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信念の人、仙波敏郎 副市長が語る阿久根(1)
クローズアップ2010年8月16日 13:13
8月2日、鹿児島県阿久根市の副市長に仙波敏郎氏(61)が就任した。仙波氏は、愛媛県警の警察官として、同県警の裏金問題を告発。一躍、時の人となった人物である。今回NET-IBニュースでは、竹原信一市長への取材に続き、仙波氏への取材を行なった。腐敗した警察組織のなかで孤独な戦いを続けてきた仙波氏にとって、阿久根市の現状はどのように映っているのか。竹原市長との出会い、副市長就任の経緯を含め、インタビューを行なった。
(聞き手・弊社行政班 山下 康太)
―今まで仙波さんのことをご存知だった方は、まさか仙波さんが阿久根市の副市長になるとは思われなかったでしょう。竹原市長との出会いは、どういった感じでしたか。
仙波 ご存知の通り、私は警察にいまして。退職してからは、裏金のことで講演活動をしていました。私と同じように、群馬県で講演をやっている元警官がいるんですが、彼は裏金を告発したために、「でっちあげ」で逮捕されたんです。そして、彼は懲戒免職の処分を受けた。その彼の講演の席で、私はとある群馬県の市議会議員さんと知り合いました。その市議会議員さんは、実は竹原さんとブログ仲間で、私のことをブログに書いたそうなんです。それを見た竹原市長が、私の本を読み、私に会いたいとオファーを出してきました。それが、今年の5月です。そのとき、私がたまたま群馬にいたもので、ちょうど竹原さんも東京に来ている、と。それで、会うことになりました。
―初めて竹原市長と会ったときの印象はどうでしたか。
仙波 私は、彼(竹原市長)のことは「アウトロー」とか「独裁者」とか「ワンマン」だとか、ある意味「悪の権化」のように思っていました。そういう報道が多いですから、そう思っている方も多いと思います。「どんな男なんだろう」という興味もありました。
でも、会った瞬間に、彼はそんな人間ではないとわかりました。私も、42年間警察で飯を食ってますから、ある程度は人を見る力もあると思っています。彼は、初めて会ったときにネクタイをしていたんですが、かなり無作法な締め方をしていたんですよ。だから、僕は注意したんです。彼は、すぐに直しました。市長たるものが、元警官に「ネクタイがなっとらん」と言われたら、普通は反発しますよ。でもね、彼はパッと外して結び直した。こんなことのできる人間は、「悪の権化」ではありません。性格も素直です。それで24時間話しました。彼のやろうとしていることは、もちろん法的にはいろんな問題が生じます。しかし、私には理解できました。
―副市長になった経緯についてお聞かせください。
仙波 初めて会ってから2ヵ月が経った頃、竹原さんから「もう一度会いたい」と言われたんです。「阿久根の市役所に入ってもらいたい」と。そこで、2人で三日三晩話しました。そして、私は、彼がしている行政改革は本物だと確信したわけです。そして、7月17日に阿久根市に来ました。いろんな調査をして、いろんな議員の方にも会って、役場にも市長室にも入って。最後に、市役所の職員の市民に対する態度を見て、これでは駄目だと思いました。職員は「してやってる」という感覚なんですよ。行政は市民へのサービスです。市役所に市民が来られたら「いらっしゃいませ」と言ってもおかしくない。市役所の職員は、もっと感覚を切り替えなければいけない。そういうわけで、私は20日にもう一度市長室に来て、この話を受けます、ということを言って帰ったんです。
―非常に短い期間で決められたわけですね。
仙波 私は、一週間足らずで彼(竹原市長)の人間性と、やりたいことがわかりました。だから、この話を受けることを決めたのです。
(つづく)
【文・構成 原薗裕樹】
<プロフィール>
仙波 敏郎(せんば としろう)
1949(昭和24)年2月14日愛媛生まれ。愛媛県立松山東高等学校卒。67年、愛媛県警察官採用試験に満点で合格し、採用後最初の試験でもトップの成績を収める。73年には同期で最も早く巡査部長昇任試験に合格するも、裏金作りに必要として上司から依頼された偽領収書の作成を拒否。以後、定年まで巡査部長の階級に留まることになる。05年、現職の警官としては初めて裏金問題を告発。定年退職後は、裏金問題についての講演活動を行なう。10年7月、阿久根市長・竹原氏の専決によって同市の副市長に選任され、8月2日に就任した。著書に「現職警官『裏金』内部告発」(講談社)がある。
http://www.data-max.co.jp/2010/08/_1_54.html
信念の人、仙波敏郎 副市長が語る阿久根(2)
クローズアップ2010年8月17日 09:52
―仙波さんは竹原市長にどう思われているとお考えですか。
仙波 彼(竹原市長)は、「仙波さんの生き様は誰にも真似できない。これだけ信念を通してきたことは、非常に尊敬に値する」と言っています。しかし、私は何も特別なことをしてきたわけではありません。警官として"当たり前のこと"をしてきただけなんです。他の全ての警官が裏金に手を染めて、年間で何10万、何100万というお金を手にしていても、私だけが偽の領収書を書きませんでした。1円も受け取っていません。
―裏金問題について、竹原市長はどのように言っていますか。
仙波 私は当たり前のことをしただけです。竹原市長も、「当たり前のことをするのが(警察のなかで)仙波さんひとりなのか」と言っています。だから、そういうふうに信念を通してきた私に対して、彼なりに評価はしてくれていると思います。
―政策面においても、ふたりの間で何か通じるところはありましたか。
仙波 私と竹原市長とでは"やり方"が違います。彼は、目的を遂行するためなら、「これしかない」というふうに考えるわけです。だから、議会を開かない、市長の方針に反する職員は懲戒免職に処する。しかし、この感覚は、民間企業では通用するかもしれませんが、市役所という公務員が働く場では違ってくるのではないかと私は思っています。もちろん、その職員が竹原市長の指示に反したのは事実ですから、いったん係長の職に戻した上で、私の言う基準に従って、それなりの処分に切り替えるつもりです。
―仙波さんは、議会の開催と懲戒免職の職員の復職を宣言しているわけですが、そのことについて竹原市長はどのように言っていますか。
仙波 彼(竹原市長)は、「仙波さんにお任せします」、「仙波さんの好きなようにやってください」と言っています。しかし、私と彼とでは"やり方"が違うと言いましたが、目指すところは同じなんです。彼は、「早く結果を出したい」と考えているからこそ、いろいろと厳しいことを言っているんですが、私は、もう少し時間がかかってもいい、他にも方法はあるはずだ、と思うわけです。だから、私は竹原市長とのバトルは辞しません。二人でバトルをして、最終的にどちらが公益かということを判断する。そうやって、これからもいろいろな事柄を進めていこうと思っています。
―仙波さんは、竹原市長の補佐として動くのではなく、ふたりが議論を交わすことでより良い行政を作っていこうと考えているわけですね。
仙波 そう捉えていただけると幸いです。私が阿久根市役所に入ることで彼(竹原市長)が今後も信念を貫けるのであれば、ということで私は市役所に入りました。私は彼の生き様が好きですから。ただ、彼は行政のトップとしては素晴らしい価値観を持っていますが、今のままでは誤解を招くことも多い。だからこそ、私がスポークスマンとして、いろいろな方にお会いして、お話ししているんです。
http://www.data-max.co.jp/2010/08/post_11338.html
信念の人、仙波敏郎 副市長が語る阿久根(3)
クローズアップ2010年8月18日 08:01
―副市長という役職に就いてくれ、と頼まれたときは、どのように感じましたか。
仙波 私は、私の立場については、アドバイザーでも顧問でも構わないと思っていました。しかし、アドバイザーとして入ってしまえば、市長に意見を言うことはできますが、職員の方々には何ら意見を言うことができません。また、私は60歳を過ぎていますから、一般の職員としては入れません。そういうこともあって、竹原市長は副市長というポジションを用意してくれたわけです。
ただ、いきなり副市長という役職に就いてしまうと、誤解を受けてしまうのではないか、と思いました。やはり、立場も給料も高いですから。そこで、いろいろな方に相談しました。私なりにも、何か他の入り方はないものかと考えました。それでも、最終的には「これしかない」という結論に行き着いたのです。
―竹原市長の「専決」については、どのようにお考えですか。
仙波 実は、私には全国に85人の弁護団がいるんです。彼らにも相談して、いろいろなアドバイスも受けて。それでも、結局は司法(裁判所)の判断を仰ぐしかない。「適切か不適切か」という問題については、誰にでも論じることはできますが、「適法か違法か」という問題については、裁判所にしか論じることはできません。ですから、私は無給で副市長という役職を引き受けたわけです。
―無給というのは、最初の約束で決められていたのですか。
仙波 そうです。最初は「専決でゼロ(無給)にしてください」と頼んだんですが、それでは今の規定を考えると寄付という違法行為になる、と彼(竹原市長)が言ったので、ひとまず給料の金額を下げることで話をつけてもらいました。それから、残った金額を供託することにしました。供託金というものは、取りに行かなければ国のものになります。もし、私が仕事をしたことに対して、市民の皆さんが「これなら仙波にも4割カットの給料を払ってもいい」と言ってくれたときには、供託しているお金については考えますが、何の仕事もしていない、何の結果も出していない状態では、私は給料なんて受け取ることはできません。
―竹原市長も自らの給料を4割カットしていますが、これについてはどう思っていますか。
仙波 私は、彼(竹原市長)が自らの肉を切り血を流すような人でなければ、ここには来ていなかったと思います。彼の手段は少し強硬すぎる部分もありますが、私は彼が素晴らしいことをしていると考えています。どれだけ、自分が公益のために頑張れるか。大切なことは、公益というものに対して、自分なりのポリシーを持てるかどうか、です。
http://www.data-max.co.jp/2010/08/post_11354.html
信念の人、仙波敏郎 副市長が語る阿久根(4)
クローズアップ2010年8月19日 08:00
―副市長として就任した当初は、阿久根の市政に対してどのような印象を持たれていましたか。
仙波 私が就任して3日が経った頃には、この阿久根市役所で働く職員の駄目なところがはっきりと見えていました。もちろん、竹原市長の"やり方"が厳しいために、市長と職員との間に乖離(かいり)があるということは否めません。市長と職員との間に、明らかな気持ちの上での差があるわけです。しかし、私には竹原市長の方針も職員の気持ちも理解できました。その上で、職員の方々に対して、かなり厳しいことも言いました。
―その「問題点」について、既に何かしらの対応をとったということですか。
仙波 はい。5日には緊急課長会議を開きました。室内で勤務しているわけでもないのにスリッパを履いていること、市長や副市長に対して挨拶もしないこと、8時半からと決められている朝礼をダラダラと始めていること...。これらのことについては、早急に手を打つように言いました。その代わり、例えば有給休暇をとりにくい風潮があるという点については、しっかり仕事をしているのであれば、当然(休暇を)とるべきだと指示しています。
―その後、職員たちの様子に変化は見られましたか。
仙波 今では、私が指示したことは全て守られています。実は、市民の方々からも、「仙波さんが来てから(市役所が)ガラッと変わった」、「市長が良くなった」という声をいただいているんです。ただ、私は竹原市長が変わったとは思っていません。彼は、簡単に人の意見に左右されるような、そんな柔(やわ)な男ではありません。よく誤解されるのですが、「仙波さんは、彼が振り上げた手を下ろすために阿久根に来たんだろう」と言う方がいます。彼は、最初から何も振り上げてなどいません。当たり前のことをやっているだけなんですから。彼に会って話をしてみれば、誰にでもわかることだと思います。
―竹原市長に会ったこともないような人が、彼の批判をしているわけですね。
仙波 事前抑制というものは、誰にでもできるんですよ。行く前から、会う前から、ああだこうだと意見を言うだけのことならね。ですから、私がやっているのは事後抑制です。実際に彼(竹原市長)に会って、彼のやりたいことを理解した上で、彼と議論を重ねる。そうやって出てきた結果をもとに、市民の皆さんには私が副市長として就任した意義を判断してほしいと思っています。
―竹原市長との接点を持つことが必要だ、ということですか。
仙波 そうですね。ですから、懲戒処分の職員も復職させて、議会も開いて、労働組合との接点も設けているんです。ただ、勘違いしないでほしいことがあります。それは、お互いに議論をするのは、あくまで公益のためだということ。自分たちの権利だけ、幸せだけを求めるような議論は、もはや無に等しいのですから。
http://www.data-max.co.jp/2010/08/post_11372.html
信念の人、仙波敏郎 副市長が語る阿久根(5)
政治2010年8月20日 08:00
―竹原市長反対派の議員については、どうお考えですか。
仙波 断言します。阿久根が「第2の夕張」になるまでは、反対派の議員の方々は心変わりすることはないでしょう。竹原市長は、誰よりも阿久根の危機というものをわかっているんです。子供や孫の時代になって、今よりも借金が増えていたのでは大変だ、と。しかし、なぜ反対派の議員の方々は、それを理解して一緒に動こうとしないのか。このままでは、阿久根はつぶれてしまいます。
―反対派の議員の方々は、どのように言っているのですか。
仙波 そもそも、私が礼を尽くしてお会いしたいと言っても、それすらも拒否する議員が多いんです。10人のなかの7人とは、いまだに会っていません。3人とはお会いしましたが、そのうちの1人などは、こんなことを言っていました。「仙波さん、国からお金をもらったらいいんだよ」、「県からお金をもらったらいいんだよ」と。国や県のお金は、全て税金です。もらえばもらうほど、国や県の借金が増えるんです。自治体から借金を減らしていこうと考えるなら、やはり自分たちが骨を切って血を流さなければいけない。自らの既得権益を守ることしか考えていない議員が、いまだにいるんですよ。
―今後は、人件費の削減などに取り組んでいくということですか。
仙波 本当は、人件費に関しても、職員の方々が「これでは駄目だ」と言ってくれるのを待ちたいんです。しかし、それでも言ってくれないときには、こちらから提案していきます。将来的には20%減まで持っていきたいと思っているのですが、これを竹原市長は瞬時にやろうとしている。でも、それではさすがに酷ですから、いくらか年数をかけて、それでも他の自治体よりは早く、市民の方々に20%減までは理解をしていただきたいと思っています。
―他にも、これに取り組んでいきたい、ということはありますか。
仙波 もちろん、この市役所における行政改革のなかで最も大事なことは人員の削減です。今は240名の職員がいますが、私は120名で十分だと考えています。民間の方が1円のお金を稼ぐためにどれだけの汗を流しているのか、職員の方々にも感じてほしい。そして、そうやって市役所をスリムにした結果として出てきた人件費は、市民の皆さんに使っていただく、と。これが最終目標ですね。ですから、今は現職の職員に案を作らせているところです。
―あくまで、自発的な方向で持っていきたい、ということですね。
仙波 そういうことです。職員の方々が自発的に動くようになってくれれば、もう私は阿久根には必要ありませんから、そのときは愛媛に帰るつもりです。
http://www.data-max.co.jp/2010/08/post_11389.html
信念の人、仙波敏郎 副市長が語る阿久根(6)
政治2010年8月23日 08:00
―市役所の職員から、何らかの要望や意見は出ていますか。
仙波 ある職員が、自分のセクションの職員を増やしてほしい、と言ってきたことがあります。その理由を訊くと、「職員が自分しかいないとき、市役所へ来てくれる方への接待をするために、トイレに行けないことがあるから」と言うんです。だから、1日で何人の応対をするのかと訊いたら、平均で15人ぐらいだ、と。1日で15人の応対をするだけで年収800万円の職員が、トイレに行けないことがあるから職員を増やしてほしい、と言っているんです。そういう発想の職員もいる、ということです。「トイレに行くから少し待っていてください」と言えば、市民の方は待ってくれるんですよ。職員をひとり増やすために、どれだけのお金が必要だと思っているのか。まったく進歩がありませんよね。
―そのことについて、竹原市長は何と言っていますか。
仙波 竹原市長は、「これでも良くなったんですよ」と言っていました。いかに以前がひどかったか。私なんか、この10日間で昼ご飯を食べたことなんてほとんどありません。今日も、まだトイレにも行っていないんです。来客の方々が入れ代わり立ち代わりですからね。でも、行政は市民へのサービスです。私のようにしなければいけない、とは言いませんが、そのくらいの意識は、感覚の切り換えは必要だと思います。
―職員の方も、阿久根に住んでいる市民であることに変わりはないと思うのですが、市民と職員の間に隣近所でのふれあいといったような交流はないのですか。
仙波 やはり、市民の皆さんは「公務員の人はいいね」という気持ちを持っています。給料の格差が大きすぎるんです。だから、どうしても、そこに接点を見出すことは難しい。年間で8,000人以上の方が生活苦で自殺していますが、そういった理由で自殺するのは公務員ではなく民間の方々です。この問題に対する解決策は、ただひとつ。官民格差をなくすこと。「あんたも大変だね、自分たちも大変だよ」という意識を持つことです。
―人件費の削減には、経費を切り詰める以外の目的があるということですね。
仙波 そうです。市民と職員との間にある垣根を取り除くんです。そして、市民も職員も一緒になって、地方自治とはどうあるべきか、ということについて考えていきたい。そういう時期にきているのだと思います。一身の既得権益だけを追求するような議員だけの話ではないんですよ。議会だって、夜の6時半から開けばいい。土日に開いてもいい。そうすれば、市民の方も参加できますから。本当に一生懸命に公益のために頑張ろうと考えている人が政治に参加するためには、そのくらいのことはやってもいいと思います。
―政治家が政治屋になってしまっている、ということですよね。
仙波 ただ、もちろん、金持ちしか選挙に出られないということではありません。これからは、職業議員という時代ではないんです。仕事をした上で、夜や土日に議会を開けば十分にクリアできる話ですから。政治を一生懸命にできない議員の方には、去ってもらいたいですね。
(つづく)
http://www.data-max.co.jp/2010/08/post_11411.html
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