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http://jp.wsj.com/Japan/Economy/node_104726
最近の円高進行に関する解説の大半は、日本の輸出企業に対する潜在的影響を中心としたものだ。だが、円高、とりわけ円高をきっかけとする株式市場の低迷は、日本企業が直面している別の深刻な問題への注意を喚起している。
その最大の問題の1つが企業年金制度だ。長引く長期金利の低下や株価の低迷、円高に、迫り来る会計基準の変更が相まって、深刻な退職年金不足への懸念が高まっている。
一定期間に退職する従業員の割合に関する詳細なデータは公表されていないが、市場代表性の高い400銘柄を選定した「NOMURA400」を構成する企業の1社を例にとると、従業員の平均年齢は39.3歳だ。定年退職年齢を60歳前後と想定すると、残勤続年数は約20年になる。
これら従業員の大半が確定給付年金の対象者だ。すなわち、雇用主は毎年、金額の確定した退職年金を給付する義務を負う。この義務をきちんと果たすため、企業は、当期利益の一部を積み立てた投資ポートフォリオを持っている。問題は、それらの投資ポートフォリオから得られる利益が十分でないことだ。
年金不足には、少子高齢化をはじめ近年生じているいくつかの要因が関係している。その1つは、長期金利の低下がこの先も長期にわたって持続する可能性が高いことだ。そのため、企業が年金基金の不足額を算出する際に用いる「割引率」を引き下げざるを得なくなる可能性がある。
割引率とは、ポートフォリオの運用で得られると想定したリターンだ。割引率の低下は、期待収益率の低下を意味するため、退職給付見込額を確保するためには前払い拠出金の増額が必要になる。
一方、足元の株価低迷も、いずれ年金ポートフォリオに悪影響を及ぼしかねないことを示唆している。格付投資情報センターの調査によると、2010年4-6月期の平均収益率はマイナス5.6%で、7月以降については、おおむね0%となっている。
年金不足は今後、急激に深刻化するとみられる。われわれの試算によると、割引率の設定に使用する長期金利が現在の平均約2%前後から1.5%に低下し、今年の平均年金運用収益率がマイナス5.6%になるとすると、NOMURA400に含まれている企業の今期の年金不足額は10兆円近く上積みされ、28兆4000億円になる。
さらに、この問題を悪化させかねないのが、会計基準の変更だ。企業会計基準委員会は、企業に、退職給付不足額を即時に貸借対照表に負債として計上することを義務付けることを提案している。現行の基準では、従業員の平均勤続年数分の不足額だけを計上すれば済むため、若年従業員に対する不足額の大部分を計上せずに済んでいる。
このほか、新基準では、年金数理上の見積もり方法も変更が必要になる。例えば、昇給率については、より現実的な数値を用いた見積もりを行わなければならなくなる。年金給付制度の多くが、退職者がすでに稼いだ給与額を基準としていることを考えると、非常に大きな問題だ。この新基準が採用されれば、企業年金は、企業の年次の会計処理にこれまでにない多大な影響を及ぼすことになる。
年金不足は複数の深刻な影響をもたらしかねない。不足額を減らすには、退職給付債務を圧縮するか、退職給付資産を増やす必要がある。年金給付額を削減するには、従業員の事前の同意を得なければならないため、難しいだろう。
退職給付債務を長期的に減らす方法の1つとして、確定拠出年金制度への移行が挙げられる。この制度では、雇用主が従業員に対して一定額を拠出し、それを従業員が自ら運用する。今後日本では、こうした確定拠出型の年金制度が増えるとみられる。確定拠出年金制度を採用している企業は、01年時点では8万8000社であったのに対して、昨年時点は350万社にまで急増している。
年金資産を増やす方法としては、単純な現金注入は、財務体質の弱い企業にとっては困難だろう。別の唯一の選択肢はポートフォリオの再編だ。この場合、年金ポートフォリオの価格変動の大きい資産をただちに軽減しなければならなくなる。
そうなると、現在の市場トレンドからして、企業は国内株を売却し、債券と外貨建て資産市場を増やすこととなる公算が大きい。企業年金基金は日本の株式市場の主要プレーヤーであるため、それら基金が国内株を売り始めれば、株価低迷が長引き、その結果、年金基金不足はますます深刻化するという悪循環に陥ることになる。
こうした年金不足問題を解消する最善の方法は、景気拡大と会計監査の厳格化だ。景気が上向けば、収益の拡大によって年金基金を補強できるのみならず、ポートフォリオの資産価値も上昇する。このため、政策当局は、外国人投資の誘致による株式市場の活性化と、国内の個人投資家にとって有益な施策の導入に注力する必要がある。
日本の年金問題は、多くの先進国にも共通している。決して克服不能な問題ではない。だが、年金をめぐる一部の問題が徐々に現実化するなか、基金運用者や投資家にとっては変化に向けた覚悟が必要だ。
(西山賢吾氏と中西弘士氏は、野村證券金融経済研究所投資調査部のシニアストラテジストとストラテジスト)
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