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「民主党政権には国家ビジョンがなく、この国は完全に迷走している」−。TVドラマや映画になった小説「ハゲタカ」で知られる作家、真山仁氏(48)はこの国の現状についてこう警鐘を鳴らす。そんな日本を今席巻しているのが、中国マネー。真山氏は“赤いハゲタカ”の意外な実像についても余すことなく語った。
ビジネスマンに人気の真山氏が今もっとも気にかけているのが、民主党政権のふがいなさだ。
「民主党は軽い言葉を発する政党。パフォーマンスはうまいけど、中身は何もない。耳に優しい言葉をうのみにした国民がいかにひどい目に遭うか、この1年で分かったと思う」
パフォーマンスといえば、蓮舫参院議員(行政刷新相)(42)が目をつり上げて迫るシーンが注目された事業仕分けがある。真山氏は短編小説集『プライド』で仕分けの欺瞞(ぎまん)性を描いている。
「些末な事業を取り上げ、税金を使って人民裁判のようなことをやっただけ。長い目で見ると百害あって一利なし」
「中身のない政治」がジワジワと日本の産業をむしばむ。例えば原子力発電所の受注競争。昨年12月のアラブ首長国連邦(UAE)の案件で韓国に、今年2月のベトナムの案件ではロシアに日本は敗れた。
「実績も技術もあって、負けるはずがないといわれていたのに負け続けている。そもそも国家戦略として原発産業をどうするのか、民主党にビジョンがまったくないのが問題だ」
地球温暖化問題への取り組みも同じ。
「温暖化問題の本質は、原始時代から続いてきた火を使う社会が消えて、別のものがエネルギー源になる時代が来るということ。これは欧州が従来のルールを変える切り札として仕掛けたものだ」
技術力がある日本のメーカーにとって、温暖化問題は大きなビジネスチャンスになるはずだが、ここでも政治の問題が頭をもたげてくるという。
「他国に新技術で先行され、特許も取られてしまうと日本はコストで勝てなくなる。メーカーは危機感を持っているものの、研究・開発コストとの採算がとれない。そこで重要になってくるのは政治の力。極端にいえば、日本が生き残るためには、電気自動車をつくる会社は免税にするぐらいのことをやらないと立ちゆかない時代が来ている」
菅直人首相(63)は、「介護」などを成長分野として重点的に投資する方針を打ち出しているが、真山氏にすれば、チャンチャラおかしいということになる。
「彼ら(菅政権の人たち)は知ったかぶりして虚勢を張るばかりで、成長分野が何なのか、各産業をウオッチしているプロから説明を受けて決定しているようにも見えない。本当の素人集団。若葉マークであることを自覚しないと、とんでもないことになる」
日本を覆う閉塞感について、真山氏はこう警戒する。
「この国は今、完全に迷っている。ビジョンがないときに恐ろしいのはヒトラーのようなカリスマが出てくること。すでに(民主党内に)その土壌はできている」
一方、真山氏は、日本を席巻する中国マネーにも注目する。
体力の弱った日本企業に群がる投資ファンドの姿を描いた「ハゲタカ」シリーズの小説「レッドゾーン」は、中国資本が日本の大手自動車メーカーに買収を仕掛けるというストーリーだ。果たして、これが現実のものになるのか。真山氏はこう語る。
「中国が買いたい日本企業は山のようにあるでしょう。しかし実際には『トヨタ自動車も買いたいけど、日本人が怒るのならやらない』というのが中国人の考え方。理由は簡単で、反感を買って不買運動が起きたり、社員が辞めたりするとビジネスにならないから。やるなら友好的にというスタンスです」
猛威をふるう中国マネーについて、中国人がカネにモノをいわせて日本企業を買いあさり、中国化してしまうのではないかと懸念する向きもあるが、真山氏の見解は異なる。
「勘違いしている日本人も多いが、彼らがほしいのはブランドよりもお金。投資してお金を回収できるなら、企業ブランドもそのままで、社長もずっと日本人でいいと考えるだろう。ブランドとして会社をほしい人、五大陸全部で会社を持ちたい、という大金持ちも一部にはいるようだが、ビジネスとして日本に投資する人たちの意識はデリケートです」
最近では、中国が日本国債を大量取得して話題に。好むと好まざるとにかかわらず、中国の存在感は大きくなっている。
真山氏は、中国を舞台にした小説「ベイジン」で現地に赴き、数多くの中国人を取材し、そのタフネゴシエイターぶりを実感した。
「中国人は世界で一番商売がうまい。彼らは『われわれは面子(メンツ)を大事にする』とよく言いますが、これは交渉のカードなんですよ。『われわれの面子を下げてあげるよ、その代わりにもっと寄こせ』という手法はよく使いますね。また、中国人はかけひきが上手だが、信頼関係を築ければ、とてもフランクにもなる」
潤沢なマネーとしたたかな交渉術をあわせ持つ中国に、日本はこのままやられてしまうしかないのか。真山氏はこう提言をする。
「商売上手な中国を利用すべきではないか。実は、モノづくりでは日本に勝てないと思っている中国人は多い。日本としては、モノは自分たちが作って中国に売ってもらったり、中国からロイヤルティー(使用料)やエージェントフィー(事務代行手数料)を取るビジネスを目指すべきではないか。例えば、トヨタが自動車を作って中国人に売らせたら、世界中がトヨタの車になってもおかしくない」
世界経済をリードする中国といかにパートナーシップを築くか。そこに産業界の浮沈がかかっているといえそうだ。
■真山仁(まやま・じん) 作家。1962年7月生まれ、48歳。大阪府出身。同志社大法学部卒業後、中部読売新聞(現読売新聞中部支社)入社。89年退職。2004年、TVドラマなどになった『ハゲタカ』でデビュー。テレビ業界を描いた『虚像(メディア)の砦』、地熱発電をテーマにした『マグマ』、ハゲタカシリーズ第3弾の『レッドゾーン』、中国での原発建設を舞台にした『ベイジン』、初の短編小説集『プライド』など。
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20100811/plt1008111618004-n2.htm
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