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森永卓郎(SAFETY JAPAN)厳しい時代に「生き残る」には
経済アナリスト 森永卓郎
2010年 7月20日
民主と自民は「消費税翼賛会」。「参院選」で露呈した「二大政党制」の弊害。「国民の選択肢」を奪う「民・自談合」で日本は「重税国家」に!
■「逆立ちして鼻血も出ないくらいムダを削ってから」
周知のとおり、2010年7月11日の参議院議員選挙で民主党が惨敗した。
前回のコラムでも論じたように、民主党敗北の大きな要因の1つに「消費税率の引き上げ」がある、と私は考えている。
参院選に遡ること1カ月ほど前、6月18日に菅直人総理は、「社会保障費が増えていくことを考えると、消費税を10%程度に引き上げる必要がある」との認識を示した。
昨年(2009年)の衆議院議員選挙(総選挙)の際に、民主党は任期中(4年間)の消費税増税は不要だと繰り返し訴えていた。
菅総理自身も、財務大臣時代の今年(2010年)1月に消費税増税の議論は、「逆立ちして鼻血も出ないくらいムダを削ってからだ」と述べていた。
にもかかわらず、菅総理が消費税増税に前向きな姿勢を示した。
この菅総理の政治姿勢は、昨年の総選挙の党公約に反するばかりでなく、自身の発言(しかも、わずか半年前の財務大臣発言!)をもいとも簡単に翻す無責任極まりないものだ。
■菅氏も鳩山氏と同じく「軸のない政治家」
しかも、菅総理が言及した「消費税10%」とは、もともと自民党が掲げたもの。
参院選の争点をぼかすための自民党への「抱きつき戦術」とすれば、選挙や政局にのみ関心を払う、いわゆる「政治屋」には多少のウケがよいのかもしれない。
あるいは、自身が所信表明演説で述べたように、消費税率の引き上げを視野に超党派の「財政健全化検討会議」を設置するための自民党への「呼び水」とすれば、いかにも国を憂える大政治家然たる印象を世間に与えることができるのかもしれない。
果たして、菅総理がそこまで計算して消費税増税に言及したのかどうかは定かではない。
しかし1つ明らかなことは、消費税に対する菅総理の「底」の浅さだ。
実際、菅総理は参院選が近づくにつれ、「(任期中の)3年間は消費税を上げない」と弁明するなど、財務大臣の頃から数えれば、自身の発言を二転三転させている。
つまりは、菅総理も鳩山由紀夫・前総理と同じく、その「言葉」が軽く、確固たる政治理念・姿勢も貫けない「軸のない政治家」といえるのだ。
このような総理が二代も続くというのは
■多様性がなくなれば、選択肢も失われる
そもそも、今回の参院選では「二大政党制」なるものの弊害が如実に表れた、と思っている。
小峰隆夫・法政大学教授は、近著『政権交代の経済学』(日経BP社)で、それに関連する「ホテリング現象」について説明している。要約すれば、こうだ。
長い海岸線に「海の家」がたくさんある場合。各店は海岸に散在しているので、お客は自身の近くの店にいけばよい。
一方、長い海岸線に海の家が2店しかない場合。その2店にとっては海岸の真ん中(海岸線の中央部)に建つほうが営業上有利になる。お客が海岸のどこからでもアプローチしやすいからだ。
加えて、その2店が同じ品揃えにしたり同じサービスを提供したりすれば、どちらか一方の店だけが繁盛することもなくなる。
しかしそれでは、海の家の「利益」にはなるものの、お客の「利益」になるとは限らない。
まず、海の家から遠く離れたところにいるお客には店を利用しにくい。また、ほかのお客にとっても、海の家が2店しかないため、たとえ両店とも気に入らなくても、どちらか一方の店をしぶしぶ利用するか、あるいはどちらの店も利用しない、という行動しかとり得ない。
要するに、海の家の多様性がなくなれば、お客の選択肢も失われるわけだ。
■国民の選択肢は「消費税増税」しかない
翻って、今回の参院選。
2つの海の家たる民主党と自民党がともに「消費税10%」を掲げた。
しかも、今の民主党は、前回と前々回のコラムで述べたように、新自由主義政策を推進した小泉内閣と思想上の共通点が多い前原・野田グループら「政権右派」が実権を握っている。
そのため、民主党と自民党の政策の違いが分かりにくくなっている。
そうなると、先ほどの海の家の例と同じく、国民はたとえ両党の政策に賛同できなくても、選挙でどちらか一方の党にしぶしぶ投票するか、あるいはどちらの党にも投票しない、という行動しかとり得なくなる。
その結果、参院選における国民の選択肢は両党の掲げる「消費税増税」しかなくなってしまったのだ。
(有権者が選挙を棄権すれば、有権者がたとえ消費税増税に反対の立場でも、その意向が政治の場に反映されない可能性が高いため、ここではその状況を考慮しない)
■民主と自民はまるで「大政翼賛会」のよう
もっとも、先ほどの海の家の例と違い、日本には民主・自民の二大政党のほか、国民新党や社民党、共産党などの「少数政党」も存在する。
有権者が消費税増税に反対なら、同様の主張をする、そうした少数政党に投票すればよい、といった意見もあろう。
しかし有権者というのは、一般に、選挙で自身の大切な1票を敢えて「死に票」にしたいとは思わないはずだ。
とりわけ現行の小選挙区制のもとでは、忠実な党員・支持者でもない限り、選挙で少数政党に投票する人はそれほど多くないのではないか。
よって、民主・自民の二大政党が消費税増税で“談合”すれば、国民にはそれしか選択肢がなくなってしまうのだ。
にもかかわらず、民主党も自民党も戦前・戦中の「大政翼賛会」のように消費税増税で一致団結してしまった。
実際、参院選で「消費税10%」に言及した民主党が負けても、同じ主張をした自民党が勝ったことで、「国民は消費税増税を容認している」といった選挙分析まで飛び出している。
私は以降、消費税に関しては両党を「消費税翼賛会」と呼ぶことにした。
■橋本内閣の消費税増税の蹉跌を思い出せ!
はっきり言おう。
私は、消費税率の引き上げはすべきではないし、する必要もない、と考えている。
第一に、日本政府は莫大な金融資産を持っており、決して財政破綻の状態ではない。
菅総理は、ギリシャ危機を目の当たりにして、「ギリシャのようになってはいけない」と増税を決意したとされるが、ギリシャ危機の時には、日本国債も、そして円も、値上がりしたのだ。
つまり、世界は日本の財政を「安全」と評価したことになる。
第二に、日本の財政赤字は消費税率が低いことで生まれているのではない。
日本経済がデフレに突入した1997年度の税収は54兆円だった。それが現在の37兆円(2010年度当初予算)にまで落ちてしまった最大の原因はデフレだ。
思い出してほしい。
橋本内閣が97年に消費税率を3%から現行の5%に引き上げたときのことを。
確かに、当時、消費税率を2%引き上げたことで、97年度の税収は2兆円ほど増えた。
ところが、税収はその翌年(98年度)に早くも4兆円ほど落ちた。そして、その翌年(99年度)にもさらに2兆円ほど落ちたのだ。
■消費税収の割合は高税率のスウェーデンと同じ
要するに、増税による消費低迷で景気が悪化してデフレに陥ったことで、法人税収をはじめとする税収(全体)が落ちたわけだ。
その結果、歳出が歳入を上回る状況が続き、財政赤字が拡大したのだ。
したがって、デフレを止めれば、税収は元に戻る。
消費税を10%にしても、増収分は12兆円に過ぎない。それよりもはるかに大きな税収がデフレを止めるだけで生まれる。そのためには、日本銀行に資金供給を拡大させればよい。
第三は、日本の消費税率はすでに十分に高いということだ。
2007年の税収全体に占める消費税収の割合は、日本とスウェーデンが同率の22.1%。消費税の標準税率が25%のスウェーデンと5%の日本がまったく同じなのだ。
その理由は、欧州では一般に、食料品などに軽減税率が適用されていたり、法人税や所得税などの直接税が高かったりするからだ。
また、「消費税は世界の潮流」という見方もあるが、少なくとも米国は違う。
日本の国税に当たる米国の連邦税には消費税は導入されていないし、地方税ともいえる「小売売上税」を課していない州はいくつもある。
■社会保障こそ財源を消費税に求めてはいけない
第四は、消費税の逆進性だ。
菅総理は、社会保障財源として消費税を使うという。
しかし、消費税というのは、低所得者に重い税制だ。
たとえば、収入に占める消費支出の割合は、低所得者が8割に対して、高所得者は5割に過ぎないという。
言い換えれば、同じ5%の税金を消費にかけても、低所得者は収入の4%を負担するのに対して、高所得者は収入の2.5%しか負担しないことになるのだ。
健康保険にしろ、厚生年金にしろ、いまの社会保障の負担は収入に比例してかかっている。
しかし、社会保障の財源を消費税に求めてしまうと、低所得者が社会保障の負担を今より大きくしなくてはいけなくなるのだ。
すなわち、低所得者に高い社会保険料をかけるのと同じ結果になるのだ。
ゆえに、社会保障こそ財源を消費税に求めてはいけないのだ。
■国家公務員の給与を「法律どおり」にせよ!
そもそも、民主党は昨年(2009年)の総選挙のマニフェストで国民に約束した「国家公務員の総人件費の2割削減」にもほとんど手を付けていないし、公益法人改革も進んでいない。
国家公務員をむやみに叩くつもりは毛頭ないが、その給与が高すぎるのも事実。
いまの国家公務員の給与は法律で「民間準拠」とされており、その水準は民間(企業)の平均給与に合わせることになっている。
ところが、その民間の平均給与の算出の仕方が実に意図的なのだ。
政府は、50人以上の事業所だけを取り上げて、そこの正社員の給与を調べ、その平均値を出している。
50人以上の事業所といえば、民間では大企業の部類に属する。
つまりは、国家公務員の給与は大企業の正社員の給与と同水準なのだ。
私は、国家公務員の給与が準拠するのは、中小・零細企業も含めた民間(企業)全体の平均給与に改めるべきだと考えている。そうすれば、十兆円規模の財源を簡単に捻出できるはずだ。
しかも、この施策はあくまで「法律どおりにする」だけのことであって、国家公務員の給与を無理やり「引き下げる」わけではないのだ。国家公務員も反対しにくいはずだ。
つまるところ、政府がムダの削減を徹底しないまま財源を手当てすれば、それこそ単なる「重税国家」になってしまう。菅内閣は、そのことを肝に銘じるべきだ。
森永卓郎(もりながたくろう)
森永 卓郎 1957年東京都生まれ。東京大学経済学部卒。日本専売公社、日本経済研究センター(出向)、経済企画庁総合計画局(出向)、三井情報開発総合研究所、三和総合研究所(現:UFJ総合研究所)を経て2007年4月独立。獨協大学経済学部教授。テレビ朝日「スーパーモーニング」コメンテーターのほか、テレビ、雑誌などで活躍。専門分野はマクロ経済学、計量経済学、労働経済、教育計画。そのほかに金融、恋愛、オタク系グッズなど、多くの分野で論評を展開している。日本人のラテン化が年来の主張。
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