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インターネットを通じて世界中に広がった尖閣諸島沖・中国漁船衝突事件のビデオ映像。なぜこの時期に、なぜこの部分の映像が流されたのか。政府は中国との関係に配慮して一般公開を拒んできたが、その判断をめぐっても国民の意見は割れている。
■中国船の悪質さわかる場面選んだ?
海保が撮影した映像は全体で10時間に及ぶ。今回、流出したとみられるのは6本に編集された約44分。なぜ、この部分が選ばれたのか。
「投稿者」がわからないのでその意図は不明だ。だが、国土交通省内では「中国漁船の行為の悪質さがわかる場面を選んだのではないか」との見方がある。
6本のうち、最初の3本は衝突前のもの。9月7日午前9時過ぎから、巡視船「よなくに」が漁船に向かって「貴船の現在の行為は日本の領海内でのものだ。直ちに日本の領海外に出て行きなさい」と警告を繰り返す様子が収められている。漁船が再三の警告を無視していることを示す証拠ともいえる。
衝突シーンは4、5本目に収められている。漁船があからさまに海保の巡視船に向かってくる様子がとらえられている。衆参予算委員会の理事を務める国会議員らは今月1日、今回の映像とは別のビデオ映像を視聴している。衝突場面に絞った6分50秒のものだが、多くの議員は「中国側の故意による衝突だとわかった」と話していた。
6本目の動画は、別の巡視船「はてるま」からで、やや離れた場所からの映像だが、衝突の経緯を別の角度からもみることができる。
海保の巡視船は衝突の後、漁船に強制的に立ち入り検査しているが、今回の映像にはその場面は含まれていない。この点について、東海大学の山田吉彦教授(海上安全保障)は「中国国民の感情を逆なでするようなシーンは避け、中国側が反論できない部分だけを流すという政治的な意図があったのではないか」と話している。
「ユーチューブ」に投稿された、巡視船「みずき」に衝突する中国漁船と見られる映像
■公開求める野党に乗じた?
投稿は、なぜこのタイミングだったのか。
衆参予算委員会の理事ら一部の国会議員が6分50秒に編集したビデオ映像をみたのが今月1日。那覇地検に映像の提出を求めてから3週間近くたっていた。映像を見たほとんどの議員は「漁船が故意にぶつかってきた」と話したが、与党議員からは一般公開に慎重な意見が目立った。一方、野党議員の多くは公開を強く求めた。投稿者はこうした流れに乗じた可能性もある。
海保や検察の情報管理に不安が生まれ、あと1週間に迫ったアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議への影響を懸念する声もある。海保もAPECの警備に加わる。5日の記者会見でこの点を問われた鈴木久泰・海上保安庁長官は「答えは控えたい。政府全体として考える話だ」と述べるにとどまった。
■ヒーロー気取り?憂国の士?
「投稿者」の狙いは何か。
東京・霞が関に勤める若手公務員は「あり得ないとは思うが」と前置きしたうえで、「仮に海保や検察から流出したとすると、(漁船の船長が処分保留で釈放されるという)うやむやなままの決着に納得がいかず、映像で真実を明らかにしたいと思ったのだろうか」と話す。
専門家の見方も様々だ。情報セキュリティーに詳しい神戸大大学院の森井昌克教授(情報通信工学)は「あくまで憶測だが、世論が映像の公開を求める中、自分が正義のヒーローになりたいという気持ちにかられたのではないか」と話す。
公安系の警察幹部は「日本の現体制を揺さぶることが目的。外交問題に発展しかねない映像をネット上に流せば、政府への影響は計り知れないと考えたのだろう」。映像は内部協力者から得た、とみる。
ある危機管理の専門家は「民主党政権のふがいなさに義憤にかられ、不満に思った関係者が『憂国の士』の思いで流出させたのではないか」と推測した。(河野正樹、田村剛、永田工)
http://www.asahi.com/national/update/1106/TKY201011060107.html
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