35. 2010年7月04日 23:48:47: pp0EWQcIBU 原文はこのブログにも載っている。 http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2005/08/post_e077.html ロナルド・ドーア先生のフィナンシャルタイムズ寄稿 エントリを起こすような話でもないけど、それを言うならこれまでもけっこうどうでもいい話を書いてきたので、ちょっこし、ロナルド・ドーア先生が先日八日のフィナンシャルタイムズに寄稿した”A contemporary dilemma haunted by history”(参照)について触れておこう。 批難する意図はないのだが、この寄稿がなんとも奇妙な形で日本のブログに引用されているみたいなのがよくわからない。ので、曖昧な言い方になってしまうのだが、その受け止め方は、まるで郵政民営化は欧米の陰謀だといったふうでもある。 決まり切って冒頭が引用される。 Koizumi's Snap Election: a contemporary dilemma haunted by history By Ronald Dore Koizumi Junichiro, Japan's prime minister, has lost the vote on his grand scheme to privatise the country's post office with its vast savings pool and will go to the polls. For now, the village-pump communitarian face of Japanese conservatism has won out over anti-bureaucratic, privatising radicalism. The global finance industry will have to wait a little longer to get its hands on that Dollars 3,000 billion of Japanese savings. この冒頭は、私のブログのエントリに溢れるどうでもいいような余談の枕話にすぎないのだが、なにか面白いのだろうか。試訳してみる。 小泉首相の脊髄反射的選挙:歴史に拘泥する現代の矛盾 ロナルド・ドーア 日本の首相小泉純一郎は、巨額の貯金を抱えた日本郵政公社を民営化するという基本計画が信任されなかったので、選挙に持ち込んだ。現状では、村落依存の日本の保守派が持つ共産主義者的な側面が、反官僚主義や民営化改革主義に打ち勝った。世界の金融産業が、日本の抱え込んだ三兆ドルを取り扱えるようになるのはもうしばらく待たなくてはならないだろう。 というわけで、で?というくらいの話の枕だ。 が、引用最終文の"get its hands on"というのを、「手を付ける」だから「せしめる」と訳して、だから日本の富の三兆ドルをかすめ取ろうとしている、と解釈したのか。そう訳せないことはないとは思うし、日本語がお達者な変人ドーア先生でもあるのでその含みがないとは言わないし、自分の訳がいいとは思わないけど、それでも、その解釈にはちょっと絶句する。 というのは、この短い段落を見るとわかるけど、日本人は保守派という共産主義者のためにカネを吸い取られていたという含みがあるし、官僚制や民営化に反対する勢力がそうした共産主義者に負かされちゃったよというトーンがある。ので、そうした文脈からはそう勝手に誤解のできる話ではないと思うのだが。 そしてなにより、この寄稿、この冒頭はただの枕なんだよ。こう続く。 But the snap election next month is likely to focus as much on the dire state of Japan's relations with China and Korea as on privatisation. Here at issue is the other face of Japanese conservatism: the reluctance to feel guilty about the war. The key symbol of that reluctance has been Mr Koizumi's visits to the Yasukuni shrine in Tokyo to pay respects to Japan's war dead. というわけで、小泉首相は郵政民営化問題で選挙を問おうとしたのだけど、中韓関係の泥沼状態のほうが注目されるかもよ、と話が続き、実際のところ、この寄稿は全文読んでみると、そういう話が続いている。 くどいけど、ドーア先生のこの寄稿のテーマは全然郵政民営化じゃない。フィナンシャルタイムズが扱った郵政民営化の記事を取り上げたいなら、同じく八日付けの”Closing the piggy bank”(参照)のほうがいい。こっちは正式に社説だし。 There is a chance the bill will not make it. That would provoke a political crisis when Japan has more pressing things to worry about.
The post office is the world's biggest bank and insurance company, which happens to own a side business delivering mail. The main point of privatisation is to encourage better allocation of its huge Y350,000bn (£1,800bn) pool of savings. The post office funnels these into government bonds, encouraging politicians to spend beyond their means, and into a murky second budget that pays for roads, bridges and sundry political favours. というわけで、日本の行く末をごく普通に憂慮しているし、郵政のカネの正体を"a murky second budget"ときっちり書いている。 話をドーア先生の寄稿に戻す。 この寄稿は、郵政民営化を扱ったものではないというので、その文脈で引用したりするのは無意味なのだが、さて当のテーマである日本の歴史問題として読むと、これが中国様の息がかかりぎみのフィナンシャルタイムズにしてはなかなかいい線のお話になっていた。簡単に言うと、中韓や朝日新聞みたいなその日本内シンパの歴史認識とは明確に違っている。日本の戦争についてこう言っている。 It was a racial war, but the Japanese had no genocidal project equal to the Nazis' systematic slaughter of Jews and Gypsies. They were racists, yes, but all imperialists were racists. 日本の戦争に人種問題は関係していたが、欧州のようなものではなかったし、帝国主義の時代とはそういうものだとさっぱりとドーアは割り切っている。 じゃなぜ問題になるのか。 The big difference was that the Japanese came too late. And lost. The winners could declare the imperial age over, cede their colonies and claim they had saved the world for freedom and democracy. 日本が帝国主義の潮流に乗ったのは遅かったし、なにより、負けたからだよ、というわけだ。そのとおり。英国みたいに戦争に勝っていたら、帝国主義の時代は終わったとか言える(言うだけだけど)わけだ。 じゃ、なぜそうさっぱりと日本は割り切れないのか。 Why would mainstream Japanese politicians hesitate to talk in these terms? Probably because it would upset too many powerful Americans. というわけで、日本を負かした米国人が恐いのでしょうというわけだ。 いやはや、まったくそのとおり。ということで、この先のオチになるキ※タマねーのか河野洋平の話は割愛して、このたるいエントリもおしまい。 2005.08.18 雑記
|