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特集ワイド:なぜかいつも政局に小沢さん 6氏に聞く
「政局」。国民不在の権力闘争が永田町に吹き荒れるとき、中心にはいつもこの人がいる。今また、菅直人首相との全面対決に踏み切るかに見せて、首相との会談に臨もうとしている小沢一郎・民主党前幹事長。その足跡から浮かび上がるものは何か。政界通、人間通の6氏に聞いた。【宮田哲、平野幸治、根本太一】
◇役には立たず−−自民党政調会長・石破茂さん
新生党、新進党では一緒でしたが、利用価値がある時は徹底的に利用して、なくなれば捨てる人でした。私は小沢さんこそ真の保守と思い、羽田孜元首相の政治改革への情熱に心酔していました。当時党内で安全保障問題の議論をした。「日米同盟よりも国連が優先される」という小沢さんの考えに異を唱えると「分からなければいいんだ」と。96年秋に離党しました。
今の小沢さんは、グループを率いる「役割」はしても、日本の「役」には立っていない。国民を、日々の暮らししか考えず安全保障や税制改革を語っても無駄と断じて、ばらまきを約束して選挙に勝てばいいと信じている。でも、勝って何をやりたいかは見えません。つじ説法をしろというが、自分の選挙区は歩いているのか。有権者を大事にしているようには見えない。
小沢さんに言うことは何もない。「自分の考えが分からないやつはバカか志が低いかだ」と思っている方ですから。首相になれば国の終わりです。財政規律は破壊され、テロ対策の給油活動を「憲法違反」と反対するのだから、日米同盟は終わるでしょうね。
◇流れ一変の力−−元経済企画庁長官・田中秀征さん
小沢さんは自ら人を裏切らない、口が堅い人だ。私は新党さきがけにいた時、細川連立政権で首相特別補佐を務めたが、政権誕生の時も骨格人事はもれなかった。
だが、多数を占めれば何でもできると考える選挙結果至上主義は疑問だ。昨年12月にあった天皇陛下と中国要人との会見が特例で設定された問題で、宮内庁長官を記者会見で批判したのは行き過ぎだった。政治とカネの問題で国会で自ら説明する姿勢がないのもおかしい。だからあまり人気がない。菅政権は能力が疑われながら、小沢さんの復権への警戒感に救われている。
しかし、内向きのまとまりのみを気にした政治は先細る。非常識なまでの蛮勇を振るい、流れを一変させられるのは小沢さんしかいない。菅政権は無投票で続いても早晩行き詰まると思うから、代表選で真剣勝負をするべきだ。政治姿勢、政策で激突する中で、どちらが勝っても国民への約束が明確になる。「原点回帰」が旗印の小沢さんが勝てば、菅さんが捨てた「政治主導」に本気で取り組むだろう。それこそ我々が望むことだ。有終の美を飾ってほしい。
◇引退潮どきかも−−作家・あさのあつこさん
小沢さんは政界の敵(かたき)役・アンチヒーローですが、自民党の衰退を促し、一党支配を終わらせるのに貢献した。それに線の細い政治家が増える中にあって、あのアクの強さは確かに異色ですよね。
一方で、中国に大勢の国会議員を連れて行き「数の力」を誇示する手法は、あまりにも庶民感覚からかけ離れている。21世紀にふさわしい政治家ではないと感じます。
この夏、たくさんの方が熱中症で亡くなられました。お金がなければ生きていけないという状況が、この国に生まれつつある。政治は有効な手を打てていませんが、その一因に、小沢さんのような古い政治家の存在があるという気がしてならないんです。その意味では、もう引退の潮どきなのかもしれません。
代表選をするなら変化への好機とすべきです。菅さんは「反小沢」ではなく、やりたい政治を自分の言葉で訴える。小沢さんは、ありのままの小沢一郎をさらして、国民の判断を仰いでほしい。
そしてもし、「小沢抜き」の政治が実現したら、そこから何が生まれるかを見たい。猶予の時間はないんです。
◇もう描かない−−漫画家・弘兼憲史さん
「加治隆介の議」という政治漫画を描いていたとき、小沢さんには何度もお会いして取材しました。新生党のころだったかな。当時は理想に燃える、理念のある政治家に見えたものです。主人公のモデルではありませんが、登場人物に反映させています。
でも結局は大衆受けを狙うバラマキ政治家に過ぎなかった。僕は民主党のマニフェストを全く認めませんが、少なくとも菅さんが修正しようとしているのは評価できる。小沢さんが首相になれば、財源がカラになっても実行しようとするでしょう。暗たんたる気持ちになります。
民主党は左と右、水と油が共存している政党です。放っておけばサラダドレッシングのように分離するのを、小沢さんが上手に瓶を振って一体に保ってきた。しかし、ここで代表選になれば、禍根を残すのは確実です。それでもあえて立とうとしたのは、自分への捜査をやりにくくする検察へのけん制の意味もあるのではないか。
「まとめては壊し」を繰り返し、日本の将来よりも自らの立場を第一に考える……。僕はもう、彼を漫画に描きたいとは思いません。
◇必要な鉄仮面−−ファッションデザイナー・ドン小西さん
小沢さんは本音の見えない人ですね。紺色のスーツは襟の芯を固めてしわ一つない。シャツものりとアイロンで固めて、ネクタイも太めです。ファッションって、人の内面のかがみなんです。生き様や生い立ち、思想、魂胆などを表すんですが、彼は鉄仮面のよう。スキを見せません。プロ中のプロという印象です。話す口調も硬いでしょう。
その点、鳩山由紀夫前首相は分かりやすかった。新鮮味がなく、ぼんぼんそのもの。場の空気も国民の痛みも読めない人。菅さんは緊張感なく無精で、新しい提案や想像のできない政治家と思う。事が起きてから動く主義。日本には多少の荒療治が必要なのに成り行きを見て対応するんです。
首相がコロコロ代わるよりは菅さんの続投が好ましいと思うが何もしない、結果も出ないのでは仕方ない。小沢さんはカネの面でグレーだし、本音を見せず分かりづらいが、建前を言っている時じゃない。経済大国になった経緯を見れば戦後の政治家は皆、グレーだった。21世紀にふさわしい人が現れるまではとりあえず、小沢さんのような「昭和の政治家」も必要だと思います。
◇笑えば可愛い−−ジャーナリスト・江川紹子さん
小沢さんは検察審査会の審査を受けている。今後「起訴すべきだ」と議決されても、まだ有罪判決ではない。メディアは首相が起訴に直面した場合の混乱などを想定し、出馬自体を批判しているが、それはおかしい。出馬は小沢さんの自由だ。肝心なことは、リスクを取っても首相にしたい人物かどうかではないか。
菅さんは衆院選マニフェストへのこだわりがなく、何をしたいか分からない「方向不明」な人。小沢さんにはたたかれてもつぶれない「胆力」がある。首相になり、地盤沈下した日本を引っ張ってもらうのもいいかもしれない。米中のバランスを取った外交など長年考えた方向性もあり、国民との約束も気にかけている。官僚も使いこなすだろう。
それに、ダーティーなイメージがあるが、笑うと結構可愛く実像は魅力的な人かもしれない。でも、メディアを通して感情を伝えるのは下手なのでは。照れ性でテレビカメラの前なんかでニコニコできるかと思っているのか。ただ、国民はメディアを通じて政治を知る。仮に首相になるなら、コミュニケーション能力のある官房長官がいた方がいい。
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毎日新聞 2010年8月31日 東京夕刊
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