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月刊日本編集部ブログ
平成22年8月23日発行(転載了承済)
日本国民は滅びの道を選択した
─── 7月11日の参議院選挙で与党は大敗を喫し、「ねじれ国会」となった。その中、民主党政権は政権担当能力を疑問視され、七月末からの臨時国会でも防戦に追われる一方だった。また、「みんなの党」の躍進をはじめ、新自由主義路線を掲げる勢力も息を吹き返し、郵政改正法案の成立も危ぶまれている。
亀井 いよいよ、日本は滅びの道に入ったのだと思う。
昨年末の衆議院選挙による政権交代は、長らくの戦後政治の大転換として、対米自立に踏み出す契機となるはずのものだった。私はそれを「対米自立は神の声だ」「CIAが亀井静香を暗殺しないかぎり、民主新政権はアメリカの言うなりにはならない」と、アメリカにも直接言ったし、『月刊日本』誌でもたびたび表明してきた。だからこそ、我々国民新党は民主党と手を握り、連立を組んだのだ。 私が郵政改革法案にこだわるのを、マスコミは「郵政票が欲しいからだ」「小泉純一郎への個人的恨みだ」などと矮小化して報道しているが、マスコミは日本が対米自立に踏み切ることを恐れ、邪魔したいからこのような歪んだ報道を行うのだ。私は広島六区という選挙区から選出されており、前回の選挙まで一度も応援してもらっていないし、献金などしてもらったこともない。また、小泉純一郎元首相には個人的恨みなど何もない。小泉元首相の推進した対米追従・新自由主義政策が日本を徹底的に破壊してしまうから、それを正しい方向に直さなければならないと言っているだけだ。
だが、今回の「ねじれ国会」によって、再び対米追従路線に政権が引きずり込まれていくのならば、日本はもはや自主自立など望むことはできないのではないか、このまま滅びて消えてなくなるのではないかと考えている。
7月11日の参議院選挙を、私は「湊川の決戦だ」と言った。かつて楠木正成は正統なる皇統のため、日本のために、負けると分かりきっていながらも少数を率いて逆賊・足利尊氏の大軍に挑み、敗死した。7月11日の敵は誰か。それは愚かな国民だ。自分さえよければいい、自分が金儲けをできればいい、他人が飢えて死のうと自分には関係がない、という悪しき個人主義に身も心も染め上げられ、助け合い、いたわりあうという日本人らしさそのものを見失った愚かな国民を相手に戦ったのだ。
日本人は日清・日露の勝利から愚かになった
─── なぜ日本人は愚かになってしまったのか。
亀井 これは一朝一夕の問題ではない。今から100年以上前、日清・日露戦争に勝ったあたりから、国家としても、国民としてもおかしくなり始めたのだ。
それまで、日本は朝鮮半島、中国大陸から文明を享受する側だった。もちろん、大陸との間には文化的交流だけではなく、覇権争い、属国化への抵抗という外交的緊張もあった。だが、我々は大陸を侮るということはなかった。だが、日清・日露、そして韓国併合を経て、われわれ日本人は中国人をチャンコロ、韓国人をチョン、ロシア人を露助と公然と侮蔑するようになった。人間として、謙譲の美徳を失い、傲岸不遜になってしまった。自意識が肥大化し、自分たちはアジアの一員だということを忘れ、西洋列強の一員と自らを認識し、西洋帝国主義の真似をし始めた。
政治的にはこの国家としてのひずみは太平洋戦争での敗戦という形で訪れた。この敗戦の衝撃で、日本人は魂まで抜かれてしまった。GHQの占領政策の老獪さを指摘する論もあるが、私は、この敗戦を日本人として再生する契機として捉えることをできなかった我々そのものに、根本的な原因はあると考える。GHQによって我々が洗脳されたというよりも、日清・日露以来の騎り高ぶりの倣慢な心がそのまま続いていたのだ。それが、バブル経済、小泉改革による弱者切捨ての新自由主義の跳梁跋扈をもたらしたのだ。
戦前の日本の政策について、過酷な世界政治・経済状況下にあって、日本としてはやむをえないことだったとする論もある。なるほど、当時の政治指導者たちにとって、それらは苦渋の決断であったかもしれない。しかし、それは政策への弁護になりうることはあっても、日本国民の質的劣化への弁護にはまったくならない。
小泉改革とは、まさに第二の敗戦だった。金融の力で敗戦したのではない。我々日本人の心が根絶やしにされてしまったのだ。日本人の心とは何か。家族を大事にし、お互いに助け合うという精神ではないか。今、それがどこにあるか。111歳の方がすでに30年以上前に亡くなっていながら、その間、年金を受領していたという問題が発覚し、次々に同様の事例が指摘されてきている。自分の親を埋葬し弔うことよりも、黙って年金を受け取るほうが「経済効率がいい」と考えるような畜生道に日本人は堕ちてしまったことの象徴ではないか。
大相撲の世界でも問題が起きているし、畏れ多くも皇室にまつわる報道でも色々なことが取りざたされている。これらを一つ一つの現象として個別的に考えるのではなく、日本という国家、日本人という国民そのものが、何かおかしくなってしまったのではないか、取り返しがつかないほど魂が腐ってしまったことの表象として現れてきたのではないかと考えなければならない。
新しい世界秩序の中で日米安保を考えよ
── 小泉改革の象徴「郵政改革」を改革することこそ、対米自立、日本再生の一丁目一番地と位置づけていた。
亀井 経済効率だけで政治を行ってはいけないのだ。もちろん、優秀で能力のある人問が自らの能力を発揮して金儲けをすることは否定しない。だが、政治はそのような発想に立ってはならない。郵政ネットワークは、過疎地域で最寄の銀行もないご老人たちも利用できる、政府が保証する金融ネットワークでもあり、どんな山奥でも郵便物が届くインフラであり、郵便局員が一人暮らしの方とも交流をできる社会ネットワークだった。それを、郵貯のカネをアメリカに差し出すために「非効率だ」「赤字運営だ」と経済効率だけを掲げて日本社会をずたずたにしたのが小泉改革だった。竹中平蔵に至っては、「いい生活をしたいのならば東京に出てくればいい」とまで言い放った。先祖の墓があり、生まれ育った土地で死にたいという人間の気持ちがわからないのか。そんなことを言わねばならないほど、日本人はおかしくなってしまったのか。私は泣きたい気持ちになる。
いまだに小泉改革を支持し、「郵政改革」改革に反対しているマスコミも悪いが、それ以上に、今本当に僻地、過疎地で辛い生活を送っている人々のことに思いが至らない国民そのものの性悪さは、救いがたい。
─── 普天間問題は、対米自立の一里塚となるどころか、鳩山政権が崩壊し、いよいよ対米従属路線に傾く結果をもたらした。菅内閣もこの事態を打開できずに迷走している。
亀井 鳩山前首相には文句を言った。対米対等、対米自立と言いながら、5月末の解決などというできもしない約束をしてしまった。要するに、事務レベルでの動きにズルズルとひきずられ、文字通りの意味で「政治主導」などできず、外務官僚、アメリカ側では国防総省の官僚たちとの既定路線を追認するだけだったのだ。
真の政治主導であるのならば、対米交渉は国防総省ではなく、ホワイトハウスそのものと行わなければならない。アメリカは今後、アジア政策、極東の安全保障政策をどのように構築していくのか。そして、その中で日本の果たすべき役割とは何かを総論として議論し、提案し、交渉し、その結果として各論としての普天間問題などを考えるべきだった。
官僚というのは保守的なもので、その発想は旧態依然たるものだ。それは秩序が安定している時代には大きく力を発揮するだろう。ところが、世界が大きく変化している中、旧来の発想しかできない官僚に主導権を与えては物事はうまく進まないのだ。日米安保が持つ意義も、9・11事件以後、大きく変化しつつある。新しい世界秩序の中で日本がどのような役割を果たすべきかを提示していくことこそが日本の政治家の使命だ。惰性で日米安保さえ維持しさえすれば日本の安全は大丈夫などという考え方はもはや通用しない。
ところが鳩山政権はそうした大きな構想もないまま、普天間に移設しない、県外だ、国外だと最初から見通しもない約束を掲げて、結果として事務方にひきずられ、沖縄県民のみならず国民全体に不信と失望を与えた。
私は何とか政権への打撃を最小限に食い止めるべく、「普天間から出て行くことになったはずのトリ(米軍)が戻ってきてしまった。ならばせめてトリカゴ (キャンプ・シュワプ)に閉じ込めておくべきだ」と説得した。そして、そもそも騒音・安全などは米軍が解決すべき問題なのだから、米側に騒音・安全対策をとるよう要求すべきだ。
───公約違反として、社民党は政権離脱した。
亀井 私はなんとしてもこの民主党政権下で対米自立を果たすべきだと考えるし、そのために、社民党の福島瑞穂党首も政権離脱しないよう説得した。5月末までの県外・国外移設決定などという実現できないことが分かりきっていることを掲げて、政権離脱すべきではない、政権にとどまることによって、少しずつでもじわじわと現実を動かすことを考えるべきだと説いた。県外・国外移設を主体としつつ、日米安保という大きな枠組みの議論を提示していくべきだと言ったのだが。
要するに、普天間だ、いや、県外・国外だという議論には、軍事力とは何か、軍事力の行使とは何かという根本的な認識が欠けているのだ。この10年で世界政治構造は大きく変わっている。もはや、軍事力そのものが国家間の関係を決定する最後の、最大の力ではなくなっている。
日本の抑止力という問題にしても、あそこに移せば海兵隊の輸送に30分かかる、などという議論ではダメだ。抑止力とは何か、アメリカと日本は極東の安全保障をどのように構築していくのか、その中で基地はどこにあることが一番望ましいのか、それは本当に沖縄でなければならないのか、こういう議論がなされるべきだし、それが結局、アメリカの新世界戦略にとっても有益なこととなる。そして、それによって何よりも日本の自立があるのだ。抑止力をアメリカに頼るという発想自体が、自立からは程遠い。抑止力とは、自国は自分の力で守るということだ。
ところが、そういう議論は国民は嫌がるのだ。必ず、沖縄ではなく、他の県に米軍移設という議論も出てきてしまうからだ。沖縄県民さえ苦しみに耐えれば安全保障が担保されるというのなら、沖縄には苦しんでもらいましょうという、他人のこと、まして国家そのもののことなどまったくない。今や、日本人には日本国民としての連帯意識もない。
こんなありさまでは、とても日本に将来はない。
これからは対米従属派と自立派の職烈な戦いだ
─── 政治家は国民の将来に絶望してはならないのではないか。
亀井 絶望などしていない。私は戦いを決してやめない。私が滅び、国民新党が滅び去ったとしても、日本国民はこうあるべきだ、日本人の精神とはこうだ、と訴えたことは必ず後世に残る。それが残るかぎり、いつか、日本国民は必ず再生する。
さきほど、私は「湊川の決戦」と言った。足利尊氏は勝利し、室町幕府=北朝はつかの間の栄華を誇ったが、その魂が現代にまで残っているのは尊氏ではなく、滅びたはずの楠木正成だ。正成の忠誠とは何だ。真の日本のために、咲くをいとわず散るをいとわず、ねぼり強く、しかも何も実ることを期待しないで力を尽くしていくことだ。
私の戦いはそういうものになっていく。私は与えられた状況の中で、最善を尽くし、力の限りを尽くしていく。
─── 今後、政権与党の一員としてどのように「ねじれ国会」を乗り切っていくのか。
亀井 国民新党は真の日本に戻ろうと国民に呼びかけたが、国民は耳を傾けず、議席を与えてくれなかった。国民に呼びかけても無駄ならば、政権の内部で革命を起こすしかない。今、与党に問われているのは、国家のために党派を乗り越えることができるか、党利党略に堕さずに、真の日本のあり方を考えることができるかだ。
政権与党は今後、法案について柔軟に議論していくことも必要になる。だが、真に日本のためになるものについては、「伝家の宝刀」を抜く覚悟も必要だ。
私は衆議院で社民党を説得して政策合意を取り付けた。これによって、民主党と社民党、そして国民新党をあわせれば再可決が可能な三分の二議席を確保できる。「伝家の宝刀」はすでに用意した。あとは、民主党が返り血を浴びる覚悟でこれを抜くことができるか、まさに政治家としての力量が問われることになる。
昨年の衆議院選挙で、民主党は「国民の生活が第二と訴えた。それは、相互に思いやり、相互にいたわりあう日本人らしさの回復だ。小泉改革は「伝家の宝刀」でもって、国民を斬り殺した。だが「伝家の宝刀」は国家を裏切り、国民を侮蔑する逆賊を斬るためにこそある。それが政治家の覚悟というものだ。
── 秋の臨時国会では民主党と国民新党との間に、郵政改革法案を成立させることが合意されている。
亀井 何度も言うように、郵政改革は対米自立の一丁目一番地だ。これに対して、アメリカは陰に陽に、ありとあらゆる手段で抵抗してくるだろう。だが、何としてもこの法案は実現する。そのときこそ、日本人が「アメリカよ、思い通りにはならないぞ。日本には同じ日本人を大事に思う連帯の精神があるんだ」と、百年の魂の眠りから目覚めるときなのだ。
そのためには、まず、政治が手本を示す必要がある。日本の自立と自尊の姿を満天下に示す必要がある。これから始まるのは、対米従属一派と対米自立派との、凄絶な権力闘争なのだ。
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