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法学館憲法研究所
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今週の一言
「多元的デモクラシー」を担う参議院
2010年6月28日
吉田 徹さん(北海道大学法学研究科准教授)
日本政治は、2009年の政権交代選挙でもって、本格的な二大政党時代に突入したといわれる。二大政党制は、ダイナミックな政治や政策的な革新をもたらすものと喧伝され、そして有権者の多くは、そのような政治を期待して、先の選挙で一票を投じた。
しかし、その後眼前で展開したのは全く違う政治の有り様だった。政権欲しさに余りにも多くのことを有権者に約束した結果、財政赤字は拡大し、クリーンになると思われた政治は依然としてカネを欲していることが明らかになり、沖縄基地移設では何も決断できなかった。これが鳩山内閣退陣につながった。
先の総選挙で「政権選択」が行われた後、来る7月11日に控えた参議院選挙は、本来はこうしたこれまでの民主党政権のあり方に対する中間選挙の意味合いを持つはずのものだった。ところか民主党は、首相を取り替えることで、参院選を人気投票的な意味合いへと変えてしまった。統治構造のあり方は変えられず、しかしその基点となった選挙の意味合いをも変えてしまったという意味で、政治の約束は二重に破られた。
かかる状況の中で迎える参院選で、再び民主党と自民党の政策が似通ることになったのは不思議ではない。急ごしらえの中作られた参院マニフェストでは、ともに消費税増税を打ち出し、行財政改革を訴えることになった。こうして、再び有権者の閉塞感は増すことになるだろう。
もっとも、思い返せば参院選は時の政権にとっての大きな打撃になってきた。1989年の大敗の責任をとって宇野内閣は退陣を余儀なくされ、その後1998年の参院選では橋本内閣がやはり退陣に追い込まれる。2005年に、小泉首相が郵政選挙に打って出たのも、そもそも参院で法案が否決されたためだった。さらに、07年に生まれた「ねじれ国会」は、安倍・福田両内閣の退陣のひとつの要因となった。このように参院が無視できない存在であるのは、これが政治学でいう「拒否権プレイヤー」の役割を果たすからである。衆院の優越が認められているにしても、参院での同意がなければ大きな政策の変更や転換は、憲法規定上、極めて難しい。それを知っているからこそ、参院での過半数に欠く民主党は、政権発足に当たって、社民党と国民新党との連立を選択したのである。
衆院と異なって、内閣の解散権が及ばず、信任に直接的に関与しない参院の役割は、民意を多様な形で反映することと、内閣や衆院主導の政治に対する抑制と均衡をもたらすことにあり、これは日本国憲法の規定から派生してきている機能である。そもそも戦後憲法で二院制が採用されたのは、GHQによる一院制案を退けて、法学者であり政治家でもあった松本烝治が勝ち取った制度であったことは想起されてもよい。
過去の日本政治の展開をみれば、参院は、二大政党に代表され、安定した「多数派デモクラシー」との間でバランスをとり、多党制による「多元的デモクラシー」を実践する役割を担いつつあるといえる。民主党と自民党の二大政党の主導権が確立しつつある中で、両党は参院向けマニフェストで議員定数の削減、それも小政党の存在を難しくする、比例区での削減を訴えている。さらに自民党の「マニフェスト」に目を凝らせば、そこには「憲法改正を前提に、わが国の二院制のあり方について検討を行います」と記載されている。これが実現すれば、多くの欠陥をすでに露呈している「多数派デモクラシー」に、政治の軸を完全に移す一歩となる。これに賛成するのか、反対するのか―その答えによって、投票先は自ら決まることになるのではないだろうか。
◆吉田 徹(よしだ とおる)さんのプロフィール
1975年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。日本貿易振興機構(ジェトロ)、同パリセンター調査担当ディレクター、東京大学総合文化研究科博士課程、日本学術振興会特別研究員などを経て現職(学術博士)。専攻は、ヨーロッパ比較政治、政党政治論。
著著に『ミッテラン社会党の転換―社会主義から欧州統合へ』(法政大学出版局)、『二大政党制批判論』(光文社新書)、共著に『政権交代と民主主義』(東京大学出版会)など。
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