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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20100924-00000303-sentaku-bus_all
「何て言ったって、今回の円買いはものすごい援護射撃があるのが強いよ。中国だよ、中国」
ヘッジファンドの運用担当者はこう言って、ウフフと笑った。ウォールストリート・ジャーナルが8月10日付で「中国が円高を加速させる」と報じた日の電話である。
中国は円の積み増しを加速させている。今年１～６月の日本国債投資は１兆７千億円で、過去5年間に行った投資合計額の実に５倍。その後もひと月に７千億円は買っている。目的は言うまでもなく、日本の輸出企業と競合する中国企業が人民元高で失いかけている競争力を補うこと。「中国の指導部は頭がいいからね」。
国債への投資が政治目的ならば、日本側の円高阻止に向けた多少の努力などは中国が吸い取ってしまう。何しろ中国の外貨準備の１％分を動かすだけで、日本の経常黒字１カ月分に相当する彼我の差だ。日銀が流動性を増加させても、２００４年以来やめている円売り介入を行っても、中国人民銀行がほんの少し円買いするだけで効果はゼロになる。
「ミスター・カンが慌ててハトヤマに中国へのゴマすりを頼んでいるが、うまくいくはずがないと思うよ」と冒頭のファンド運用担当者。「じゃあ、日本はサンドバッグのように打たれっぱなしというわけか？」と問うと、「それほどでもないが、まあそれに近いかなぁ」という返事だった。
■今やリスク最小の「投資対象」
実は、大手ヘッジファンドの担当者同士が情報交換を目的に開いたある会食の場で、日本経済そのものが「景気悪化が円高に直結するという体質になっている」と報告、確認された。同時に「１ドル＝６０円を恐らく割り込む」という目標値も示された。順番に説明していこう。
まずは経済環境。米国はオバマ政権による景気対策メニューがタマ切れとなり、中国も不動産バブルが破裂しかけている。世界中が恐れる中国の「景気後退」は免れるとしても、少なくとも成長率の急速な鈍化は避けられそうにない。
その認識に立つと、当然ながら輸出主導型の日本経済はダメになる。回復しかかっていた景気に再び「腰折れ」懸念が強まってきているのは、このところの報道でご承知の通り。普通、景気の悪化は金利の低下につながり、国外への資金の流出でその国の通貨価値は下がるものだが、日本は悪名高きゼロ金利なので、景気悪化イコール円安とはならない。
次に国内の政治情勢。菅直人内閣は発足早々、財務官僚の好む均衡予算を口に出し、デフレ脱出の見込みがないのに消費税の増税すら示唆した。金融・財政への無知をさらけ出しただけでない。会合に出席したファンドマネジャーは「コイズミ以降、何年間も短命で弱体な内閣が続き、その都度、日銀の官僚システムを打破できないまま、デフレターゲットが維持されてきた」と指摘したうえで、菅内閣には日銀に鈴を付ける力量などないと言い切った
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20100924-00000302-sentaku-bus_all
民間企業の円高リスクへの対応策も十年一日のごとく変わっていない。会合での発言を拾うと、
「輸出企業の、手持ちドルの売りヘッジのための予想レートは相変わらず『有力シンクタンクの平均値』を採用している。しかも円レート予想の最強、最弱は採用しない。結果として全社の予想が同じになるという“日本式”だ」
「予想レートが有力企業で同じなうえに、節目となっているある数値を突破すると慌てて自分で自分のクビを絞める行動に出る」
「これを一段と増幅するのが日本のセイホだ。主要９社で２千億ドルの外貨を運用しているにもかかわらず、輸出企業と同じく為替への知識が乏しく、ある値を抜くと為替予約を完全に見直し、ドルなどの外貨を売り円買いに入る」
まさに言われっぱなしという状況だが、もう少しだけ続けると、
「１９９５年に対ドルレートが七７９円７５銭をつけたが、この時、ヘッジファンドは８２～３円で手仕舞いしていた。その先の円高は日本人が自分でもたらした。当時、新聞やＴＶなどで１ドル＝５０円だの６０円だのいう著名なエコノミストがおり、日本の輸出企業の経営者がこの発言に煽られて担当セクションに圧力をかけた。これはアメリカでは有名な話」
「日本円の為替市場はシカゴなどを含めると十分に大きい。最近ではユーロの取引を時に上回っている。特に株式先物売りと円買いの併用は、世界景気の減速局面で最もリスクの小さい投資対象だ」
■１ドル＝５０円の可能性も
このような状況では、円買いに走らない方がおかしい。では、１ドル＝６０円の根拠はどこから来るのか。日本のシンクタンクは、国際通貨基金（ＩＭＦ）が今年のドル・円の購買力平価を１１１円とした数字から、初めは９０円、次に８５円と対ドルレートを徐々に切り上げ、市場の動きを「追認」するだけの存在に過ぎない。一方のマスコミは「１５年ぶりの円高」と単に為替レートの水準を注目するだけの報道に終始する。しかし、実際の購買力平価はさらなる円高を示唆している。
冒頭のヘッジファンドは二つの目標値を算出している。第一が、日米両国の消費者物価コア指数（除く食料、エネルギー）を基準に計算したもので、１ドル＝７８円。しかし、担当者は「これでも十分ではない」と話す。
第二の目標値は「日本はモノを輸出し米国に売りつける側なので輸出価格指数を、一方の米国は輸入し消費する側なので消費者物価コア指数をもとに購買力平価を算出するのが妥当」というロジックで算出するものである。
この算出方法は本誌０９年１０月号でも触れたが、円が７９円７５銭まで上昇した時にヘッジファンドが採用していたやり方だ。当時の日本は９４年の細川内閣、９５年の村山内閣と、米国側が「反米」を懸念した政治体制。一方の米国は民主党クリントン政権で日米貿易不均衡が最大の問題。「反日」姿勢が露骨だった。日本が困る仕掛けは米国で歓迎されこそすれ非難はされない。だからこそ１月に阪神・淡路大震災という最大級の円安材料が出ても、ヘッジファンドは円買いの手を止めなかった。
ともあれ、第二の方法で目標値を算出すると１ドル＝５６～７円になる。驚いてはいけない。９５年以降の１５年間、米国の物価は年２～３％の上昇を続け、逆にデフレの日本は物価の下落が止まらない。もし今後、ヘッジファンドが円買いを「強行」すれば５０円を割り込むことすら考えられる。「まあ、あの時と今とは違う」と希望的に考えても６０円あたりが妥当だろうか。
ちなみにヘッジファンドが先行して「仕掛けた」ユーロの方は、対ドルレートで２５％近く下落し、ドイツは輸出が急伸。直近四半期のドイツ経済の成長率は前年同期比４．１％の伸びを示した。ユーロの下値はさらにあるかもしれないが、ヘッジファンドは通常、米大統領改選の年は派手な動きは避ける傾向にある。このため２０１２年は世界的な仕掛けを一休みするだろう。だからこそ今、明年は、手出しができない円に対して相当猛威を振るってくるに違いない。
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