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高橋洋一「ニュースの深層」
菅首相は「中国漁船衝突」ビデオを早く公開して国際社会に中国の非をアピールせよ
アジア欧州首脳会議こそ絶好のアピールの場だ
尖閣問題で日本が揺れている。この発端は、民主党代表選の最中の9月7日、沖縄県の尖閣諸島の日本の領海で中国の漁船が海上保安庁の巡視船に衝突したことだ。海上保安庁は当時の状況をビデオ撮影しており、2度目の衝突について公務執行妨害の疑いで漁船の中国人船長を逮捕した。
ただし、この初動動作にはおおきな問題があった。
尖閣諸島近辺は、日本の領土であり、日本の実効支配下にあるので、領土問題自体もありえない。しかし、中国は最近になって領有権を主張しだしている。そのため、尖閣諸島近辺での対応について、危機対応マニュアルで何通りものシミュレーションができているといわれている。今回のケースは、2度の衝突であり、現行犯逮捕だろう。もちろん、海上保安庁は海上警察であるので、当然逮捕権限をもっている。
ところが、現行犯にもかかわらず事件から逮捕まで約半日が経過している。事件の情報は、官邸に上がっており、危機対応の官房長官が対処したはずだ。ここは、マニュアル通りに現行犯で即逮捕すべきであっただろう。ちなみに、官房長官の一人でやる仕事は、この危機管理の他は、官房機密費の金庫番と記者会見だけだ。
その後、丹羽宇一郎駐中国大使が再三にわたって中国外交部から抗議を受ける。中には深夜の抗議もあったという。このときも、はじめは本来対応すべきでない下級役人からの抗議も受けてしまうという失敗もあった。民間人からの大使に就任したばかりで、対応の不慣れをつかれたのかもしれない。
そして、このあたりになってくると、政府の対応がますますちぐはぐになっていく。13日、仙谷官房長官は会見で「私の予測では、(船長以外の)14人と船がお帰りになれば、また違った状況が開かれてくる」と述べ、共犯者(船長以外の船員)と証拠品(船)を返してしまう。どのような情報によって、こうした判断がなされたのかわからないが、明らかにその後の展開をみれば、仙谷官房長官の見通しは完全に外れた。
さらに、中国の要求はエスカレートする。それに対し、16日、外務相に内定していた前原誠司国土交通相は石垣海上保安部に行き、巡視船艇の係留所を視察した。19日、石垣簡易裁判所は、逮捕された中国人船長の拘置期間を10日間延長し29日までとした。
この措置に反発して、中国は日本との閣僚級の往来を停止など対抗措置などさらに高いハードルを設けるようになった。結果として、24日、拘留期限前にも関わらず、那覇地方検察庁が中国人船長を処分保留で釈放した。その理由として、検察側から外交的配慮もあるという説明がなされたが、これは誰も目にもおかしい。
地方の支局にすぎず、外交とはまったく無縁である那覇地検、その上級庁である最高検と福岡高検がこのような判断ができるはずない。それにもかかわらず、政府は、検察の判断であるとしている。こうなると、政府内での責任転嫁の感さえ出てきている。
近年、南シナ海、東シナ海における中国の覇権行為は目立ってきている。それに対して、周辺アジア諸国はかなり敏感になっている。日本でも 2004年に先島諸島周辺で中国原子力潜水艦が領海侵犯し、海上保安庁では手に負えないので、防衛大臣による海上自衛隊に対する海上警備行動が命ぜられたではないか。今回の日本の対応は、結果として日本は頼りないとして周辺アジア諸国の失望になっただろう。
今回の対応は、初期動作から手順を間違えている。民主党代表選で危機管理がおろそかになったと言われても仕方ない。さらに、ここまで手順を間違えると、はじめから逮捕なんてしなければよかったという話さえでてくる。
24日のテレビ朝日「朝まで生テレビ!」において、元国交副大臣の辻元清美氏が出演して、はじめから逮捕せずに国外退去させておけばよかったと言っていた。たしかに、その後の展開をみれば、これほど政府が先を読めず、中国側に譲歩するのであれば、その意見にも一理あるように見えるだろう。
しかし、問題は、辻元氏は元国交副大臣で海上保安庁の担当であったということだ。尖閣諸島近辺での対応マニュアルとの関係で逮捕すべきでなかったというのは妥当かどうか。ひょっとして民主党政権では、そうした危機対応ができないのではないかとさえ思ってしまった。
この期に至ると、もう修復改善どころでない。小泉時代どころでなく、戦後最大級の日中関係の悪化が現実になっている。そうなると、経済界からだんだんと悲鳴が出てくる。しかし、今回の主権が絡む話は一筋縄でいかないので、相当な覚悟が必要だろう。
■人民元対策にも手はある
現に、中国側は、レアアースの事実上の禁輸などを打ち出している。ただ、これはWTO(世界貿易機構)への提訴などの多国間の場に中国を引き出せば、かなりの確率で勝てる。だから、こうした話はあまり心配することはない。
そもそも、尖閣諸島が日本固有の領土であることについては、日本に分があるので、日本は国際社会を味方につける方がいい。今回の事件で、中国漁船が巡視船に衝突してきたビデオがある。朝生の司会の田原総一郎さんはそのビデオを見て、明らかに中国に非があるといっていた。そうであれば、それを早く公開するほうがいい。
この意味で、10月4、5日、ベルギーで開催されるアジア欧州会議(ASEM)首脳会議について、菅直人首相が出席しないのは絶好のチャンスを逃すことになる。こういうときこそ、首相自らが世界に向けて発信すべきであろう。
また、中国政府に近い社会科学院日本研究所の専門家は、尖閣領有権問題に関連して、中国の外貨準備で円資産を買い増しして円高誘導し、日本に対する圧力をかければいいと主張している。そうであれば、日本も対抗策を考えたほうがいい。
といっても、中国人民元を狙うのはそもそもできにくいし、適切でもない。日本が金融緩和して円安にすればいいのだ。これはデフレ対策でもあるので、対中関係というわけでないと説明できるが、結果としてドルにペッグしている人民元高になる。
アメリカは対ドルで人民元安を主張しており、そのうち人民元切り上げの圧力が出るだろう。そのときまで、円高を是正しておくことは日本として得策である。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/1263
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