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民主党政権は、公務員人件費に本気で切り込むつもりがあるのだろうか。政権公約(マニフェスト)で「国家公務員の総人件費を2割削減」としているが、その具体的な道筋をいまだに明らかにしていないのだ。
国家財政は危機に直面し、来年度予算の財源確保のめどさえ立っていないのに何とも鈍い。
野党からは「労組を有力支持団体とする民主党は公務員人件費に手を付けられるはずがない」との指摘も出ているが、政権発足から1年が経過しても動こうとしないのでは、こうした批判もやむを得まい。
無駄の削減による財源確保に限界があることも、消費税を含む税制の抜本改革が必要なことも、かなりの国民に理解されてきている。ただ、公務員の待遇を「聖域」にしたまま増税議論が先行したのでは、国民は納得しまい。政府・民主党は一刻も早く、公務員制度改革の全体像を示さなければならない。
もちろん、民主党政権が公務員人件費削減案の検討をしてこなかったわけではない。だが、これまでの検討内容を見る限り、場当たり的で、首をかしげたくなることが少なくない。
第一に、国家公務員の一般職の月給とボーナスをそれぞれ引き下げるよう求めた人事院勧告に注文を付けようとしていることだ。
人事院が今月10日に、平成22年度の国家公務員一般職の年間給与を平均で9万4千円(1・5%)引き下げるよう求めたが、これに対し政府・民主党内から勧告を上回る切り込みを求める声が上がった。
人事院勧告のままでは、国の歳出は790億円の削減にとどまり、政権公約の「総人件費2割削減」で見込む1・1兆円に遠く及ばないからだ。玄葉光一郎公務員制度改革担当相(民主党政調会長)は「国の財政状況を踏まえれば、国民の理解を得るためにも厳しい姿勢で臨むべきだ」としている。
民間企業であれば、経営が傾いた際にはボーナスカットや賃下げを迫られるケースも少なくない。同じ理屈で言えば、雇い主である国の財政が厳しいのだから、国家公務員の給与が下がるのも“当然”ということであろう。
だが、現行の人事院勧告制度を前提に考えると、こうした理屈は少々乱暴ともいえる。勧告は、深刻な財政状況を反映する仕組みとはなっていないからだ。
人事院勧告は、争議権など公務員の労働基本権が制約されていることの代償措置である。人事院が給与や労働条件の見直しを内閣と国会に示す制度であり、民間の賃金動向を調査し、格差を是正する。民間準拠が前提で、そもそもが給与の大幅カットを想定していない。切り込みをしたとしても限界はある。
もし、財政状況得の悪化を理由に給与の大幅カットに踏み切れば、反発する公務員によって訴訟に発展する事態も想定されよう。歴代内閣が一部の例外を除いて勧告を受け入れてきたのもこのためだ。
現行の人事院勧告の在り方を変えない限り、公務員人件費に大きく切り込もことは困難ともいえる。同じ民主党内からも「現状では勧告を尊重すべき」との意見が相次ぎ、足並みはそろわない。一部議員の意気込みだけで、空回りしているのが実情であろう。
では、人事院勧告という仕組みそのものがなくなれば、給与の大幅カットは実現するのだろうか。
民主党は政権公約で「労使交渉を通じた給与改定など様々な手法により、人件費等を削減」ともしている。公務員への労働基本権の付与して人事院勧告をなくすことが、人件費削減の有効策になると考えているようだが、こうした考え方自体が第二の疑問だ。
労使交渉となったとしても、必ず給与の引き下げになるとはかぎらないからだ。むしろ、交渉の行方によっては給与はアップするであろう。労使が対立して話し合いが長期化することだって想定される。交渉のテーブルに就く労働組合の存在感がこれまで以上に増すことにもなろう。
一方で、政府側の窓口を担う人はかなりタフな交渉力を要求される。民主党は、何かと「政治主導」を掲げるが、選挙や政務が避けられない政治家がその責任を果たせるのだろうか。
菅直人首相は、何のために公務員に労働基本権を付与するのかを、もう一度整理し、国民にその目的と効果をきちんと説明すべきだ。
第三の疑問は、国の出先機関の地方移管に伴い、そこで働く国家公務員を地方公務員身分に移管するというアイデアだ。
無駄な仕事をなくし、公務員を適正な数にして組織のスリム化を図ることは当然のことである。だが、移管では問題の根本解決にはつながらない。
地方に負担を押しつけるだけだからだ。地方財政も逼迫(ひっぱく)している。地方に受け入れを要請する以上は、その人件費相当の税源を地方に移さない限り、自治体は納得しないだろう。これでは国家公務員人件費が削減されたとしても、国全体で考えれば効果は見込めない。
国と地方自治体が似通った仕事を行っている「二重行政」が整理されるべきであって、そこで働く国家公務員を地方に移管するのは全くの筋違いである。
さらに首をかしげたくなるのが、新規採用の抑制だ。鳩山政権下で「おおむね半減」の方針が打ち出されたことは記憶に新しい。
確かに、民間企業でも経営が悪化すれば新規採用の抑制に踏み切ることは多いし、定数削減の手段の一つではある。
だが、民主党政権の新規採用抑制は民間とは少し事情が違う。天下りあっせんの全面禁止との引き換えの苦肉の策として考え出されたものであるからだ。
新規採用者を絞り込めば人件費削減にはつながるであろうが、民間の採用抑制というのは組織のスリム化とセットでもある。
これから社会に出ようという若者にのみ「しわ寄せ」が及ぶようなやり方は許されるはずがない。新規採用を抑制すれば、組織の年齢構成にゆがみが生じ、職場の士気の低下を招くことにも配慮しなければならない。
一方で、人事院は公務員定年を段階的に65歳まで延長するための意見を年内にまとめる考えも示している。定年延長の流れ自体は否定するものではないが、これが、さらなる新規採用抑制につながるのでは、組織は活性化しない。
ポイントはベテラン職員の給与水準をどうするかだ。どういう仕事を任せるのかにもよるが、相当程度の引き下げはやむを得ないだろう。
危機的な国家財政を考えれば、公務員人件費の全体的な削減は避けられない。だが、給与水準や定員をいたずらに削減するだけで済むとも思えない。
日本を取り巻く環境は内外とも激変しつつある。官僚組織を、新たな課題に迅速に対応できる「機能する組織」に、どう生まれ変わらせるかも問われているのだ。
やる気のある公務員の能力を引き出すためには、年功序列ではなく、メリハリのきいた給与体系にすることも検討しなければならないだろう。これまでのような省庁別採用の見直しや、有為な人材をどんどんと中途採用することも求められよう。
玄葉氏は「2割削減」に関する工程表をつくる考えを示しているが、菅政権には、その場しのぎの対応ではなく、地方公務員を含めた公務員制度の抜本改革の青写真を早急にまとめることが求められている。(論説委員)
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