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菅政権は官房機密費を沖縄県知事選に使うな/テレビは「ノーモアフテンマ」を世界に発信を(マスコミ9条の会)
河野慎二(ジャーナリスト・元日本テレビ社会部長)
参院選で大敗した菅直人首相が、内外から厳しい批判の矢面に立たされている。菅首相は9月14日の民主党代表選に勝利し、引き続き政権を維持する意欲を示しているが、一筋縄では行かない。代表選のカギを握るのは、党内最大のグループを率いる小沢一郎前幹事長の動向だが、腹の内を見せない前幹事長が首相を苛立たせている。
7月29日、民主党は参院選の大敗を総括する両院議員総会を開催した。菅首相は、消費税増税を巡る自らの発言を敗因と認めて陳謝した。しかし、「内閣は死に体だ」「戦争で大敗北をした。最高司令官が責任を取るのは当然だ」などの激しい批判が渦巻いた。テレビは、針のムシロに座らされ、目もうつろな首相の表情を映し出した。
30日に召集された臨時国会で民主党は、参議院議長の座を確保はしたものの、参議院運営の要となる議院運営委員長のポストは自民党に明け渡した。衆議院では多数を握る民主党が法案を参議院に送っても、主導権は自民党など野党が握る。少数与党がたどるいばらの道≠ェ幕を開けた。
■普天間基地問題の帰すう決める沖縄県知事選
政府、辺野古新基地の工法8月末決着≠先送り
内閣支持率のV字回復≠ナはしゃいだのも束の間、参院選で奈落の底へ突き落とされた菅内閣を待ち受けるのは、日米間の最大の懸案である米軍普天間基地の問題と沖縄県知事選である。
菅首相は参院選で「普天間はクリアした」と遊説し、テレビや新聞など大手メディアがこれを批判しなかったため、参院選の争点外しには成功した。しかし、事態は首相の目論見通りには進まない。沖縄県民の怒りが重圧となってのしかかる。
菅首相は27日、5月末の日米共同声明に基づき、8月末までに完了するとしていた辺野古新基地の滑走路の位置や建設工法の検討を、沖縄県知事選が行われる11月末以降に先送りする方針を固め、米側に伝達した。
米政府には難色を示す動きもあったが、参院選の民主党大敗を受けて、クローリー国務次官補(広報担当)は16日、「(8月末は)一つの目標と認識はしているが、検討を完了するかどうかは現時点では言えない」と述べている。
日本政府が、辺野古新基地の位置や工法の「8月末決着」について、共同声明を曲げてまで先送りする方向を米側に伝え、米側もこれに理解を示したのは、11月28日に投開票される沖縄県知事選を念頭に置いたものであることは言うまでもない。
裏を返すと、沖縄の県知事選は、日米共同声明の政府間公約を先送りさせるほど、重要な政治的意味合いを帯びているということだ。
■仲井真知事、伊波宜野湾市長、出馬要請を受託へ
北沢防衛相「仲井真知事に当選していただきたい」
北沢防衛相は20日の記者会見で「沖縄の知事がどなたになるかで全く変わる」と述べている。朝日(8月13日)によると、同相は6日「政府としては、仲井真知事に当選していただきたい」と発言したという。これが事実なら、政府による利益誘導を示唆する発言であり、地方自治への露骨な介入である。北沢防衛相は即刻罷免されるべきである。
投開票日まで3ヶ月を切り、知事選が本格始動した。仲井真弘多知事は8月2日、県政与党の幹部と会談し、「前回同様『県民党』の体制が望ましい」と述べ、再選に向けて出馬の意欲を示した。後援会は9月上旬の正式立候補表明に向け準備に入った。
社民、共産、社大党の県政3野党も7日、伊波洋一宜野湾市長を統一候補として擁立する方針を決め、同市長に出馬を要請した。伊波氏は「責任の重さと身の引き締まる思いを感ずる。早期に要請に応えたい」と述べ、要請を受託する意向を示した。
知事選は仲井真氏と伊波氏の一騎打ちの様相を示しているが、野党陣営の態勢は盤石とは言えない。というのは、2006年の前回知事選で統一候補擁立に加わった民主党が野党共闘に不参加の姿勢を示しているからだ。
民主党は、菅首相(党代表)が日米共同声明を引き継いだため、参院選では党県連代表の喜納昌吉氏が惨敗した。民主党はこの選挙結果を反省するどころか、安住選対委員長は「伊波氏を支持するのは困難」として、県政野党の協議に参加せず、第三の候補擁立を検討している。県民に対する背信行為であり、民主党にとっては自殺行為に等しい。
これにつけこむ形で、仲井真氏が名乗りを挙げた。沖縄では、知事選の前哨戦として9月に名護市議選が行われるが、仲井真氏は稲嶺進市長と対立する移設容認派の立候補予定者を集めた激励会に出席し、全員当選に支持を表明した。一時は、県民の声に押されて移設反対のポーズをとったこともあったが、菅政権の姿勢を見て辺野古新基地容認の本質を露わにしようとしている。
■「国はなりふり構わぬ振興策をぶつけてくる」
菅政権「アメとムチ」で新基地容認陣営にテコ入れ図る
辺野古に新基地を建設するには、同海域を埋め立てる県知事の許可が必要となる。仮に伊波氏が知事になれば、政府は窮地に立たされる。辺野古新基地建設をオバマ大統領に約束した菅政権はそれだけは阻止しなければならない。
政府は仲井真氏の動きをテコ入れするため、政府資金をつぎ込む構えだ。自民党政権が沖縄で使い古してきた、「アメとムチ」政策の民主党版である。
前原沖縄担当相は3日の記者会見で、名護市を含む北部地域振興策に関し「北部地域は所得も低く、失業率も高い。これまで負担を受け入れて貰っていることへの感謝、お詫びを含めた施策は必要だ」と発言した。前原担当相は5月にも、移設容認派の島袋前名護市長や市経済界有力者と会談し、新たな地域振興策について意見交換している。
沖縄タイムスの渡辺豪中部支社編集部長は「世界」7月号に「『辺野古回帰』という泥船に乗った鳩山政権 甦る『根回し』『アメとムチ』」を寄稿。その中で「『地元業者が参入しやすい埋め立て工事で新基地を建設し、その土地を市有地と位置付け、国が市に年間5億円の借地料を支払う』など、荒唐無稽としか言えない『アメ』の青写真が次々と浮かんでいる」と地域振興策を巡る魑魅魍魎≠フ動きを伝えている。
渡辺記者は、那覇防衛施設局(現沖縄防衛局)局長佐藤勉氏の備忘録を基に、2005年の沖縄知事選で「仲井真支援を要請する『戸別訪問』ととられても仕方のない行動」を佐藤局長が採ったことを明らかにしている。さらに「地元区をけしかけ、懐柔し、意のままに操ることで、移設推進に不都合な障害を排除していく手法」は「今回も飽きずに繰り返されている」と指摘している。
11月の沖縄県知事選に向けて沖縄では「国は今後、なりふり構わぬ振興策を地元にぶつけてくる」というのが、大方の見方だという(渡辺記者論文)。
そうした中、TBSの「NEWS23クロス」が7月21日、鈴木宗男衆院議員(新党大地代表)が1998年11月の沖縄県知事選で、自民党が推薦する稲嶺恵一氏陣営に官房機密費3億円を渡したとの証言をスクープした。
■「官房機密費3億円を稲嶺陣営に渡した」
鈴木宗雄議員、衝撃の証言をTBSがスクープ
当時、小渕内閣の官房副長官だった鈴木議員は、「沖縄知事選で官房機密費から3億円を出したのか」という質問に「そうです。沖縄の重要性から考え、一地方の選挙だが、ひとつの決断をした」と答えた。さらに「官邸にいた人、当時の関係者から、3億だと(聞いている)。過去にも協力している。知事選をはじめ、各種選挙で官邸は(自民)党に協力している」とカメラに向かって証言した。
TBSのインタビューに、稲嶺前知事は「全く知らない」と述べ、否定した。大田元知事は「資金力の差があった。巨額のカネがばら撒かれているという噂があったが、確かめようがなかった。本土の自民党から流れてきていると聞いた」と証言した。
この問題については、2001年3月の参院予算委員会でも取り上げられ、福田官房長官(当時)が「報奨費(機密費)の使途は申し上げるわけにはいかない。そういう性格のものだ」と述べ、沖縄への流用を否定しなかった。
鈴木氏は、小渕首相、野中官房長官と3者で会談を重ねたことを明らかにした上で「選挙には勝たなければならないので、最終的に決断したと聞いている」と述べている。鈴木氏の証言が事実であれば、国民の税金である機密費を使って政権与党に好ましい候補者に肩入れしたことになる。TBSの松原キャスターは「沖縄の知事選が歪められた。許されることではない」とコメントした。全くその通りだ。
この鈴木証言は、翌22日の官房長官定例会見で取り上げられた。仙谷官房長官は、鈴木氏に事実関係を確認するかについて「ノーコメント」と言及を避けた。また、「官房機密費の使途として、地方の選挙資金として使われることは適切か」との質問に対しても「ノーコメント」と、否定はしなかった。
仙谷官房長官は3日の衆院予算委員会でも「鈴木氏のテレビでの発言は、証言でも何でもない。事実を調査する手立てはない」と消極的な答弁に終始した。
■東京地検、機密費不正利用で元官房長官を捜査へ
テレビは官房機密費問題の取材を強化すべき
官房機密費については、作家の佐藤優氏が「世界」8月号で大田昌秀元沖縄県知事と対談し、「私は外務省で『裏の仕事』をしていたからよく分かる。自民党政権では沖縄県知事選でも、間違いなく機密費が使われた」と注目すべき証言をしている。
佐藤氏は「キーパーソンは『みんなの党』幹事長の江田憲司さんだ。私は江田さんから30万円機密費を貰ったことがある。江田さんは橋本首相の政務担当秘書官で、1966年の普天間返還交渉の舞台裏を最もよく知る人物の一人だ。江田さんは沖縄を巡って機密費をどう使ったかについて、自らが知る真実を国民の前に明らかにすべきだ」と証言している。江田幹事長は、この佐藤証言に答える責任がある。
官房機密費を巡っては、東京地検で動きがあった。同地検特捜部が市民団体の告発を受けて、自民党の河村建夫衆議院議員の捜査に乗り出す構えだ。河村議員は麻生内閣の官房長官だった昨年9月、内閣官房機密費2億5千万円を不当に引き出したとして、大阪の市民団体から詐欺と背任容疑で告発されている。
告発状によると、河村議員はこの機密費を国会議員に渡すなどして国に損害を与えたとしている。民主党への政権交代が決まった直後、どさくさに紛れて通常の2・5倍もの官房機密費を引き出している。どう見ても目的外使用であり、厳正な捜査が必要だ。
内閣官房機密費は「国の事業を円滑に行うために機動的に使う経費」とされ、使途は非公開である。鈴木氏や佐藤氏が指摘するように、目前に迫った名護市議選や沖縄県知事選にこの機密費が使われることがあってはならない。
テレビや新聞は、この官房機密費の問題に目を光らせ、政権党に都合のいい結果をもたらすような不正使用が行われないよう、取材を強化すべきである。
■オバマ政権、核廃絶と軍事費削減を推進
2012年から5年間で、軍事費を1兆ドル削減
広島は6日、65年目の「原爆の日」を迎えた。平和記念式に、原爆を投下したアメリカのルース駐日大使が初めて参列した。クリントン国務長官は「この記念日を認めるのは適切なことだ」と述べ、大使の出席は「核なき世界」を目指すオバマ大統領自身の判断に基づいたものであることを強調した。
式典にはルース大使のほか、核兵器を保有する英仏両国の大使や国連の潘基文(パンギムン)事務総長も初めて参列した。海外の代表は、過去最多の昨年を15カ国上回る74カ国に上り、核廃絶に向けて機運を盛り上げた。潘議長は「グラウンド・ゼロ(爆心地)からグローバル・ゼロ(核なき世界)を目指そう」と呼びかけた。
市民からは「来るのが遅い」「謝罪してほしかった」など、ルース大使への批判が多かったが、「一歩前進だ」「オバマ大統領が来てほしい」などの声も聞かれた。「ノーモアヒロシマ」「ノーモアナガサキ」の悲願に多少とも近づく式典初参列と評価できる。
オバマ政権は核廃絶と同時に、軍事費の削減にも取り組む姿勢を示している。米政府は6月、2012年会計年度から5年をかけて1兆ドル(約85兆円)の軍事費を削減する方針を予告している。イラク、アフガニスタンへの侵略戦争で膨張した軍事費にメスを入れなければ、米財政は破たんするという認識を政策化するものだ。
ところが、米政府はこの軍事費削減の方針に、日本は含まない方針だという。琉球新報の与那嶺路代ワシントン特派員は「日本に関して予想されるのは『日本は思いやり予算があるから経費はほとんど掛かっていない。従って在日米軍に手をつける必要はない』と軍が反撃に出ることだ」(8月2日)とリポートしている。
実際、日本政府は米軍駐留経費の約7割を負担するという、世界でも例を見ない気前の良さを米政府に提供し続けている。「どこまでも ついて行きます 下駄の雪」ではないが、アメリカが日本を属国扱いし日本政府がそれにモノが言えないという構図が、現代政治では稀に見る歪んだ二国間関係を形作っている。
米国防総省のグレグソン次官補は27日、下院軍事委員会で「日本に思いやり予算増額を求めたい」と証言している。多少ふっかけても、日本は文句を言わずカネを出すと、足元を見透かした露骨な要求だ。
一方、琉球新報によると、米民主党にも新たな動きが出ている。同党の重鎮で、下院歳出委員長を務めるバーニー・フランク議員は「米国が世界の警察だという見解は冷戦下の遺物で時代遅れだ。沖縄に海兵隊がいる必要はない」と主張し、米大手メディアが挙って取り上げている。同氏は「日米同盟は経済・財政面も考慮に入れるべきだ」と述べ、軍事に頼らない多元的な同盟関係の構築を唱えている。
■菅政権は、核廃絶、軍事費削減に背を向けるな
テレビは「ノーモアフテンマ」を世界に向け発信せよ
菅政権が、こうした核軍縮、軍事費削減の世界史的な流れに背を向け、思考停止状況に陥っているのは、驚くべきことだ。唯一の被爆国として、先の大戦を反省した憲法9条を掲げる国として、米国に対し米軍基地縮小や日米安保条約見直しに向けて発言・主張する好機なのに、米国に無批判につき従う姿勢を改めようとしない。このままでは、普天間基地をはじめ、在日米軍基地は固定化される恐れが強い。
日米関係に詳しい寺島実郎氏はテレビ朝日の「報道ステーション」(7月30日)で「戦後の日本を支えてきた団塊の世代が政権を担った今こそ、新しい日米関係を交渉のテーブルに乗せるチャンスだ」と指摘し、「どういう根性でアメリカと交渉するか、政権の基軸が問われている。覚悟を決めて米国と向き合う必要がある」と強調した。
TBSの「サンデーモーニング」(8月1日)にも寺島氏が出演し、同じ主張を展開。西崎文子成蹊大教授も「民主党は核密約で外交文書を公開したが、思いやり予算にも密約があり、アメリカの言いなりに予算を出している。その構造を続けるのか、沖縄の実情と見合うのか。しっかり議論することが必要だ」と問題提起している。
コメンテーターが問題点を指摘する意義を否定するものではないが、問題はテレビ局自身の目(カメラ)と耳(マイク)で独自に取材し、情報を発信(リポート)する作業を怠っていはしないかという点だ。上記「報ステ」では寺島氏の指摘を受けて、古館キャスターが「普天間基地は毎日々々固定化されている。この辺を考えなくてはいけませんね」としめくくっていたが、そのキャスターコメントを実際の取材で表現してほしいのだ。
テレビや新聞は、名護市議選や沖縄県知事選を全国的に影響するテーマと位置付け、取材を強化すべきである。特に、官房機密費の問題については不公正な流用が行われないよう、監視の眼を鈍らせてはならない。メディアが県知事選取材を軸に、普天間基地問題を改めて掘り下げ、「ノーモアフテンマ」の声を世界に発信してほしい。
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