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■ようやくここまで…
あらかじめ周到に準備した上での満を持しての勝負だったのか。それとも進むも地獄、引くも地獄の状況に追いつめられ、乾坤一擲の大バクチに出たのか−。
民主党前幹事長、小沢一郎が代表選出馬を表明した26日の昼。国会近くのビルの一室で、小沢支持の中堅・若手の議員グループ「一新会」が会合を開いた。
「ようやく、ここまで来た…」
約20人が参加したなかで1人涙ぐむ議員がいた。小沢の元秘書で最側近の衆院議員、樋高剛だった。「首相になりたがらない男」と言われた小沢が決断したことで、「小沢首相」が夢だった樋高は高ぶる感情を抑えられなかった。
26日朝、小沢が前首相、鳩山由紀夫に出馬を伝えた後、小沢と面会した衆院議員、岡島一正は説明した。
「小沢先生は昨夜まで出るか出ないか決断していなかった。(首相の)菅直人さんが挙党態勢を拒否したこと、鳩山さんが支持すると言ってくれたこと。この2点で出馬を決めた」
小沢にしてみれば、菅執行部が「脱小沢」の姿勢を改めることが、菅の再選を認める最低条件だった。菅が小沢かその側近を幹事長などの重要ポストで処遇しない限り、党内での小沢の求心力・影響力はじり貧となっていくからだ。
鳩山が「優しい私が仲介に入る」と間に立って両者の取り持ちを試みたが、菅の態度は硬かった。これには、東アジア共同体構想など自身の路線継承に不熱心に見える菅に対し、かねて不満を抱いていた鳩山の方がキレてしまった。
「鳩山さんは狂ってしまった」
鳩山グループ幹部はあきれるが、鳩山は自分のグループの意見集約も行わないまま小沢に支持を伝え、そのままロシアに旅立った。
この日朝、小沢から電話で出馬の決意を告げられたベテラン議員は語る。
「小沢さんが、勝てる状況ができていないのに勝負に出たのは初めてじゃないか。最後の最後まで相当悩んでいたようだ」
■小沢の秘策
小沢は「政治とカネ」の問題を抱え、検察審査会が不起訴判断の是非を検討中だ。各種世論調査でも、7〜8割の有権者が「政府や党の要職に就くべきではない」と答えている。
閣僚からも「起訴される可能性がある方が代表、首相になることには違和感を感じる」(外相の岡田克也)と露骨に牽制されてきた。側近も「もちろん支持率は、小沢政権ができたら低いかもしれない」(国対筆頭副委員長の松木謙公)と冷静に見ている。
首相に就任すれば、予算委員会などで野党の集中砲火を浴びることも間違いない。メディアの追及もさらに厳しさを増すだろう。
数多い不利な材料に逡巡していた小沢の背中を押したのは、1時間以上にわたった25日夜の菅と鳩山の会談での菅の一言だった。
鳩山「小沢さんをしかるべき要職に就けるべきだ」
菅「それはできない」
鳩山「党の仕切りはこちらでやらせてほしい」
菅「それなら、党最高顧問でどうか」
最高顧問は、長老議員の「名誉職」にすぎず、何ら実権はない。鳩山と小沢はこれに憤った。一新会の中堅議員は強調する。
「売られたケンカは買うということだ。『出ない、出られっこない』と言って出るように追い込んでいったのは向こうの方だ」
菅は民主党と小沢率いる自由党が合併した翌年(平成16年)から、毎年小沢邸の新年会に顔を出している。副総理だった今年は乾杯の音頭もとった。手のひら返しが過ぎるというわけだ。
首相としての理念や、円高・株安、米軍再編など山積する課題よりも、「菅は許せない」(小沢周辺)との私情が優先した格好だ。
出馬にあたり小沢には「秘策」があるとの観測もある。それは代表に就任しても首相には就かず、自民党やみんなの党などに首相ポストを譲って「大連立」を仕掛けるというものだ。
この場合、反小沢勢力は党を割って出るかもしれず、政界再編も必至だ。永田町はいま、異様な緊張に包まれている。
■仙谷を外せ
「党分裂かな。(官房長官の)仙谷由人さんが強気でやりすぎた。でも、(前幹事長の)小沢一郎さんに幹事長ポストを渡すわけにはいかないじゃないか」
政務三役の1人は嘆く。鳩山グループ幹部も「チキンゲームが本当の瀬戸際に来た感じだ。仙谷さんがやりすぎた」と話す。
仙谷は平成15年に小沢が民主党に合流したときから、一貫して小沢に批判的だった。「挙党態勢」を求める小沢サイドに対し、 20日の記者会見ではこう突き放している。
「私自身は現時点でも挙党態勢で、みなさんしかるべき部署で頑張っていただいているな、と思う」
いわばゼロ回答だ。閣僚の1人は「仙谷さんは、『オレを敵役にして菅に対する(小沢勢力からの)風が弱まればいい』と言っていた」と明かすが、逆効果だったのかもしれない。
25日夜の菅と前首相、鳩山由紀夫の会談では、鳩山は小沢サイドの意向として仙谷の任を解くよう求めたが、菅はこれも拒み、「小鳩」より仙谷を選んだ。
「出て壊し、戻って壊す小沢流」
菅は党代表時代の10年11月の党両院議員総会で、小沢が率いた自由党が自民党と連立で合意したことをあてこすりこんな自作の川柳を披露したことがある。
歴史は繰り返す。菅はそれから5年後、代表としてその「破壊者」を民主党に招き入れ、いま党を壊されかねない状況に陥った。
■支持拡大作戦
民主党代表選は9月1日の告示を待たず、すでに「交戦状態」にある。菅、小沢両陣営による票固めはもう始まっている。
「小沢グループは根っこは自民党旧田中派だから、大ローラー作戦と大電話作戦で党サポーターを切り崩す。これから2週間、地方で小沢がサポーターに囲まれるシーンがテレビで流れる。得体の知れない盛り上がりで小沢が勝つよ」
ベテラン秘書はこう予想する。サポーターには菅より小沢に親近感を抱く連合の組合員も多い。
さらに小沢は26日、元首相の羽田孜(つとむ)、旧社会党系グループ幹部で前農水相の赤松広隆らを回り、支持を取り付けた。ただ、鳩山グループ会長の大畠章宏は面談要請を断っている。
菅は26日、自らの再選支持を表明している元衆院副議長の渡部恒三や元財務相の藤井裕久らに直接電話し、選挙対策本部の役員就任を要請した。
「再選させていただいたら、本当に命をかける覚悟で臨んでいきたい」
菅はこの日、首相官邸を訪れた衆院当選1年生議員14人に表明した。出席者の1人は「戦う菅直人になっていた。菅さんは、敵が生まれて初めてオーラが出てくるな」と語った。
■小沢の首相観
小沢は過去に心臓病を患ったことや、有名な説明嫌い・説明下手ということもあり、周囲に「7〜8時間に及ぶ予算委員会などでの質疑は耐えられないのではないか」とみられてきた。
また、自分が表に出るよりも裏で実権を握るのを好むとも言われてきた。だが、民主党代表時代の言動を振り返ると、決して首相就任を拒んではいない。
「国民が選べば仕方がない。天命に従う。そうでなければ代表なんてやっていない」(19年7月の産経新聞のインタビュー)
「わが党が衆院でも過半数を得れば、私自身がその責任を負わなくてはならないのは当たり前だ」(20年5月の記者会見)
今回の出馬表明について周辺は「小沢さんは腹くくったね。表に出て決着をつけようっていうことだ。予算委も証人喚問も覚悟したんじゃないか」と語る。
これに対し、菅は26日夜、記者団に「(25日の会談で)鳩山さんには、『小沢さんの了解がなくしては何も決められないという形はあまり良くない』と申し上げた」と強調した。
同時に「挙党態勢を拒否するなんてことはあり得ない」と訴えたが、もはや小沢に歩み寄るタイミングは逸している。
「バイタリティーや言動一つ一つとっても、小沢さんてすごいな…」
菅は26日夜、都内の寿司店で首相補佐官の寺田学らと会食した際、こうつぶやき、小沢を率直に評価した。一方で、過去20年間にわたり、常に政局の中心にいた小沢が築いた「一つの時代」を乗り越えることに強い意欲を示したという。
かつて、その独裁的な志向・発想から「左の小沢」ともいわれた菅と、小沢とは、政治家として「両雄並び立たず」という宿命だったのだろう。
◇
40年以上の長きにわたる衆院議員生活の集大成として、民主党前幹事長の小沢一郎が代表選に名乗りを上げた。迎え撃つ首相の菅直人との、政治家生命を賭けた死闘の幕が開いた。党分裂、政界再編の予兆をはらみ、政界は未踏の地平へと向かう。 (敬称略)
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/100827/stt1008270114005-n1.htm
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