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前回の時事日想のコラムで菅首相の「腰の引けた発言」について触れた。消費税について自民党の10%案を「参考にする」と語ったことである。それだけではない。「超党派での議論」というのもよくよく考えてみればおかしな話なのである。
そもそも税金をどう集めるのか、その税金をどう使うのか、というのは政党の最も基本的な論理の基盤であるはずだ。税金の持つ所得再配分の機能を弱めるのか、それとも強めるのか、消費税を中心にするのか、所得税を中心にするのか、低所得者に対して免税するのか、それとも社会保障給付をするのか、年金は保険でやるのかそれとも税金でまかなうのか、などなど、それぞれの政党が絶対に譲れない部分というものがあるはずだ。
それを「超党派」で議論して、実行に移す前に国民の審判を仰ぐのだと菅首相は言う。しかし、である。もし増税とそのやり方について超党派的にまとまったなら、国民はいったい何を選ぶのだろうか。消費税にあくまでも反対すると言っている共産党や社民党、みんなの党、国民新党などなどに投票するのか、それとも民主党と自民党、たちあがれ日本などの「増税連合」に投票するのかを迫るということなのだろうか。
だいたい民主党と自民党が税制やら税金の使い道で一致するなら、そもそも2つの党でいる必要はない。それに、いかに財政状況が逼迫(ひっぱく)しているとは言っても、労組がバックにつく民主党と財界がバックにつく自民党(ステレオタイプの見方ではあるが、大きく外れているわけではあるまい)で意見が一致するとは到底思えない。要するに、この菅首相のいう「超党派で議論」というのは、民主党が参院選で不利にならずに責任ある政党というイメージを振りまくための「目くらまし」であると言ったら言い過ぎだろうか。
●大胆な財政再建を打ち出した英国
一方、菅首相が大好きな英国のほうは、大胆な財政再建を出してきた。2014年度までにGDP(国内総生産)の6.3%にあたる財政赤字の削減をするというのである。そのうちの4分の3は支出のカット、残りは増税によってまかなうのだという。これによって2009年度にはGDPの47%に達していた公的支出は41%にまで低下し、国債などによる国の借金はGDPの10%から1%にするという。日本の消費税にあたる付加価値税を17.5%から20%に来年1月から引き上げるほか、区法人税を引き下げる。
もちろんこれはオズボーン財務相が説明したように緊急緊縮予算である。ただ問題は、これだけの歳出カットをした場合に、果たして景気は自立的に回復してくれるのかどうかということだ。英国も住宅バブルが弾けて、そのために金融機関がいくつも危機に陥った。またエコノミスト誌最新号は、政府支出のカットができるのかと疑問を投げかけている。
政府支出のほぼ20%を占めるNHS(ナショナル・ヘルス・サービス、国営医療サービス)への支出は削減しないことになっているからだ。そうなると他の部門の削減率は25%と極端に高くなり、それだけ実現が危ぶまれることになる。
オズボーン財務相は支出のカットによって国が果たす役割が小さくなれば企業の投資が増え、輸出も増えて、雇用も増加すると主張している。しかしそうならない可能性も高いと同誌は指摘する。
英国の景気はまだまだ自律回復にはほど遠く、需給ギャップが残る以上、企業は投資に慎重にならざるをえない。そうなれば銀行は融資を渋る。政府支出を抑え、付加価値税を上げれば国内の市場にいい影響はない。それに英国の貿易相手として最大のユーロ圏の国々の景気も回復基調に入ったとは言い切れない。エコノミスト誌は期待どおりに経済が動かないことに備えてオズボーン財務相は「Bプラン」を用意しておくべきだと主張する。
●のんびりした感じが否めない民主党
政権を取って2カ月足らずのうちにこれだけの野心的な財政再建プランを出してきたところは、さすがにいつでも政権を担えるだけの準備をしている政党だ。それに比べると、日本の民主党は財政再建について語り始めたところは評価できるが、増税は早くとも2012年とか、プライマリーバランスの黒字化は2020年目標とかずいぶんのんびりした感じが否めない。それに「増税しても成長できる」といういわゆる成長戦略の要の議論は、どう考えても理解できない。そもそも国が民間よりも効率的な資金の使い方ができるというのは「幻想」である。それは歴史の証明するところだ。
いずれにせよ、参院選の結果によって日本の政治はまた大きく動きだすだろうが、単なる数あわせの離合集散だけは勘弁してほしいものだと思う。日本の経済にも財政にも、劣化した政治を許容する時間はもはや残されていないからである。
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