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【河合雅司の「ちょっと待った!」】
菅直人首相は、支持を得んがために無理を承知で口にしたのだろうか。9月の民主党代表選において、今年度の国家公務員給与に関し「人事院勧告を超えた削減を目指す」との考えを表明したことだ。
この公約は、あっさり反故にされた。勧告通りに平均年間給与を1・5%引き下げると閣議決定し、国会で審議入りしたのだ。この間、菅首相が“お得意”の政治主導を発揮したという話は聞かない。
人事院勧告を上回る切り込みというのは、菅首相が代表選で取り上げる以前から、「無理がある」と言われてきた。
なぜなら、人事院勧告とは、公務員がスト権などの労働基本権を制約されていることの代償措置だからだ。人事院が民間の賃金動向を調査して、格差を是正すべく給与や労働条件の見直しを国に示す制度であり、財政状況の悪化を理由に給与を大幅カットすることを想定していない。もし、政府が強引に大幅カットに踏み切れば、反発する公務員から訴訟を起こされかねない。
仙谷由人官房長官も、10月28日の記者会見で「法制度上、相当無理をしなければできないようなことをすべきかどうか、現時点では判断がつきかねている」と勧告を超える引き下げが困難であることを認めた。
民主党内の情勢も厳しかった。労組を有力支持団体とするだけに、関係議員らから「現行では勧告を尊重すべき」といった労組に配慮すべきとの空気が強く、決して足並みがそろっていたわけではなかった。
にもかかわらず、菅首相が無謀とも思える公約をした背景には、民主党が政権公約(マニフェスト)で掲げた「国家公務員の総人件費2割削減」の具体的な道筋がいまだに描けないでいることへの焦りがある。人事院勧告のままでは国の歳出削減効果は790億円に過ぎず、「総人件費2割削減」で見込む1・1兆円に遠く及ばないためだ。
菅首相としては、「厳しい財政状況を考えると、国民の理解を得るためには人事院勧告の『深掘り』という厳しい姿勢で臨むしかない」(民主党幹部)との考え方に立ったのだろう。
だが、見通しもなく、聞く人に期待をいだかせる手法は、国のトップリーダーとしてどうなのか。
そもそも、なぜ「2割削減」なのか。民主党からは根拠について、いまだに明確な説明はない。この目標値自体に無理があるのではないのか。
民主党政権内には、人事院勧告を上回る削減案だけでなく、さらに国民を惑わすような説明がある。
来年の通常国会に、公務員の労働基本権を付与するための法案を提出しようというのだが、それを「2割削減」の実現に向けた一歩ととらえているのだ。
「思い切った人件費削減ができないのは、人事院勧告という制度があるからだ。ならば、公務員に労働基本権を与えて労使の直接交渉で給与を改定する仕組みに制度のほうを改めればよい」という論法であろう。
だが、労使交渉が実現したとしても、給与を大幅カットすることは難しい。労組が簡単に賃下げに応じるとは思えず、給与水準を下げられる保証はどこにもない。それどころか、交渉の結果、「かえって給与水準は高くなる可能性だってある」(政府関係者)との見方まで出ている。労組を支持団体とする民主党政権が、労使交渉の場でどこまで人件費削減に踏み込めるのか疑問だ。
まさか、人事院勧告以上の削減という公約を破ったことへの批判をかわすための方便ではないだろうが、少なくとも公務員の労働基本権付与がただちに人件費の大幅カットにつながるといった幻想をふりまくべきではない。
公務員への労働基本権付与は、人件費削減問題とは切り離して考えるべきテーマである。菅首相は、何のために公務員の労働基本権を付与するのか、いま一度整理し、その目的と効果を国民に明確に説明する必要がある。
それ以前に、来年の通常国会に法案提出しようというスケジュールに無理がある。通常国会に間に合わせようとすれば、年末までに法案の骨格をまとめなければならないが、議論は遅れている。
公務員といってもいろいろな職種がある。人事院勧告は、例えば、医療関係職の公務員の待遇を他の職種よりも手厚くするとかといった調整機能も果たしてきた。労使交渉になったら、こうした役割を誰が担うのかなど制度の根幹部分は詰まっていない。ここまで大きな制度変更をするにはあまりに時間が足りない。
むろん、いまのままでよいと言っているわけではない。国家財政は危機的な状況にあり、公務員人件費を聖域にすることは許されない。人件費削減の成果が上がる方法をどう組み入れていくのか、もう少し腰を据えて考える必要があるのではないかということだ。
現在浮上している退職金の減額などは有力な手段かもしれない。国家財政悪化の責任の一端を、公務員が率先して取るということがあってもよいだろう。
年功序列で給与が上がる仕組みの見直しも必要だ。天下りあっせんの禁止によって定年まで勤め続けるケースも増えるだろうが、ラインから外れたベテラン職員に高給を払い続けることは国民の理解を得られまい。こうした人の給与水準を相当程度下げる仕組みは導入すべきだ。
仕事の進め方も見直すべきだ。国と地方が似たような業務を行っている「二重行政」はまだまだ多い。地方に任せられる仕事はどんどん渡し、国の出先機関を積極的に廃止すべきだ。だが、その場合、出先機関の国家公務員を、そのまま地方公務員へと移管させたのでは全く意味がない。
民主党政権の公務員人件費削減目標は国家公務員のみを対象としているが、地方公務員にも効率の悪い仕事の進め方やお手盛りとも思える厚遇のところが少なくない。地方公務員の無駄に、大胆に切り込んでいくことも考え合わせなければならないだろう。
一方、人事院勧告制度が続くとした場合の当面の対応も考える必要がある。まずは、人事院が勧告額を決める際に参考とする「民間賃金」の調査方法を見直すべきだろう。国税庁の民間給与実態統計調査では昨年の民間の平均給与は約406万円。前年に比べ23万7千円、5・5%減と過去最大の下げ幅だった。人事院勧告の「1・5%減」とはあまりに開きがある。これでは国民は納得しまい。今後は国税庁データを比較指標として使うべきだろう。
やれることから順次手を付けていくことが大事だが、もう少し根本的な問題にも目を向ける必要がある。
公務員の役割を見直し、定数そのものを減らす検討だ。今後、日本は少子高齢化で社会の支え手となる若者世代が減り、高齢者が激増する。経済規模は縮み、税収も伸びなくなれば、おのずと抱えられる公務員数にも限界が出てくる。避けて通れないテーマであり、公務員人件費削減の本筋でもあろう。
何でもかんでも「官」がやる必要はない。企業やNPO(民間非営利団体)ができることは任せればよい。国と地方自治体はどの範囲、どの程度まで公共サービスを担っていくのか見直しが大事だ。
経済が成長し続けた時代と同じとは行かないだろう。これまで国や地方がやるのが当たり前とされてきた行政サービスの中で、国民の自助自立に求める部分や、地域の助け合いやボランティアに委ねる部分も出てくるであろう。若者世代の減少に対応した、身の丈にあった政府の規模にすることで、相当数の公務員を減らせるはずである。
公務員制度改革は本来、人件費を削減することが目的ではない。官僚組織を新たな課題に対応できる「機能する組織」にどう生まれ変わらせるかが大切だ。非効率な仕事ぶりや「お手盛り」を改めた結果として人件費が削減できるのである。
公務員人件費の削減で捻出(ねんしゅつ)できる財源を、どのように国民生活に生かしていくのか。政府は新しい社会の在り方を同時に考えなければならない。(論説委員)
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