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田原:今日(9月10日)、厚労省の村木厚子元局長に無罪の判決が出ました。これについて郷原さんにいろいろ聞きたい。もちろん、鈴木宗男さんの収監、そして小沢一郎さんのことを含め、とことん検察の問題について話していただこうと思います。
郷原:よろしくお願いします。
田原:さて、村木元局長ですが、郷原さん、これは無罪の判決が出るとお思いになっていましたか。
郷原:ええ、無罪って聞いてもまったく驚かなかったですね。こんなこと珍しいですよ。普通は無罪って判決は滅多に出ないものですからもっと驚く。今回はまったく驚きませんでした。
田原:そもそもこの問題で、なぜ厚労省の局長だった村木さんを検察は起訴したんですか。
郷原:検察が描いたストーリーがまったく的外れだったっていうことですね。
田原:どういうストーリーを描いていたんですか。
郷原:この事件は「政治案件」だと考えていたんです。そもそも郵便不正事件っていうのは、障害者向けの割引制度を悪用したものです。
田原:障害者向けの団体、障害者には郵便料金の割引があったのを悪用して、広告の発送などを割り引いたのですね。
郷原:そこで検察はこんな絵を描いた。
これは低料金で第三者郵便を扱って貰える、その制度を悪用した大変な経済犯罪だ。何億という利得を得た大変な犯罪であり、そのために必要な公的証明書を厚労省に作ってもらう必要がある。
大物政治家が厚労省の幹部に働き掛けて、その幹部が現場に指示をして嘘の証明書を書かせたのだ、と。
田原:身体障害者の団体といっていたけれど、この団体はインチキの団体だったんですね。
郷原:それ自体が実態がほとんどないものだった。ですから本来であればそういう優遇は受けられない。
それを障害者団体としての優遇を受ける証明書を発行させたことに関して、民主党の大物政治家が働き掛けて、厚労省の幹部から現場に指示が行ったという絵を検察は描いたのです。
田原:この大物政治家も取り調べを受けてるんですか、任意の。
郷原:ええ、受けたようですね。
田原:名前は出てないですか。
郷原:名前は判決文の中には出てます。
田原:民主党の関西の政治家ですね。
郷原:はい。
田原:で、それが働き掛けたと。厚労省の、当時、村木さんは課長だった。
郷原:課長ですね。
田原:政治家は誰に働き掛けたというんですか。
郷原:村木さんの上の部長に働き掛けて、それが村木さんに話が行って、村木さんが嘘の証明書を作るように係長に指示をして作らせたというようなストーリーだったわけですね。
田原:村木さんが、作らせてちゃんと判も押したと。
郷原:そういう書類を作成させたと。そういうストーリーを検察が思い描いたわけです。
その指示をした村木さんを共謀ということで逮捕して、その犯罪を政治家も絡んだ大きな事件ということにしようと思ったんです。それが村木さんのところで止まってしまったわけですね。
村木さんは、一切自分は関係ないと言って否認を通したからです。しかも村木さんが指示をした、関わったということも、その後、公判の段階で次々と否定されていった。証拠がほとんどなかったということになったわけです。
田原:村木さんという人は高知大学の出身で、つまり地方大学ですね。それで、厚労省で局長までになったと。次は次官だという話もあった。そういう村木さんという人柄を、人格を、検察は分かんなかったんですか。
郷原:いや、おそらく、検察にとっては村木さんは最終的なターゲットでもなんでもなかったんだったと思いますよ。
田原:政治家だったんだ。
郷原:ええ、ですから言ってみれば踏み台ですよ。
田原:踏み台ねえ。
郷原:その踏み台のつもりだったのが、踏み台のはずの村木さんが主役になってしまったわけですよ。それが検察にとっては大変な見込み違いだったということです。
田原:村木さんを逮捕するにあたっては、やっぱり証言がなきゃいけない。村木さんが、やったと。これは村木さんが課長だった時代の部長からまず始まるんですか。
郷原:ええ、そうですね。
田原:部長は、私が指示して村木にそういうの作らせました、というふうに言ったんですか。
郷原:そういう任意の、在宅での供述をしたわけです。
田原:在宅?
郷原:ええ、ですから身柄は捕られてないです。
田原:部長は逮捕されてないの?
郷原:逮捕されてないです。ですから、自分は逮捕されるかも知れないっていうプレッシャーの中でそういう供述をしたんでしょうねえ。
田原:あっ、逮捕されてないの。じゃ「おまえ、言わなきゃ逮捕するぞ」みたいな話だったんだ。
郷原:そこは取り調べの時に言われなくも、そう思いますよ。
田原:ほう。
郷原:それで、場合によっては検察の判断いかんでは逮捕されるかも知れないという状況に曝されて、そういう検察の描いたストーリーに迎合するような供述をしてしまったということでしょう。
田原:その部長だけじゃなくて、係長は逮捕ですね?
郷原:そうです、逮捕です。
田原:この係長はどうやって逮捕になるんですか。
郷原:係長は、最初は嘘の証明書を書くことに関連して、嘘の稟議書を作成したという罪で先に捕まるわけです。
田原:稟議書?
郷原:稟議書です。そういう書類を作るうえで、上に伺いを立てる。これ、稟議書ですね。その稟議書に関して嘘の記載をした。虚偽公文書作成というので最初逮捕されるわけです。
田原:すぐ逮捕?
郷原:でも、もともと狙っている犯罪は公的証明書の虚偽の文書の作成ということで、最終的にはこの係長と村木さんが一緒に逮捕されるわけです。
田原:一緒にね。で、村木さんはもちろんノーでずっと貫くんだけど、係長は吐いちゃうんですね?
郷原:ええ。まあ、その過程がいろいろその後公判で係長の供述が出てくるんです。最初は、自分一人でやったんだということを言うんだけども。
田原:一人でやったんだと。
郷原:ええ、一人でやったんだと、(村木さんは)一切関係ないと。それが今回判決が認定した真実なんですよ。すべて一人でやったんだということをずっと言うです。
田原:だけれども、検事のほうがそうじゃないと。
郷原:そうです。問題は、自分一人でやったのか、それとも村木さんの指示でやったのかということなんです。
その係長である上村(勉・当時係長)氏はずっと自分一人でやったんだというふうに言ってたようです。ところが、検察官のほうが「そうじゃない、この事件は組織ぐるみでやったんだ」「政治案件ということでやったんだ」「課長からの指示でやったんだ。間違いないんだ」ということで、言うことをまったく聞いてくれない。最後はもう仕方がないということで、そういう調書に署名をしたんだと言っているわけです。
田原:佐藤優さんっていますよね、鈴木宗男さんの事件で逮捕された。佐藤さんによれば、逮捕されたとき、検事が尋問で「これは国策捜査だから、おまえがなんと言おうと、もう有罪なんだ」と、こういうことを言うんですね。
郷原:と、言ってますね、佐藤さんは。
田原:なんで検察は民主党の政治家を狙ったんですか。
郷原:それは分からないですね。当時、ちょうど西松事件で大久保(隆規)秘書が逮捕されて・・・。
田原:小沢一郎さんの秘書ですね。
郷原:この事件についても、私も批判しましたが、いろいろ批判されましたよね、検察は。
田原:これは僕の素人考えかもしれないけれど、東京地検特捜部が小沢さんをやったと、でっかいのを。なら大阪の特捜部もやらないとメンツが立たない、そんなことでやったんじゃないかな。
郷原:いや、逆じゃないですか。
少なくとも西松事件は、検察内部では決して評価されるような事件ではないと思いますよ。
田原:なんにも起きないものね、その後。
郷原:ええ。やり損ないですよ、あの事件は。だから逆に言えば、大阪は、東京がやり損ないの事件だったから、大阪はいい事件をやろうという焦りがあったのかも知れません。
田原:ああ、そういうことね。東京が失敗したからチャンスだと。大阪はドーンと成功する。で、東京を見下してやると。
郷原:そういう焦りがあったのかも知れないですね。
田原:なるほど。それにしても、西松建設の事件については、私は何人か郷原さんを含めて元検事の方に聞きました。
そしたらみんなね、これは虚偽記載が本件じゃないと、あんなもので大久保さんを逮捕するなんてあり得ないから、これはやっていけばもっと大きなものが出てくると検察は考えているといってました。
郷原:という見込みの下にやったとしか考えられないんじゃないでしょうか、もともとは。
田原:その大きいものとは、野党だから収賄ではないけども、収賄に非常に近い形のもので・・・、なに収賄と言うんですか?
郷原:斡旋利得ですか?
田原:斡旋利得、うん。斡旋利得みたいなもので挙げるに違いないと、こういうふうに言ってましたね。やっぱり郷原さんもそう思いましたか。
郷原:私は、そういうことじゃなければ、あれだけの事件であんな時期に野党第一党の党首の秘書を逮捕することはあり得ない、ということは言いました。でも、それじゃ本当に現実的にそんな事件が考えられるかっていったら、考えられないと。
田原:結局なかったんですよね。
郷原:ええ、なかったです。
田原:それで、東京の地検特捜部はこれで失敗した。恥をかいたわけだ。で、大阪はやるとなった。
郷原さんならば、その係長を強引に供述させて、やっぱりこれでいけると思うんですか。
郷原:いや、私は去年の郵便不正事件で企業関係者がたくさん逮捕されて起訴された時点で、この事件は一言で言うと郵政民営化の歪みが現れた事件なんだという見方をしてたんですよ。
田原:どうしてですか。
郷原:郵政民営化して、郵便事業も市場に対応していかないといけない、マーケットに対応していかないといけないことになりますよね。そういう中で、いちばん大きな収益が上げられるのがダイレクトメールの分野ですよ。
田原:なるほど。
郷原:ダイレクトメールの分野で郵便事業のメリットを活かそうとした。もともと郵便を配達して回っているわけで、そこにダイレクトメールを乗せればいいわけです。そういった郵便事業独特の構図をうまく利用して安い料金でダイレクトメールの受注を取っていくといったことを考えるのが、郵便事業会社のひとつのマーケット対応だったと思います。
田原:なるほど。
郷原:ところが郵便法の規定が全然変わっていませんから、価格が硬直的なんですよ。120円の正規料金の他に大口割引がありますけども、なかなか柔軟に価格設定ができない。ものすごく大量のダイレクトメールを引き受けるときにも、なかなかそれにあった価格設定ができない。
そこで、さすがにちょっと採算割れにはなるけれども、8円の障害者向けの割引で、それでものすごい数を捌いて数量の面で辻褄を合わせるという目的も、郵便事業会社側、郵便局側にもある程度あったのではないか。だから郵便事業会社が逮捕されているわけですよ。そういう意味で構造的な事件だという見方をしてたんです。
田原:なるほど。
郷原:ですから政治家が特別に口利きをして、特別な計らいでそういうことをやってやるっていうんじゃなくて、かなりもう蔓延してたと、そういう行為だったんじゃないかと思うんですよ。
田原:それにしても、民主党の議員がなんでそんなことで目を付けられるんでしょう。
郷原:ですから、これは郵便事業側に圧力をかけたんじゃなくて、そのプロセスでたまたま必要になる厚労省側の公的証明書を作るというところに、政治の力が加わったというふうに検察は考えたわけですよ。
田原:もしその人がそういう圧力を加えたとしたのなら、どういうメリットがあるんですか。
郷原:そこがよく分かんないですね。そういうのが何となく政治献金だとか、選挙でお世話になるとか、そういうふうなことを想像したんじゃないんですかねえ。
田原:もっと聞きますが、その政治家がそういう献金かなんか、そういうところから受けてるんですか。
郷原:いや、そういう話はあんまり出てないですね。
田原:なんでその人に目を付けたのか、分かんないなあ。
郷原:ですからそういう意味じゃ、政治家側の動機も要するによく分からないし、村木さんがなんでそういった不正な行為を指示しなくちゃいけないのか・・・。
田原:うん。
郷原:村木さんはなんでその政治家のために便宜を図ってやらないといけないのか。仮に上の人間がいたとしても、村木さんの側にそんな不正なことをやってまで政治家のご機嫌を取るような動機があったのか。これが後で覆されていくわけですよ。そんな事情がなんにもないじゃないかと。
田原:なんにもないですねえ、何もない。昔、佐藤欣子さんという元検事がおりまして、佐藤誠三郎さんの奥さん。その佐藤欣子さんが検事になるときに先輩から教えられた。検事っていうのはね、つまり作るんだと。
想像力をフルに発揮して作るんだと。小説家みたいなものね。で、それが正しいか間違ってるかは裁判でやればいいんだと。やっぱり郷原さんも作家のつもりで作っていくんですか、検事っていうのは。
郷原:そうですね(笑)。
田原:あっ、そうですか。
郷原:私もやっぱり昔を振り返ってみると、ずいぶん作りましたよ。自分がこういうストーリーじゃないかということを思い描くっていうことはずいぶんありましたよ。で、実際に被疑者とか参考人の側に、こういうことじゃなかったのかと話して、最終的には向こうがそれに納得すれば署名をする。
それで調書が出来上がれば、供述が取れたということで捜査を進めていったという面はありましたね。
田原:そういうもんですか。
郷原:ええ。
田原:もう一つ、村木さんは何日間拘留されたですか。
郷原:80日くらいでしたか。
田原:そうすると80日間まったく彼女は人間としての時間を失ったわけですね。
郷原:ええ。
田原:僕はね、これは無罪判決だけで済ましたらおかしいと思う。
起訴した検事を80日間くらい拘留すべきだと思う、本当は。これ無罪で終わっちゃうんだよ、こういうのは。とても悪質な事件をでっち上げた検事はなんにも責任を問われないっていうのは、どうなんですか。
郷原:そこはいろいろ意見が分かれるところだと思うんですけど、私はこういう問題で個人の責任を問うべきではないと思うんですね。
田原:だけど、検事がでっち上げたんでしょ、明らかに。
郷原:いや、でっち上げって言っても、もともとストーリーを組み立てて、それに合う調書を取っていく。そしてまあ、調書取る過程では「そうじゃない、そうじゃない」って言われても、最後なんとかして調書に署名させる、というようなやり方自体は、これはもう昔からずっと特捜部がやってきたやり方なんですよ。
田原:それじゃ、精神的か肉体的かは問わず、一種の拷問ですよね。
郷原:そうです。
田原:拷問で、係長は単独犯なのを共犯だと言っちゃったわけね。
郷原:それが、従来も特捜検察がずっとやってきた手法と基本的には変わらないんですよ、今回の大阪地検のやり方も。だから、この構造問題にメスをいれないとダメなんですよ。この組織の問題にメスをいれないと、いくら個人を罰しても、また繰り返されますよ。
田原:そのやり方が今回は裁判所にもバレた、通じなかったんだ。
郷原:さっき私が言ったように、郵便不正事件の本質は構造的な問題であって、何か特別なものじゃないですよ。それを特別のようなものと考えて、しかも政治案件、政治家が特別な計らいを要求した案件だと考えたところにまったくリアリティがないストーリーを組み立ててしまった。
田原:これがあまりに荒唐無稽だったんだ。
郷原:ストーリーにあまりにリアリティがないということが、公判の過程でもろに表に出てしまったわけです、この事件は。
ではなぜこの事件だけリアリティのなさが表に出たかというと、もともとの検察のストーリーが、何とかいい事件をやろうと、東京に対抗していい事件をやろうという思いで前のめりになってしまった。無理の程度が大きかったということもあった。
それに村木さんという女性キャリアのキャラクターですよね。どう考えたってそんな悪いことをする人とは思えないと、みんながそれを応援、支援したということもある。そしてもう一つは弘中(惇一郎)弁護士を中心とした弁護団の非常に適切な弁護があったからです。
(以下次回)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/1216
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