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自民党を担当する多くの記者が谷垣禎一総裁の「谷垣語」に苦労してきた。ほめるならば「穏健で上品だ」となるが、裏を返せば戦闘意欲が感じられない。これが野党第一党の党首とは思えない「発信力」の弱さにつながった。
ただ、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件での発言は「穏健」ではすまされない。逮捕した中国人船長を24日に釈放した際、谷垣氏はこう言った。
「まず第一に言わなければならないのは、捜査機関が(政治的配慮を)言うべきことでない」
冒頭から検察批判を始めた谷垣氏は「政府が検察に介入したのではないか」というより大きな問題になかなか触れようとせず、報道陣をいらだたせた。
ちなみにみんなの党の渡辺喜美代表は「中国の圧力に屈したとしか思えないような決定だ」と猛反発。たちあがれ日本の平沼赳夫代表も「中国の領有権を日本が認めたことにつながりかねない」と強い口調で語り、野党党首としての「器」の違いを見せつけた。
谷垣氏は24日に「小泉純一郎政権は尖閣に上陸した者をすぐ国外退去にした。そういう処理の仕方もあり得たと思う」と語り、25日に京都市で講演した際はこう言い切った。
「騒いで得をするのは中国だ。問題を深刻化させないことが一番大事だ。直ちに国外退去させた方がよかった。最初の選択が間違っていた…」
谷垣氏が取り上げた小泉政権の対応とは、平成16年3月に中国人活動家が尖閣諸島に不法上陸した事件を指す。小泉首相(当時)は「大局的に判断しなければいけない」と自らの政治判断で強制送還させたことを認めた。首相の靖国神社参拝をめぐり対中関係が冷え込んでいたことに加え、北朝鮮の核などの問題などが深刻化していたことを踏まえての措置だった。
それでも活動家を逮捕しなかったことに批判が噴出した。鳩山由紀夫民主党代表(当時)は「事なかれ主義、及び腰だと言わざるを得ない」と発言している。
そもそも中国漁船衝突事件で自民党は船長を逮捕した政府の対応を静観する構えだった。谷垣氏も16日の記者会見で「政府は毅(き)然(ぜん)とした対応を取らなければならない」と注文をつけた。小泉政権の対応を踏襲すべきだとする考えとは明らかに矛盾する。
今回の政府の対応でもっとも問題なのは、「弱腰外交」との批判を恐れ、外交問題を検察に責任転嫁したことだ。自民党の石原伸晃幹事長は26日のNHK番組でこの点をただしたが、民主党の岡田克也幹事長に「谷垣さんは違うことを言っている」とあっさり切り返されてしまった。
谷垣氏もさすがにまずいと思ったのか、26日の東京・有楽町の街頭演説では「隠れた指揮権の発動があったのではないか。その責任を取らずに検察に転嫁する政治はおかしい」と軌道修正した。だが、それならばまず前言を撤回し、わびるべきではないか。
自民党が下野したのは外交も内政も事なかれ主義に徹し、毅然とした政治姿勢を示さなかったからだ。それを「非」として改めず、曖(あい)昧(まい)模(も)糊(こ)とした「谷垣語」と決別しない限り、谷垣氏も自民党も政界のうねりに埋没し、浮き上がることはない。(今堀守通)
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