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沖縄・尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件をめぐり、中国側が「日中関係を重視している」と、やや譲歩するような姿勢を見せ始めた。「弱腰・屈辱外交」「売国奴」と批判される菅直人首相(63)には朗報に聞こえるだろうが、全体主義国家・中国を甘く見てはならない。尖閣諸島を含む、沖縄・南西諸島地域の領空を守る航空自衛隊南西航空混成団司令を務めた佐藤守・元空将を直撃すると、中国のしたたかな野望を指摘。対抗策として、与那国島や下地島への自衛隊展開を提言した。
「世界各国からの『中国は覇権主義だ』『手段を選ばない』といった批判を気にし始めたのかもしれないが、中国はただで引き下がるような相手ではない。アメとムチで日本から利益を得ようとしているのではないか。断固、主権を守る姿勢を貫くべきだ」
こう厳しい表情で語る佐藤氏は、1996年3月から97年7月まで、南西航空混成団司令を務めた。現地の陸海自衛隊や警察、海上保安庁、米軍と連絡を取りながら、96年の抗議船領海侵入事件や魚釣島上陸事件にも対応した経験を持つ。
3日間で延べ68機のF−4戦闘機を出動させて、台湾空軍OBによるヘリコプターでの尖閣・魚釣島上空への進入計画(領空侵犯)を阻止するなど、その毅然とした指揮は今でも有名だ。
ここに来て、中国がいやらしい揺さぶりをかけてきている。
無愛想なメガネ顔で知られる中国外務省の姜瑜報道官は28日の記者会見で、中国が日中関係を重視していると強調。悪化した日中関係の修復に向け、日本にも「誠実で実務的な行動」を求めた。いわばアメだ。
一方、尖閣周辺に武装可能な漁業監視船や海洋調査船を計10隻以上集結させるなど、力による恫喝、ムチも維持している。これに対抗するため海上保安庁は巡視船6隻を派遣、防衛省幹部も「不測の事態がある」と警戒態勢を崩していない。
まさに、一触即発の状況が続いているが、佐藤氏は「中国はずっと尖閣諸島を狙っている。96年にも事件が続いたが、あの時はまだ、日本領海や領空に入ることを躊躇していた。十数年たち、彼らは確実に増長してきた。今年夏には、日本領海で中国漁船が1日70隻も違法操業していたと聞く。完全に変わった」という。
そして、変わったきっかけについて、昨年夏の「政権交代」の影響を指摘する。
「鳩山由紀夫前首相(63)は『東シナ海を友愛の海に』と公言し、沖縄から米海兵隊を追い出そうとした。海兵隊は大統領の命令1つで動く軍隊であり、中国は内心恐れている。派遣に議会承認が必要な陸空海軍と違う。また、民主党には外交や安全保障を理解できる議員が少なく、少なくとも現在の菅執行部にはいない。中国は本気で『いまのうちなら尖閣諸島を取れる』と思っているのではないか」
中国は、フィリピンから米軍基地が撤退した翌年から、南シナ海の南沙諸島を実効支配していった。現在の沖縄周辺は、当時のフィリピンと似た状況にあるといえる。
28日以降、中国側がやや譲歩するような姿勢を見せているが、佐藤氏は「要注意だ。簡単に信じるな」と断言。その一例として、退官後の2008年、北京で開かれた日中安保対話に出席した際、中国側将官が持ち出したある提案について語った。
「われわれ日本側が歴史的事実を踏まえて『尖閣諸島は日本固有の領土だ』と当然の主張をすると、将官は『釣魚島(尖閣諸島)は中国の領土だ。海上保安庁の警備を止めろ』と強く要求した後、『では、日中両国で尖閣周辺の海底資源の調査をしよう。資源が出てきたなら、どうするかを話し合おう』などと言い出した。これこそ、中国の狡猾な手口。われわれは『ふざけるな!』と一喝した」
力を背景に強烈に恫喝したかと思えば、一歩引いて譲歩をにおわせ、相手にスキがあれば自国の権益拡大を狙うしたたかな中国。外交・安保オンチの菅内閣が「共同調査」「話し合い」といった美辞麗句に騙される危険は大きい。
佐藤氏は、尖閣諸島を守り、東シナ海での中国増長を防ぐ策を、こう提言する。
「尖閣諸島に陸上自衛隊の守備隊を置く手もあるが、さすがに中国を刺激する。そこで、まず尖閣に近く、日本列島最西端の与那国島に陸自の監視所を設置する。与那国島は自衛隊誘致をしており、地域活性化という大義もある。続いて、3000メートル級の飛行場を持つ下地島に航空自衛隊の1個飛行隊を置く。これで、中国は尖閣に手を出せない。日本には能力はある。菅内閣に領土領海領空を守る覚悟があるかだ」
中国の執拗かつ理不尽な対応に、国民の怒りは沸騰しつつある。漁船衝突事件は、日本人の外交・国防意識を目覚めさせるか。
【さとう・まもる】元自衛隊空将。1939年生まれ。63年、防衛大学校(第7期)を卒業し、航空自衛隊に入隊。戦闘機パイロット(総飛行時間3800時間)。外務省国連局軍縮室に出向。三沢・松島基地司令、南西航空混成団司令などを歴任。97年退官。岡崎研究所特別研究員、軍事評論家としても活躍。著書に「国際軍事関係論」(かや書房)など。
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20100929/plt1009291613006-n1.htm
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