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「4日間、決まったスケジュールがなかったので久しぶりにリラックスできた」――。
軽井沢で夏休みを過ごしていた菅首相がきのう(15日)、久々に報道陣の会見に応じ、笑顔満面でこう話した。その後、帰京して全国戦没者追悼式で公務に復帰したが、いや、ホトホトおめでたい総理だ。
首相が避暑地で涼みながら読書を満喫した4日間、この国の経済は世界の激動にのみ込まれた。自国優先の欧米列強の思惑と、恐慌に巻き込まれたくない投機マネーが押し寄せたことで、円は15年ぶりの高値水準に高騰、株価は急落した。国の屋台骨を支えている輸出企業は青息吐息だ。そんな一大事に、わが国のトップは高級リゾート地から「円高を注視するように」と閣僚に指示しただけ。批判を浴びても、「対策は電話で指示した」と居直る。揚げ句、悪びれもせず「リラックスした」とヘラヘラしているのだから、情けなくなってくる。
この頭のネジの緩さ、堂々たる開き直りぶりに、「小泉元首相の夏休みの猿マネか」「変人首相に似てきた」なんて嘲笑する声も出ている。確かに、偶然とは思えないほど類似点がある。現役首相が夏休みで東京を離れたのは、01年に箱根でバカンスを楽しんだ小泉以来だし、菅が静養した軽井沢のホテルは、小泉の箱根の滞在と同じプリンスホテルだった。プリンスホテルといえば、小泉が会長を務めたこともある自民党清和会(現:町村派)が赤坂プリンスホテルに事務所を置いていることで知られている。小泉は首相在任中、全国のブリンスホテルに宿泊したものだ。それだけに、「身の丈なのか」と違和感を覚えるのである。
高級ホテルでの外食も増えた“庶民派”首相
政治評論家の山口朝雄氏が言う。
「菅首相が庶民派をウリにするなら、なぜ自民党政権との違いをアピールしないのか。軽井沢でなくとも、もっと庶民と触れ合える場所があったはずです。しかも宿泊施設はたくさんあるのに、よりによって小泉元首相と同じ系列の高級ホテルとは、庶民派感覚が薄れてきている証拠ではないか。そもそも、菅首相には夏休みが必要だったのかも疑問です。6月の首相就任から2カ月余りしかたっていないし、円高対策に加えて、ねじれ国会対策やマニフェストの財源探しなど、やることは山ほどある。わざわざ、小泉以来9年ぶりに東京を離れて夏休みを取る必要はなかったはずです」
実際、就任時こそ「私はサラリーマンの息子」と庶民派を気取っていた菅だが、いまや夜な夜な高級ホテル通い。参院選後の16回の外食のうち、7回はホテルニューオータニの高級料理店だった。野党時代、麻生元首相のホテル通いを批判していたのがウソみたいな変貌ぶりである。小泉もワインだオペラだと貴族みたいな生活をしていたが、市民運動家出身の菅は首相にまで上り詰めて、カン違いしてしまったようだ。
国民を裏切り、野党と官僚に媚びる楽な道を選んだ菅政権
菅政権の“自民党化”はそれだけではない。政権に就いたその瞬間から「政権維持」が目的化した亡者ぶりまで酷似している。これは高級ホテルでの夏休みとは比べものにならない。本質的で致命的な欠陥だ。それがハッキリしたのが、10日の“公約破り”発言。菅は財源不足を理由に「実行が難しいもの、修正が必要なものは理解を求める」と言い切った。完全に二枚舌だ。「子ども手当2万6000円」「予算を組み替えれば、財源は出る」などと国民に約束した衆院選マニフェストは詐欺だったと、自ら告白したようなものである。要するに、この政権は野党や官僚にコビを売り、国民を裏切ったのだ。マニフェストの実現、有権者への約束よりも、楽な道、攻撃されたくない道を選んだということである。
政治評論家の本澤二郎氏が憤慨して言う。「とにかく、菅首相は自らの保身と政権維持で頭がいっぱいなのです。そのためには、これまでの主張を翻すこともいとわない。『国民生活が第一』『政治主導』など有権者が一番期待していた約束も平気で破る。法人税減税のための消費税増税発言や、財務官僚主導の予算編成を見ても、もはや首相が庶民ではなく財界や霞ヶ関の方を向いていることを物語っている。
『自民党をぶっ壊す』と言いながら、政治権力と官僚機構の上にあぐらをかいて、居座りを決め込んだ小泉政権に酷似しています。だから、菅首相は代表選を見越して“反菅グループ”とも争わないし、『しばらく静かに』と対決姿勢を打ち出した小沢前幹事長とも、当たらず障らずを続けている。ねじれ国会を恐れて野党、それも自民党の顔色をうかがい、ついには大連立まで噂される始末。呆れて物が言えません」
このままでは菅と道連れで政権交代もジ・エンド
官僚機構の妨害の中で政治主導を貫くのは確かにしんどい。金持ち優遇だったこの国の政策を国民優先に切り替える作業は並大抵のことではない。常に緊張と勉強が必要だ。逃げて官僚機構に操られた方がよっぽど楽だろう。それじゃあ旧自民党時代の首相と何も変わらない。そうだろう。
しかし、もはや菅首相に何を言ってもムダである。わが身大事な首相はヘマをして非難されるのを恐れ、大胆な円高対策なんてできやしない、やる気もない。一事が万事この調子だから、“政治空白”は4日間の夏休みでは終わらない。9月14日の代表選まで、いや、菅が再選されれば、その後もずっと続くのである。小沢一郎は12日付のメールマガジンで「民主党は原点に戻り、『国民の生活が第一』の政策を一つ一つ実行する」と宣言した。わざわざ「原点」という言葉を使ったのは、あまりに菅が道を踏み外してしまったからだ。
「民主党政権の意味は、この国をチェンジさせていくことです。自民党と違うことをやらなければ、政権を託した意味も、存在意義もありません。それなのに菅首相は何もやらないし、やる気もない。こうなると、この首相はただ総理大臣の肩書きが欲しかっただけではないかと疑いたくなってくる。政権維持に汲々とするだけでは、自民党時代の首相たちと一緒です。いい加減に原点に戻らないと、民主党政権は終わってしまいますよ」(本澤二郎氏=前出)
薬害エイズで闘ったり、頭を丸めて「お遍路」で反省した姿が頭に焼きついて庶民は、軽井沢夏休みの今の菅首相にますます違和感を抱いた。国民はあっという間にソッポを向く。それで、本人がコケるのは自業自得だが、政権交代まで終わってしまったら、この国は永久に変われないのだ。(日刊ゲンダイ 2010/08/16 掲載)
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