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《A国領土の離島周辺にC国漁船が領海侵犯した。A国政府は抗議したが、島の領有権を主張するC国は対応をエスカレートさせ、島に軍を派遣した。A国は航空優勢を確保する作戦の実施に踏み切った》
首相、菅直人がブリュッセルで中国首相、温家宝と会談した今月4日、航空自衛隊は日本海でこのようなシナリオに基づく演習を開始した。
5日間続けられた演習は沖縄・尖閣諸島沖で先月、中国漁船衝突事件が起きた後だっただけに、参加した隊員たちはいつにも増して緊張感を持って臨んだ。
むろんA国は日本、C国は中国を念頭に置いている。軍による離島上陸前までの想定は、衝突事件をめぐる中国の対応をなぞったようにも映る。
だが実際には、演習計画は1年かけて練られた。衝突事件にみられるような最近の中国の行動について、自衛隊が「最大の脅威」と認識している証左である。
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すでに「先例」がある。
南シナ海の南沙諸島(スプラトリー)にあるミスチーフ環礁。1995年に「漁民避難所」との名目で建設された櫓(やぐら)には中国の国旗、五星紅旗が翻る。同諸島周辺では多い日には1千隻もの中国漁船が操業し、それを漁業監視船が護衛する。
水産・石油資源に恵まれた南沙諸島はフィリピンやマレーシアなど他の5カ国・地域も領有権を主張するが、中国の実効支配が進む。6月にはインドネシア海軍が拿捕(だほ)した中国漁船を、武装した中国艦艇に奪還される事件が起きた。
ベトナム、台湾が領有権を主張する西沙諸島(パラセル)も事実上中国の支配下にある。
防衛省の内部文書は東シナ海、南シナ海で活発化している中国海軍などの動きを「溢(あふ)れ出る中国パワー」と称した。
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「中国が南沙諸島で支配権を獲得した経緯をたどると、4段階に区分できる」
元航空自衛隊空将、織田邦男はそう分析する。(1)領有権の主張と外交交渉(2)調査船による海洋活動(3)海軍艦艇の示威行動(4)漁民の違法操業、上陸した民間人による主権碑設置で領有を既成事実化−の4段階だ。
中国はこのプロセスを尖閣にも適用し、すでに第4段階に入りつつある、と織田はみている。人民解放軍が前面に出てくるのではない。先兵となるのは「漁民」だ。
防衛研究所の所員、斉藤良も「中国の狙いは(正規軍同士ではない)非対称戦だ」と断じる。
《闇夜、尖閣最大の魚釣島に中国軍の潜水艦が接近。乗り込んできたのは「漁民」に偽装した海上民兵で、次々と島に上陸。五星紅旗を掲げたころ、民兵が操縦する「漁船」も大挙して押し寄せる》
織田は今後、想定されるシナリオを指摘し、警鐘を鳴らす。
「これが明日にも起こり得る尖閣危機だ」
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尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件は、覇権主義的な行動を強める中国に対し、日本の「主権」がいかに脆弱(ぜいじゃく)かを浮き彫りにした。日本政府の対応や課題を検証した。
中国民兵上陸、菅内閣即応できず
「日本の巡視船がいわゆる法の執行活動を行わないよう要求する」
尖閣諸島沖でおきた中国漁船衝突事件で、船長が逮捕される直前の先月7日、中国外務省の姜瑜報道官が出した声明に、日本政府関係者は驚きの声を上げた。これまで以上に踏み込み、海上保安庁による巡視活動は「違法」と言ったに等しいからだ。
「無人の尖閣諸島に中国が民兵を送り込むことは、いともたやすい」
海上自衛隊幹部は日本の警戒監視態勢に危機感を募らせる。現在、尖閣周辺海域では海上保安庁が24時間態勢で巡視船とヘリコプターによる監視活動を続けている。ただ、巡視船は潜水艦を探知できない。海上自衛隊のP3C哨戒機も尖閣上空を飛行するのは1日1回で監視レーダーも置いていない。
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仮に中国側に上陸を許した場合、奪還作戦でも政府は手をこまねくことになる。強制退去のため沖縄県警が出動しても、「自国領での漁民保護」と称して中国が漁業監視船を巡回させれば近づけない。監視船は海軍艦艇を改造した事実上の軍艦だからだ。
海自の中型護衛艦クラスの艦船もある。海保の巡視船より大口径の機関銃を備え船体も厚い。「撃ち合いになれば、海保はひとたまりもない」(海自幹部)
海保で対処できないとなると、自衛隊が出動することになる。しかし、法的根拠は海上警備行動か、島という陸地に適用する治安出動か明確でない。民兵が「漁民」として民間人を装っていることは、自衛隊の派遣自体をためらわせる。
漁船衝突事件で船長の拘束から逮捕まで13時間もかけ、あげくの果て勾留(こうりゅう)期限前に処分保留で釈放させた菅内閣が、民兵上陸という事態に即座に対応できるとはとうてい考えられない。日本が「犯罪行為」か「軍事行動」かの見極めにこだわることも中国を利する。
逡巡(しゅんじゅん)する間にも民兵は続々と上陸し、領有を既成事実化していく。尖閣占領シナリオは、日本の守りの欠陥である「時間」と「領域(海と陸)」の空白を突いてくるのだ。
拓殖大学大学院教授、森本敏は指摘する。
「領土を守るための実効的措置を講じ、常に海自が海保をバックアップできる法的な仕組みもつくるべきだ」
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「わが国の領土だと実感した。外交は自らの意思を相手に伝えることだ」
9日、超党派の議員連盟で尖閣諸島を上空から視察した前総務相、原口一博は、中国に対して及び腰の日本政府の姿勢に不満をあらわにした。
日本の主権を守るには国家としての気概と有効な手段を併せ持ち、それを梃子(てこ)に外交努力を進める必要がある。
待ったなしの課題は警戒監視態勢の強化だ。海保の巡視船の装備拡充はもちろん、潜水艦を探知できる監視装置の設置も欠かせない。
これらの措置の前提として、私有地である尖閣諸島を国有化し、施設管理のため政府職員を常駐させるなど、実効支配を強めていくことも重要だ。
法制度上の整備も必要となる。元空将、織田邦男は「『平時』から常に自衛隊が海保、警察を支援できる法体系を整備し、武器使用基準も定めておくことが必要だ」と強調する。
これが領域警備法の肝であり、海上警備行動や治安・防衛出動に至るまで自衛隊が間断なく対処できるようにする法的根拠となる。
中国の手の内を読むことが戦略で、次の一手を封じる措置こそ領土を死守する上で最大の抑止力となる。(敬称略)
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101014/plc1010142143020-n1.htm
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