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石垣簡易裁判所は19日、中国漁船と日本の海上保安庁巡視船の衝突の件にからんで公務執行妨害容疑で逮捕・送検された中国人船長の拘置期限の10日間延長を認める決定をした。これに対して中国外務省は同日夜、日中間の閣僚級以上の交流の停止、航空路線増便交渉停止(昨年4月から中断)などの「対抗措置」を明らかにし、改めて船長の即時無条件釈放を要求した。
(JCJふらっしゅ「Y記者のニュースの検証」=小鷲順造)
中国側は事態の発展に注目し、さらなる行動を起こす権利を留保するとして、船長の身柄解放を求めてきたが、事件後、東シナ海ガス田開発の条約締結交渉延期などを発表していた。さらに、今回の拘置期限の10日間延長をうけて「対抗措置」という言葉を持ち出した。姜瑜報道官は7日の定例記者会見で、「釣魚島とその周辺の島は昔から中国の領土であり、中国側は日本の巡視艇が釣魚島の周辺海域でいわゆる『権益保護』活動を行わないよう要求し、中国の漁船や人員の安全をおびやかすいかなる行為も行わないよう要求する」とも答えていた。
中国漁船は久場島の北西約15キロの日本領海内で、突然かじを大きく切って、追跡していた海上保安庁の巡視船に衝突したとされる。船長は衝突を認め、故意ではなかったと供述、漁船に乗船していた他の中国人船員14人については任意での捜査のあと、13日に帰国している。日中両国とも「偶発的な事故」との見方を示しているが、中国人船長には外国人漁業規制法違反の容疑もある。
報道によると、船長の拘置延長を受けて、中国外務省の馬朝旭報道局長が「日本側が独断専行で過ちを繰り返せば、中国はさらに強い対抗措置を取り、その結果は日本が責任を負うことになるだろう」との指摘を含む談話を発表し、改めて船長の即時無条件釈放を要求したという。
急速な経済成長を続け、世界経済のけん引役としての地歩を固めようとしている中国。日本との貿易相手国としてもその規模は米国を抜いた。その中国が、南シナ海、東シナ海と海洋権益の拡大を狙い、また経済成長を背景に軍備の拡充を急いでいる。
その根源に長く外国から収奪・侵略を受けてきた被害者意識があるのか、あるいは急速な成長が我らこそが世界の中心であるとする「中華思想」を民間レベルから浮上させているのかは不明だが、今回の「衝突」をめぐる日本との軋轢の前に、昨年(2009年)は南シナ海などで米調査船と中国海軍、米駆逐艦と中国潜水艦の間でトラブルが発生していたり、また今年(2010年)1月末には、オバマ米政権が突然、台湾への総額64億ドル(約5800億円)の武器売却決定などで米中関係が最悪化していたことを忘れるわけにはいかないだろう。このときも中国は、米中両国軍が計画していた相互訪問の一時停止や関連企業への制裁を決めている。
成長著しい中国は、日本だけでなく米国にとっても不況脱出に欠かせない重要なパートナーであるが、米国がその力を相対的に落とす中で米中のG2(2大国)化が進む世界。米国は得意のアメとムチの戦術で、中国の籠絡を図ろうとしている(中国の脅威をあおるプロパガンダは、米国のアジアにおけるプレゼンスを正当化し、米軍需産業の存立基盤を維持する上でも不可欠)。
日本が、米国にとって米中関係の緩衝材であったり、勝手に盾になったりする、米国にとって従属的な存在であることは、これまで何度も日本無視、米中「頭越し」外交で関係修復を図り、米国が結果的に主導権を確保してきたことを思えば、それは日本外交のまずさで米国が「漁夫の利」を得てきたというより、日本はそうなるように米国に対して振舞ってきたということかもしれない。これでは到底「独立国」とは言えないことは明白である。
一触即発の米中摩擦がつづくなかで、日本の民主党政権は、鳩山氏の首相当時の「抑止力」発言、菅首相「核抑止力」の必要発言、民主党代表選挙期間中の日中領土問題発言などにみられるように、急速に国際関係再構築のための視野を狭め、米国に擦り寄っていく。このプロセスを見ただけでも、米軍普天間基地問題の解決意欲など毛頭なく、解決能力となればなおさら期待できないことを露呈していく。民主党政権もなお、自民党時代の対米従属姿勢から抜け出そうとしていないことが、いよいよはっきりしてきたといえるのである。
そうしたなかでのこの「衝突」問題である。
19日、石垣簡易裁判所が、中国漁船船長の拘置期限10日間延長を認める決定を下した同じ日に、アメリカ海軍第7艦隊の揚陸部隊の司令官が、NHKのインタビューに対して、「中国が南シナ海でほかの国の船舶の自由な航行を脅かす態度を取っている」(NHK)と述べて、中国の行動に警戒感を示した、という。
NHKは20日朝、以下のように報じた。
<第7水陸両用艦隊のランドルト司令官は、19日、グアムでNHKのインタビューに答えました。この中で、ランドルト司令官は「中国は、世界の大国として見なされたいのなら、責任ある行動を取るべきだ。特に、海上での船舶の自由な航行を支援すべきだが、中国は、南シナ海でむしろ自由な航行を脅かす態度を取っている」と述べ、中国の行動に警戒感を示しました。ランドルト司令官は、中国の具体的な行動について言及しませんでしたが、南シナ海で、アメリカ海軍の調査船が、去年、中国の艦船に取り囲まれ、航路を妨害するなどの嫌がらせを受けたことや、ベトナムの漁船が中国側にだ捕されるケースが相次いでいることなどが念頭にあるものとみられます。また、ランドルト司令官は、中国の行動に備えて、「アジア・太平洋地域でアメリカ軍のプレゼンスを維持することが重要だ」と述べ、中国と南シナ海の領有権を争っている東南アジアの国と合同軍事演習などを行って関係強化に努めていく考えを示しました。>
中国は、日中の「船舶衝突」以後、現場周辺での日本の動きに対して、かなり神経質な反応を示してきた。11日には、沖縄本島の西北西約280キロの日本の排他的経済水域(EEZ)で、海底の測量調査をしていた海上保安庁の測量船「昭洋」(3000トン)と「拓洋」(2400トン)に対して、中国国家海洋局の海洋調査船「海監51」(1937トン)が約550メートルまで接近してきて、無線で「何をしているのか。船の種類は何か」と呼びかけ、昭洋が「日本国海上保安庁所属測量船昭洋である」「測量実施中」と回答すると、海監は「中国の管轄水域に入っているので、直ちに調査を中止しなさい」と要求する事態が起きている。
昭洋は「日本のEEZで正当な調査活動を実施している」と調査を続けたという(毎日新聞)。
中国側の緊張の背景には、米国との摩擦・緊張関係があり、小泉政権当時と異なり、中国との友好関係を築こうとする政権が立ち上がったはずの日本が、やはり突然、米国一辺倒の姿勢に鞍替えしたことをつかんでおり、さらに東シナ海でこれまでになく「強行」な姿勢に出てきたという印象を抱いた中国側は、国民の手前もあって、日本に対して強い態度に出る必要が生じた(政権中枢で複数意見が拮抗している可能性もあった)が、19日朝の前原外相の「偶発的な事故」の強調と、その後の18日の中国各地でのデモについて「中国当局はよくやってくれている」という趣旨の発言などもあり、様子見を続ける中で、「拘置期限延長の決定」という結論に、いよいよ面子を失った格好に置かれた中国外交部は、「日本側が独断専行で過ちを繰り返せば、中国はさらに強い対抗措置を取り、その結果は日本が責任を負うことになるだろう」との馬朝旭報道局長の強い要求へと態度を硬化させている、ということになろうか。
いうまでもなく見えてきたのは、ランドルト司令官のいうように、「アジア・太平洋地域でアメリカ軍のプレゼンスを維持することが重要」という結論めいた方向性であり、そこへ至るための米国サイドのシナリオであり、かつそこへ落とし込まれまいとする中国サイドのしたたかな対応である。結局、日本政府が両国から子ども扱いされて(米国は日本の庇護者として、中国は慇懃ななかにもパートナーにはどうしても至らない信用できない相手として)、貧乏くじを引くことになるのだろうか。米海兵隊という前線部隊の常駐を許し、膨大な予算をつけて国土に米軍の常駐・展開をお願いしてきた日本。
政権交代を成し遂げた国民世論を背景に、いまこそその状況から脱却していくべきあるのに、その足がかりさえつかみそこねてしまう(いや自ら仕事を放棄してしまう)面々。そう簡単ではない、との言い訳も聞こえる昨今だが、それではなんのための政治家なのか。職業人としての存在意義そのものを問い返さねばならないのだろうか?
中国との敵対姿勢を示すことが当然であるかのような自民党という政党が政権にいた当時ならいざしらず、そうした過去の経験・経緯から何も学ばない政党や政治家。首相や外相というのも困りものである。日本の政治がいまこそ、真の平和主義に目覚め、日本国憲法第9条の精神と理念の具体化に思いを寄せ、深めて、いかに強がってみせようが、強がれば強がるほどG2間の摩擦の代役にされ、結果としてピエロ役を演じさせられているふがいない状況から早急に脱皮していかねばならないと思う。
それは対米追従の「タカ派」前原外相が、反中国姿勢を打ち出さないで今のところ我慢しているかどうかの話の次元にはおさまらない、日本の現在から未来にかけての道のりを決定付けていくほどの大問題であることを、菅政権は早急に認識する必要がある。
(こわし・じゅんぞう/日本ジャーナリスト会議会員)
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