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http://diamond.jp/articles/-/8932
国民年金の被保険者(第1号被保険者)2035万人の内訳は、2007年度末において、社会保険庁の資料『平成19年度における国民年金保険料の納付状況と今後の取組等について』によればつぎのようになっている。
・免除者315万人
・特例者、猶予者203万人
・未納者308万人
・第1号未加入者9万人
未納者・未加入者数は、03年度(平成15年度)の490万人がピークで、それ以降は減少している。しかし、納付率は改善していない。納付率は1996年度(平成8年度)までは8割を超えていた。それが97年度(平成9年度)から7割台となり、さらに02年度(平成14年度)に急激に低下して6割台に落ち込んだのである。
「本来保険料を支払うべき人の6割程度しか支払っていない」という異常な事態が生じる原因は、どこにあるのだろうか?
所得の低さが
主要な原因とは考えられない
保険料が未納となる原因としてまず考えられるのは、「所得が低いため、保険料を払いたくとも払えない」ということだ。
しかし、そのためには、「免除」や「一部免除」の制度がある。そうした申請を行なわずに保険料を納付しないのは、免除や一部免除の条件には合致しないためではないかとも考えられる。つまり、保険料を支払う能力はありながら、支払っていないと想像されるのである。
それに、免除や一部免除が認められれば、将来給付が減額されることはあっても、受給資格を失うことはない。それにもかかわらず保険料を納付しないのは、「年金をもらえなくともよい」との意思表示とも解釈されるのである。
このように、未納は、必ずしも保険料を「払えない」というだけの理由によるのではないと思われる。そうした疑いは、以下に見るような地域別、年齢別の納付率を見ると、さらに強められる。
大都市と若年層の未納率が高い
『平成19年度の国民年金の加入・納付状況』(社会保険庁、平成20年8月)によって保険料納付の状況を見ると、つぎのとおりだ。
まず、地域的に見ると、沖縄を除けば、東京、大阪という大都市圏における未納率が高い。2007年度(平成19年度)末の納付率は、全国平均63.9%に対して、東京都59.2%、大阪府54.4%。なお、納付率が60%未満なのは、この他は長崎県と沖縄県だけである)。つまり、地域的に見て、所得の高さと納付率は正の相関をしているわけではなく、むしろ、地域所得が高い地域ほど納付率が低いという負の相関が見られるのである。
つぎに年齢別に見ると、20〜30代が未納率が高い。この年齢層の納付率は、20〜24歳が53.2%、25〜29歳が51.5%、30〜34歳が55.8%、35〜39歳が58.9%である。これに対して、高年齢層の納付率は高い(50〜54歳が70.1%、55〜59歳が76.9%である)。つまり、20歳代では半分程度の人しか保険料を払っていないのに対して、55歳以上では4分の3を超える人が保険料を払っているのだ。
地域別、年齢別に以上のような顕著な傾向が見られるのは、国民年金に対する考え方が大きく異なるグループが存在していることを示唆している。日本人の年金に対する考え方は、けっして一様ではないのである。
なお、第1号被保険者の就業状況を見ると、常用雇用や臨時・パートの割合が増加しており、無職の割合が低くなっている。また、就業状況別に保険料納付状況を見ると、常用雇用や臨時・パートは1号期間滞納者の割合が高い(『平成19年度における国民年金保険料の納付状況と今後の取組等について』)。
雇用構造の変化による構造的問題
以上のデータは、「公的年金に加入したいのだが、生活が厳しくて保険料を払えない」ということではなく、「公的年金制度には期待できない。保険料を払ったところで無駄になる。だから払わない」という「確信犯」的な未納者が増えていることを示唆している。若年者の未納率が高いのは、そうした考えの反映だろう。
このような考えを持つグループとしてとくに重要なのは、非正規雇用者である。
これまで、日本の年金制度が想定してきた基本的な雇用構造は、「雇用者=正規雇用者=雇用主負担があり、専業主婦の分も本人が負担する人たち」というものだ。
しかし、1990年代以降の日本で、こうした雇用構造が壊れたのである。被用者であっても、被用者年金に加入できない人が増えているのだ。そのために、未納が増えた。これは、拙著『日本を破滅から救うための経済学』(ダイヤモンド社、2010年7月)の第4章の6で分析したところである。
なお、厚生労働省の資料による就業形態別の厚生年金適用割合を【図表1】に示す。
http://diamond.jp/articles/-/8932?page=3参照
90年代以降未納率が増えたことの原因として、徴収業務が都道府県から社会保険事務所に移されたことが指摘された。そうした事情もあるのだろうが、それだけではすまない。これは、雇用構造の変化に伴う構造的な問題であり、年金制度が崩壊しつつあることを示しているのである。今後、正規労働者がますます減る可能性があることを考えれば、問題はきわめて深刻であることがわかる
これまでの年金制度を支えた要因が崩壊した
本来、強制加入の年金制度は、保険料強制徴収の仕組みがあって初めて成立しうるものだ。しかし、日本の年金制度は、そうした仕組みを整えないままに、強制加入年金として出発した。
この制度がこれまで破綻しなかったのは、つぎの2つの要因による。
第1は、厚生年金や共済年金などの被用者保険においては、保険料を給与から強制的に天引きできることだ。これは、所得税における源泉徴収と同じような仕組みである。つまり、徴収作業を企業に代行させているわけだ。
第2は、1970年代頃までは、保険料に対して年金給付額が有利であったため、保険料納付が経済的に見て有利であったことだ。したがって、強制徴収しなくとも、自発的に保険料が納付されてきた。
問題は、このいずれもが崩壊してしまったことだ。
第1に、非正規雇用者が増えることによって、それまでであれば厚生年金の対象となっていた人々が、国民年金の対象とされるようになった。第2は、保険料と給付額の関係が悪化し、年金加入が経済的に見て引き合わないものになったことだ。
このいずれもが、元の状況に戻すことは困難な変化である。
第1点に対処するには、非正規雇用者を厚生年金に加入させる必要がある。しかし、そうすれば雇用主負担が増加するため、企業は厚生年金加入条件の緩和に反対している。
実際、企業が非正規労働者を増やした大きな要因は、雇用主負担を免れることにあったのではないかと考えられるのである。
国民経済計算の分配勘定で見ると、賃金報酬に対する雇用主社会保険負担の比率は、1980年代の前半には13%台であったが、その後ほぼ継続的に上昇して、2002年には18.6%となった。
ところが、その後は低下して、2006年には16.6%となっている(【図表2】参照)。
http://diamond.jp/articles/-/8932?page=4
02年頃までの上昇は、保険料率の引き上げによると考えられる。そして、それ以降の下落は、保険料率の引き上げにもかかわらず非正規労働者が増えたことの影響と考えられる。賃金の2割近くにも及ぶ社会保険料負担は、新興国の低賃金労働と世界市場で競合しなければならない輸出産業の企業にとっては、けっして無視できない重要な事項だ。
そして、前回述べたように、未納が増えたために基礎年金国庫負担率を引き上げて一般財源で埋め合わせたのだとすれば、結局のところ、雇用主負担が一般財源に変わったことになる。企業としては、こうした状況を元に戻すことは絶対に望まないだろう。
第2点に関しては、前回も述べたように、基礎年金に対する国庫負担率を引き上げて、保険料と給付額の関係を改善しようとしている。しかし、すでに示したように、国庫負担率2分の1であっても、個人運用のほうが有利な状況になっている。
こう見ると、国民年金未納は、きわめて根の深い問題であることがわかる。
それは、単に徴収を強化すれば解決できる、という問題ではない。雇用構造の変化と人口構造の変化に、年金制度が対応していないことの結果なのである。
正直者が損をすると皆が考えれば、
制度は崩壊する
事態は、今後さらに悪化するだろう。
すでに述べたように、若年層の納付率はきわめて低い。この年代が今後、自動的に納付率を高めてゆく可能性は、ほとんど考えられない。そして、今後参入してくる新しい世代の納付率が自動的に向上することも考えられない。そうだとすれば、時間の経過にともなって、全般的な納付率はますます低下してゆくだろう。納付率の平均が50%を切ることは、時間の問題ではないかと考えられるのである。
さらに、「保険料を支払わなくとも年金をもらえるのではないか」という期待が強まっている。
そうなるのは、「全額保険料方式」が議論されているし、民主党は「7万円の最低保障年金」をマニフェストで提案しているからだ。仮にこうした制度が将来導入されれば、保険料を支払わなくとも年金は受け取れると期待できる。それを考えると、「いま真面目に保険料を払うのは馬鹿だ」ということになってしまう。
「制度を支えるために正直者が努力をしても、結局は損をする」という認識が広まることほど恐ろしいことはない。そうした認識が広まれば、制度の崩壊は加速的に進行する。日本の公的年金制度は、すでにその領域に足を踏み入れているのではないかと考えられるのである。
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