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「クオリティ ガバナンスセミナー2010」の基調講演で、一橋大学イノベーション研究センター長・教授の米倉誠一郎氏は、アジアというフロンティアで戦うための戦略について語った。
成長戦略はいつから見えなくなったのか
まもなく中国にGDPの額を追い越されるという事実。政治、外交、そして経済、どの面をとってもピリっとしない日本の現状と相まって、どうにもやりきれない気分にさせる。しかし、米倉誠一郎 一橋大学イノベーション研究センター長は「問題は、1人当たりのGDP。14億人の人口を抱える中国はようやく1人当たりのGDPが日本の12分の1程度になったというだけ」と語る
1人当たりのGDPのランキングにおいて、日本は1993年から1996年にかけて、そして2000年に世界第3位になった(為替レートベース)。1位、2位はルクセンブルク、スイスといった人口が日本よりはるかに少ない国が占めている。人口1億人以上の国がこうした国に次いで3位になるということは珍しい。しかし、最近のランキングにおいては、日本は2005年に15位、2010年では23位になるだろうと予測されるなど、低迷を続けている。米倉氏は次のように話す。
「皆さんは日本の経済力について、こんなふうに考えていませんでしたか? 日本企業は国内で激烈な競争にさらされ、さらに世界一厳しい消費者の選別に遭う。だから世界でも強い競争力を持っているのだと。しかし、例えば携帯端末の市場では日本企業は全部合わせても、世界で3%前後のシェアしかない。株価は低迷し、配当を増やしても改善しない。それはなぜでしょう。成長戦略が見えない企業に投資する人はどこにもいないということなのです」
米倉氏は2007年ごろの話を例に挙げて、さらに説明を続ける。
「実感はないけれど、企業の利益率が高まり、景気はいざなぎ景気を超えたと報じられました。どうしてか。コストをカットし、付加価値を下げて利益を確保していたからです。見かけは効率経営のように見えた」
コストを切り詰め、利益の確保に専念するあまり、企業は成長のための投資をしてこなかった。そのつけが今回ってきている。その間に世界は大きく変わりつつある。中国、インドを中心としたアジア市場の急速な成長だ。当然日本企業もアジア市場に向かって舵を切った。しかし、今の日本企業に戦う力はあるのだろうか。
高いモチベーションを持つ集団へと変身せよ
ここで米倉氏は米国の自動車メーカー、Fordの例を示す。1908年ヘンリー・フォードによって創立されたFord Motor Companyは平均日給が2.7ドルの時代に従業員に5ドル払ったという。自殺行為だという批判には耳を貸さず、ヘンリー・フォードは次のように話したというのだ。
「わたしの従業員はわたしの自動車をつくるのではなく、わたしの自動車を買うのだ」
果たして、従業員たちは猛烈に働き、自動車を売り、自動車の価格を3分の1にして自分たちもフォード車を買った。Fordは自動車をただつくって売ったのではない。自動車の時代をつくったのだ、と米倉氏は語る。
「生産性を上げることが大切だが、それに必要なのはモチベーションだ。モノが売れない、コストを下げる、賃金も下げる、購買意欲が下がる、ますますモノが売れない。こうした負のスパイラルから抜け出すには、従業員のモチベーションを上げ、生産性を高め、イノベーションを起こすしかない」
人の能力はそんなに大きな差はつかない。しかしモチベーションは数百倍にでも差がついてしまう。日本企業が意識しなくてはならないのは、このあたりのことかもしれない。9%から10%の水準で経済成長を続けているのは中国、そしてそれに次ぐ成長力を持っているのはインド。アジアの時代は確実にやってくる。
モチベーション上昇、生産性向上、そしてイノベーション。イノベーションは技術だけと限らない。既存の仕組みや発想を組み合わせて新しいサービスやモノを作ることもイノベーションだと、米倉氏は話す。
「例えば日本の火力発電でのCO2削減技術は世界でトップです。ASEAN諸国ではこれからどんどん火力発電所が作られます。それらに日本の技術をどんどん提供していく。それだけで1億2000万トンのCO2が削減できるといいます。さらに米国、ロシアなどの火力発電所に日本の技術を導入することで合計2億トンくらい削減ができる。それだけでも大きなビジネスチャンスです。しかしこうしたチャンスがなかなかビジネスに結び付かないでいるという現状があります」
パッケージするという概念を定着させよ
世界をリードする技術、それを活用した優秀な製品を持ちながら、世界で戦えない日本。その弱点はどこにあるのか。米倉氏は「パッケージ化する力」だという。
「単一の技術、製品を作るのはうまい。しかしそれを複合的なパッケージにする力が足りない。環境技術を買ってもらうために、どういうサービスと組み合わせるか。例えばファイナンスやソフトウェア、サービスなどと組み合わせてパッケージ化して売る、といったことがこれからは必須となります」
特に発展途上にある国々に日本の高度な技術を活用してもらうには、導入しやすい付随サービスの充実が欠かせない。多くの人に喜んでもらえるパッケージ製品をつくるには「オールジャパンの力」が必要になると、米倉氏は話す。
「アジアの国々に日本の優秀な鉄道技術を売り込むにはどうすればいいか。車両などのハードウェアだけでなく交通システム全体を売ることを考えるとき、多くの企業が協力してパッケージ化していくしかない」
日本はイノベーションというと、どうしても技術的な革新を想像しがちだ。しかし、既存の技術、製品を組み合わせて相手の望むサービスに作り変えることこそ、これからの日本が武器とすべきものだろう。米倉氏は原子力発電所から、洗濯機まで作ってしまう総合電機メーカーに関して、その事業ドメインの持ち方が非効率的だと批判的に見ていたが、最近はその総合力が新しい日本の強みになるのではないか、と考えるようになったと話す。
「世界広しといえども、原子力発電所から洗濯機まで作れるという企業グループはそれほどない。パッケージを作る上でこうした総合力は生かしていくべきだ」(米倉氏)
アジア各地に広がるフロンティアへ
米倉氏自身、アジア各地を訪れ、さまざまなビジネスに触れている。中国で学生たちとコミュニケーションし、インドのタタ自動車で2000ドルの自動車に乗り、ベトナムで日本製バイクの浸透ぶりを実感し、バングラデシュでグラミン銀行の取り組みをつぶさに見てきたといった具合だ。
「貧しい女性を中心に低額の融資を行い、経済的な自立を助けるグラミン銀行の取り組みを見させてもらったとき、体中が熱くなった。わくわくしてきました。日本から社会人の学生を連れて視察をしにいったとき、グラミン銀行のグループ会社が行っている太陽光発電パネルの貸し出しサービス事業が話題になりました。その時学生たちは『今はいいけれどそのうち発展すれば大きな発電所が必要になる』と言っていました。確かにそういう側面もあるでしょう。しかし1平方メートル程度の太陽光集光パネルで動く家電製品を開発する、という分野も大きなフロンティアではないでしょうか。そして日本企業こそそのフロンティアに挑戦する最も強力なプレーヤーではないでしょうか」(米倉氏)
そのほか、米倉氏は近い将来日本以上に少子高齢化社会になる中国市場に、日本のロボット技術は大いに生かせる、と話す。ペットロボットは孤独な老人をウォッチし続け、安全を確保するのに役立つし、体に装着し重い荷物を軽々と持ち上げることができるロボットスーツなども介護に利用できる。米倉氏は日本人の特徴として、「ヒューマンインテリジェンスをクオリティオブライフに結び付ける能力」を挙げる。技術や知恵を生活に生かしていく発想をもっと磨いていくべきということなのだろう。自らの強みを知り、足りない部分を補う努力をすれば、底が知れない巨大なアジア市場も恐れるに足りずだ。
米倉氏は、最近日本の米国への留学生が減少し続けていることに懸念を示す。そしてこう締めくくった。
「米国に限らず、外へ出ていこう、何かを吸収しようという意欲が低下しているのではないか。3D映画を見て、ハイボールを飲んで、ツイッターばかりしている。最近の人気商品になぞらえるとそんな若者が増えているのかもしれない。しかしそんなことしている場合じゃない。特に若いエンジニアはどんどん海外に出るべきだ。タタの自動車に実際に乗ってみてください。どこにフロンティアがあるのか、分かるはずです」
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