283. 2010年10月05日 12:25:11: 6rcWUcVTBs
小沢氏法廷へ:政界と検察に激震/「真実はどこに」(その1) 議決は代表選当日 民主党の小沢一郎元代表を起訴すべきだとする検察審査会の議決を張り出す裁判所の職員ら=東京都千代田区で2010年10月4日午後3時46分、小林努撮影 政界の実力者に、市民が再び「ノー」を突き付け、強制起訴に追い込んだ。小沢一郎・民主党元代表について「起訴議決」の結論を出した東京第5検察審査会。つきまとってきた「政治とカネ」の解明は今後、法廷に委ねられる。前例のない判断は、政界だけでなく、小沢氏を繰り返し不起訴処分にした検察をも揺さぶった。【坂本高志、曽田拓、鈴木一生、野口由紀】 4日午後3時45分、東京・霞が関の東京地裁。敷地の南側にある告知用掲示板に、審査会事務局の職員が計7枚の議決要旨を張り出した。1枚目には「起訴すべきである」と書かれていた。議決日は9月14日。小沢氏が、代表選で菅直人首相に敗れた日だった。 第5審査会で議決書作成を補助する審査補助員の吉田繁実弁護士は4日夜、取材に「代表選と同じ日に議決したのは偶然で、議決は(代表選の)結果が出る前にされた」と説明した。9月上旬に東京地検特捜部副部長から説明を受け、「特捜部が手がけた事件で、政治家案件。プレッシャーがあった」と振り返った。「『起訴すべきだ』という方針は、割と早い段階で決まった」とも明かした。 「法廷で黒白をつけるべきだ」との議決は、永田町に衝撃となって伝わった。赤坂の小沢氏の事務所には親しい議員が次々と駆けつけた。平野博文前官房長官が「なぜこうなるんだろう」と話しかけると、小沢氏は「そうなんだよ、分からないな」と応えたという。小沢氏の資金管理団体「陸山会」の土地購入事件で起訴された元秘書、石川知裕衆院議員(37)は電話取材に「ノーコメント。一切答えられない」と語った。 猛暑が続く中行われた党代表選。強制起訴の可能性がある小沢氏の立候補は「訴追逃れではないか」との憶測を呼んだ。勝利し首相になれば憲法の規定で起訴を免れることができるためだ。小沢氏はこうした声を振り払うように「逃げない」と明言。首相になっても議決されれば起訴に同意する姿勢をみせた。 選挙戦が進むと審査会への本音をのぞかせた。民放の番組で「捜査当局が不起訴にしたことについて、一般の素人の人がいいとか悪いとか言う仕組みが果たしていいのか」と述べた。吉田弁護士が所属する第二東京弁護士会の幹部は「議決に心理的影響を与えかねない発言だな」と首をひねった。 □ 東京地検による陸山会事件の捜査が進む今年1月。大阪地検特捜部長だった大坪弘道容疑者(57)=証拠品改ざん事件で犯人隠避容疑で逮捕=は陸山会事件について、「検察の命運をかけた捜査。大阪も側面支援する」と周囲に熱く語り、大阪特捜のエースといわれた前田恒彦容疑者(43)=証拠隠滅容疑で逮捕=を応援に送りこんだ。前田検事は小沢氏の元公設秘書、大久保隆規被告(49)の取り調べにあたった。 小沢氏の弁護士は「検察審は本当に熟した議論をしたのか。無罪をとる自信はある」と語り、大久保被告の調書を作成した前田検事を皮肉った。「こういう状況下で公判して大丈夫なのか、余計な心配をしますよ」。東京地検幹部も「『小沢は灰色』と国民が感じるのは分かるが、無罪になったら批判されるのは検察審ではなく、また検察だ」と話す。 小沢氏は党代表選での冗舌さがすっかり消え、議決について事務所が「裁判で無実が必ず明らかになると確信している」とコメントを出しただけ。午後7時ごろ、車で事務所を出て、世田谷区の自宅へ向かった。後部座席で一瞬笑みのような表情も浮かべた。 ◇腹心は淡々、沈黙… 小沢氏の起訴議決で、与野党の国会議員にも波紋が広がった。 代表選で小沢氏の推薦人だった川内博史衆院議員(鹿児島1区)は、小沢氏の秘書の一人を取り調べた前田検事が、証拠改ざん事件で逮捕される前に結論が出されていた点に触れ「審査会が今日議決していたら、違う結論だったのではないか」と皮肉り、「議決書には『(検事への)供述は信用できる』と書かれているが、その調書が信用できないことが問題になっている」と強調した。 民主党の三宅雪子衆院議員(比例北関東)は「早く判決で無実が証明されてほしい。党内から(小沢氏の処遇に関する)極端な意見が出なければいいと思っている」と淡々と語った。 「小沢ガールズ」の代表格の田中美絵子衆院議員(比例北陸信越)は秘書を通じ「推移を見守りたい」とだけコメントした。 「起訴は当然」と語るのは国会で小沢氏の政治とカネ問題を追及してきた自民党の西田昌司参院議員(京都選挙区)。「国民がおかしいと思ってきたことを、民主党は一切調査してこなかった。国民に説明すべきだ」と語気を強めた。 同様に小沢氏の資金問題を追及してきた同党の小里泰弘衆院議員(鹿児島4区)は「(小沢氏は)これまで参考人招致や証人喚問から逃げてきたが今度こそ国会で説明すべきだ。小沢氏を代表選に出馬させ、大勢の議員が支持した民主党の責任も重い」と批判した。【安高晋、福永方人】 ◇検審「公表資料に偽装工作」 東京第5検察審査会は議決の中で、政治資金を巡り小沢氏が07年2月20日に開いた記者会見に言及し、公表された資料に偽装工作があったと指摘した。 当時、小沢氏の資金管理団体「陸山会」の所有とされた土地が小沢氏個人の名義であることが発覚。「政治資金を使った蓄財」との批判が高まり、小沢氏は自ら会見で釈明した。この席で「政治団体では不動産登記が認められないので、代表者(小沢氏)の名前で登記した。私個人のものではないことを、あえて私自身が確認書として残した」と説明。「05年1月7日」付の確認書を公表した。 だが、議決は、この確認書が会見直前の07年2月中旬、小沢氏が元秘書の池田光智被告(33)に作成させたと指摘。そのうえで「(陸山会の)収支報告書の不記載・虚偽記入に小沢氏の関与を強くうかがわせるもの」と偽装を批判し、小沢氏への「起訴議決」を判断した支えと位置づけられている。【杉本修作】 ============== ◆陸山会事件と小沢氏を巡る経緯◆ 【04年】 10月29日 陸山会が東京都世田谷区の土地を約3億5200万円で購入。原資となった小沢氏の手持ち資金4億円と土地購入の事実を04年分の政治資金収支報告書に記載せず 【05年】 1月 7日 世田谷区の土地を登記。陸山会の05年分の収支報告書に土地購入日として記載 【07年】 2月20日 小沢氏が事務所費や資産を公開する記者会見 5月 2日 土地購入時に提供された4億円を陸山会が小沢氏に返済。07年分の収支報告書に記載せず 【09年】 3月 3日 西松建設の違法献金事件で、特捜部が大久保隆規・元公設第1秘書らを逮捕 12月18日 大久保元秘書が違法献金事件の初公判で無罪を主張 【10年】 1月15日 特捜部が石川知裕衆院議員と池田光智元私設秘書を政治資金規正法違反(虚偽記載)容疑で逮捕 16日 大久保元秘書を同容疑で逮捕 23日 特捜部が小沢氏から事情聴取 31日 特捜部が小沢氏から2回目の事情聴取 2月 4日 石川議員ら3人起訴、04年、05年分で小沢氏は不起訴処分に 11日 石川議員が民主党を離党 12日 小沢氏の不起訴処分を不服として市民団体が東京第5検察審査会に審査を申し立て 23日 特捜部が07年分で小沢氏を不起訴。その後、同年分に対しては東京第1検察審査会に審査の申し立てが出される 4月27日 東京第5検察審査会が「起訴相当」と議決 5月21日 特捜部が04、05年分で改めて小沢氏を不起訴 7月 8日 東京第1検察審査会が07年分について「不起訴不当」を議決 9月14日 民主党代表選で小沢氏敗れる。同日、東京第5検察審査会が小沢氏に対して2度目の議決(公表は10月4日) 9月30日 特捜部が07年分について改めて小沢氏を不起訴。07年分の捜査は終結 10月 4日 東京第5検察審査会が小沢氏を強制起訴すべきだとする「起訴議決」を公表 【関連記事】 小沢一郎氏:再び不起訴…07年分虚偽記載容疑 東京地検 社説:検審「起訴議決」 小沢氏は自ら身を引け 陸山会事件:小沢氏の影響力低下必至 陸山会事件:小沢元代表「裁判で無実明らかに」 陸山会事件:小沢氏を強制起訴へ 検察審が議決 毎日新聞 2010年10月5日 東京朝刊 |