雇用法そのものの抜本的な見直しだ。
次のページ>> 希望、安心、充実――若手に効くメンタルヘルス・プラン
それには政治的な主導が必要となる。だが、現在の日本の政治家を見る限り、それは無理と考えざるを得ないだろう。政治家自身がこれまでの制度による利益を享受しているし、自身の世代も選挙区での票田も、ここで言う「年長者」が多く、改革へのインセンティブを持たない。
したがって、制度的な解決にはまだ時間がかかるだろう。
希望、安心、充実を提供せよ!
若手に効くメンタルヘルス・プラン
ならば、私たちが、あるいは経営者が個人的にできることから始めなくてはならない。具体的にどんなことができるのか、列挙してみよう。
●社内の人間関係の充実
前回のコラムでも、そして河合太介氏ともに連載していた「あなたの職場は大丈夫? タダ乗り社員を生む職場」でも述べているが、職場そのものが社会不安障害を産み出すようでは、仕事は機能しない。様々な面でサポートし合える人間関係が職場に必要となる。具体的には「感謝と認知」の連鎖が必要だ。
●将来への希望、安心
サイバーエージェント社のように、常に社員を刺激し、新たなチャレンジへとかき立てるような取り組みを行なったり、未来工業のように定年制を廃止して、幅広い世代がチャレンジできるような仕組みをつくったりと、将来に対して希望を持てるような組織内制度の導入が効果的だろう。
●物理的環境の充実
季節性のうつや一部の社会不安障害には、「光」が重要なことがわかっている。これは日照時間の少ない国や地域では、自殺者が多いことからも証明されている。日光を浴びることで、脳内のホルモンが調整され、生活のリズムや一部の気分障害が改善されることも、研究でわかっている。
次のページ>> 実は、英語教育で若者の選択肢を増やしているブータン
したがって、明るく、自然光をできるだけ採り入れたオフィスづくりや、野外や屋上でのミーティング、深夜よりも早朝における仕事の励行などが有効である。福島原発の事故以来、節電が是となってはいるが、組織でも個人でも、自然光を使う取り組みや、明るいところに皆を集められるような工夫を行なうなど、改善できる余地は多い。
また、うつや気分障害に深く関与している脳内ホルモンであるセロトニンの分泌を促すような食事を積極的に摂ることも、良い対処法だ。具体的には、乳製品、大豆食品、魚(特に青魚)は、セロトニン生成に必要なトリプトファンが多く含まれる。
それらの摂取と、規則的な有酸素運動(散歩やジョギング)を組み合わせると、効果はますます高い。昼食後に散歩をしながらミーティングをしたり、普段の通勤でも意識してウォーキングするなど、様々な工夫が可能だろう。
経済より幸福を重視するブータンでも
英語教育で若者の選択肢を増やしている
●別の選択肢を増やす
「世界一幸福な国」として、ブータン王国が最近注目を集めている。日本でも最近注目されて、テレビで特集が組まれていたりするので、ご存じの方も多いと思う。この国は物質的には決して豊かではないが、資本主義先進国とは異なった価値観のもと、国を富ませるのではなく、国民を幸せにすることを目標とする政策を掲げている。
しかしながら注目したいのは、この国が英語教育を徹底させている点だ。このことは、価値観は独特でありつつも、その表現手段を世界標準化することを意味している。簡単に言えば、英語ができることでより新しい世界を広げることができ、新たなチャンスをつかむ可能性を上げるのだ。これは、人生における選択肢を増やすことである。
そして選択肢が増えれば、将来への希望も持ちやすくなる。このことは、我々日本人にも示唆を与えるものだ。多言語を習得する、海外で重宝される専門知識や専門技術を身に着けることが、人生の選択肢を増やす。そしてそれ以上に、その人物のメンタルヘルスにとって重要な効果を生むだろう。
次のページ>> うつをなくすために、「認知と感謝」が機能する職場を
うつや引きこもりをなくすために
「認知と感謝」が機能する職場を
最後に、もう1つ重要なことを述べたい。
軽度の社会不安障害をきっかけに退職、再就職できずに引きこもり、うつになって、自殺にまで発展するケースが増えている。そのような深刻な事態に陥る前に、誰かに助けを求め、相談することができるような環境が必要になっている。
これまで日本社会のそれは、家族と会社組織であった。しかし現在は、双方ともが崩れてきている。今、日本の全世帯の40%は1人暮らしだ。都会ならばその比率はもっと高いだろう。都市部における核家族の崩壊は、確実に進んでいる。たとえ家族がいたとしても、家族の中での信頼関係を築けない場合、ひきこもりやニートという現象となって現れる。
仕事を中心に過ごしている人の場合、昔は会社組織がそのような場になっていた。決して制度的な福利厚生施設が役に立っていたわけではない。むしろ頼りになる上司や、信頼できる先輩や、気の置けない同僚と、仕事とプライベートの区別なく付き合いがあり、お互いをよく知っているという人間関係が、相互サポートを提供できる場になっていたからだ。
しかし、先にも述べた通り、そのような場も急速に少なくなっている。
この問題の解決には、「認知と感謝」が効果的に機能する組織をつくることが必要だ。自分を必要としてくれ(認知によって)、自己効力感を感じる(感謝によって)組織でないと、前述のような信頼関係が築けないからだ。
そのための具体的手法については、拙著『不機嫌な職場〜なぜ社員同士で協力できないのか』 『フリーライダー――あなたの隣のただのり社員』(いずれも講談社新書)をご覧いただきたい。
前述の社会不安障害の話は、日本の自殺率や出生率にも影響している。政府の試算によると、自殺を含む現在の日本の死亡率と現在の出生率が続くと、300〜400年後には日本人は消滅するという。あなたの組織の問題は、より大きい社会の問題でもあり、国の将来の問題でもあるのだ。
質問1 あなたの職場で、「新型うつ」「社会不安障害」とおぼしき社員は増えている?
増えている
増えていない
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