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http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100917/245668/?P=1
2010年9月17日
■6年ぶりの為替介入が菅首相の再選後の初仕事
それにしてもマーケットはなんとも敏感だ。
民主党代表選で菅直人首相の再選が決まったら、ニューヨークの外国為替市場では円相場が急伸し、15年ぶりに1ドル=82円台に突入した。
為替介入に積極的だった小沢一郎氏が勝っていたら、逆の効果が出たはずだ。市場は菅政権続投では劇的な景気対策は望めないとも踏んだのだろう。
さあ、菅首相にとってはこれからが正念場だ。
だいたいが、政権発足以来、ほとんど政策らしきものを打ち出せず、代表選できりきり舞いしているといわれてきた。
急激な円高に対応して6年ぶりの為替介入を行ったが、これが再選後の初仕事になったのだから、皮肉といえば皮肉だ。
中国漁船の領海侵犯事件でも中国政府からいいようにあしらわれてしまった。
在北京の日本大使が真夜中に呼び出されるという非礼きわまる措置を受けても、遺憾の意を示すだけだった。午前零時に呼び出されたのなら、すかさず、直後の午前2時ごろにでも中国大使を外務省に呼びつけて抗議するぐらいの対応をはかればよかった。
外交というのは威嚇、恫喝なんでもありの世界であって、互いに承知の上で蹴り合うのが「国際常識」だ。
外交交渉の「人質」となるはずだった漁船と船員も早々と帰してしまった。中国側は日本政府の弱腰にむしろあっけにとられているのではないか。
ぎりぎりのチキンレースを演じてはじめて事態打開策が出てくるのであって、中国側に強硬姿勢を転換できる余地を残してやらなくてはいけない。それが外交ではないか。
■党内を真っ二つに割る巨大な「反主流派」が出現
菅首相には代表選で勝って安堵している余裕はない。
まずは党内の亀裂をどう修復させるか。人事が当面の最大課題となる。
敗北した小沢氏は「一兵卒として民主党政権のためにがんばる」などと殊勝な言い方をしているが、こういうときの小沢氏が一番怖い。
臨時党大会での代表選で、国会議員投票では、菅氏206人(412ポイント)、小沢氏200人(400ポイント)というわずかな差になった。
党内を真っ二つに割る巨大な「反主流派」が出現したことになる。
「選挙が終わればノーサイドの精神で」などというのはきれいごとであって、菅首相がここで間違えると、とんでもない事態に襲われかねない。
代表選は小沢氏に「復権」の場を与えた、という見方もできるのだ。
マスメディアの世論調査では菅氏が60%台の支持を集め、小沢氏への支持は20%にも達しなかった。それにもかかわらず200人の国会議員が票を投じた意味合いは無視できない。
そこの政治力学を見据えるべきであろう。
小沢氏への投票について、「選挙で世話になったから」「小沢剛腕神話にとりつかれている」といった解釈だけですませようとすると、間違えることになる。
■「大差がついた」という印象とは、ずいぶん異なる
メディアの大半は、代表選の結果について、菅氏の「大勝」「圧勝」と報じた。
たしかに獲得ポイントだけ見ると、菅氏721ポイント、小沢氏491ポイントで230ポイントもの差があるのだから、大差の勝負であったように見える。
だが、そこに錯覚がある。
党員・サポーター票は、菅氏249ポイント、小沢氏51ポイントだ。これがポイント数で引き離した最大の要因となった。地方議員票は菅氏60ポイント、小沢氏40ポイントだった。
得票数で党員・サポーター票を見ると、違う様相があらわれる。菅氏13万7998票、小沢氏9万194票。ざっくりいえば、6対4ということになる。
党員・サポーター票は衆院小選挙区ごとに上位得票者が1ポイント得る仕組みだ。小選挙区制と同様、得票数との間に乖離(かいり)が生じ、「死票」が生まれるのである。
党員・サポーター票を地方議員票と同様にドント式で配分すれば、650ポイント対560ポイントぐらいになる。大差がついたという印象とはずいぶん違うものになる。
小沢氏に肩入れして、電卓をはじいているわけではない。選挙結果の実相を知る必要があると思えるからだ。
菅氏の陣営では国会議員票で負けるのではないかという懸念もあったようだが、かろうじて6人上回ったことでほっとしている。だが6人の差というのは3人が違う投票行動をしていたら同数になったということだ。
国会議員投票では欠席2人、無効3人が出た。これも成り行きによってはさらに複雑な結果になっていたかもしれない。
■菅首相には「大勝」ムードに酔っているヒマはない
菅首相としては、「大勝」ムードに酔っているヒマはないということがよく分かる。
そこまでの深刻な認識があるかどうか、それが党・内閣人事で試されることになる。
それにしても、一般世論に抗して200人もの国会議員がなぜ小沢氏に票を投じたか。「3カ月でまた首相が代わるのはよくない」「刑事被告人になる可能性のある人が首相の座に就くのはどうか」といった指摘も根強かった。
ここは、「選挙の恩義」「剛腕神話の呪縛(じゅばく)」といった解説では追いつかないものがある。その政治力学をとことん考える必要がありそうだ。
つまりは、このまま菅政権が存続しても、衆参ねじれ構造の前に早晩立ち往生して、「追い込まれ解散・総選挙」という事態がやってくることを予感したのではなかったか。
小沢氏の場合なら、別の人を首相にする「総代分離」もあり得ただろうし、公明党やみんなの党などとの連立工作も可能と踏んだのではないか。展開次第では自民党も巻き込んだ「大連立」も予測できた。
菅首相はテーマごとの「部分連合」で乗り切る構えを示していたが、その実現可能性はおぼつかない。
小沢氏に投じた200人にはそうした思いが強烈に働いたに違いない。
であるならば、菅首相に残された「打倒小沢作戦」としては、小沢氏なら着手したであろうことを逆手に取って、ねじれ解消のための「参院での多数派工作」を進める以外にない。
■「菅VS小沢」の第2ラウンドはあり得る
もっといえば、3役を一新した自民党の谷垣執行部との大胆な妥協工作だ。これが発展すれば、小沢氏の向こうを張った大連立となる。
自民党には昨年の衆院選惨敗以来、党の立て直しや集票マシーンの再構築が進まず、選挙準備も遅れているという事情がある。
政権復帰願望は強いのだが、代表選挙の付随効果で支持率を高めている民主党に比べ、その存在感はなんとも希薄なままだ。
菅首相側としては、自民党につけ入るスキはあるのだ。代表選が終わって、政治攻防はまたたくまに次のステージに移るのである。
小沢氏の転換は早い。
これまでの政治行動を振り返っても、奈落の底に落とされたかのように見せておいて、不死鳥のごとくによみがえり、以前よりも政治力を強化しているということが何度もあった。
「菅VS小沢」の第2ラウンドがあり得ると見るべきだろう。そう考えると、代表選が行われた臨時党大会での両氏の決意表明はあきらかに落差があった。
小沢氏は冒頭で「政治とカネ」の問題について謝罪し、内外政策全般にわたって所信を表明した。
「官僚支配の140年のうち40年を議員として戦い抜いてきた」「自らの政治生命の総決算として最後のご奉公」「官僚の国から国民の国へ立て直し、次の世代にたいまつを引き継ぐ」といった高揚感あふれる内容だった。
インフレターゲット政策にまで言及するなど、景気対策、デフレ克服への積極的な姿勢を見せた。
■ 政治的な「練度」の未熟さが透けて見える 菅演説
菅氏はどうか。「世の不条理に立ち向かう精神」「国民の信頼」を強調し、小沢氏への対抗心を燃やしたのは分かるとしても、以下の部分はなんとも奇異に映った。
あえてその部分を紹介する。
<わが党の中には会社員から経営者まで、そして、公務員、知事、市町村長経験者、地方議会、国内外の議員、議会スタッフ、議員秘書、政党職員、労働組合、シンクタンク、金融機関、弁護士、裁判官、検事、公認会計士、税理士、フィナンシャルプランナー、社労士、司法書士、行政書士、気象予報士、ジャーナリスト、アナウンサー、ツアーコンダクター、派遣社員、神主、僧侶、牧師、医師、歯科医師、医療介護関係者、看護師、薬剤師、団体職員、学者研究者、学校の塾の経営者、学校幼稚園の先生、保育士、俳優、スポーツ選手、農業、林業、牧場経営、植木職人、自衛官、NPO、NGO、国際機関、薬害被害者など、本当に多種多彩な背景と経験を持った方が集まっておられます。>
ここには50ぐらいの職業が羅列されている。テレビで演説を聞いていて、いつ終わるのかと危惧したほどだ。
多彩な議員の集まりが民主党の強みであり財産であると強調することで、「全員内閣」を印象付けようとしたのだろう。
だが、いま必要な「挙党態勢」とはどうにも次元が異なり、あまりに内向きだ。そこに政治的な「練度」の未熟さが透けて見える。
菅首相が克服すべきものを象徴しているようでもあった。
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