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被害者の抗議主張ほぼ認定
七月二十九日、札幌地裁(橋詰均裁判長)は、北海道の航空自衛隊通信基地に所属するAさん(女性自衛官)が、B(男性自衛官)から受けた強かん未遂事件と、その後の上司たちから繰り返し退職強要が行われたことの抗議として国を相手に国家賠償訴訟を起こした裁判(07・5・8提訴)で国に五百八十万円の支払いを命じた。画期的な勝利判決だ。
判決は、国が(Bの性暴力)「性的行為は合意に基づく。上司らが女性の訴えを不当に扱ったことはなく、退職強要の事実もない」などと手前勝手なストーリーをでっち上げたが、こんな主張を排除し「上下関係などを利用した性的暴行で、わいせつ行為は深刻で、女性の肉体的・精神的苦痛は甚大」と批判した。上司らのいやがらせについても「女性を厄介者とし、退職に追い込もうとする露骨で不利益な扱いだった」と明記し、組織的な不法行為であると認定した。
このように「女性自衛官の人権裁判」は、Aさんを先頭に弁護団、「女性自衛官の人権裁判を支援する会」などの支援と共に勝利判決を勝ち取ったのである。地裁は、原告の慰謝料約千百万円請求を減額したが、抗議主張についてはほぼ認めた。Aさんは、判決後、「自分は間違ってなかったと思えて感動した。自衛隊は、隊員の人権が保障される組織になってほしい」とアピールしている。菅政権、防衛省・自衛隊は、ただちにAさんに対する謝罪を行え!防衛省航空幕僚監部らの逃げ切りを許さないぞ!控訴するな!
隊あげ、加害者防衛、被害者抑圧
性暴力事件は、二〇〇六年九月九日午前二時半、北海道の航空自衛隊北部航空警戒管制団の基地内で発生した(隊員180人のうち女性隊員は5人)。Aさんは、泥酔のBから宿舎の三階事務室に呼び出され、「夜中に呼び出さないで欲しい」と抗議するために入室した。ところがBはドアに鍵をかけ照明を消し、暴行・強かん未遂を強行した。Aさんは、事件直後、部隊上司に被害を訴え病院への診察を求めたが、上司を含む複数の男性隊員の同行を条件にするなど不自然な圧力を加えてきたため拒んだ。
上司は、組織的に隠蔽するためにAさんに対して深夜に無断で犯行現場(ボイラー室)に行き、飲酒をした疑いがあると決め付けて懲戒処分の対象として取り調べたり、外出制限などいやがらせを繰り返した。それは男主義と女性差別主義の丸出しで「お前は被害者だと思っているかもしれないが、お前は加害者だ」「お前は問題を起こしたから外出させない」「Bは男だ。お前は女だ、どっちを残すかといったら男だ」などと恫喝し、退職を強要するまでにエスカレートしていった。また、Bを事件後九カ月にわたって異動させることもなく同職場に勤務させ、Aさんへの精神的嫌がらせを強めていった。
空自千歳地方警務隊も同罪だ。自己保身的サボタージュを続け、事件から半年もたった〇七年二月二十七日にAさんの被害届を受理し、いやいやながらの捜査を開始する有り様だ。しかも当初から「この事件が強制猥褻であって、強かん未遂ではない」などと決めつけ、Aさんへの包囲を強めていった。
このような事件もみ消しのための嫌がらせや退職の強要を許さず、自衛隊の組織的犯罪を糾弾していくためにAさんは国賠訴訟を提訴した(07・5・8)。この闘いは、@Bによる原告への暴行・強かん未遂行為は勤務時間内の行為であるA上司たちによる退職強要・嫌がらせが、自衛隊の指揮・服務指導を名目にして行われたB人権や尊厳が著しく踏みにじられた││ことの責任が国にあることを明確にさせることにあった。さらにAさんは、「一刻も早く私の働く環境を整備する」ことを強く訴えていた。
しかし国は、自衛隊員は「精強さ」と「規律保持」が求められるから隊員個人の人権を否定されるなどという論理を展開してきた。事件についても「私的な行為」「Bの職務行為との密接な関連性は全くないことは明らかである」などと主張し、セクハラ・性犯罪があっても自衛隊の責任はないのだと言う。真っ向から改正均等法とセクハラ防止法への敵対を行ってきた。
警務隊は、Aさんの国賠提訴に驚き混乱しながら責任回避のために国賠訴訟提訴後の五月末に札幌地検に事件送致するほどだ。あげくのはてに札幌地検は、十二月二十七日、「証拠不十分により不起訴」と不当な決定を下してしまった。
結局、Aさんは国賠提訴後も断固として勤務したが、〇九年三月、任用を継続されず退官に追い込まれた。Aさんの健康診断は異常がなく、勤務になんら問題がなかったにもかかわらず、自衛隊は一方的に再任拒否の理由すら明らかにせず通告してきた。国賠提訴に対する報復だ。他方、Bに対して航空自衛隊は、二月、停職六十日の懲戒処分を行っただけだ。
人権否定組織自衛隊への包囲を
自衛隊は、グローバル派兵国家建設に基づいて対テロ戦争に参戦する軍隊として強化され、比例して隊内において家父長制と女性差別主義、人権侵害を繰り返す暴力機構へと再編されつつある。この間、性暴力事件やいじめ自殺など人権侵害が多発し、わずかであれ社会的に暴露されていることがそのことを証明している。「女性自衛官の人権裁判」の闘いは、事件のほとんどが組織的に隠蔽され闇に葬られてきた流れに楔を打ち込む勝利だ。防衛省・自衛隊は、女性差別・人権侵害を許さない勤務環境、生活環境を改善せよ。
すでに防衛省は、九九年〜〇九年度の「セクハラ相談件数」が五百四十五件、その内懲戒処分が九十一件(免職1件、停職48件、減給26件、戒告16件)であったことを明らかにしている。Aさんに対する組織的隠蔽工作に見られるように自衛隊という「軍隊の論理」を根拠とした性暴力事件はさらに存在しているはずだ。防衛省は「訓令に基づき、今後もセクハラ防止対策を徹底していく」などと言っているが、自衛隊におけるセクハラ被害の実態を調査し、その全貌、隠蔽した事件も含めて民衆への公表を優先しなければならない。防衛省幹部も含めた徹底したセクハラ等の性暴力事件阻止にむけた教育と措置を具体化せよ。自衛隊員の命令拒否権・団結権はもちろんのこと政治的・社会的諸権利を無視し、民主主義否定組織であるかぎり性暴力事件が再発する危険性があるのだ。根本的解決にむけて防衛省・自衛隊への社会的包囲を強化していこう。 (Y)
b女性自衛官の人権裁判を支援する会
http://jinken07.dtiblog.com/blog-entry-1.html
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