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http://president.jp.reuters.com/article/2011/09/06/D0ED13AC-D204-11E0-B42D-2FEA3E99CD51-1.php
検証「介護の値段」【1】 特養にはコネか重介護度が必要
プレジデント 2011年1.3号
「有料老人ホーム」は高額、「特養」は格安でも3年待ち。困った人の第3の道は?
三浦 愛美=文 小倉 和徳=撮影
キーワード: 介護・福祉 検証「介護の値段」 夫婦・家族 収入・給料 サービス
磯野波平54歳、フネ48歳を頂点とする日本を代表するファミリーの面々。サザエ夫婦にカツオ、ワカメ、タラちゃん。あの平和な家族に亀裂が入るときが訪れた。長年勤め上げた山川商事を定年退職して15年、波平75歳、フネ69歳、それまで元気に家事を切り盛りしてきたフネが脳梗塞で突然倒れてしまったのだ。要介護度5、ほぼ寝たきりの状態になり、身の回りのことも家族が面倒を見なくてはならなくなった。しかし波平もすでに75歳。自分の足元も覚つかなくなってきているうえ、これまですべてを妻に任せきりにしてきたため、自分一人では下着の位置さえわからない。カツオはあの調子でフリーター、タラちゃんはタコ焼き屋。頼みの綱はワカメとサザエだが、2人とも仕事と家庭で忙しく、母親の介護を完璧にこなす自信はない。
波平は有料老人ホームを探すが、磯野家の住む世田谷では入居一時金だけでも4000万円は下らないことが判明した。波平は家族会議を開き、こう宣言する。
「ワシはこの家を売ろうと思う。見積もりによるとこの土地は9000万円にはなるらしい。そのうちの4000万円でフネを老人ホームに入れてやりたいのだ。月々30万円の費用はワシらの年金と合わせて払っていこうと思う」
だが家族からは猛反対の声が上がった。
「そんなことをしたら、私たちはこれからどこに住めばいいの!」
「磯野家の相続」紛争勃発である。仲良し家族の代表磯野家ですら、介護問題は一筋縄ではいかない。ましてや世間の一般家庭など、どうなってしまうのだろう。
特養にはコネか重介護度が必要
政府が国会に提出した2010年版「高齢社会白書」によると、現在65歳以上の高齢者人口は、過去最高の2901万人になった。国民の22.7%、つまり5人に1人は高齢者だ。さらに今後の人口推移を見てみよう。現在の少子化がこのまま進めば、わが国の総人口は現在の1億2751万人から、45年後の55年には8993万人にまで減少すると試算されている。一方、高齢者の割合は増え続ける。続々と退職していく団塊の世代と、それに続く団塊ジュニア世代により55年には国民2.5人に1人は65歳以上となる。電車に乗ると2、3人に1人が白髪交じりの高齢者という異様な光景が眼前に広がることになるのだ。
人間は誰しも、老いだけは止めることができない。両親が、妻が、夫が、あるいは自分自身が、前述のフネさんのようにある日突然動けなくなってしまったら。そんな事態に直面する前に、取りうる手段を検証しておこう。
何よりもっとも避けたいこと、それは少ない選択肢の中から慌てて終の住処を選びとることである。介護は在宅にしろ施設にしろ、すべて一長一短だ。どの形態が自分や家族にとって一番幸福な結果をもたらすのかは、しっかり検証しなければならない。本当に安心して暮らせる余生はどこにあるのか、介護に詳しい3人の専門家に話を伺った。
まず介護される側が一番望むのは、何といっても在宅介護だ。「死ぬときは自宅の畳の上で」という願いは、当然ながらそれまでの介護の日々も自宅でということを意味している。しかし、これはあくまで介護される側の希望である。介護する側の視点に立つとどうなるのだろう。
都内で訪問介護事業を展開しているケアリッツ&パートナーズの代表、宮本剛宏氏に、在宅介護のメリット・デメリットを聞いてみた。
宮本 剛宏●ケアリッツ&パートナーズ社長。1979年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。日清紡、ITコンサルタント会社を経て、2008年、ケアリッツ&パートナーズ設立。新しい介護のあり方を模索する。
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宮本 剛宏●ケアリッツ&パートナーズ社長。1979年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。日清紡、ITコンサルタント会社を経て、2008年、ケアリッツ&パートナーズ設立。新しい介護のあり方を模索する。
まずメリットは金銭面の安さである。
「通常、在宅介護は寝たきり状態になると難しいといわれていますが、実際は介護度5でも可能です。介護保険が35万円まで出るので、1日3回、1時間ずつヘルパーに入ってもらい排せつや食事の介助を頼めば十分やっていけるのです」
介護保険の利用者負担は1割のみ(残りの9割のうち、50%は40歳以上が納めている介護保険料が、残りの25%を国が、さらにその残りの12.5%ずつはそれぞれ都道府県と市区町村で賄っている)。そのためきちんと保険内で頼める介助をケアマネージャーと相談すれば在宅でもやっていけるというのだ。仮に介護保険料で賄えない分を自腹でお手伝いさんを雇うとしても、月に10万円もかければまずまず補える。年間にして120万円。仮に10年間在宅介護をしても1200万円ほどでいける計算だ。都内の有料老人ホームに入居する標準ケースの概算より5000万円は安くなる。
ただ金銭面で抑えられる分、家族の負担は当然ながら大きくなる。そこが在宅のデメリットだ。介護保険やヘルパーはあくまで補助的な役割で、介護するのは基本的に家族というのが在宅介護の考え方だ。そのため日中家に誰も家族がいない場合や、完全独居の場合、在宅介護はまず不可能だと考えたほうがいい。
では家族にとって、もっとも介護が大変になるのはどのような場合だろうか。
「それは、体は元気なのに認知症だけが進んでしまっている場合です。これは介護度5で寝たきりの方よりもきつい。かつてご自宅にマクドナルドのマークの入った灰皿と紙ナプキンが大量にあり、そして毎日それが増え続ける方がいて対応に苦慮していました。しばらくするとお店から連絡があり『当店で下半身を露出されては困ります』と出入り禁止となり一件落着しました。また、風呂場で『あら。なんで私、服を脱いでいるのかしら?』と着脱を繰り返す方もいます。そんな毎日に神経がすり減ってしまい、最終的に施設を選ばれるご家族もいます」
「表現はよくないかもしれませんが」と付け加えながらも、宮本氏は「介護は、金銭を取るか苦労を取るかといった究極の選択」になってくるという。
しかし問題は、苦労に耐えかね施設を選ぶことになった場合、利用者が選べる選択肢が現状では非常に限られていることだ。では施設にはどのような種類があるのか、簡単におさらいしてみよう。
まず施設で人気があるのは、いわゆる特養と呼ばれる「特別養護老人ホーム」だ。比較的価格が安く、死ぬまで面倒を見てくれるため安心でもある。しかしこれは圧倒的に施設の数が足りていない。よほど介護度が高いか、コネでもない限り、数年待ちを覚悟しなくてはならない。次に「老人保健施設」(老健)だが、こちらは基本的に治療後のリハビリ施設のため、最長でも6ヵ月間しかいられない。そのため老健A→老健B→老健Cと、半年ごとにグルグル移動しながら特養の空きを待ち続ける人も多い。「療養型医療施設」という選択肢では、医療的な管理を必要とする人が入る施設なので入居できる条件がさらに限られる。しかも前政権では一度廃止が宣言されているので、今後どうなるか見通しは立っていない。
グループホームという選択肢もあるが、こちらは認知症の人しか入れない。
つまり施設の場合、選択肢はありそうでないのである。では公的施設以外では何があるのか。残る選択肢は「介護付有料老人ホーム」である。こちらは「第二の人生」「終の住処」を謳い多くの民間業者が参加しているだけに、施設の充実度、介護の手厚さが期待できる点がメリットとして挙げられる。ただ難点は、かなりの出費を覚悟しなければならないこと。
東京都の区役所で福祉課に勤めるA氏は介護費用を大まかにこう計算する。
「有料老人ホームもピンからキリまであるため一概にはいえませんが、最低でも月額20万円台の支払いのほか、さらに入居一時金として150万から、多い場合は2億円まで支払うところもあります。
もちろん介護サービスの自己負担額は他の施設や在宅と同様に費用の1割ですが、支給限度額を超えた分は全額自己負担となるため、その分が相当かかります。
公的施設の場合、介護サービスの自己負担額は月額2万〜4万円程度です。さらに別個に居住費と食費などが月額10万〜13万円ほど加算されますが、大体ひと月12万〜17万円ほどで収められます。それに対して有料老人ホームは事業ごとに価格設定しており、サービスと価格は詳細に調べる必要があります」
もっとも、有料老人ホームが高いのにはそれなりに理由がある。公的施設より居住空間として居心地の良さを追求したインテリアや、プールや娯楽施設の充実度、栄養面に配慮されたおいしい食事に様々なサービス。これらを賄うためにコストがかかるのは当然だ。
だがときに落とし穴も潜む。施設の経営母体の経営悪化に伴う閉鎖などのトラブルである。何千万円も支払った入居金を返還されることなく、「終の住処」だったはずのホームを追われる高齢者もいる。
「有料老人ホームの経営母体には不動産業者など異業界からの参戦も多いのですが、いまは景気も良くないため、本業の経営不振がそのまま老人ホームにも降りかかり、ほかに売却してしまう例も出ています。次の事業主が再び老人ホームを経営するならばまだしも、そうでない場合、入居者は退去を余儀なくされることもあります。あるいは新たな事業主に再び入居金を支払わされたりすることも」
実は有料老人ホームは、居住権ではなく利用権方式で運営されている。利用者が購入できるのは、その施設を利用できる権利のみ。仮に事業者が倒産した場合そこに住み続ける権利はないのだ。入居者を保護する法律も現在はまだなく、有料老人ホーム協会に加盟している場合は多少の金額が保証されるが、それも微々たるものだ。退職金をはたき、自宅を売却したなけなしの金で購入した人生の片道切符が、一瞬にして消えてしまう危うさが、有料老人ホームには潜んでいる。
家族対応次第ではすぐに施設へ!(家族対応あり)介護度1〜2では介護保険内(月3万円以下)の料金で在宅生活ができる。介護度3では、多少の出費で在宅が可能。介護度4〜5は、家族が相当の負担をしたうえで、介護保険外サービスを月額10万円以上を使う必要があるが、実際例は相当数ある。(家族対応なし)介護度が1〜2では、多少の財産で十分に在宅が可能。介護度3は、高額な介護保険外のサービス利用で在宅も可能だが、不安が残る。介護度が4以上では、裕福な家庭でも在宅は厳しい。
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家族対応次第ではすぐに施設へ!(家族対応あり)介護度1〜2では介護保険内(月3万円以下)の料金で在宅生活ができる。介護度3では、多少の出費で在宅が可能。介護度4〜5は、家族が相当の負担をしたうえで、介護保険外サービスを月額10万円以上を使う必要があるが、実際例は相当数ある。(家族対応なし)介護度が1〜2では、多少の財産で十分に在宅が可能。介護度3は、高額な介護保険外のサービス利用で在宅も可能だが、不安が残る。介護度が4以上では、裕福な家庭でも在宅は厳しい。
※すべて雑誌掲載当時
>>『検証「介護の値段」』の目次はこちらから
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