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尖閣ビデオ流出では神戸の海上保安官(43)が“自首”し、政府はまたも大混乱に陥った。仙谷由人官房長官が「大阪地検特捜部の事件に匹敵する、ゆゆしき事件」と笛吹けど捜査は踊らず、霞が関にサボタージュされた格好だ。支持率急落に焦る菅直人首相が、女房役に詰め腹を切らせるとの観測まで浮上している。
米国のオバマ大統領や中国の胡錦トウ国家主席、ロシアのメドベージェフ大統領らが、APEC(アジア太平洋経済協力会議)に出席するため横浜入りした11月12日夜、日本のメディアは「sengoku38」と名乗った海上保安官の“釈放”情報に振り回されていた。
第5管区海上保安本部が入った合同庁舎(神戸市)では、警視庁と東京地検による保安官の事情聴取が続き、100人余りの報道陣が詰めかけていた。
「地下駐車場から乗用車が出てくるたびに各社のカメラマンが取り囲んで動けなくし、カメラを窓ガラスにぶつけて中をのぞき込む。誰かが『乗ってないなぁ』と言うと車が解放される。一日中、その繰り返しでした」(カメラマン)
菅首相は13日夕、念願だった胡主席との会談を果たしたが、このビデオ流出問題の余波もあってか、わずか20分間だった。
首相の“最大のブレーン”と呼ばれる伸子夫人も最近、民主党関係者にこう愚痴ったという。
「中国漁船の船長が逮捕された直後は、菅も『ビデオは公開したほうがいいよな』と言ってて、私も『そりゃそうよ』と話してたの。それが翌日、仙谷さんに相談したら、これは証拠物だから、裁判になったときにどうだ、こうだと、弁護士の法律論を言われて……。菅もそういうことはよくわからないから、そうか、と納得しちゃった。最初は公開するって言ってたのにね」
伸子夫人のみならず政府・与党関係者の間ではいま、「ビデオをさっさと公開していれば、こんな事態は招かなかった」(中堅議員)との批判が渦巻いている。
ビデオが流出した直後、仙谷氏は会見で、「公務員が故意に流出させたのであれば、明らかに罰則付きの国家公務員法違反だ」と恫喝した。
疑われた海保は慌てて警視庁と東京地検に告発状を持っていったが、“政治銘柄”の案件だけに、当初から捜査陣のモチベーションは低かったようだ。
「捜査を担当する警視庁捜査1課や東京地検公安部の現場からは『何で俺たちがやるんだ』『中国漁船の船長をあんな形で無罪放免にしたのに、義憤に駆られて行動した保安官だけを起訴するのか』『逮捕したら、信頼回復どころか国民を敵に回すのではないか』『同じ捜査員として海保の保安官の気持ちはよくわかる』という声が噴出していました」(捜査関係者)
そもそも、法律の専門家の間でも、今回の映像流出を国家公務員法の守秘義務違反に問うことを疑問視する意見は少なくない。元東京地検特捜部検事の高井康行弁護士はこう指摘する。
「守秘義務違反は、(1)国民が知らない事実であることの証明(2)情報の重要性の2点が
問われます。しかし、映像の概要はすでに報道されており、そもそもどの程度の秘密だったかが問題になるでしょう」
だが、こうした意見に対し、弁護士出身の仙谷氏は10日、感情をあらわにして反論した。
「新聞の社会面でも、その種のことを言う学者とおぼしき人がいるが、ちゃんとした論文に書けと言ったら書かないと思う。そんな解釈は成り立ち得ない」
そして自らが委員長となり、機密漏えいの罰則強化などを検討する実務委員会を立ち上げる、とぶち上げた。
しかし、政権や政治家の“先行き”に敏感な霞が関では、サボタージュの空気が横溢しているようだ。
菅首相は、尖閣ビデオ問題への対応でことごとくミソをつけた仙谷氏への不満を周囲に漏らすようになったという。
「菅さんはこれまで仙谷さんに面倒な問題を丸投げし、言いなりになってきましたが、最近になって『国会や霞が関の情報が全然上がってこない。これからは直接、報告してくれ。俺が決めるから』と方々へ電話を入れている。衆参の情報は古川元久、福山哲郎両官房副長官がそれぞれ集約して仙谷さんに報告してきましたが、『それも官房長官で止まってしまう』と、菅さんはこぼしていました」(別の民主党関係者)
菅首相は、ロシア大統領の北方領土への電撃訪問も報道で知らされ、「赤っ恥をかかされた」と周囲に当たり散らしていたという。
「仙谷さんは、長いつき合いだからなのか、菅さんのことを公の場でも『総理』と呼ばず、さん付けや、ちゃん付けで呼ぶことがある。菅さんは内心、そのことも『どっちが上だと思っているんだ』とご不満なようです。仙谷さんが外交問題でコケたおかげで、皮肉にも、菅さんはかつての“らしさ”を取り戻しつつある」(官邸関係者)
菅首相が“イラ”つく背景には、歯止めがかからない支持率の急落がある。
時事通信が尖閣ビデオ騒動の最中の5〜8日に実施した世論調査によると、菅内閣の支持率は前月比11・4ポイント減の27・8%まで落ち、内閣発足後、最低となった。不支持率は51・8%だった。
政党支持率も民主党16・2%、自民党16・5%となり、昨年の政権交代後初めて逆転した。
尖閣ビデオ問題で、国会での集中審議を要求している自民党の石破茂政調会長はこう言う。
「今回の問題は、能力のない人々が政治主導をしたら、こんなに怖いってことを国民に見せつけた。形式的には馬淵澄夫国土交通相の責任だが、彼は下っ端。コトの本質は仙谷さんと菅さんにあるので、臨時国会で内閣不信任案一本に絞って提出する可能性もある。菅さんは石にかじりついても辞めないと思うけど……」
菅首相が連立への秋波を送り続けた公明党にも、ついに見限られた。山口那津男代表は11日の会見で、
「すぐに倒閣を目指す訳ではないが、国民の期待に、このまま菅内閣が応えられなければ、やむを得ない」
と、首相退陣論にまで踏みこんでみせた。
追い込まれた菅首相は、勢いづく野党を抑え込み、自身の延命を図る“ウルトラC”を目下、ひそかに構想中とされる。
「この難局を乗り切るには仙谷さんの首を差し出すしかない。菅さんは内心、そう考え始めているフシがある」(首相側近)
一方、仙谷氏は、APECでの首脳会談の調整や尖閣問題などへの対応に忙殺されて疲れ切り、薬が手放せなくなっているという。
「仙谷さんは国会で居眠りをしているとよく批判されるが、体力的には限界に近づいている。がんで胃を全摘しているしね。ビデオ問題の引責ではなく健康問題を理由に辞めさせ、若く、フレッシュな後釜にスパッと代える可能性はある」(民主党幹部)
「陰の総理」と呼ばれる仙谷氏が国会で居眠りをしている間に、「表の総理」に寝首をかかれる日は、案外、近いのかもしれない。 (本誌取材班)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20101115-00000301-sasahi-pol
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