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【TPP、企業献金で大揺れ 菅政権「最大の脅威」は仙谷官房長官の野心 : 政権はいつも内側から潰される 「長谷川幸洋「ニュースの深層」 (現代ビジネス) 】
2010年10月29日(金)
民主党内が にわかにキナ臭くなってきた。
まず、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への交渉参加をめぐって、小沢一郎元幹事長や鳩山由紀夫前首相に近い議員たちが反対姿勢を強めている。
加えて、岡田克也幹事長が決めた企業・団体からの政治献金受け入れ再開に、前原誠司外相と仙谷由人官房長官がそろって強い難色を示した。
前原と仙谷の発言を引用しよう。前原は27日の衆院外務委員会でこう述べた。
「(企業・団体献金については)廃止の方向で法案まで出すと決めていたのに、再開を決めるのは、国民からすれば違う方向を向いているととらえられても仕方がない」
仙谷は同日の記者会見でこう語った。
「政治とカネをめぐる報道の量が多いことからすれば(再開)はプラスには動かない」
岡田はなぜ、このタイミングで企業・団体献金の受け入れを決めたのか。
自民党に比べて、国の政党交付金に頼る比重が高い民主党の財務体質改善や来春の統一地方選対策などを理由に挙げた、と報じられている。
もともと民主党は国や地方との契約が一億円以上の企業献金を禁止していただけで、一億円未満については自粛だったという言い分も理屈はそうかもしれない。だが、小沢問題で政治とカネが焦点になっている中、いかにも政治センスがない。
岡田の真意はともかく、献金受け入れ再開にすぐさま前原と仙谷が反応したのは、政治献金に対する考え方の違いというより、岡田に対するけん制とみるべきだ。しかも、これが2人の連携プレーであるのは間違いない。
参院選敗北につながった消費税引き上げ発言や中国漁船の船長釈放問題でも、菅直人首相の指導力には大きな疑問符がついていた。
内閣支持率はそこそこの水準を保っていても、先を見れば、2011年度予算編成や法人税引き下げ問題など菅政権には難問が山積している。これまでの先送り実績をみれば、菅政権がどこまでもつか、党内で先行き不透明感が高まっている。
そんな矢先に飛び出した前原と仙谷の発言である。
ずばり言えば、仙谷は「ポスト菅」を視野に入れて、前原を売り出す腹を決めたのではないか。岡田を標的にしたのは、岡田が依然、ポスト菅の有力候補であるからだ。
■小沢と岡田が手を組む可能性も
もともと岡田と仙谷は政治家として出自が違う。
仙谷が全共闘出身の闘士であるのに対して、岡田はスーパー大手、イオングループの御曹司だ。岡田はよく知られているように原理原則を重んじるが、仙谷は左翼には珍しく現実重視の融通無碍な面がある。
たとえば公務員制度改革をめぐって、仙谷は野党時代にテレビ中継が入った国会の場で当時の内閣法制局長官を「あなたは法匪の中の法匪だ」とののしったが、いざ政権を握ると一転して「彼は東大の同期。優秀な人だ」とこれまたテレビ番組で持ち上げ、留任を認めてしまった。
公務員制度改革の迷走はそこから始まったと言ってもいい。
それはともかく、そんな肌合いの違いが、ポスト菅が現実味を帯びてくるにしたがって、いよいよ表面化し始めたとみていいのではないか。
前原はと言えば、かつて代表辞任につながった偽メール事件での発言といい、八ッ場ダム問題、日本航空(JAL)再建問題といい、いつも最初は威勢がいいが、問題が難航してくると腰砕けになる例が目立つ。
見方を変えれば、前原も仙谷同様、現実の展開に即して簡単に豹変してしまうのだ。厳しく言えば、2人は「場当たり主義者」として共通点がある。仙谷にとって、岡田よりも前原のほうが扱いやすいのは間違いないだろう。
TPPをめぐっても、党内で緊張感が高まっている。
たとえば大畠章宏経産相は本来なら、貿易自由化の旗振り役としてTPP推進にもっとも汗をかかねばならない立場のはずだ。ところが、26日の会見で一転して慎重姿勢になった。
大畠は鳩山グループの会長として、御大の鳩山が「TPPを慎重に考える会」の顧問に就任しているのに、自分が前のめりになれない事情がある。アジア太平洋経済協力会議(APEC)を控えた重要な局面で、経産相でさえ政策論より政局論に傾いているのだ。
逆に言えば、それくらい党内情勢が緊迫している証左でもある。
こうなると、次は仙谷と前原に後ろから鉄砲で撃たれた形になった岡田がどう反撃するか、が焦点になる。
政治倫理審査会への出席問題を抱える小沢はどう出るか。
民主党内で小沢の敵は仙谷である。
「敵の敵は味方」論に基づいて頭の体操をすれば、小沢は仙谷を共通の敵にして、岡田と手を結ぶ展開だってあるかもしれない。小沢と岡田はもともと自民党経世会で同じ釜の飯を食った仲間なのだ。
前原と仙谷の発言を聞いてすぐ思い出すのは、自民党の安倍晋三政権で当時の与謝野馨官房長官が麻生太郎幹事長と裏で手を結び、安倍の追い落としに動いた例だ。永田町には「与謝野・麻生クーデター」説が一挙に広まった。
このとき与謝野の陰謀は成功せず、首相の座は福田康夫に回ってしまった。
当時の与謝野がいまの仙谷の役回りなら、前原は麻生の役回りを狙う形になる。今度はどうなるのか。
政権は外側からの攻撃では倒れない。倒れるのは、いつも政権内部の反乱に遭ったときだ。今回も菅の最大の脅威は仙谷である。ここは大きな節目だ。
(文中敬称略)
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