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http://sankei.jp.msn.com/politics/local/101119/lcl1011191424002-n1.htm
華々しく政権交代を果たした民主党政権だが、すっかりメッキがはがれてしまった。とはいえ自民党も期待にはほど遠い。民主党もダメ。自民党もダメ。そんな閉塞(へいそく)感を打ち破る異変が大阪府と愛知県で起きつつある。来春の統一地方選は政界激震の序章となるかもしれない。
≪緻密な戦略家≫
「大阪をよくするにはワン大阪しかない。実現にはすさまじい政治闘争に打ち勝たなければならないんです。民主党に国の形を変えてほしいがどうも伝わってこない。それならば大阪から国の形を変えようじゃありませんか!」
17日夜、大阪・中之島で関西財界人が「大阪維新の会」のために開いた決起集会。維新の会代表の大阪府知事、橋下徹はホールを埋め尽くす約900人から万雷の拍手を受け、確かな手応えを感じていた。
大阪府と大阪市を統合し、周辺市と合わせて約20の特別区に再編する大阪都構想。橋下はこの構想を「大阪再生の唯一無二の方策」と掲げ、来春の府・市議選などで維新の会の過半数制覇を狙う。
母子家庭で育ち、地元の名門・府立北野高校ではラグビー部で全国大会に出場。早稲田大卒業後は弁護士となり、平成20年2月に府知事へ転身。「大阪サクセスストーリー」を地でいく橋下はなお8割の支持率を誇るが、裏には緻密(ちみつ)な計算がある。
「大阪のGDPは40兆円でオーストリアに等しいのになぜ勢いがないのか。なぜ本当の力を発揮できないのか」
地盤沈下が著しい大阪で橋下は人々の焦燥感を煽(あお)り、プライドをくすぐる。
メディアの威力も熟知する。毎朝記者団に囲まれ、府政から外交まであらゆる質問に応じる。その歯にきぬ着せぬ発言は関西ローカルニュースで昼夜報じられ、時の首相が同じ質問にあいまいな答えをすればするほど橋下は引き立つ。
機を見るに敏でもある。自民、公明両党の支援で当選したが、政権交代不可避と見ると民主党を支持。民主党が迷走すると即座に距離を置く。ずる賢くもあるが、大阪人の心情を素直に投影させたともいえる。
≪「維新の会」旋風≫
そんな橋下が「負の遺産」の象徴として目をつけたのが、大阪・南港にそびえる旧大阪ワールドトレードセンタービルだった。大阪市の「バベルの塔」といわれる55階建てのビルは西日本一の高さを目指して建設され、経営破綻(はたん)した。
ここに府庁を移転するという奇策が「維新の会」の導火線となる。
昨年3月、自民府議団は移転賛成で党議拘束まで取り付けたが、採決は無記名投票となり、造反者が続出。賛成46、反対65、無効1で否決された。これに反発した賛成派が新会派「自民党維新の会」を結成。今年4月には政治団体「大阪維新の会」となった。当初は他党との掛け持ちもOKだったが、大阪市議補選で自民候補への対抗馬擁立をきっかけに自民党大阪府連が9月に離党勧告。府議ら45人が集団離党、民主党を巻き込み各地で旋風を巻き起こす。
橋下にとって「瓢箪(ひょうたん)から駒」だったのか。それとも計算ずくだったのか。
◇
地下水脈つながる「名阪」
「大村さん、愛知県知事選はどうするつもりなの? ダメよ。国政でやるべき仕事があるでしょ!」
10日夕、都内で開かれた自民党衆院議員、大村秀章のパーティー。党総務会長、小池百合子は壇上で大村に詰め寄った。
大村は苦笑いしてごまかしたが、腹は決まっていた。臨時国会終了後に知事選出馬を表明。そして昨年4月に民主党衆院議員から名古屋市長に転身した河村たかしとタッグを組み「愛知独立」をぶち上げる。
大村が14年間の議員歴を捨て知事選に賭けようと思ったのは野党暮らしに嫌気がさしたからだけではない。大阪に続き、名古屋で始まった地殻変動は本物だと嗅(か)ぎとったからだ。
震源は河村だ。市長就任後、市民税10%減税や議員報酬半減をめぐり、市議会と対立。8月に市議会解散を求める直接請求(リコール)運動を始めた。
狙いはトリプル選挙だ。市議会を解散に追い込み、自らも市長を辞職、来年2月の愛知県知事選と同日選挙を行う。そこで今年4月に自らが設立した地域政党「減税日本」を率いて名古屋市を制圧する。そのパートナーとして白羽の矢を立てたのが大村だった。
署名はリコールに必要な有権者の5分の1(36万6千人)をはるかに超える46万5385人分が集まったが、市選挙管理委員会が署名の有効性を慎重に判断するとして審査期間を1カ月間延長したため、トリプル選挙の実現は微妙な情勢となった。
ただ、愛知県知事選が実施されるのは統一地方選の2カ月前だ。その余波は全国に広がる可能性もある。
≪3大都市圏の力≫
「大阪、名古屋の動きは一地方の反乱ではない。この国のあり方を根本から変えてしまうぞ…」
大村がこう言い出したのは、大阪維新の会の動きが本格化する前の今年春だった。郵政民営化の是非を問い自民党が圧勝した平成17年の衆院選、民主党が政権交代を果たした昨年の衆院選で3大都市圏のパワーを思い知ったからだ。
17年の衆院選では首都、関西、中京の3大都市圏で自民党の勝率は9割に迫った。21年の衆院選の3大都市圏の民主党の勝率も同レベル。3大都市圏にどこまで含めるかによって差はあるが、比例代表を含めると衆院480議席の6〜7割を占めるとされる。つまり3大都市圏の勝敗が衆院選の帰趨(きすう)を決する。
しかも都市部と地方のニーズの乖離(かいり)は年々広がっている。都市部では規制緩和、行革などを求める声が強く、道路整備や農業対策の優先順位は低い。地方は逆だ。もはや衆院300選挙区すべてが満足する政策パッケージは作り得ない。大村はこう続けた。
「自民党は都市、地方ともにいい顔をしようとして両方にNOを突きつけられた。民主党も同じ過ちを繰り返している。民主もダメ。自民もダメ。そんな不満の受け皿が3大都市圏に生まれたらどうなるか…」
≪夢物語ではない≫
大阪府知事・橋下徹「名古屋からどえりゃーことを始めましょう」
河村「どえりゃー発音がよかった」
9月20日の名古屋市中区。ポロシャツ姿で河村と並んだ橋下は慣れない名古屋弁を披露。大阪、名古屋が地下水脈でつながっていることを印象づけた。
2人とも地方改革を声高に唱えるが国政への野心はおくびにも出さない。「国政に影響力を持とうというスケベ心を持てば府民は離れる」と橋下は断じる。
だが、統一地方選で維新の会や減税日本が地方議会を制圧したらどうなるか。地方議員に集票を頼ってきた自民党はその地から消えかねない。自民党大阪府連会長の谷川秀善が「何が何でも維新の会をぶっつぶす」と息巻く理由はここにある。
しかも大阪都構想などの実現に法改正は不可欠だ。地方公務員の大量リストラにつながる構想に民主党政権が応じるだろうか。もし拒めば、維新の会が蜂起し、次期衆院選で大阪に30議席を有する新党が誕生する−。これを夢物語と一笑に付すわけにはいかない。
大阪、名古屋の地殻変動に自民、民主両党執行部の動きは鈍いが、みんなの党代表の渡辺喜美は違った。渡辺は9月26日、都内のホテルで橋下と密会し、こう持ちかけた。
「アジェンダの一致する範囲で連携しよう」
維新の会には「ただ乗りする気か」(幹部)と警戒する声もあるが、橋下は前向きに応じたという。
統一地方選まで半年を切った。「春の嵐」は国政をものみ込みつつある。(敬称略)
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