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日米安全保障条約は半世紀にわたり東アジアの安定に中心的な役割を果たしてきた。しかし、2009年に行われた日本の総選挙に伴う政権交代と政策の変更により、この同盟関係が不透明なものとなった。さらに、これが日米同盟関係の終わりの始まりになるかもしれない、と問う者さえいた。しかし、私はそれは違うと考えている。20年前と今日の状況を比べると、日米同盟関係は弱まるどころか、さらに強固になっている。
1990年代初め、多くの米国人は日本を経済的脅威と見なしていた。一方多くの日本人は、国家安全保障のため、米国ではなく国際連合中心のアプローチを取るべきであると考えていた。両国の人々の中には、日米安保同盟は解消されるべき冷戦時代の遺物と見なす者もいた。しかしこのトレンドは、中国に国際情勢への参加を呼び掛ける一方、日米同盟関係を強化することにより不確実性をヘッジした、クリントン政権の1995年東アジア戦略報告書(通称ナイ・レポート)により反転した。
1996年、クリントン・橋本両首脳は、日米同盟は冷戦後の東アジアにおける一段の繁栄をもたらす安定の基盤であると宣言した。米国国防総省に勤務している時にすでに述べたが、米国、中国、日本の3カ国は安定した三角形を形成する良好な関係を望んでいた。しかし、日米同盟関係から、これは正三角形として足りえなかった。米国ではこのアプローチは党派を超えて受け継がれた。また世論調査によると、最近の政治的なごたごたにもかかわらず、日本でもこれは依然として広く受け入れられている。これらのことから、今日の日米同盟は15年前に比べてはるかに良好である、と私は考えている。
しかし、新たな外部環境の中、今後数年のうちに課題が生じそうな日米同盟関係は、3つの主要な変化に直面している。第1に、指導者の交代期を迎えている予測不能な国家である北朝鮮の危険性だ。北朝鮮は核兵器不拡散条約(NPT)と6カ国協議から脱退し、最近では韓国海軍の船舶を沈めた。第2に、年率10%を超える中国の経済成長と、過去10年間でさらにそれを上回る同国の急速な軍事費拡大だ。第3に、気候変動といった国益に対する国家を超えた新たな脅威の発生である。
中国は高度経済成長により、日本の重要な貿易相手国となった。しかしそれと同時に、中国の軍事力の拡大は日本を神経質にさせている。私が1990年代に日米安保の再交渉を行っている時期、日本の指導者から米国は中国を選び日本を見捨てるだろうか、と個人的に尋ねられた。当時、そして現在でも、2つの理由から同盟の転換などほとんどあり得ないと私は答えている。まず第1に、中国は潜在的な脅威であるが、日本は脅威ではない。第2に、日米は民主主義国であるが、中国は民主主義国家ではない。
さらに、中国の内部の変動は依然として不透明である。中国の政治的発展は経済に比べるとはるかに遅れており、とても自由とはいえない。またインドと異なり、中国では政治的参加への問題が解決されていない。 国内問題の様相を呈しながら、中国がナショナリズムの競合に陥る危険性もある。同時に、中国の勃興が(同国の指導者の言葉を借りれば)平和的かつ協調的であることは、米国、日本、中国の3カ国にとって共通の利益である。もし不幸にも中国が挑戦的となれば、アジアがインドやオーストラリアを封じ込めるのと同じように、中国は日本が中国を封じ込めることを知るであろう。しかし現在の状況下で封じ込め政策に向かうのは間違いである。不確実性に対しては統合とヘッジがより優れたアプローチだ。実際、米国、日本、中国には、3カ国間の協力やその他地域との協力に専念すべき大きな理由がある。
第3に、日米同盟は、病気の感染拡大、テロリズム、破たん国家からの難民など、我々の国益に重大な影響を与える国家を超えた問題に対処しなければならない。これら問題の中で最も大きなものは、中国がいまや米国を抜いて二酸化炭素の最大の産出国(1人当たりではない)となった状況下で、温暖化による被害が生じうるというものである。幸い、この分野への対処は日本が得意とするところであろう。
歴史的な経緯や日本の軍事力の使用制約を理由に、一部日本人は従来型の安全保障分野での日米同盟の不平等性について不満を漏らしているが、新しい分野においては対等に近いパートナーである。アフリカからアフガニスタンにいたるまでの日本の海外開発援助、世界的な健康プロジェクトへの参加、国連に対する支援、海賊対策としての海上警備行動への参加、さらに、効率的なエネルギーの使用 を目指す研究開発など、国家を超えた新しい問題に対処するため、日本は最前線に立っている。
日米安保50周年を迎えて同盟関係を再確認することは、日米両国にとって重要である。日本の政権交代が従来型の安全保障問題で多少の摩擦を引き起こしたが、日米共通の利益は依然として大きい。よほど物事をまずく取り扱わない限り、日米同盟が一層繁栄する可能性は大きい。これを成し遂げるには、これまで以上に大きな忍耐、およびワシントンと東京との緊密な連携が必要になる。私は以上のことから、日米同盟の将来は明るいと考えている。
ジョセフS. ナイ氏はハーバード大学教授で、近刊の“The Future of Power in the 21st Century”の著者である。
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