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「週刊ポスト」10.8日号
平成22年9月27日(月)発売
小学館 (通知)
これはどこかの独裁国家の出来事ではない
99%の被告を「有罪」にする検察ファシズムの組織犯罪
国民を誰でも逮捕・立件できる「恐怖権力」の正体
異常事態
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したり顔のコメンテーターは、今頃になって「検察は襟を正し、組織の問題がなかったか検証すべきだ」などという。
これまで検察のリーク情報を金科玉条のように報じ、その手先となって冤罪事件を生み続けてきた大マスコミの正義面には鼻白む思いだ。問題は、この国では誰もが検察に睨まれただけで無実でも犯罪者に仕立てられるという脅威だ。その恐ろしさに切り込まない限り、事件は「不良検事もいたもんだ」で幕引きにされる。
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(写真)
憮然とした衷情で前田検事(左下)の逮捕について会見する伊藤鉄男・最高検次長検事。左上は復職を果たした村木元局長l
(写真)大久保秘書の取り調べを行なったのも前田検事だった
冤罪で半年近く勾留されマスコミに大悪人と書き立てられた村木厚子・厚労省元局長の第一声はこうだ。
「検察官一人の行動だとされてしまうのではないか」
前田恒彦・検事の証拠改竄が発覚した直後にそうコメントし、検察の組織的関与の解明を求めた。
案の定、検察は素早く事件の処理≠ノ動いた。検察が容疑者なのだから、本来ならせめて警察が捜査すべき事件なのに、間髪いれずに最高検察庁が前田氏を逮捕し、身柄を確保した。
捜査対象の大阪地検と捜査する側の最高検は、「基本に忠実な捜査が不徹底だったといわざるを得ない」と全く同じコメントを出したが、こんな役人用語が偶然一致するわけがない。両者に「捜査当局と容疑者」の緊張感は最初からない。
また、最高検の伊藤鉄男・次長検事は村木氏に謝罪の言葉を述べたものの、ペコリと一瞬、頭を下げただけで不機嫌な表情のまま。前田氏の上司だった大坪弘道・京都地検次席検事(前大阪地検特捜部長)にいたっては毎日新聞の取材に、「もうそっとしといてくれないか」と応じなかった。無実の村木氏を長期勾留して連日厳しい取り調べをした張本人である。
マスコミは得意の「説明責任」を求めて追及すべきだ。
検察は村木氏の控訴断念の理由を、「無罪判決を覆すことが困難になった」と説明したとされるが、「自分たちが間違っていた」とは認めていない。「無罪なんだから、もういいでしょ」とさえ聞こえる。 村木氏が指摘したように、検察全体に事件を捏造する
体質があるのだ。元特捜検事である郷原信郎・名城大学教授がこう語る。
「やっぱりやってしまったか≠ニいう印象です。特捜部というのは軍隊のような組織で、敵≠倒すためなら多少のことは許されるという発想が強くある。
『悪党』を作り、ストーリーを作り、そこに捜査を当てはめていく。そうしたストーリーを司法マスコミがそのまま報じて事件の流れが決まっていくのです」
改竄事件をスクープした朝日新聞は、続報で改竄の事実が上層部に報告されていたことを報じている。
組織的関与のみならず、村木事件の問題が「前田検事の証拠改竄」だけではない点こそ重要だ。
例えば、検察官たちが規定に背いて捜査段階のメモを廃棄しており、裁判でその間題を指摘されると、検察側は「必要かどうかは担当検事と上司が決める」と述べ、堂々と「どの証拠を残すかを決めるのは俺たちだ」と開き直っているのである。隠滅体質は根深い。
村木氏の関与を否認した元部下の上村勉・被告は、前田氏とは別の検事に取り調べを受け、裁判で捜査の問題を訴えた。
「供述調書は検事の作文。しゃべってもいないことが書かれた。検事が話したことが私の供述にされた」
また、村木氏の元上司は、検察での供述について、小泉純一郎・元首相の首席秘書官を務めた飯島勲氏に相談していた。しかし検察は、飯島氏らがどのように事件に関与したのか、当初は全く調べなかった。
村木裁判は無罪で柊結したが、これらの問題がなぜ起きたのか徹底的に調べなければ、「捏造検察」の闇はこれからも続くだろう。
揺らぐ小沢事件の「重要供述」
検察にとって「前田事件」が痛かったのは、特捜の威信をかけて進めてきた、小沢一郎・民主党元幹事長の「政治資金事件」に疑問が生じたからでもある。
前田氏は小沢事件捜査に応援検事として参加し、公設秘書・大久保隆規氏の取り調べを担当した。「大阪の前田が大久保の口を割らせた」と内部で評判を得たという供述詞書の信用性が、これで大きく揺らいだ。
この調書では、大久保氏が「法の網の目をくぐったダミー献金だとわかっていました」「虚偽記載したのはあれこれ詮索されるのを避けるためでした」などと、違法献金について全面自供したことになっているが、大久保被告は裁判でこれらの事実を否認している。
大久保被告の調書については奇妙な経緯が多い。最初の聴取で4時間以上も供述しているのに調書は作られていない。村木事件の上村被告は、検察が「ストーリー」と違う話は調書にしないと訴えている。しかも、大久保被告は起訴後2か月も保釈されなかった。村木氏も起訴後ずっと勾留され続けたが、検察は捜査批判しそうな被告は社会に触れさせないのだろうか。捜査に関係ない勾留であれば重大な人権侵害である。そして、この「大久保調書」は、なぜか本人の公判の前に、別の被告の公判で証拠提出された。これでは大久保被告に反論権はない。
ちなみにこの事件では、すでに裁判所は贈賄側≠フ1審判決で献金の「賄賂性」を否定している。また、「ダミー団体」とされた政治団体に活動実績があったことも明らかにされ、検察のストーリーは崩れている(検察に不利な判決は、あまり報じられないが)。
検察は最近、小沢事件の秘書公判(大久保事件とは別件)で「水谷建設の闇献金1億円」を立証する方針に転じた(と、新聞が報じている)。が、この話は、昨年来さんざんリークされた末に立件できなかったものだ。
理由は、この闇献金を「渡した」と証言した同社元社長が、かつて「福島県知事の佐藤栄佐久氏に賄賂を渡した」と証言したものの、後に「検察官にいわれるままに嘘の証言をした」と検察の工作をバラした人物だからだ。彼は以前にも「石原慎太郎・都知事に2000万円渡した」と語り、こちらも真実性が怪しいために立件されなかった。
その元社長の証言をいまさら持ち出すのは、もはや当初のストーリーが崩れて公判を維持できないからだ。
そもそも、本当に1億円闇献金があるなら、それ自体が重大事件であり、微罪の政治資金規正法違反事件の「立証材料」にする話ではない。そちらこそ捜査を尽くして立件すべきだ。
この元社長は多額の脱税で実刑判決を受けた人物である。これは一般論だが、脱税している人間は、「消えたカネ」の説明がつかなくなって、「政治家に裏で献金した」と弁明する例がよくある。少なくとも、証拠もなく「閣献金した」と言い出すケースでは、そうした可能性も疑うのが捜査当局や大マスコミの常識であり、良心だろう。
実は多い「特捜事件の失敗」
前田事件が発覚した翌日、新聞はこぞって「過去の検察官の不祥事」を特集していたが、本当にやるべきは「特捜事件の怪しい捜査の歴史」の検証だ。
「国策捜査」が判決でひっくり返された例としては、旧日本長期信用銀行の粉飾決算事件が象徴的だ(※)。
東京地検特捜部は頭取らを逮捕・起訴したが、08年7月18日、最高裁は被告全員に無罪を言い渡して判決が確定している。
政界捜査では、小泉政権下の04年に発覚した日本歯科医師連盟(日歯連)の閣献金事件がある。
東京地検特捜部は、橋本派に1億円の小切手を渡した白歯連元会長を逮捕した一方で、受け取った橋本龍太郎・元首相と同席した青木幹雄氏は不起訴、野中広務氏は起訴猶予にし、なぜか現場にいなかった同派会長代理の村岡兼造・元官房長官を逮捕した。また、日歯連は自民党議員数十人に数億円の迂回献金をしていたが、捜査されなかった。
古くは78年に発覚したダグラス・グラマン事件。同社が岸信介・元首相、福田越夫・前首相らに賄賂を贈ったとして米国で告発され、東京地検特捜部が捜査に乗り出したが、政治家は誰も訴追しなかった。 86年の三菱重工CB(転換社債)事件では、同社が発行したCBが2週間で2倍に高騰。自民党派閥領袖クラスが総額100億円分のCBを手にして巨利を得たとされたが、特捜部の捜査は途中で打ち切られた。
最近の例では、前章で触れたか水谷献金≠材料にした福島県知事のケースがある。裁判所は利益供与はなかったと結論づけている。
この事件の捜査にも前田検事が関わっていた。捜査を指揮したのは佐久間達哉・前東京地検特捜部長で、同氏は小沢事件の陣頭指揮を執ったほか、前述の全員無罪となった長銀事件の主任検事でもあった。前田検事については、別の事件の公判で、「証言が信用できない」と裁判官から偽証≠指摘されたこともある。
このような検事たちが「特捜のエース」として出世する土壌こそ恐ろしい。
「村木事件で発覚したメモの破棄は、検事が独断でやるはずがない。特捜事件では特捜部長が指揮権を発揮するものです。改竄はともかく、証拠隠しは検察の体質で、昔から行なっています。特捜事件は、実は冤罪が多いと思います」(三井環・元大阪高検公安部長)これは別の問題だが、そもそも特捜検察には、「最強の捜査機関」などといわれるほどの捜査能力はない。
警察のような実働部隊、ネットワークを持つわけではないし、科学捜査やコンピュータ、外国語などの専門組織もない。司法試験に合格し、警察の捜査した事件の起訴と公判を受け持つ行政官にすぎない検察官が、「正義の審判者」と見られるほうがおかしいのだ。
今回の改鼠事件で、前田検事は当初、問題のフロッピーディスクが「改竄されていないか調べる」ために自分で「ネットでソフトをダウンロードして使った」と言い訳したという(その際に「間違って書き換えた」とした)。事実なら、どこかの中小企業の社内調査より低レベルである。しかし、これが言い訳として通るくらい、特捜の捜査は 素人仕事≠ネのである。取り調べ可視化導入が求められるのは当然だ。
特捜の「権威」を形作ってきたのは、裁判所と大マスコミだ。
起訴されれば99%以上が有罪になる日本は、すでに検察ファッショとさえいえる。他の先進国では、有罪率は7割程度が普通であり、日本では諸外国で無罪となるような被告が大量に刑務所に送られている。
裁判所は「検察のいうことは正しい」という前提を捨て、検察批判をためらわない姿勢が必要だ。村木裁判の無罪判決でも、裁判所は検察の提出した証拠の大半を否定したにもかかわらず、一切、捜査批判はしなかった。前述の福島県知事の事件では、「利益供与はなかった」と認定しながら、なぜか収賄で有罪。判決文では「無形の賄賂」を受け取ったとしている。それほどまでに検察のストーリーを否定するのが怖いのか。
そして、司法マスコミの罪はさらに大きい。改竄事件をスクープした朝日新聞の姿勢は称賛に値するが、まだ検察への遠慮もうかがえる。村木氏だけが冤罪被害者ではないこと、彼らの大きな苦しみ、そして冤罪の危険にさらされるすべての国民の脅威を思い、報道機関の責務を果たす時だ。
※長銀粉飾決算事件/山一証券や北海道拓殖銀行などの破綻が相次いだ97年の金融危機を舞台に、長銀の経営陣が不良債権を厳格に査定するように定めた大蔵省の新基準を適用せず、より甘い旧基準で決算を行なって損失を過小に公表したとして証券取引法違反などに問われた事件。当時は大手銀行には軒並み公的資金が投入され、特に長銀には累計で約8兆円が投入されて国民の批判を招いていた。
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