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http://www.j-cast.com/2010/09/22076464.html
沖縄県の尖閣諸島の日本の領海で中国の漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件は、菅政権の外交の試金石だ。2010年9月7日のこの事件で、海上保安庁は当時の状況をビデオ撮影しており、2度目の衝突について公務執行妨害の疑いで漁船の中国人船長を逮捕した。これに呼応して、中国側は、青年交流を延期したり、開催中だった日本の物産展を途中で打ち切ったり、日中閣僚間の交流も一時中止している。
日本の立場からいえば、日本の領海内の事件であるので、国内法にのっとっているだけだ。しかも尖閣列島は日本の領土であり、日本の実効支配下にあるので、領土問題自体もありえない。
危機管理能力に疑問
ところが、菅政権の蓮舫行政刷新担当相は、9月14日の記者会見で「領土問題なので、毅然とした日本国としての立場を冷静に発信すべきで、感情論に陥るべきではない」と述べた。これは閣僚として不適切発言だ。その後、その会見内容をすぐ取り消したのは、当然である。
菅政権には、こうした国としての基本的な外交問題についての危うさが残っている。外交問題では、対中強硬派の前原誠司外務相と領土問題の基本認識もない蓮舫行政刷新担当相の間には、同じ党かと思えるほど大きな認識ギャップがある。菅政権内部には、外交問題で構造的ともいえる意見の相違があるが、さらに、政権の危機管理能力にも疑問が出ている。
こうした危機管理は、官房長官が陣頭指揮で担当する。官房長官は、内閣の要であり、事実上総理の次にパワーをもっている。そのため、財務省、経産省、外務省、内閣府からの出向秘書官がいる。また、官房長官の下には3人の副長官があり、2人は政務といい政治家であるが、1人は事務で霞ヶ関官僚の最高ランクである。また、その下に官僚出身の3人の副長官補がおり、そこに、各省からの出向課長からなる「ミニ霞ヶ関」ともいえる組織ができている。
官房長官は、通常業務ではこうした組織に支えられているが、危機管理は1人で先頭に立ちやらなければならない。ちなみに、危機管理以外で、官房長官が1人でやらなければいけないのは、官房機密費の金庫番と毎日2回の官房長官記者会見だけである。
9月13日の官房長官会見で、仙谷官房長官は、「漁船の違法操業との関係でガス田協議を中止するといわれても困る。私の予測では、(船長以外の)14人と船がお帰りになれば、また違った状況が開かれてくる」と発言した
日本側は「懇願したのに等しい」
現実には、仙谷官房長官の予測は見事に外れた。しかも、領土内で国内法で対処するという基本原則からも、この発言は問題がある。公務執行妨害の疑いであれば、一定期間、船長だけでなく、船長以外の14人と船もよく調べなければいけないだろう。こうした場合、原理原則なく場当たり的に処理してはいけない。仙谷官房長官の発言は、日本としては「穏便にやりたい。船長以外と船は返すので、これでおさめて欲しい」と懇願したのに等しいわけであるので、中国側として、日本が弱みを見せたので、強硬にでてくるのは当然である。
中国は、単に日本を試しているだけでなく、これをネタに日本から大きな譲歩を得られると考えているだろう。菅直人首相は9月22日から25日まで、国連総会出席を含めてニューヨークに出張するが、温家宝首相との日中首脳会談は開かれない。
菅政権内では、11月13〜14日、横浜市で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議までに、関係修復すればいいとの意見もあるが、それは「ボールは日本にある」ということを認めるわけで中国の「責任は日本にある」と同じである。そうなると、日本は譲歩するという道にはまり込む。初期動作の失敗から負け続けるというパターンにはまりかけている。
ニューヨークで日本が米国に傾斜すれば、対中関係で助けになるだろうが、その場合は普天間問題が民主党に重くのしかかってくる。民主党の危機管理能力の欠如で、日本はとんでもない重荷を背負ってしまった。
こうした状況での鉄則は、政府は冷静に、議会は熱くだ。それは長い目でみて政府の外交対応力を高める。その意味で、尖閣問題で国会は閉会中審査を行うべきだ。もし民主党が消極的ならやはり外交オンチと言わざるをえない。
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++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。
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