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鳩山内閣における「脱官僚」の迷走の果てに発足した菅内閣は、早々に「脱官僚」の放棄を宣言した。かつて「官僚は大バカ」と言っていた菅直人総理が、「官僚こそが政策のプロフェッショナル」と180度態度を改め、内閣発足当日、今後は官僚と緊密に連携するとの閣議決定(6月8日付「基本方針」)まで行なったのだから、官僚たちは笑いが止まらない。「官邸では今や、『政治主導』という言葉は禁句」(政府関係者)とまで言われる。
天下り法人「解散・縮小」の真相
そんな中で、前原誠司国土交通大臣が7月6日、国土交通省傘下の“最大手”天下り法人である「建設弘済会」の解散、「空港環境整備協会」の大幅縮小を3年以内に行なうと発表した。選挙中に政権与党が国民受け狙いの政策を打ち出すのはよくある話だが、こんなことをやったら菅内閣の官僚宥和路線に反してしまうのではないか……などという心配は全く無用だ。官僚たちはとっくに先回りして、手を打っている。6月22日に閣議決定された「退職管理基本方針」だ。
新聞でも「現役天下りの容認」などと報じられたが、どういうことなのか。従来は、中央官庁では、多くの官僚が50歳代で退職勧奨を受けて退官し、「天下り」していた。今回の閣議決定では、「中高年期の職員が公務部門で培ってきた専門的な知識・経験を民間等の他分野で活用する」という名目で、役所からの「出向」人事を奨励・拡大することが決まった。端的に言えば、「天下り」を「出向」に置き換えようという話だ。もちろん、「出向」という形式をとっても、50歳代の官僚が天下り法人の幹部ポストで高給をもらうことは全く一緒。いかにも官僚の考えそうな形式論の解決策だが、普通に考えれば「天下りの容認」に他ならない。
しかも、実は、従来以上に自由自在な天下り人事も可能になる。「出向」先は、独立行政法人や公益法人だけではなく、民間企業まで含まれるからだ。従来は、「退官後2年間は、所管企業への天下り禁止」といったルールがあり、いきなり民間企業へはなかなか行けないようになっていた。このため、とりあえずの天下り先として、「建設弘済会」のような天下り公益法人が不可欠だった。
ところが、今回の決定では、もともと若手用の制度であった「官民人材交流制度」を高齢職員に拡大し、例えば国土交通省の天下り適齢期の官僚たちが、「出向」という形でいきなりゼネコンに天下りすることも可能にしている。
結局、事実上の「天下り全面解禁」をした結果、「建設弘済会」など旧来型天下り法人はもはや用済みになった、というのが前原氏の発表の真相だ。もちろん、こうした法人をつぶしたところで、天下り官僚がほかのところに移るだけで、それに伴うカネも流れ続ける。例えばゼネコンへの天下りが増えるとしたら、天下り官僚の人件費を上回るカネが水面下で当該ゼネコンに流れているはずだ。何らムダ削減にもつながらない。
「退職管理基本方針」では、さらに、天下りの代わりに、役所の中で「高給窓際スタッフ」として定年まで年収千数百万円をもらい続ける道も新設した。天下りを目前に控えた幹部官僚たちに対し、至れり尽くせりのメニューを提示したわけだ。
異例の批判論文
こうした民主党政権の公務員制度改革逆行に対し、現役官僚として異例の批判論文を発表して、話題を呼んでいる人物がいる。前・国家公務員制度改革推進本部事務局審議官の古賀茂明氏だ。
もともと「筋金入りの改革派官僚」(経済官庁OB)として知る人ぞ知る存在だった古賀氏だが、鳩山内閣発足当初は、能力と改革姿勢を買われ、いったんは、仙谷由人行政刷新担当大臣(当時)の補佐官への抜擢が内定した。ところが、霞が関各省から強い反発があって、仙谷氏は断念。2009年末になると、抜擢どころか、仙谷氏によって国家公務員制度改革推進本部事務局を追われ、その後半年以上、出身の経済産業省で「大臣官房付」という閑職に置かれ続けてきた。
そんな中で古賀氏が週刊エコノミスト6月29日号に発表した内容は、「高齢職員の出向拡大や窓際ポストの新設などは若手の意欲を削ぐ。このような幹部クラスの既得権維持ではなく、意欲ある若手官僚の声を聞いて公務員制度改革を進めよ」という至極まっとうな内容だった。しかし、もはや民主党政権に受け入れる余地はなかった。
この論文が直接の理由になったのかは不明だが、選挙戦の最中、古賀氏は退職勧奨を言い渡された。「天下り付きの勧奨ではないので、本人が再就職活動中」(財界関係者)という。
古賀氏の境遇の変遷は、民主党政権の変質の裏返しだ。昨年の政権交代当初は公務員制度改革を進める意欲が見られたが、その後、事業仕分けや予算編成などで財務省依存を強める中で、まともな改革は断念し、数少ない改革派官僚は切り捨て、「今や財務省と組んで政権の安定維持だけを考えている」(政府関係者)状態になった。
霞が関、特に財務官僚たちは、実はこの夏の人事で、民主党政権が再び古賀氏を枢要ポストに登用する可能性を強く警戒していたという。だが、「民主党政権は迷いに迷った末、財務省の意向に沿って古賀氏を切った。政治主導の人事を行なうと言っていたが、結局、財務省が霞が関人事を牛耳ることになった」(経済官庁幹部)のだ。
参議院選挙後の政権交代第二幕は、どのような展開を見せるのだろうか。少なくとも、「脱官僚」や公務員制度改革が前進しそうな気配は、今のところ皆無だ。
筆者/ジャーナリスト・白石 均 Shiraishi Hitoshi
http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20100713-01-1501.html
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