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「ジャパン・ハンドラーズと国際金融情報」から『堀江貴文と「坂本龍馬」という幻想』を転載投稿します。
=転載開始=
アルルの男・ヒロシです。
先日、ライブドアの堀江貴文元社長に対する、最高裁判所の上告棄却判決が出ました。ライブドアによるニッポン放送株式買い占め事件があったのは小泉郵政選挙があった05年ですからもう5年以上の前の話。六本木ヒルズに東京地検特捜部が強制捜査に入ったとか、ホリエモンが亀井静香に対抗して武部勤にそそのかされて衆院選に出馬したとか、色々有ったが、私の記憶は殆ど無い。あの頃の若い青年実業家たちは堀江の一挙手一投足に注目していた。私も今から考えると堀江のいう放送と通信の一体化というのは後にニコニコ動画やユーストリームが登場し、それを既存のメディアも利用するようになった事から分かるが、実に正しい考えだった。
ただ、堀江のやり方は日本の村社会、律令社会では受け入れられないものだったし、「カネさえ払えば何をやってもいい」と公言するような彼の発言は確信犯的露悪趣味としか思えなかった。そのころ登場した、ソースの味もわからずに「ブルドック・ソース」を買収しようとした、スティール・パートナーズのリヒテンシュタインとかいう代表が居たが、それと同じだ。アメリカ・イギリスでも80年代暮れまでは別に資本万能の時代ではなく、レーガン政権時代、サッチャー政権時代に、ホリエモン的な風潮が始まったのだ。(それは映画『アザーピープルズマネー』という映画を見ればわかる)
私がホリエモン問題に一切関心を持たなかったのは、一番大きな構図を早いうちに掴んでしまったからだ。それは、堀江がどのように資金調達をしていたかという問題である。
ただ、事件のあらましを振り返っておく。今朝(4月29日)の日経新聞の「大機小機」というコラムにはその概要が記されている。(私がホリエモン問題を書こうと思ったのもこのコラムに触発されている)
(引用開始)
最高裁は証券取引法(現・金融商品取引法)違反の罪を問われた堀江貴文ライブドア元社長の上告を棄却、実刑が確定する見通しになった。
後味の悪い裁判だった。堀江被告の罪状は、資本取引とすべき自社株の売却益を利益計上した粉飾決算と、関連会社による企業買収に絡んで虚偽情報を流した偽計取引である。どちらの起訴事実も専門的な技術論に偏し、実刑とのバランスを欠くように見える。
今も人気タレントのように振る舞う本人の言動から反省は感じられず、検察の国策捜査の受難者であるかのような言説も目立つ。閉塞状態にある日本にイノベーションを起こそうとして、変化を拒むエスタブリッシュメントにつぶされた、という筋立てだ。
しかし、ライブドアの証券犯罪の本丸は、裁判では争われなかったところにある。
ニッポン放送株を大量に取得した立会外取引は、TOB(株式公開買い付け)ルールの趣旨に反した脱法行為。度重なる大幅株式分割は、意図的に株式の需給を逼迫させて株価の乱高下を誘う相場操縦。巨額の買収資金を調達したMSCB(価格修正条項付き転換社債)は、引き受け手の証券会社が株価を操作して暴利を得ることを想定した株主への裏切り行為である。
自己利益のためには他者を省みない、市場への背信行為は詐欺か詐欺的行為であり、法や自主規制ルールの変更をもたらした。法が明確に禁止していなければ何をやっても構わないという、自由の意味をはき違えた市場の乱用者がライブドアの素顔だろう。
『日本経済新聞』(2011年4月29日)
(引用終わり)
この記事は非常に重要なことを語っている。まず、(1)ライブドア問題の本筋は裁判で争われなかった (2)ライブドアが巨額の買収資金を調達したMSCB(転換社債)は引き受け手の証券会社の株価操作の誘引となっている、この2点。その引き受け手の証券会社というのがリーマン・ブラザーズ。
次に日経BPネットの記事から引用する。
(引用開始)
リーマンはライブドアのCB(転換社債型新株予約権付社債)の引き受けにより、800億円を同社に投資した。売上高100億円のライブドアにその8倍もの資金を投じたことで、リーマンは気前のいい投資家に映る。しかし、その取引構図を見ると、利益への執着ぶりがよく分かる。堀江社長ばかりが目立つが、資金提供などを仕組んだリーマンこそが陰の主役だ。
リーマンによるCBの引き受けには複数の条件がある。
まずリーマンはCBをライブドアの株価より常に10%低い値段で、普通株に換える権利を持つ。仮に株価が380円だったらリーマンはCBを342円で株に換えられ、そこで売れば38円の利益を得られる。
しかも転換価格は週に1回、修正される。リーマンは株価の状況に応じて転換し、タイミングよく売買できる。
さらにリーマンとライブドアの堀江社長にはCB発行以外の契約もある。それは堀江社長が持つライブドア株(2憶2000万株保有)をリーマンに貸し出す、というものだ。貸し株数は「大量ではない」(リーマン関係者)というものの、リーマンはこの株券を市場で売ることができる。仮に380円で売りをかけて、株価が280円になって買い戻せば、100円の利益が出る。このように、リーマンはライブドアへの投資に関して、儲けが出せる仕掛けをいくつも仕組んでいる。ライブドアが倒産するような事態が起きない限り、リーマンは利益を得られると言える。
加えてリーマンの功績は、ニッポン放送株を持つ海外投資家を説得し、ライブドアとの取引仲介を手がけたことだろう。リーマンは「(仲介を)やったともやらないとも言えない」としているが、有力な誰かのお膳立てなしで、短時間の大量売買はできない。投資助言や仲介に関われば、リーマンはライブドアから手数料も得られる。
http://www.nikkeibp.co.jp/archives/360/360094.html
(引用終わり)
このように、細かい事実関係を捨象すると「リーマン・ブラザーズはライブドアとの契約で濡れ手で粟の利益を得る」というスキームを作り、これを堀江社長に提示していた、ということだ。ライブドア本社もリーマン日本支社もすべて六本木ヒルズに入っている。ホリエモンにニッポン放送株の買い占め方や株式分割による株価操縦などのアイデアを提供したのはリーマン関係者ではないのか。
そして、さらに重要なのはこのリーマン、外資系であるがちゃんと日本支社の顧問に榊原英資元財務官を招いているのである。財務省といえば日本の律令体制を担う支配層。既成権力に挑戦した「時代の寵児」であるライブドアのホリエモンを助言する側の顧問に律令官僚(国際派)がいる。私の見立ててではリーマンははじめからホリエモンを利用する一方で、いざとなれば切り捨てて律令官僚の側である検察に差し出すつもりだったということだ。
「株式日記」というブログでは当時、その榊原英資がTBSの番組に出演し、キャスターの福留功男に「したり顔」で自分が顧問を務めていたリーマンの戦略について語っている。これが決定的に重要な状況証拠になる。引用する。
(引用開始)
リーマンブラザーズ顧問、榊原英資がライブドア敗北宣言
「ライブドアの株は200円割っても不思議ではない」
2005年2月20日 日曜日
◆TBSテレビ ブロードキャスター榊原英資発言
http://www.tbs.co.jp/program/bc.html
【榊原】 これはもう確実に堀江さんの負けですね。 あのー、要するにあのー、売上が300億の会社が800億の借金をするというのはもともと無理な話なんです。無理に無理を重ねて、転換社債でまったく不利な条件で彼は買えた訳ですね。この結果何が起こるかというと、ライブドアの株がどんどんどんどん下落するわけです。もう既に下落してる。
【福留】 昨日の終値が323円
【榊原】 ええ、これは200円とか200円割っても不思議じゃないですね。 割ってもリーマンは損しないですから。必ずそれの10%引きで転換できるわけですから。
【福留】 ということは一番儲かるのは、絶対損をしないのは
【榊原】 リーマンブラザーズです。ですから今回の、まずこれは第一幕ですけど、第一幕の勝者はリーマンブラザーズです。敗者はライブドアですね。 で、おそらくこれは第二幕があって、第二幕はリーマンブラザーズのいま裏にいる、外国系のファンド、あるいは日本のノンバンクなんていう噂が出てますけど、そういう人たちが出てくる。村上さんがどう動くか、あー、そういうことですから、第二幕はとにかくフジテレビ対そういう人たちになる。しかし、まあ堀江さんは第一幕で舞台から退場、こういうことが一番ありえるシナリオです。
【福留】 でもまだ堀江さんは、まだニッポン放送の株を買い増していくっていう風に言ってるんですけれど
【榊原】 ええですけどね、自分のところの株価がどんどんどんどん下がるって言う事はね、資金調達力が下がるってことですね。それから資金を今度返還する能力が下がるということですから、この株価がたとえばですね、4割5割下がることはこれ致命的です。
【福留】 はあ、なぜそんな危ない転換社債に手を出すことになったんですか
【榊原】 ですからこれはあのー、本人が人生最大の賭けだって言ってますけど、短期決戦で終われば、これは良かったかもしれないですね。 それから、35%で公表しちゃダメですよ。51%取った時に、取りましたよって
【福留】 それまで黙っときゃよかった
【榊原】 ええ、要するにセミリターンていうのじゃないんですから、ヘラヘラベラベラ喋ったらね、そりゃプレイボーイは売れるかもしれない(一同失笑) 村上さんみたいに、こういう時は絶対ノーコメント。村上さんはこれはプロですね。
【福留】 ということはこの一週間出まくった堀江さんというのは
【榊原】 あのー、まああのー、会社がダメになったらテレビタレントにはなれるかもしれませんけどね、会社の社長っていうのはあんな風にベラベラ喋ったらダメ。 しかもこれ戦争です。これは、要するに敵対的買収ですから、かつての言葉で「乗っ取り」です。ルールは、法律に違反しなきゃいいっていう、これは堀江さんの言うとおりです。何でもありなんです。ですからこういう世界で、やっぱりあんまりベラベラ喋ったらダメですね。 で、相手は大衆じゃない。プロ野球のときは相手は大衆ですから、大衆のサポートがあれば何とかなった。これはプロの世界ですから、厳しいアメリカ型資本主義の論理で、リーマンブラザーズはそこのプロですよ。そこにしてやられたなと。これはねえ、日本でねえ、あのーアメリカの投資グループにしてやられてる例っていうのは山ほどあるんですよ。
http://www.asyura2.com/0411/hasan38/msg/1086.html
(引用終わり)
このように、この時にリーマン顧問であった榊原英資は実にいけしゃあしゃあと2005年2月の段階で語っている。「私の雇い主であるリーマンと財務省の間では話が付いている。堀江はもう引け。引かないと堀江の身が危なくなるぞ」と警告を発している。
堀江が引くに引けなかったのは事実だろうが、堀江がそもそもなぜリーマンにまんまと丸め込まれたのか。おそらくそれは堀江も含めて日本人の多くが歴史の汚い部分を知らないからだ。あの当時、世間では「ホリエモンは坂本龍馬」だと誰もが言っていた。日本における坂本龍馬ブームは司馬遼太郎と、アメリカの日本学者のマリウス・ジャンセンが仕掛け人だ。
ところが、司馬の小説のせいで、坂本龍馬というものを世間の人達は「日本をせんたくしようとした青雲の志を持った青年」という位にしか理解していない。ところが日本の近現代史を左翼系の岩波ん新書などを読んで、ちゃんと勉強した人は、坂本龍馬がグラバー商会というイギリスの武器商人と繋がって、武器ビジネスをしていたということを理解している。例えば以下のように解説する文章もある。これは三菱商事のウェブサイトの文章である。三菱創業者の岩崎弥太郎を称える趣旨で書かれている。
(引用開始)
トマス・グラバーはスコットランドの生まれ。安政6年(1859)、開港後1年の長崎に、香港を拠点にする英国のジャージン・マセソン商会の代理人として着任した。21歳だった。
ほどなくグラバー商会を設立、幕末の激動の中でオールトやウォルシュ、シキュート、クニフレルなど米欧の貿易商人たちと競合しながら、西南雄藩(ゆうはん)に艦船・武器・弾薬の類を売り込んだ。1860年代半ばには長崎における外国商館の最大手になっていた。
グラバーには長期的な視野からの活動も多い。長州藩の伊藤博文や井上馨らの英国への密留学を支援したほか、薩摩藩の五代友厚(ごだいともあつ)や寺島宗則(てらしまむねのり)、森有礼(もりありのり)らの秘密裏の訪欧にも協力、結果として日本の近代化に大きな役割を果たしている。
慶応3年(1867)には岩崎彌太郎が土佐藩の開成館長崎出張所に赴任してきた。早速、彌太郎をグラバー邸に招き商談に取りかかる。坂本竜馬や後藤象二郎も出入りしていた。(中略)
そういうグラバーだったが「日本国内の政局の流動化を背景に…取引の重心をしだいに投機的かつ短期的性格の強い艦船や武器の取引にうつし… 」(杉山伸也『明治維新とイギリス商人』)一攫千金をねらうようになっていった。
ところが皮肉にも、グラバーが肩入れした西南雄藩は怒涛の勢い討幕の兵を進め鳥羽伏見の戦いで一気に勝敗を決してしまう。グラバーの思惑はずれて大規模内戦なし。グラバー商会は見越(みこし)で仕入れた大量の武器や艦船を抱え込む。おまけに時代変革の混乱の中で雄藩への掛売りの回収は滞り、明治3年(1870)、資金繰りに窮して倒産するはめに。
http://www.mitsubishi.com/j/history/series/man/man01.html
(引用終わり)
また、ここには書いていないが、グラバー商会は坂本龍馬の立ち上げたベンチャー企業である「亀山社中」の武器ビジネスを支援している。ところが、坂本龍馬は明治維新の前に何者かに暗殺され、明治維新は薩長の藩閥が牛耳る「復古律令体制」になるわけだ。
ホリエモンが坂本龍馬だとしたら、リーマン・ブラザーズはグラバー商会である。グラバー商会は倒産し、リーマン・ブラザーズもホリエモン事件から三年後に倒産した。日本の律令支配体制は頑強に生き残っているし、リーマン以外に六本木ヒルズに入っていた投資銀行(すなわちゴールドマン・サックス)は批判の矢面に立ちながらも健在である。
そのような「坂本龍馬・グラバー商会」という型(モデル)で認識出来る事件である。それ以外は瑣末なことである。ホリエモンはフジサンケイ、財務省と検察そしてリーマンブラザーズらの間の「コンスピラシー」(共同謀議)によって葬り去られたのである。
だからこそホリエモンは日経コラムの言う本筋とはちがう粉飾決算や偽計取引という別件で逮捕されたのである。これは鈴木宗男・佐藤優の「国策捜査」の型である。今の日本では暗殺はできないので、直接律令国家体制が、征夷大将軍ともいうべき特捜検察を使って異分子を徹底的に抹殺・排除する仕組みになっている。小沢一郎事件もこの型である。
ホリエモンというビジネスマンの手法には賛同できない。ただ、私はこの事件を通しても日本は「律令国家体制」にあることを再認識した。
=転載終了=
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