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オモチャ作りのゼペット爺さんは、人間の子供と同じ大きさの「人形ピノキオ」を作り上げ、天使に魂をいれてくれるように願う。ある晩、ゼペット爺さんが眠っている間に、妖精がピノキオに命を吹き込んだ。正直で勇気のある優しい心を持てば、本当の人間の子供になれると教えられたピノキオは、子供達の良心であるコオロギの「ジミニー・クリケット」と共に試練に満ちた冒険の旅にでる。ある日、いたずら好きのピノキオはジミニーが止めるのも聞かずに極楽島へ遊びに行ってしまう。ここで散々悪いことを覚えたピノキオは、自分の体が段々ロバのような形になってきたので、慌てて逃げ出し家に飛んで帰った。ゼペット爺さんはピノキオを探しに旅に出かけ、怪物鯨に飲み込まれてしまった。ゼペット爺さんを追いかけ家をでたピノキオは、鯨の腹の中でゼペット爺さんと再会を果たし、腹の中で焚火をして、煙にむせた鯨から飛び出して海岸へたどりついた。こうした行動を見た妖精は、ピノキオを良い子だと認めて本当の人間の子供にしてくれたのだ。
2013年春入社を目指す大学3年生の就職活動が本格化している。大企業は軒並み数百倍という高倍率を記録し、学生は必死に安定と正社員という称号を獲得するために奔走している。大学では勉強にあけくれ、ゼミや研究室では、偉そうに語る教授の尻をなめながら必死に単位や論文発表の機会を得ても、妖精は「まだ足りん」と言わんばかりに厳しい洗礼をあびせる。日本では大学を卒業したものの就職できずに、契約やアルバイトの仕事をしながら、その日暮らしを続ける多くの若者がいる。
古市憲寿は著書『絶望の国の幸福の若者達』で、若者は不幸だと世間に言われながらも、今の若者は生活に満足していて、満足度は過去40年間で15%近くも上昇しているとデータと共に述べている。果たしてこれは本当に若者の実態を表してるのだろうか。
ジニ係数とは所得が完全に平等ならばゼロ、1人の人が全ての所得を得ていれば1となる不平等度の指標である。これを見ると60歳以上の高齢者世代の格差は大きく縮小しているけれど、若者世代の格差はむしろ上昇している。この最大の理由は、正社員になれた若者とフリーターやニートのままの若者の所得格差が大きかったことであろう。(参照:『日本はなぜ貧しい人が多いのか』)つまり、この絶望の国は若者にとって一番絶望的であり、「満足している」というのはちょっと信じがたい。ひょっとしたら誰もが先が見えずに貧しくなっていくこの国に、投げやりになっているだけかもしれない。
年齢別の正規雇用者と非正規雇用者の賃金格差を見ると、年齢が高くなるにつれて大きな格差が見られるようになる。40歳代後半から50歳代前半では、非正規雇用者は正規雇用者の6割程度の賃金しか稼げないことが読み取れる。日本では解雇規制や不況の影響から、2005年辺りから雇用情勢に構造的変化が見られ、比較的容易に解雇を行なうことができる非正規雇用者の割合が増加し続けている。(参照 )こうした傾向が継続することになれば、きっと世代間格差も拡大するだろうけど、世代内格差も大きくなってくるはずだ。
インターネット大手がスマートフォン関連技術者を大量採用する方針を示し、優秀な人材を獲得するため破格の条件を用意する企業も出てきている。SNS大手のグリーは新卒者に最高1500万円の年収を約束し、DeNAも12年度から新卒技術者に最高で年1000万円を支給するようだ。企業は常にトレンドを模索し、そうした戦略にマッチした専門家に高い給料を払う。だけど世の中のスピードは益々速くなっているから、生き残るのは並大抵ではないだろう。
これからの時代は確かに世代間格差も問題だけど、それ以上に世代内格差が浮き彫りになってくるのではないだろうか。正社員になることを望み、妖精に認められるために、学業に死に物狂いで打ち込んでみても、企業は正社員として雇用してくれるかどうかは分からないし、正社員になれたとしても、年々給料が上昇して、主要なポストが用意され、引退する時は多額の退職金を保証してくれるような時代ではなくなってしまった。
古市の調査のように若者は「満足している」のかもしれないけれど、これから日本の社会制度は益々変化し、カネは国家にむしりとられていくだろう。若者はこの国の行く末に背を向けて、安定を求めて身近な楽園に行きついたのかもしれない。だけどこれから競争は激化し、勝ち残ったものだけに多額の報酬や幸福を約束してくれるような時代になっていくはずだ。残念ながら昔のように入り口で成功すれば安泰という時代は終わってしまったのだ。現状「満足している」若者達も、年齢を重ねるにつれて不満が高まり、不幸になっていくかもしれない。ピノキオが人間になっても幸福なのは一時的なもので、学校に通い、働かなければ、生計を立てることはできない。道を間違えれば「人間にならなければよかった」なんていう夢のない話になってしまうだろう。若者も歳を重ね、次の世代に移った後も「満足している」という回答をできるように、常に走り続けないといけないのだ。このちょっと先が見えない絶望の国で。(上村祐一)
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