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公安文書流出:発覚1週間 警視庁は内部関与も視野に調査
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20101107k0000e040002000c.html
国際テロに関する警視庁公安部外事3課などの内部資料とみられる文書がインターネット上に流出した問題は6日、発覚から1週間を迎えた。アジア太平洋経済協力会議(APEC)の直前というタイミングを狙って故意に流出させた疑いがあり、警視庁は身内の関与も視野に調査を進めている。捜査協力者の氏名や住所など、ネット上で広がった個人情報は膨大。4日には沖縄・尖閣諸島沖での漁船衝突事件の映像が流出し、国の情報管理のあり方が改めて問われている。真相解明に向けた警視庁の調査の課題を探った。【村上尊一、伊澤拓也、小泉大士】
文書はファイル共有ソフト「ウィニー」を通じてネット上に流れた。警視庁は正式には内部資料と認めていないが、流出元の個人データが含まれるといった暴露ウイルス感染時の特徴がないことなどから、意図的な流出との見方を強めている。
調査の壁は、痕跡を改ざんできる電子データの特徴だ。114本の文書のうち108本が、コンピューターの機種を問わずに閲覧できる「PDF」というファイル形式に変換されている。このため、元データを作成したコンピューターや日時などの手掛かりが少ない。
ルクセンブルクのサーバーを経由するなど、一見、IT知識を駆使しているようにみえる。しかし、ウィニーの専門家は「ウイルス感染を装いながらも、感染していないことが簡単に分かるなどずさんな点も見え隠れする」と指摘する。
犯人像として第一に考えられるのが警察関係者だ。警視庁のサーバーは外部からは接続できない。庁舎内で公用パソコンにUSBメモリーなど私用の電子記憶媒体を接続すれば、システムが自動感知する。さらに、公安部のデータは暗号化され、公用パソコン以外での閲覧は困難という。
文書の種類は多岐にわたり、1カ所に保存されていた可能性は低い。このため警察幹部は「全文書を入手できる立場の職員を絞り込みたい」と話す。公安部長の名字をひらがな表記したファイルもあり、「組織や人事に不満を抱く職員」との憶測もささやかれている。
一方、捜査員が紛失したUSBメモリーの第三者による悪用や、ハッキングといった外部犯行説も完全には捨てきれない。
警視庁はルクセンブルクの捜査機関に協力要請し、発信者にたどり着こうとしているが、ある警察幹部は「事件捜査に例えれば、まだ発生直後の鑑識活動の段階」と話す。
◇怒る捜査協力者
国籍、氏名、生年月日、旅券番号、職業、出生地、住所、電話番号、家族、出入国歴、出入りモスク……。
ある日本人女性に関する文書には細かな個人情報が記されていた。外事3課がアルジェリア人でイスラム教徒の前夫について捜査する過程で協力を求めた際の情報とみられる。
「何のことか全然分からない」。今は日本人の夫と首都圏で暮らす女性は、情報流出に困惑を隠せない。「(前夫とは)もう関係ない。どこからも何の連絡もなく、非常識にもほどがある」と必死に怒りを抑えて話した。
114本の文書で、名前だけでなく住所などの個人情報も記載された人は延べ600人以上。テロ関連の捜査対象者や捜査の協力者とみられ、一般人のものも含む多くの個人情報がネット上にさらされた。
文書にはイスラム教を信仰する外国人についての記述が目立つ。東京都内の北アフリカ料理店は「い集(集合)場所や国際テログループのインフラとしての機能を果たすおそれあり」とされていた。個人情報が並べられ「事件関係者として接触予定」との記述もあった。経営者は「テロとのつながりなどあるはずはなく、文章は想像だ。日本人女性と結婚して子供も家もある。近所付き合いが変わるかもしれないし、子供が学校でいじめられるかもしれない」と心配は尽きない。
東洋大総合情報学部の島田裕次教授(情報セキュリティー)は「ネットを通じた情報流出で恐ろしいことは拡散の速度だ。これだけ広がると回収は不可能。流出被害を回復する手段すらない」と話す。
◇「信頼回復に10年はかかる」と専門家
「イスラム過激派を刺激し、テロをインバイトする(招く)要因になる。開催目前のAPECの首脳会議は格好の標的だ」。元内閣安全保障室長の佐々淳行さんは流出問題の影響をそう懸念する。
114本の文書はほぼすべてが国際テロ捜査に関する内容で、協力者のイスラム教徒の個人情報のほか、中東のイスラム国の在日大使館員の口座記録などが含まれている。
公安関係者が特に問題視するのはモスクのチェックに関する文書だ。出入り者総数や「特異動向」といった詳細な記述が並ぶ。
イスラム過激派など国際ネットワークをもつテロリスト集団と対峙(たいじ)するには、国内外のイスラムコミュニティーからの幅広い情報収集が不可欠だ。「日本人はすべてのイスラム教徒を敵視しているという誤ったメッセージになりかねない」。捜査関係者はイスラム教徒から協力を得にくくなることを憂慮する。
「国際テロ対策は一日にしてならず」。ある警察幹部は、情報の蓄積のためには海外の治安・情報機関との連携の重要性を指摘する。こうした「インテリジェンス(情報活動)」は秘密厳守が世界共通のルールだ。公安部は海外の情報機関との情報共有が多く、警察庁警備局と並び「情報機関」といわれる。今回漏れた文書にAPECの警備関連はなかったが、14本には「秘」の印が付いており、海外機関の信頼も損ないかねない。
関係者の間では「文書が本物かどうかは一目瞭然(りょうぜん)。でも、それを認めたら海外機関から深い情報をもらえなくなる」との危機感が強く、調査を難しくしている。佐々さんは「インテリジェンスの世界は厳しい。一度でも失敗すれば信頼回復に10年はかかる」と話した。
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毎日新聞 2010年11月7日 9時29分
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