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http://gendai.ismedia.jp/articles/-/1534
警視庁公安部「極秘資料大量流出」裏でほくそ笑むのは誰だ
(現代ビジネス・経済の視角)2010年11月11日
テロ緊急展開班メンバーの写真入り名簿も、
外事三課長の(秘)文書も白日の下に
「部内は天地がひっくり返ったような大騒ぎです。前代未聞の事態ですから・・・。普段は温厚な幹部までが怒声を張り上げ、事実関係の調査に躍起になっています」
警視庁公安部の現職部員が嘆息混じりにそう明かす。部員が言う「前代未聞の事態」とはもちろん、公安部外事三課のものらしき110点以上もの内部資料がネット上に大量流出した問題のことである。
事実が公(おおやけ)となったのは10月30日夕、フジテレビのスクープが発端だった。
「文書流出は民間のシステム会社が最初に気づき、29日夜に神奈川県警に通報しました。警視庁は、神奈川県警の連絡でようやく事態を把握したんです。結局、人事一課の櫻澤健一課長が会見に応じたのは30日夜でした」(警視庁詰め記者)
警視庁警務部に所属する人事一課は、職員の人事や不祥事処理などを統括する部門である。従って現段階で警視庁は、内部から何らかの理由で流出した不祥事案と捉えていることになるが、流出源については諸説あり、特定は困難を極めているようだ。今度は警視庁関係者の話。
「文書の大半はイスラム圏や国際テロを担当する外事三課のもので、ファイル共有ソフトを通じて流出したとの見方が有力ですが、流出元は判然としません。洞爺湖サミット('08 年7月)関連が多く、当時の外事三課に応援に来ていた所轄署員が流出元という説も出たし、愛知県警の文書まで含まれていることから、それなりの幹部クラスとの声もある。
ただ、ファイル名に青木五郎公安部長の名前が冠されていたことなどから、動機のある内部の犯行と断定されつつあります」。
だが、"内部犯"の存在を認めれば、流出資料はすべて本物だったと、警察が太鼓判を押すに等しい。実際、公安部にとっては流出自体が大ダメージとなった。前出の公安部員が嘆く。
「あんな文書が表に出れば、公安部の信頼は地に堕ちます。情報提供者は逃げ出すし、外交問題にも発展しかねない・・・」
確かに流出文書はそれだけのインパクトを孕(はら)んでいる。例えば、警視庁でテロ発生時に緊急展開する班員の身分情報。あるいは、中東諸国の大使館などを監視した記録や警戒対象人物の仔細(しさい)な個人情報。さらには米FBIの依頼で関係者を聴取した記録や情報提供者との接触状況まで、闇に包まれた公安警察活動の一端を赤裸々に示す情報が拡散したのだ。
公安警察の情報収集活動には、さまざまな手法がある。その代表的なものが「視察」と「協力者獲得作業」である。
「視察」とは警戒対象と睨んだ団体や人物の拠点を監視し、尾行なども駆使して関係者の素性を洗い出す作業だ。また、対象組織内に「協力者」と呼ぶ情報提供者=スパイを獲得する作業は、今も昔も公安警察が最重視する活動とされる。
今回流出した文書もそれを如実に物語っており、外事三課はイスラム教徒を主なターゲットとし、極めて広範な視察対象を設定していた。都内に何ヵ所かあるイスラム教の礼拝施設=モスクはもちろん、アラブイスラーム学院(東京都港区)など宗教・文化施設、あるいはイランやイラク、レバノンなどの大使館や大使公邸まで執拗に監視し、溜息が出るほどの人員を注ぎ込んでいた。
洞爺湖サミットの直前に外事三課長名で発せられた文書は、こんな指示を下している。
〈 各モスクとも午前8時30分から日没後の礼拝が終了する午後7時30分を目処に拠点員、行確員を配置し、モスク動向の把握、新規出入者及び不審者の発見把握に努める 〉。
これはつまり、モスク付近のマンションなどに拠点を設置し、出入りする人々を日がな一日、監視した上で追い回す作業を繰り返していたことを意味する。
別の流出文書によれば、外事三課は当時、モスクなどの監視に218人もの要員を割いた。中でも「要警戒対象の視察行確(行動確認)」は24時間体制で行い、最大で14台もの車両を動員したと記録されている。
「アメリカが嫌い」で過激派
監視対象にされると、公安警察はありとあらゆる個人情報を収集する。交友関係。出入国記録。立ち回り先・・・。これもまた、公安警察は「基調(基礎調査)」と呼んで重視するが、今回の流出文書によれば、公安警察は要警戒対象と睨んだ人物の銀行口座まで把握していた。
捜査内容を知らされなくても、法の下で銀行は口座情報などを警察に提供している。右下はイラン大使館 中でもイラン大使館に関しては驚きの文書がある。大使以下、80人近くに上る大使館員らの銀行口座をすべて洗い出し、その出入金記録まで詳細に掴んでいたのである。
公安部に情報提供した三菱東京UFJ銀行(当時は東京三菱銀行)は「法令に基づき適正な手続きで協力を求められた場合、ご協力させてもらっています」(広報担当)
とコメントしたが、ある都銀関係者は「捜査関係事項照会書を受けて任意提出するのが本来の手続きなのですが、実際は目的の如何を問わず、すべて提供しています。警察に睨まれると怖いですから」と打ち明ける。
また、こんな文書もある。洞爺湖サミット直前に外事三課がまとめた「首都圏情勢と対策」と題する文書だ。
〈 都内に本社を置くレンタカー業者から、照会文書なしで利用者情報の提供が受けられる関係が構築されており・・・ 〉
要するに、公安警察が警戒対象と睨むや否や、家族構成や交友関係などはおろか、銀行の出入金からレンタカーの使用記録まで、法手続きなど無視して根こそぎ把握されてしまうことになる。
もちろん、これが真の意味でテロ捜査に結びついているならば納得もいく。しかし、これほど大量の人員と手間を注ぎ込んで公安警察はどのような成果≠挙げたか。
その代表例として文書の中に何度も登場するのが、ネットのボイスチャットで「過激な言説」を繰り返していたイスラム教徒を別件で"摘発"した事例に過ぎない。その言説とは「アメリカが嫌いだ。イラクから出て行くべきだ」といったものだという。警視庁公安部のOBもこう言って苦笑する。
「冷戦構造が崩壊して左翼勢力が退潮する中、公安警察は組織縮小を余儀なくされてきたが、9・11テロで世界的に高まった『テロ対策』という大義名分を掲げて警視庁も外事三課を新設し、現在は150人近くもの課員を置いている。でも、日本国内にイスラム系テロリストなんてそんなにいるわけがない。外事三課がやっていることなんて、"不法就労対策"みたいなものなのが現状ですよ」
とはいうものの、今回の文書流出で最も気の毒なのは、公安部の「協力者」とされた人々だろう。僅かな謝礼や食事などの饗応を受け、情報提供していたことが発覚した「協力者」は今後、コミュニティの中で孤立し、生活すら破壊されかねない。
中東諸国や米国との外交問題に発展する可能性も確かに拭えない。
ただ、今回の流出文書から透けて見えてくるのは、「テロ対策」と称して随分とピント外れな活動に膨大な人員とカネを注ぎ込み、プライバシーや人権などお構いなしにあらゆる情報を掻き集める公安警察の薄暗い本性に思えて仕方ない。
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