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高齢化し、経済が衰退し、無縁化する都市は、静かに崩壊していく
NHK「追跡!AtoZ」 無縁社会の象徴?
都会で急増。家主が消えた「迷惑空き家」
閑静な住宅地として人気の高い東京都・杉並区。追跡チームは、近所から苦情が出ている空き家があると聞き訪ねた。すると、ドアにツタが絡まり、ドアノブが見えないほど荒れ放題になっている空き家が放置されていた。敷地は60坪。管理されている様子も人が住んでいる様子もない。
東京都・杉並区にある空き家。壁やドアにはツタが絡まり荒れ放題。人が住んでいる様子はまったくない。
近くに暮らす住民は不安を募らせていた。
「ブロック塀の表面がもろくなっていて触ると崩れてくるんですよね。付け根の部分も段々削れてきていて、もう何年かしたら、もしかしたら倒れちゃうのかなと思いますけど」
「たまに塀をのぼって住んでる人いますよ。不審者の人がここから入るのよ。塀の脇にブロックを積んで、そこからよじ登って入る。ブロックはあんなにたくさんなかったですよ、怖いですよ」
「植木が茂ってるでしょ。枯れ葉がまず迷惑。ぽっと吸い殻でも捨てられたら…。一番火事が怖い」
住民の心配は、実際に被害となって現れている。去年、港区で住宅・店舗など13棟が消失した火災。原因は、空き家への放火だった。2日前、空き家への放火を心配した住民が、警察へパトロールを要請した矢先のことだった。一方、ゴミの不法投棄も起きている。杉並区で家主の行方が分からず5年以上放置されている空き家。ゴミの山からは、虫が湧いたり、異臭がしたりと、近所の住民を悩ませ続けている。
行政も警察も
対応に手をこまねく実態
閑静な住宅街が広がる東京都・杉並区。区役所には空き家に関する苦情が連日寄せられている。番組スタッフの調べで、隣の世田谷区とあわせると、空き家の数は103軒にのぼることがわかった。
一体、どれくらいの空き家が放置されているのか。追跡チームは、空き家の苦情が特に多い杉並区と世田谷区で、独自に調査を行なった。地図を頼りに、家主の名前が空白になっている住宅およそ500ヵ所を特定。その中で、近所の住民が迷惑だと感じ、しかも家主の行方がわからないという空き家がどれくらいあるかを調べた。その結果、放置された空き家は2つの区のほぼ全域に広がり、その数は103軒にのぼることがわかった。
なぜこれほど多くの空き家が長い間放置されたままになっているのか。私たちは杉並区役所を訪ねた。区役所には空き家に関する苦情が連日寄せられている。しかし、個人の財産である私有地には、行政といえども家主の許可無しには勝手に立ち入ることはできないという。
「行政の力でできないのかというお声も頂きますが、私有地の適正管理はあくまでも所有者の責任でやって頂くべきであり、杉並区ではそのことをですね、条例で、安全美化条例というのがあるんですが…」
杉並区環境課の中村一郎課長が取り出したのは、平成15年に杉並区が作成した条例。家主が空き家を適正に管理することを義務付けている。しかし、違反した場合の罰則規定はない。
「区内に長年放置されている空き地空き家があることも事実でございます。空き地空き家自体が私有財産ですので、なかなか直接行政が関与しにくいというのはありますね」
住民の苦情は警察にも寄せられている。しかし、警察も放火や不法侵入など事件性がない限り、立ち入ることができないのが実情。家主の行方が分からず連絡がとれない状況では、警察や行政も有効な対策を取ることは難しいのだ。
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では、空き家の家主はどこにいるのか。追跡チームは独自に調査した103軒の空き家についてさらに調べることにした。103軒すべての登記を取り、家主の名前と住所を確認した。その結果、住んでいた家主が亡くなり、離れて暮らす子どもが相続していたケースが、46軒。別の場所に住む第三者が購入していたケースが、24軒あることがわかった。
なぜ管理せず放置しているのか。住所を頼りに尋ねると、「離れているので手間やお金がかかり面倒」「いま売ると、損をするから」といった声が聞かれた。その一方で、追跡チームが注目したのは、行方不明の家主が登記上はいまも空き家に住んでいることになっているケースだ。その数は27軒にのぼった。
登記上はここに住んでいるはずの家主を探すため、近所の住民に聞き込みを続けた番組スタッフ。家主の男性が亡くなった後、娘家族が暮らしていたことまではわかったが・・・。
近所の住民から苦情が出ている杉並区の敷地60坪の空き家。この家の家主も、登記上はここに住んでいることになっていた。一体どういうことなのか。近所の住民に話を聞くと、登記上の家主である男性は、すでに亡くなったという。家主が死亡しても登記を変更する義務はないため、昔の記載がそのまま残っていると考えられる。男性以外に住んでいた人はいたのか。近所の住民に聞き込みを続けた。
「私が来たときには4人で住んでいらしたんですね。年とったお母様と娘さんと2人のお子さんが住んでらした」
「結構いたんですよね。3世代いたの。いつの間にかいなくなっちゃったねって言ってたからね」
「1、2度お部屋に遊びに行ったことはあります。いつも綺麗にしているお宅だったんですけど。広いお部屋におもちゃがいっぱいあって…」
取材から見えてきたのは、3世代6人で暮らしていた家族の姿だった。家主だった男性はサラリーマン。1970年頃に、地方から移り住んできたという。この頃東京は、高度経済成長で全国から人が集まり爆発的に人口が増えた。好景気に後押しされ、働き盛りのサラリーマンが競うようにマイホームを購入。野原や畑が広がっていた杉並区や世田谷区は、人気の住宅地へと姿を変えた。
それからおよそ40年。都会では核家族化が進み、当時住宅を購入した人々も高齢化、世代交代の時期を迎えている。杉並区に移り住んだ男性の家でも高齢化と核家族化が進んだ。家主の男性と妻が亡くなり、その後家主となった娘が2人の子どもと暮らしていたという。やがて2人の子どもは独立。家主の女性が1人残された。
家主の女性は、生きていれば、およそ70歳。しかし10年ほど前から姿を見かけなくなり、近所の人に聞いても「どこにいるのか全く分からない」と言う。
「家主の人がどこにいるかは、全然知らないです。来たときからずっと空き家の状態なので、わからないですね」
「家主がどこに行ったかはわかりません。私自身も勤めていたんですよね。ほとんど昼間のことはよくわからなくって。母はずっとここに住んでいたんですが、亡くなってしまいましたのでね。近所関係がよく分からないものですから」
空き家を放置したまま、家主の女性はどこへ消えたのか。追跡チームはその足取りを追うことにした。しかし、近所の住民や知人に取材を重ねても、なかなか女性の居場所につながる有力な情報は得られない。しかし、追跡を始めて1ヵ月。かつて親友だったという女性に辿り着いた。
「お名前が、○○さんとおっしゃるんですけど…」
「ああ、○○ちゃん?」
次のページ>> 家族とのつながりも切れた無縁化する人たち
「ご存じですか?」
「知ってますよ。昔から親友だったけどね、10年来連絡とれないの」
この女性に聞いても、家主の行方はわからなかった。しかし、家主の息子に関する情報を教えてくれた。
「昔ね、私も子ども好きでね。しょっちゅう遊びに行って2人の子ども面倒見てたの。坊ちゃんは優秀な子でしたよ。頭も良いしスポーツ好きだし。良いお兄ちゃんだったんですよ。坊や調べれば大丈夫よ、絶対に私はそう思ってる。絶対に親友がいっぱいいるから、スポーツマンは仲が良いから、みんなね」
息子を捜し出せば、母親の居場所がわかるのではないか。追跡チームは、息子が所属していたという高校の運動部の同級生を捜し当てた。
「最後に会われたのは何年前ですか?」
「いやもう25、6の頃だから15年くらい前じゃないですか」
「15年前…」
「学生、大学時代から大学卒業して20代前半くらいまでは割と何回か、年に数回会う機会はあったんですけど、その後は結構みんな転勤とか色々あって、いま集まるのは同期の中でも数人くらい」
2人は毎日同じ電車で通い、ともに汗を流した親友だったという。しかしその親友でさえ、家主の息子がどこで何をしているのか知らなかった。 あらゆる知人や友人に取材を重ねたものの、家主の女性とその息子の消息を知ることはできないままだった。普通に暮らしていた一家の消息を隣人や友人でさえ知らないという現実。都内各地を取材する中で見えてきたのは、地縁や血縁といったつながりが薄れるいまの社会の姿だった。
近所や家族とつながりが切れた
無縁化する人たち
下町にある空き家には、かつて70代の男性が1人で暮らしていた。近所の住民が、男性の姿を見かけなくなったのは、5年ほど前。しかし、心配して家を訪ねたり、警察に届け出たりする人はいなかった。
「付き合いがねえんだから、見えても見えなくても関係ねえやな、はっきりいって」
「あいさつはしてたんですか?」
「いやその人はほとんどしてない、逃げるように。引っ越してから言葉なんか交わしたことないよ。隣近所付き合いしない人が多い」
男性が発見されたのは去年8月。近所の人が空き家だと思っていたこの家の2階で、白骨化した遺体となって見つかった。身元を確認する親族もいないため、遺体は身元不明として葬られた。空き家はいまも放置されたままだ。
家族の絆が切れたため、放置されていた空き家もあった。都内にある空き家。住んでいた男性は、10年ほど前に突然姿が見えなくなったという。男性はどこに消えたのか。姉の話を聞くことができた。
「弟が一人暮らししていてサラ金で逃げたんですよ。それで私たちが全部肩代わりして片付けたんです」
借金を残したまま、行方をくらました弟。姉は空き家を処分しようと考えたが、家主である弟の同意がなければ売ることが出できず、長年放置したままになっていたのだ。その間、弟からは何の連絡もなかった。
「いなくなって10年間、手紙1本電話1本ないんですから。うんと迷惑して、大変でしたよ」
次のページ>> 家主の息子が見つかったが…
高度経済成長期、東京に集まった人々が夢を託したマイホーム。その後、急速に進んだ核家族化によって家族の絆は断たれ、空き家が急増している。そして地域のつながりが薄れる中、その空き家が人々にとって不安の対象でしかないという現実。都会の空き家は私にとって無縁化したいまの社会を象徴する存在のように思えてならない。
杉並区の空き家の家主を捜し始めて2ヵ月。追跡チームに情報が入った。家主の息子が、東京近郊で暮らしているというのだ。住所を訪ねてみると、独身向けの小さなアパートだった。息子によれば「母親は病気で入院している」とのこと。そして退院するまで空き家にしているのだと説明した。しかし、なぜ荒れ放題にしたままなのかと聞いたところ「これ以上答えたくない」と多くを語ろうとしなかった。近所との連絡を絶ち、離れて暮らす母と子。杉並区の空き家から見えてきたのも、無縁化する社会の現実だった。
家主のわからない空き家が増え続けている杉並区。この日、住民たちがパトロールを行なっていた。空き家が増え、治安の悪化を心配している。
「ここは空き家なんですよ。ずーっと空き家です」
「2、3年経ってる?」
「2、3年どころじゃないですよ。もっとですよ。見たことないですよ。電気ついてないですよ」
「ここもいないよね、最近」
「ここはおばあちゃんが亡くなったのかな」
「そうなの」
1時間の見回りで、空き家は4軒あった。
「本当は向こう三軒両隣で近所の人が連絡先とかを知っていれば助かるんですけれども、いまは向こう三軒両隣、昔の人間関係が全然崩壊しちゃってるんですよね…」
東京都の空き家の数は、およそ10万戸。毎年3000戸のペースで増え続けている。
(文:番組取材班 丸岡裕幸)
取材を振り返って
【鎌田靖のキャスター日記】
今回取り上げたテーマは空き家。といっても地方の過疎地の話ではありません。大都会の東京でいま、空き家が急増しているのです。東京の世田谷、杉並といった住宅地として人気の高い地区でもこうした“異変”が起きていました。
空き地が長期間放置されると“ごみ屋敷”となったり、火災が起きたり、不審者が侵入したりと周囲の住民にとって迷惑この上ない存在となります。それだけではありません。家主がわからないため固定資産税の滞納も起きています。
そんな「迷惑空き家」、いったいどれくらいあるのか。行政も実態を十分に把握しているわけではありません。そこで番組のスタッフが独自に調査することにしました。調べたのは特に住民からの苦情が多い世田谷区と杉並区です。住宅地図で家主の名前が空白になっている家をチェックして一軒一軒訪ねました。
愚直というか原始的というか…。手前味噌で恐縮ですがスタッフたちは本当によくやったと思います。4ヵ月かけた取材の結果、迷惑空き家の数は2つの区で少なくとも合わせて103件あることがわかりました。
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では家主はどこにいるのか。今度は登記を取って家主の住所を調べたところ、家主が死亡して離れて暮らす子どもが相続したケースが46件、第3者が購入したケースが24件ありました。放置している理由は、「離れているので手間やお金がかかり面倒だから」「いま売ると損をするから」などというもの。個別の事情はあるのでしょうが、結果的に地域住民は迷惑だと受け止めているのです。
高度経済成長時代、多くの人々が東京に移り住んでマイホームを建てました。世田谷区や杉並区にもまだ畑や野原がたくさん残っていた時代です。それから数十年。核家族化が進み、子どもたちは独立して家を出ます。そして家に残った老夫婦が病気になったり、亡くなったりした結果、空き家が増えている。そんな背景が取材から浮かんできました。
それにしても取材して感じたのは、まず、「もったいない」ということです。少し手入れすればすぐにでも住めそうな物件が一等地にたくさんありました。空き家の有効利用ができれば新たなビジネスチャンスが生まれるかもしれません。
さらにこんなことも感じました。その家の人と日常的に付き合いがあれば周囲の人も迷惑だとは感じないのではないか。地域のつながりが薄れ「誰が住んでいたのかさえ知らない」。そんな空き家だからこそ周囲の人たちの不安は一層強くなるのです。
都会のあちこちで増え続ける空き家は、無縁化する社会に生きる私たち自身の姿のように思えてならないのです。
※この記事は、NHKで放送中のドキュメンタリー番組『追跡!AtoZ』第62回(1月22日放送)の内容を、ウェブ向けに再構成したものです。
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【次回の番組放送予定】
1月29日(土)午後9時50分〜
「心臓がよみがえる 〜臓器再生 最前線」
いま、再生医療技術を使った「心臓」再生の試みが始まっている。
京都府立医科大学で、心筋が壊死して収縮能力を失ってしまった患者の心臓に対し、幹細胞(様々な細胞になる能力を秘めた細胞)を注入、機能を回復させることに挑戦した。壊死した心筋細胞の位置に注入された幹細胞が、健康な心筋細胞に“変身”することで心臓を「蘇らせる」ことを狙った世界初の試みだ。
NHKでは、第一号の患者の臨床試験に密着取材、一部始終を記録してきた。
心臓の働きが2割まで低下し、ほとんど歩けなかった患者が、心臓の再生により活発に動けるまでに回復。去年12月に行われたMRI検査では心臓の壊死した部分が大幅に消失。心筋が再生したことが確認された。
いま世界でも様々な臓器の機能を再生させる研究が活発に行なわれている。ブラジルでは糖尿病患者の膵臓の機能回復に成功した。糖尿病は不治の病と言われて来たが、すい臓も再生可能だと分かったのだ。
夢の医療と言われる再生医療は「研究」の段階から、「実際の医療現場で使う」段階へと動き始めてきた。鎌田キャスターと追跡チームがいまの到達点を追跡し、その未来像を予見する。
◎番組ホームページ http://www.nhk.or.jp/tsuiseki/
※今後の放送予定(再放送含む)も確認できます。番組へのご意見・ご感想も大募集。
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