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公務員制度改革:官邸、官僚人事崩せず 今夏も年功序列、改革は後退
<追跡>
民主党政権となって初めての本格的な府省幹部人事がほぼまとまった。幹部人事を「内閣人事局」で一元管理する国家公務員法改正案が通常国会で廃案となったが、現行制度でも可能な民間人起用や府省間交流など「政治主導」人事を一部で試みた。ただ、7人の新事務次官はほとんどが「霞が関」の慣行に従った年功序列の順当人事。根絶するはずだった天下りも「現役出向」の形で事実上容認するなど、公務員制度改革が後退している感は否めない。【編集委員・中川佳昭、三沢耕平、葛西大博】
国家公務員法改正案が成立していれば、内閣人事局で府省の部長級以上約600ポストの幹部候補者名簿を作成し、次官から部長級への降格も含む府省の垣根を越えた人事を首相ができるようになるはずだった。
菅内閣はこれに代わり府省間の交流人事を拡大。01年の省庁再編後初めて局長級以上で実施し、文化庁長官に外務省から駐デンマーク大使の近藤誠一氏が就任した。近藤氏はユネスコ(国連教育科学文化機関)日本政府代表部の大使時代、石見銀山(島根県)の世界遺産登録を実現させた手腕が評価された。外務省との交流人事の形をとったが、川端達夫文部科学相の「一本釣り」に近い。財務省関税局長と経済産業省貿易経済協力局長の交流人事も行われた。
事務次官人事では、財務省の事務次官に「本命中の本命」とされてきた勝栄二郎主計局長が就任。菅直人首相は財務相だった今年4月、「財務省が変わるための提言」として「年次にとらわれない抜てき人事」を掲げたが、政務三役の一人は「人事を覆そうと思っても、幹部一人一人の能力や適性を把握できていないので難しい」と官の秩序に切り込めなかったことを認めた。
経産、外務、厚生労働、農水各省の事務次官人事も順当。文科省では旧文部省と旧科学技術庁の出身者が交互に次官を務める「たすき掛け人事」が今回も継続。天下りあっせん禁止で幹部職員の退職が進まなくなった余波もみられ、国土交通省では72年入省組の次官が4代続く異例の事態となる。
政治主導の「乱用」と批判されているのが、子ども手当の制度設計を担当した厚労省雇用均等・児童家庭局長を独立行政法人の研究員に出向させた人事。従来は部課長級に用意されてきたポストで、子ども手当の外国人への支給問題で長妻昭厚労相の不興を買った「左遷」と省内では受け止められている。
◇「まるで高齢職員の失業対策だ」 元審議官、天下り存続を批判
「この夏、霞が関で起きていることは壮大な高齢公務員の失業対策だ。何としても公務員制度改革を逆行させてはならない」。7月27日夕。経産省大臣官房付の古賀茂明氏は首相官邸近くのレストランで開かれた知人のパーティーでこう訴えた。
古賀氏は1980年に旧通産省入省。08年7月〜09年12月まで、国家公務員制度改革推進本部事務局の審議官を務め公務員制度改革の急進派とされていた。政府は6月22日、退職管理の基本方針をまとめたが、天下り禁止により滞留する公務員を処遇するため、専門スタッフ職の設置や独立行政法人・公益法人への出向拡大が盛り込まれた。古賀氏の「高齢公務員の失業対策」との発言は、基本方針への痛烈な批判だった。
民主党は衆院選マニフェストで天下りの受け皿となっている独立行政法人や公益法人を原則廃止し、「肩たたきを禁止して定年まで働ける環境を整備する」と公約。一方、総人件費の2割カットも掲げたため、天下りできずに滞留する高齢公務員の処遇に頭を悩ませていた。
基本方針は「公務で培った知識・経験を他分野で活用する」として、独法、公益法人などへ「出向」させるとするが実質的な天下りだ。天下りの最大の弊害は官民癒着や無駄な事業の温床になることで、事業仕分けでは現役官僚の出向を廃止する判定が相次いでいた。基本方針は、こうした判定にも逆行する。
古賀氏に6月末、民主党が禁止を公約していた「肩たたき」(早期退職勧奨)が望月晴文事務次官から行われた。「君、民間(企業)に出向してくれないか。給与水準も下がらないから」。官僚の天下りを痛烈に批判してきた古賀氏にとって「現役の民間出向は形を変えた天下り」にほかならない。7月5日の話し合いで古賀氏は残留を求めたが、望月氏は「今の民主党政権では君の居場所はないんだ」とつれなかった。結局、古賀氏は「民間出向は受けられない。自分で再就職活動します」と返答。望月氏は「もう私も君をかばいきれない。路頭に迷うなよ」と語るだけだった。
政府は7月6日、審議官の出向を容認する人事院規則の改正案を全府省に配布した。2人の話し合いが決裂した翌日だった。「私を追い出すのを念頭に置いた改正だったのでは」。古賀氏はそうつぶやいた。
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