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藤田正美の時事日想:
官僚の手で、産業構造を変えることができるのか (1/2)
保守党と自由民主党の連立政権になった英国が、大胆な改革を打ち出している。財政赤字に苦しむオズボーン財務相は、ほとんどの省庁の予算を25%カットするように求めた。一方の日本も財政難にあえいでいるものの、英国のような改革の動きが見られない。
著者プロフィール:藤田正美「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
いろいろと誤算続きの菅首相。9月14日に予定されている民主党代表選も決して楽観はできないとされる。1年間に3人もの首相が生まれていいはずはないという消極的な支持、あるいは他に有力候補がいないという消去法の支持。これではたとえ民主党代表として再選されても、首相としての権力基盤はとても盤石なものではない。
しかし日本が直面している問題は、政治の強いリーダーシップを要求している。円高、株安である。15年ぶりという高値をつけた為替は、さらに円高に進む可能性がある。その結果、輸出企業の採算が悪化し、価格競争力が低下する。欧州や米国が輸出主導での景気回復を目指しているというのに、日本は内需回復もできず、輸出産業は厳しい局面に追いやられるという構図である。
円高に関しては政府の動きは鈍い。静養中だった菅総理は、「休みだったけど、為替には注目していた」などとのんびりしたことを言っていた。「行き過ぎた円高は容認できない」ぐらいのことは言ってもよかったと思う。一度、財務大臣のときに為替相場に言及して批判されたこともあり、羮(あつもの)に懲(こ)りて膾(なます)を吹いたのだろうか。
菅総理が好きな英国
菅首相のキャッチフレーズは「強い経済、強い財政、強い社会保障」である。それが実現できればこんなにいいことはあるまいが、問題はそれをどうやって実現するか、である。順番を間違えればそれこそデフレから脱却することもかなわず、大げさに言えば日本の沈下速度が速まるばかりということになりかねない。
菅総理が好きな英国は、保守党と自由民主党の連立政権ということになったが、大胆な改革を打ち出している。財政赤字がGDPの11%という先進国中でも最悪の水準に達している英国は、赤字の縮小が急務だ。そこでオズボーン財務相はNHS(国民医療制度)には手をつけないものの、ほとんどの省庁の予算を25%カットするように求めた。これだけのカットということになると、当然小手先の節約などでは間に合わない。「英国という国をオーバーホールする」とエコノミスト誌の最新号(参照リンク)は書いている(ちなみに選挙制度も改革されるようだ。これまでの二大政党制が「時代遅れ」ということらしいが、民主党政権はどうするのだろうか)。
しかしこれだけ政府の支出をカットするとなると、当然のことながら景気はどうなるのだろうか、という疑問が湧く。もちろん英国でも、いわゆるケインジアン(財政支出によって景気対策をするべき)と財政重視派との間で大論争となっている。米国のノーベル経済学者のポール・クルーグマン教授は、雇用が増えていない今、経済へのテコ入れを止めるべきではないとの主張だ。
もっとも英国のキャメロン政権が考えているのは、財政支出のカットと増税による財政再建ということだけではない。エコノミスト誌によれば、市民参加によって国の役割を縮小しようという大胆な発想だという。例えば学校の運営を父兄会に任せる、いわゆる家庭医がNHSを運営する、あるいは警察のコミッショナー(地方警察の最高責任者)は地方の選挙で選ぶなどが議論されている。
英国の、注目するに値する実験
日本でも地方分権(民主党は地方主権という言葉を好んで使うが)がしきりに言われているが、根本的には中央が地方に権限を分け与えるという思想が根本にあって、英国ほどラディカルではない。
それに菅総理が言う「税金も使い方によっては経済成長を促進する」という姿勢は、政府の役割を決定的に縮小しようという英国の方向性とは全く違うものだ。
ある官庁エコノミストがこれについて「政府が民間よりもうまくやる可能性はあると思う」と言っていた。確かに時によってはその通りである。実際、戦後の経済復興は官僚の主導によって行われ、MITI(かつての通商産業省)の名を世界に知らしめた。しかしそれは何をやればいいかについて、社会的な合意がそれとなくあるときに限られる話だと思う。今の日本は、官僚が主導して産業構造を変えるというのは無理な相談だ。前例もモデルもない時代だからである。実際、日本は事実上ここ15年ほどもデフレから脱却できていないのである。
英国の大胆な実験が成功するのかどうかは分からない。ひょっとすると歳出削減を急ぎすぎて景気がさらに悪化するかもしれないし、あるいは手をつけないとしていたNHSの負担に耐えきれず、医療サービスの切り下げを余儀なくされるかもしれない。それでも巨額の財政赤字の重圧に喘ぐ日本にとって、注目するに値する実験であることだけは間違いない。
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