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平成22年7月19日発売
小学館 (転載承諾済)
独占スクープ
菅内閣は霞が関守旧派の走狗と化した
現役改革派官僚が決意の実名証言
「天下り禁止」「省庁解体」「役人リストラ」はかくして潰された
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参院選で国民は「消費税増税NO」を突き付けた。それなのに菅首相は、「増税の仕掛け人」と呼ばれる財務省の勝栄二鹿・主計局長を事務次官に昇進させ、増税シフトを変えない姿勢を鮮明にした。この政権は霞が関とガツチリ手を握りながら、一方で国会の数合わせのために、「公務員改革の方向性は一致する」(玄葉光一郎・公務員改革担当相)とみせかけの改革でみんなの党に連携を呼びかけている。そんな政権の二枚舌を厳しく指摘する現役官僚が現われた──。
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「今の公務員改革は、本来、民主党がめざしていた天下り禁止や政治主導とは違う方向になっていると私には見えます」
そう語るのは古賀茂明氏だ。
経済産業省で産業組織課長や経済産業政策課長など中枢を歩いたエリート官僚で、内閣府の国家公務員制度改革推進本部事務局審議官に出向すると、天下り規制改革に辣腕を振るい、その急進的な姿勢から「霞が関革命の旗手」と呼ばれた人物である。
霞が関の守旧派官僚に最も恐れられる古賀氏が、民主党政権で公務員改革がどのように後退していったか、本誌の取材に初めて語った。
*
国民に消費税増税を求めるなら、まず公務員をリストラし、職を失った民間サラリーマンと公務員が一緒にハローワークに並ぶ。そのくらい血を流す改革をしなければ理解してもらうことはできないはずです。
ところが、参院選直前に国家公務員の退職管理基本方針が閣議決定され、その中に高給取りの幹部公務員のための専門ポストを作るといったいくつかの天下り代替措置が盛り込まれた。
公務員制度改革に携わってきた立場から見れば理解できない内容でした。国民に増税をお願いしている時に、こんな閣議決定をすれば、公務員の給料を減らさないために増税すると思われてしまう。国民の気持ちが見えていないといわれても仕方ない。
古賀氏は昨年9月の政権交代直後から鳩山政権のプレーンを務め、脱官僚を推し進めてきた。当時の管直人・副総理が主張した財務省の予算編成権を内閣に移すべきだという案や、仙谷由人・行政刷新相が打ち上げた「事務次官の廃止」は政治主導の切り札として古賀氏が練ってきたものと同じ政策だった。
内閣に予算編成権や公務員の人事権を集中させて、総理のトップダウンで物事が進む体制を作らなければ大きな改革はできない。
役所を企業にたとえると、大臣、副大臣、政務官の政務三役が経営責任を担う取締役にあたり、事務方は社員です。事務次官が担ってきた仕事は政務三役がやればいい。事務次官ポスト廃止は政治主導のための当然の帰結です。
が、「次官廃止」プランは当然のごとく霞が関の猛反発を浴び、提案者の古賀氏を政権中枢から排斥する工作が進められた。その攻撃に真っ先に白旗を揚げたのが他ならぬ仙谷氏だった。昨年12月、仙谷氏は国家公務員制度改革推進本部事務局の人事総入れ替えに踏み切り、古賀氏を更迭。さらに事務次官廃止論を一転させ、「事務の副大臣
ポストを創設する」と言い出したのである。
古巣の経済産業省に戻った古賀氏は、次のポストが決まるまでの待機ポストである「官房付」という閑職に追いやられた。
とくに財務省は古賀氏が政権の中枢に影響力を持つことを警戒したとされる(この経緯は前号でも報じた)。
行政刷新会議は財務省の協力を得て事業仕分けを大成功させた。予算の無駄を削るというのは国民にわかりやすいし、財務省とも利害が一致する。財務省と対立しないでうまくやっていく方が政策が進むと考えたのかもしれません。
しかし、事務次官を廃止して「事務副大臣」に格上げするというのであれば、政治主導どころか官僚の権限強化につながりかねない。
どうして180度変わってしまったのか、私には理解できません。
「公務員リストラ」は不可避
それでも、古賀氏は改革を諦めなかった。今年3月、仙谷氏と後任の行政刷新柏・枝野幸男氏が主催した「政策グランプリ」に「政治主導改革と公務員改革についての提案」と題する建白書を提出。そこには、国家戦略局、内閣人事局、内閣予算局を創設して局長に閣僚をあて、各省設置法を廃止して内閣の判断で機動的に組織再編できるようにするという事実上の「省庁解体計画」が記されていた。
この提案には改革の志を同じくする国家公務員制度改革推進本部の若手官僚たちのアイディアが多く含まれている。
政治主導というのは、あらゆることを政治家である
政務三役が直接処理することではなく、大臣から見て官僚に安心して仕事を分担させることができる仕組みを作らなければならない。
若手官僚たちは、高齢公務員が多く残って幹部ポストが塞がれ、組織が硬直化して改革ができない状況を真剣に憂いています。
そのためにも、公務員の人事体系、予算に大ナタを振るい、若手の抜擢や民間人登用を柔軟にできるようにするための仕組み作りが欠かせない。そして政治主導を実現するための組織改編は公務員改革とセットで行なう必要があります。
古賀氏の公務員改革案には、次官廃止の他に、幹部公務員(審議官以上の指定職)を政治任用にして内外無差別公募し、免職・降格ができるようにする。局長55歳、審議官53歳など幹部の役職定年制導入する。一般職を含めて公務員の給与を50歳から段階的に減らし、60歳までに3割カット、60歳以上は5割カットという賃金引き下げ。さらに天下りの根絶(天下り斡旋に刑事罰)のために独立行政法人は天下りの人数だけ理事の定員を減らすことなど、徹底したリストラが盛り込まれている。
国家財政が破綻状態にある時に、公務員だけが終身雇用、年功序列という仕組みは為はや通用しない。公務員の多くは、税収が落ち込む中で自分たちの現在の給料・待遇を確保することが、他の重要な政策を実施するための財源を奪い、社会的弱者への支援の削減につながっていると理解しているはず。
天下りも同じです。公務員改革は破綻した民間企業の再生と同じように血を流すリストラに取り組む必要がある。多少の混乱や個々の公務員の生活への悪影響は甘受しなければならない。
実は、仙谷大臣がプレーンたちと規制改革の議論をした時、古賀氏が「役所に無駄な仕事をやめさせ、余った公務員はクビを切るべきだ」と進言したことがある。仙谷大臣は「それはダメだ」と拒否したという。
民主党政権が事業仕分けで行政の無駄を削っていけば、当然、予算も仕事も減っていく。公務員は余るわけです。天下りがいけないのは、仕事をしないで高給を取っていること以上に、独立行政法人などの天下り理事を養うために無駄な規制や不要不急の仕事を作り、それに無駄な予算が使われているという問題が大きい。
従って、公務員改革は行政スリム化によって大量に生まれる「仕事のなくなった公務員」をクビにする政治決断ができるかが問われる。公務員のリストラには、労働組合の反対があるでしょうが、消費税増税の前に政府が公務員の給料カットとリストラをしなければ国民の増税への理解が得られるはずがありません。
「天下りの踏み絵」を差し出され
だが、この古賀氏の改革提案は黙殺され、「省庁解体」も「公務員リストラ」も幻となった。それどころか、「消費税10%」を掲げた菅内閣が発足すると、幹部公務員のための専門スタッフ職新設、独立行政法人への官僚の現職出向の拡大、民間企業への幹部公務員の現職出向など、これまで進められてきた天下り規制に逆行する方針が国民
が知らぬ間に閣議決定されたのである。
仕事をしない50代の官僚は数多くいます。彼ら1人分の人件費で新人職員3人を採用できる。しかし、クビ切りはできないとして、公務員の新卒採用を4割減らし、高齢の公務員に手厚く処遇しようとしている。
若手官僚たちは「現在の幹部たちはもう十分給料をもらい、少なからぬ退職金が出るのだから、これ以上、高齢の幹部のためのポストを増やすなどとんでもない。
われわれに思い切った仕事をさせてほしい」と悲鳴を上げています。
そうしたやり方は次代を担う優秀な若手官僚のやる気を失わせてしまう。長期的に見れば、国家の大損失となることは間違いありま
せん。
*
「脱官僚」を掲げた鳩山内閣は十分な準備や体制作りがないまま政治主導で行政を進めようとしたため、マニフェストを実現できないまま行き詰まって退陣に追い込まれた。それに懲りた菅首相や仙谷官房長官らは、天下り規制を緩めて、霞が関の協力を得ることで政権基盤を固めようと考えている。霞が関と一体化して改革逆行の道を選んだ菅首相や仙谷官房長官にとって、「改革の挫折」の舞台裏を知る古賀氏は邪魔な存在なのだ。
本誌前号では、政府が7月初め、古賀氏に好条件の再就職ポストを提示して退職勧奨(肩たたき)を行なったという情報を報じた。
天下り規制を推進してきた古賀氏に対するその処遇は、
「天下りを受けるか、それとも自発的に退職するか」という踏み絵に他ならない。
天下りを受け入れれば、今後、古賀氏は一切の批判ができなくなる。
古賀氏にどうするのかをぶつけた。
「私はまだ経産省に在籍しており、内部人事のことはいえません。しかし、天下りを受け入れる気はありません。自らの力で就職活動して、最後はハローワークに行くかもしれません」
かって民主党の長妻昭氏は、自民党政権が官僚の再就職斡旋機関をつくると、「官僚もハローワークへ行け」と批判した。これこそ公務員改革の趣旨に沿った行動だろう。
菅政権は増税を唱える前に無用な高給官僚を大量にハローワークに送るべきなのだ。p-53
(写真あり)
官僚支配が復活しようとしている
(写真は福田内閣時代の事務次官会議)
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