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NHK(日本放送協会)の看板討論番組「日曜討論」の司会役などとして知られていたNHK解説委員室の影山日出夫副委員長が五六歳という若さで死去したのは、八月一二日午後のことだった。既に伝えられている通り、自殺によるものだ。
NHKなどによれば、影山副委員長は一一日夕、東京都渋谷区神南に位置するNHK放送センター西館八階のトイレ内で、ネクタイを使って首を吊っているところを同僚らに発見された。職場の机上に遺書のようなメモが置かれており、これを不審に思った同僚らが局内を捜索、ぐったりと倒れていた影山副委員長を見つけて病院に搬送したという。
NHK関係者によれば、影山副委員長が自殺の直前に書き残したとみられるものの中には、こんな文言が綴られていた。
「頭と心のタンクが空っぽになった」
都内寺院での葬儀に職員を大量動員
影山副委員長は早稲田大を卒業後、一九七六年にNHKへ入局した。福岡放送局を経て八二年から報道局の政治部記者として活躍し、首相官邸や自民党の清和会担当などを歴任。その後は平日早朝の看板番組「おはよう日本」の編集責任者なども務め、二〇〇〇年からは政治担当の解説委員として「日曜討論」の司会などを担当し、〇八年から解説委員室の副委員長に就いていた。
そんな影山副委員長の自殺理由は不明だが、あるNHK報道局記者は「影山さんは少し前から、非常に重い鬱病に苦しんでいたようです」と語り、各週刊誌の報道などでも「病気説」が最有力視されている。ただ、自殺の真相をめぐっては最近、当のNHK局内でこれとは全く異なる”真の理由”がもっともらしく流布されている、という。NHKの中堅幹部がこう打ち明ける。
「局の上層部は影山さんが病気を苦に自殺したという線で押し通したい意向のようで、都内の寺院で行なわれた葬儀も報道局や政治部が集合をかけ、社葬並みの職員を大量動員しました。しかし、病気を苦にした人間が職場内で、それも勤務時間の真っ最中に自殺を図るというのは少し不自然ではないでしょうか。そのせいもあり、局内では『別の理由』が自殺の真相なのではないかと指摘されているんです」
NHK局内で囁かれている解説副委員長自殺の「別の理由」とは何か。同じ中堅幹部が続ける。
「官房機密費問題です」
司会が自民党寄りだったとくすぶる批判
「国の事務または事業を円滑に遂行するため機動的に使用する経費」。表向きはそう説明されている官房機密費の正式名称は、「内閣官房報償費」である。本誌読者ならご存じかもしれないが、時の官房長官の判断で支出され、ここ数年の規模は年間約一四億円。使途に関する記録を残す必要はなく、会計検査院のチェックも及ばない。
本来は国内外での極秘の情報収集や、海外で日本人が巻き込まれた事件の水面下交渉などに使うのが主な目的と位置づけられているものの、自民党政権下では国会対策やメディア対策のために幅広くバラまかれてきたのは周知の事実となりつつある。
特に小渕恵三政権下の一九九八年七月から翌九九年一〇月まで官房副長官を務めた野中広務氏が最近、幾人かの政治評論家に一〇〇万円単位の機密費を配っていたと暴露し、大きな波紋を呼び起こした。この問題は本誌五月一四日号の本欄でも詳述しているが、野中氏は具体的な政治評論家の名を明かさなかったものの、過去には著名評論家の実名を列挙した官邸秘密文書が流出したこともあり、新聞やテレビといった大手メディアの政治記者も官房機密費の”恩恵”を被っていたのではないか、という疑惑が拡散している。
そして、この官房機密費を影山解説副委員長も受け取っていたのではないか、という噂がNHK内部で駆け巡っているのだという。前出のNHK中堅幹部が言う。
「政権交代を間近に控えていた二年ほど前から影山さんが官房機密費を受け取っていたのではないか、と言われているんです。与野党の有力政治家を招く『日曜討論』での影山さんの司会ぶりは、どう考えても自民党側に偏っていたし、政権交代直前の『日曜討論』は酷かったという声は当時から局内に燻っている。ところが民主党政権が発足し、この事実が週刊誌などで報じられるような事態になれば深刻な打撃を受けると恐れをなしたNHK経営陣が、健康問題を理由として影山さんに退職を迫っていた、と噂されています」
別のNHK報道局記者もこう打ち明ける。
「もちろん事実は定かではありませんが、影山さんは受け取った機密費で私腹を肥やしていたわけではなく、局上層部に”上納”していた、とも囁かれています。しかし、記者一本で生きてきた影山さんにとって、NHKを追われるのは死に等しい。だから、思い悩んだ末に”最後の抵抗”として局内で自殺を図ったのではないか、という噂がもっともらしく流れているんです」
機密費問題の闇に斬り込むのがメディアの責務
断っておくが、これはあくまでも噂に過ぎず、影山副委員長がNHK局内で自殺を図った真の理由は現時点で謎というしかない。ただ、こうした噂が流布されること自体――それも、当のNHK内部でもっともらしく流布されていること自体に、「公共放送」と位置づけられるNHKと日本の大メディアをめぐる深刻な病が潜んでいるように思える。
前記した通り、野中広務氏の爆弾証言をきっかけとし、大手メディアの政治部記者たちも「背広代」などの名目で機密費の”恩恵”に浴していたのではないか、との疑惑が一部週刊誌などで伝えられている。また、新党大地の鈴木宗男代表は一部メディアに対し、一九九八年の沖縄県知事選挙に際して与党候補者を当選させるため三億円もの機密費が投入された、とも打ち明けている。
政権与党が自らに有利な選挙結果を導き出す”実弾”として機密費を使っていたとするならば、信じ難いスキャンダルにほかならないが、新聞やテレビといった大手メディアは機密費の実態解明に乗り出す気配はない。また、メディア記者がどのような形であっても政権の秘密資金である官房機密費などを受け取っていたとするならば、ジャーナリズム組織としての信頼を根本から揺るがす深刻な事態に発展する。
だとするならば、メディアは自ら積極的に機密費問題の闇へと切り込んでいくべきではないか。そして、万が一にも一部記者が機密費を受け取っていたとするならば、徹底した事実関係の公表と断固とした対応を取らねばならない。逆に機密費など受け取っていないとするなら、濡れ衣を晴らすためにも徹底調査が必要だろう。
詰まるところ、影山副委員長の自殺理由をめぐって、NHK局内で「機密費授受」をめぐる噂が拡散してしまうのは、当のNHKをはじめとするメディアがそうした作業を怠っていることの証左ともいえるように思えてしまうのだ。
(本誌メディア取材班)
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