04. 2010年9月25日 13:05:39: QScjfmx3zc
片山総務相もアメリカから尖閣諸島は日米安保の範囲内という現地を取れたことが収穫、あとはオトナの判断と口を濁した。 オトナの判断とはようするにどういうことか池田信夫が冷静に解説しているので紹介したい。船長釈放は「合理的」な判断である 池田信夫 尖閣列島の漁船衝突事件で那覇地検が船長を釈放した判断については、自民党から共産党まで「民主党政権は弱腰だ」という批判の大合唱です。それは感情論としてはわかりますが、地検の判断は(事後的には)合理的で、おそらくこういう結果しかありえなかった。これを問題を単純化してゲーム理論で考えてみましょう。 日本と中国をそれぞれ横軸と縦軸のプレイヤーとし、二つの行動(強硬と屈服)による利得を考えます。中国が強硬に出た場合、日本も強硬策をとると紛争が起きて日中の利得は順に(-1,-1)となりますが、日本が屈服すると利得は(1,2)となって日本にとっても有利です。これはチキン・ゲームで、ナッシュ均衡は(混合戦略を除くと)一方が強硬策に出て他方が屈服するしかありません。 強硬 屈服 強硬 -1,-1 2,1 屈服 1,2 0,0
今回の地検の決定は、日中の対立(-1,-1)から日本の屈服(1,2)に状態を変更する合理的な判断です。日本が屈服することが、双方にとってパレート効率的だからです。しかしこれはゲームが1回かぎりの場合で、問題が繰り返される場合には、相手が2つの均衡のどちらを選ぶかについての予想が重要です。 上の図を一般化してチキン・ゲームが繰り返される消耗戦(war of attrition)を考えて混合戦略も含めると、屈服する確率は利得の減少関数になります。つまり日本が簡単に屈服することは、領土を守ることによる利得が小さいというシグナルを出して、中国の攻撃を誘発する結果になります。 逆にいうとチキン・ゲームに勝つためには、合理的に行動しないコミットメントが必要です。事後的に判断すると屈服することが合理的になるので、そういう利害を斟酌しないという機械的なルールを決めるのです。以前の記事でも書いたように、刑罰はこのような意味でのコミットメントです。殺人犯を死刑にしても被害者は戻ってこないので、刑罰は(事後的には)不合理ですが、そういうcommitment deviceがないと犯罪はやり放題になります。 これが近代国家における非人格的な「法の支配」の本質ですが、中国は「人治国家」なので、為政者の判断でルールはどうにでも曲げられると思っているでしょう。だから日本政府としては、あらかじめ領海侵犯についてのルールを対外的に明示して、たとえば「尖閣列島の領海侵犯はすべて海上保安庁の判断で自動的に逮捕・起訴する」と法律で決め、政府は何も介入しないことをあらかじめ宣告すべきです。 それができないのなら屈服しかないので、最初に船長を逮捕すべきではなかった。逮捕する前に海保は国交省に判断を求めており、前原国交相(当時)はそれにOKを出しました。これは「チキン・ゲームを辞さない」という意思表示であり、それなら途中で屈服すべきではない。このように外交姿勢が一貫せず、コミットメントが欠けていることが自民党時代から続く日本外交の最大の欠陥で、中国につけこまれるもとです。 これは本源的な意思決定者である内閣が機能せず、その代理人にすぎない官僚機構に外交を丸投げしてきたことが原因です。代理人は結果に責任を負わないので、つねに合理的に(機会主義的に)行動するインセンティブをもつからです。今回のような問題こそ、民主党お得意の「政治主導」を発揮すべきでした。小沢一郎氏が首相になっていれば、温家宝首相と国連で交渉して兵を引かせるぐらいのことはやったのではないでしょうか。 池田の物言いは正直あまり好きではないのだが、片山のオトナの判断という物言いの裏にある無力感を表すと池田の冷ややかな物言いがちょうど落ち着く。 池田の物言いをヒートアップすると佐藤優の激昂あふれた物言いになる。 これも紹介しておこう。 佐藤優の眼光紙背:第81回 領土は国家の礎だ。尖閣諸島は日本が実効支配しているわが国固有の領土だ。尖閣諸島周辺の日本領海で起きた事件や事故に関しては、当然、日本の法的管轄が及ぶ。それにもかかわらず、9月24日、那覇地方検察庁は、勾留尖閣諸島沖で中国漁船が日本の巡視船と衝突した事件で逮捕されていた中国人船長●其雄 (せんきゆう)容疑者(●は「擔」のつくりの部分)を処分保留で釈放した。 筆者はこれを日本の国益を大きく毀損する論外の行為と考える。 まず、この船長は容疑を否認している。容疑を否認し、国外逃亡の可能性が十分ある被疑者を処分保留のまま保釈するのは、法治国家としての秩序を揺るがしかねない行為だ。 さらに24日の記者会見で、那覇地方検察庁の鈴木享次席検事は、 我が国国民への影響や今後の日中関係を考慮すると、身柄拘束を継続して捜査を続けることは相当でないと判断しました(9月24日読売新聞電子版) と述べた。「今後の日中関係を考慮する」ということは、平たく言うと「中国の圧力に屈した」ということである。「我が国国民への影響」とは、現在、中国当局によって拘束されている4人の日本人のことを指していると思われる。そもそもこのような外交的判断をする権限を検察庁はもたない。外交の常識からして、中国が不当な言いがかりをつけている状況で、それに譲歩したととられるようなことは一切してはならない。超ドメスティック(国内的)官庁である検察庁は外交の基本的な「ゲームのルール」がまったくわかってない。
検察庁がこのような判断をしたならば、菅直人総理は、柳田稔法務大臣に、指揮権発動を指示し、日本の国益を毀損する今回の決定を撤回させるべきだった。 日本のこのようなふやけた対応に関し、中国はどう反応しているのだろうか? 「日本側の司法手続き、違法で無効」中国外務省 【北京=佐伯聡士】中国外務省の姜瑜(きょうゆ)・副報道局長は24日、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件で逮捕、拘置されていた中国人船長の釈放が決まったことについて、「いかなる形式であれ、中国人船長に対する日本側のいわゆる司法手続きは、すべて違法で無効だ」とする談話を発表した。 釈放決定も含め、司法にかかわる日本側の判断、措置を認めないとの立場を重ねて示したもので、姜副局長は「政府チャーター機を派遣し、日本側に違法に拘置されていた●其雄(せんきゆう)船長を迎えに行く」とした。 中国はこれまで、温家宝首相らが船長の「即時無条件釈放」を求め、報復措置による対日圧力を強めてきた。中国は、日本側の行為を「違法」と断じ続けたまま、船長釈放という結果を勝ち取る形となった。(9月24日読売新聞電子版) 日本は完全にナメられている。
米国も、一方で前原誠司外務大臣がクリントン国務長官に対して尖閣問題に関する支援を要請しておきながら、他方でこのような弱腰の対応を行っているので、「日本は東洋の神秘だ。わけがわからない国だ」と当惑していることと思う。 この状況で、日本国家を愛する人々が団結して、菅政権に対する批判の声を効果がある形であげるべきだ。検察庁は中国人船長を処分保留にしているが、いずれ不起訴処分を決定する。検察庁はそこで一件落着すると考えているのであろうが、それは甘い。そのときにこの不起訴処分を不当として、検察審査会に審査を申し立てるのだ。そうすることで、今回の船長釈放が、日本の国益と正義に適う行為であったかについて、再度、検討させるべきと思う。(2010年9月25日脱稿) 池田、佐藤双方ともにゲームとして日本は最初からダメだと指摘しているところに日本の切なさがある。というより拿捕するならしたでリスクを負ってでもこちらの正当性を国際的にアピールするプレゼン能力すら考えていない。 クリントンに尖閣諸島は日米安保適用範囲と言わせておいて、でも問題は日中で解決してねとすぐ側から言われていては言質も糞もない。 台湾も自国の領土だと言い張る海域の領有問題にアメリカが一方の味方としてホイホイ戦争に首突っ込む危ない橋にアメリカ議会が了承出すわけがない。 中国はクリントンの発言の裏をすぐ読んで矢継ぎ早に対策を打って出て焦った菅内閣が墓穴掘ってジャンジャン♪の自滅劇。
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