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井沢元彦(作家)が緊急寄稿〔週刊ポスト〕小学館
拝啓 岡田外務大臣
なぜあなたは「海外初の(建設費37億円)の自衛隊基地(BASE=ベース)を「活動拠点(SOACE=スペース)と言い換えるのですか
海外メディアでは盛んに報じられているのに、なぜか日本の新聞では一切報じられない不思議──いま、「日本が初の海外軍事基地を新設」との報道が、フランスのAFP通信を皮切りに、ロシア、シンガポール、カナダなど各国のメディアで取り上げられている。ところが、日本の新聞は何ごともなかったように無視しているのだ。いったい何故か。かねてより自衛隊をめぐる日本の言論状況に異議を唱えてきた作家・井沢元彦氏の緊急寄稿。
「基地ではありません」
「海上自衛隊がソマリア海賊対応のためジブチに『基地』を建設中」という報道(141ページ参照)が海外メディアで出されていることを知ったのは、知人からのメールによるものだった。
それを見た時、私は実は目を疑った。そんなニュースはテレビでも新聞でも報じていなかったからだ。初めはそれを見落としたのかと思い、パソコンで様々な検索をかけてみたが、いわゆる大手マスコミはその時点(5月28日)で、どこも報道していなかった(その後6月17日時点までも報道なし)。海外メディア(AFP通信)のサイトではその1か月近く前から大々的に報道しており、日本版にもそれが載せられているにもかかわらず、である。
さらに調べてみると、岡田外務大臣が5月11日の会見で、フリーランスの岩上安身記者の「これは基地ではないか」という質問に対し、次のように答えていることを知った。
「今、海賊対策で船だけではなくて、飛行機も出している訳です。その飛行機を整備するとか、そういうことが必要になります。そういうスペースを確保したということです。それを基地と言うかどうかは別にしてということです」「各国それぞれ飛行機を持っていますから、そういったスペースを確保しているということです。(中略)船を出している、それを上から海賊船を見るために出している飛行機ですので、お考えのような基地というものではありません」(「外務大臣会見記録」より抜粋)
つまり、「基地」じゃなくて「スペース」だということらしい(笑い)。そして、当然この会見に同席していた大手マスコミに所属する外務省記者クラブの面々も「ああスペースなんだ、基地じゃないや、じゃニュースにしなくてもいいな」と「判断」したということのようだ。
「おい、おい、まだ、そんなことをやってるのか」と私は思った。
岡田外相は民主党政権の中で記者会見を記者クラブ員以外にも開放している数少ない一人である。その点は高く評価したいのだが、この答弁はいただけない。
「全滅」を「玉砕」と美化
日本人の心の奥には「言霊(ことだま)」に対する信仰がある。これは私が本誌連載の「逆説の日本史」の中でも繰り返し指摘していることだが、要するに「言葉と実体を一致させてしまう」ということだ。逆に言えば「一致させたくない時は、言葉の方を換えればよい」ということにもなる。
だから戦前の軍部は「日中戦争」と言うべきものを「支那事変」と呼び「戦争をしているわけではない」と主張した。挙げ句の果て、「全滅」を「玉砕」と美化し、「退却」は「転進」とごまかし、「敗戦」も「終戦」とした。ところが、こういう「言い換え」をして現実を直視しない「言霊信仰」が日本を滅ぼしたという反省は、戦後の日本にまったく生かされていない。
現実に国民を侵略やテロや海賊行為から守るためには、国家に軍隊というものは不可欠だ。それは人類の常識といっていい。
ところが戦後日本は日本国憲法第9条によって「軍隊は持たない」と規定してしまったものだから、「軍隊は必要、しかし憲法上は持てない」というジレンマを解決するために「言い換え」という最も安直な、そして戦前の歴史を考えれば危険な方向に走った。
誰がどう見ても「軍隊」でしかないものを「自衛隊」と呼んだ。この公式英訳は「Japan Self-Defense Force」だが、それをもう一度日本語に戻せば「日本国防軍」となる。その「自衛隊」には創立当時「戦車は有ったが無かった」──何をバカなことを言っているのかと思うだろうが、「バカ」は私ではない。世界中どこの国でも「戦車」と呼んでいるものを、日本人の中に「戦争放棄したのに戦車を持つとは何事だ!」と叫ぶ人々がいたので、仕方なく「特車(特殊車両)」と呼んでいたのである。
こういう人々は陸上自衛隊に化学防護部隊があるのを「日本は平和国家だ。毒ガス戦の研究をする部隊など必要ない。廃止しろ」と叫んでいた。これも人類の常識だが、普段からそういうことを研究し対処できるように訓練しておかねば、いざという時に国民を救えないのである。地下鉄サリン事件が起こった時、このことは(当たり前のことだが)実証された。すると、それまで声高に叫んでいた廃止論者は一斉に口をつぐんだ。
「ごまかし」は今もある。
誰が見ても「軍艦」と呼ぶべきものを「護衛艦」と言ったり、普通の国では「歩兵連隊」と呼ぶものを「普通科連隊」と呼んだり、挙げ句の果ては「基地」ではない「スペース」と来た。
一体何をやっているのか。
やるべきことは「言い換え」ではなくて、憲法の方をきちんと改正することのはずである。
護憲は「言霊」のせい
現行憲法では国民を守りソマリアなどで世界の平和に貢献することが難しいなら、憲法をその目的に沿うよう改正するのが法治国家として一番正しい道だろう。
なぜ憲法9条が変えられないかといえば、実はこれも「言霊信仰」 のせいである。「現実が言葉の霊力によってコントロールできる」というのが言霊信仰のもう一つの側面だからだ。
たとえば憲法絶対擁護論者は「戦後日本の平和は『平和憲法』によって守られてきた」と主張する。
では、たとえば或る銀行の頭取が「戦後65年間、我が行はただの一度も強盗に入られず平和でした」と言い、その理由を「それは我が行には物事を絶対に暴力で解決しないという行内の規則があり、行員全員がそれを固く守っていたからです」と説明すれば、誰でもこの頭取は「頭がおかしい」と思うだろう。外からやってくる強盗には行内の規則を守る義務はないからだ。
同じことである。
日本人がlいかに「国際紛争を戦争で解決しない」と「決意」しても、その「決意」でたとえば金正日をしばることはできない。そんなの中学生にもわかる理屈ではないか。それを信じているから「言霊信仰」なのである。
こうした言霊信仰には強烈な「副作用」がある。「憲法真理教信者」にとって最も困ることは、日本の脅威となりうる外国が存在すると認めることだ。認めれば当然憲法の欠陥があらわになるからである。だから、護憲勢力の筆頭である社民党は、拉致被害者の家族の「娘や息子を返して」という血の叫びを無視して、「拉致疑惑事件は韓国安企部(国家安全企画部=当時の名称)の脚本、産経の脚色によるデッチ上げ」という論文を、金正日が「犯行」を認めた後も党のホームページに載せ続けた(現在は削除)。「北朝鮮が良い国」でなければ困るからだ。
また、85年3月17日、イラクの独裁者サダム・フセインが「イラン上空の飛行機をすべて撃墜する」と宣言した時、日本は憲法上軍用機を飛ばすことができなかったので、多くの日本人が現地に取り残された。この窮状を救ってくれたのはトルコであった。トルコは自国民の生命を危険にさらしてまで航空機を派遣し日本人を助けてくれた。それはトルコが、1890(明治23)年、日本人が日本近海で遭難したトルコ軍艦エルトウールル号の乗員を命懸けで救助した恩義を感じていたからだ。
ところが護憲派マスコミの筆頭である朝日新聞はこの行為を「経済協力関係」によるものだ、と書いた。
要するに「金欲しさの行為」だとおとしめたのである。
あまりのことに怒った当時のトルコ駐日大使ヌルベル・ヌレッシ氏は朝日新聞に投書し「深い悲しみを覚える」と抗議した。
欠陥憲法は改正を
これも、「軍隊の有用性」に結びつくような「美事」は、全部おとしめるべきだという考え方があるからだ。
つまりこれも言霊信仰の強烈な、そして不幸な副作用なのである。
こういう人々は意法改正を唱える人間をまるで「平和の敵」や「戦争屋」のように口汚くののしり、「ダメなものはダメ」と言う。
また、軍隊の必要性を認めたくないあまりに「警察や海上保安庁で充分に対処できる」と言う。
確かに、対処できるものもあるだろう。しかし、85年のイランで起こったような事態には本来は軍隊でなければ対応できない。
「軍事基地」と認めた場合、中韓の反発を気にする向き
もあろうが、ソマリア沖の軍事行動は国連が認めたものだ。大義名分はちゃんとある。
国家とは何のためにあるか? 国民の生命と財産を守るためにある。そして、そのための有力な手段の一つが軍隊の保持である。侵略は絶対に許さないと言うなら、そのことを明記した上で軍隊を持てばいい。いや、真に国民を守るためにはそれが必要だ。しかし、憲法がそれを否定しているなら、それは欠陥憲法である。憲法とはあくまで国民を守る「道具」であるべきだ。それを完全に守ったら国民の安全が脅かされるようではまさに本末転倒だ。
とにかく「憲法改正論者=平和の敵」などという決め付けは間違っている。民主党は憲法改正についておよび腰のようだが、もう一度言う「欠陥憲法は改正すべきだ」。「裸の王様は誰が見ても裸なのである」!
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フランスのAFP通信は、「日本が初の海外軍事基地を新設」と題する記事を4月23日付で配信した。2009年3月からアフリカ・ソマリア沖の海賊対策で派遣されている海上自衛隊の拠点となる基地建設が、ソマリアに隣接するジブチで計画されているとの記事で、「4000万ドル(約37億円)をかけた基地は年明けにも完工の予定」だという。AFPの英語取材に答えた海上幕僚監部所属(当時)の北川敬三2等海佐は、「国外で唯一、アフリカでは初の日本の基地(base)となる見通し」だと語っている。この報道を受け、ロシアやシンガポールなどの海外メディアが「日本初の海外軍事基地」に関する報道をしている。
海上幕僚監部広報室の説明によれば、海賊対処行動のためにジブチ国際空港を拠点に活動しているP-3C哨戒機部隊は、駐機場所はジブチ国際空港地区内だが、宿舎などは在ジブチ米軍から支援を受けており、駐機場所と隊員の居住施設が離れた状態にあったという。「今回の拠点整備は、効率的な部隊運用の観点から、現在の活動拠点を移動し、新たな活動拠点を既に駐機場所のあるジブチ国際空港内に整備することとするものであり、軍事基地を新設するといった性格のものではありません」(海幕広報室)。
また建設費用については、「新拠点のための所用の調整及び所用の契約は未了であり、現段階では海上自衛隊として金額を含めた移転予定について確たることを申し上げることはできません」という。
しかし、自衛隊関係者は次のように諮る。
「これは確かに自衛隊初の海外基地ですが、恒久的な軍事基地というイメージを避けるため、対外的には『活動拠点』という言葉を使っています。北川さんはフライング気味の発言をしてしまったようです」
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